前書き
とんがりコーン。
それは、一般的にはお菓子の名前である。
スナック菓子。その特徴的なフォルムから、コマーシャルでは指に嵌めるようにして持つという持ち方が紹介されたりもしたことがある、あのスナック菓子だろう。
しかし、ある界隈のある文化の中においてのみ、限定的かつ特別に生じるもう一つの意味がある。
どの界隈の何の文化なのかは、この際伏せよう。ただ、それは格闘技に関連するとだけ言っておくとして。
問題は、この言葉がその条件下で何を意味するのかということであるが……、それを一言で言うのは難しい。
いや、一言で言い表すための言葉が無い訳ではなく、逆にいくつもあるから迷ってしまうのだ。
こんなことは語り部として失格だろう。表現を迷ったら、とりあえず全部言ってしまうのが基本だろうに……いや、それが基本だというのがアマチュアたる…量産型たる私の固定観念なのかも知れないが、とにかく、そんな中で『表現を迷ったら何も言えなくなってしまう』なんていうのは、やはり物を書く者としてどうかとは、自分でも思う。
所詮は模造品。所詮は量産型。
いずれにせよ、代替可能な劣化版である私達のこと、それも仕方ないのかも知れないと言い訳しても良いのだが、そんなことでは話が始まらないので、ここは思い切って、言葉を選んでしまおう。
そう、とんがりコーンがごく限られた条件下において持つ、もう一つの意味。
それは、前転である。
ありふれた動作だ。学校のマット運動から、体操でも武道でも、果ては軍隊向けのパルクールにまで、頻繁に登場する動きだ。
そして、大抵この動きは、美しさとか、身体が受ける衝撃の少なさとか、そういったことを重んじて練習されるのだが……
私は…私達は、違った。
所詮は模造品。所詮は量産型。
偽物であり、偽者。
だったら、むしろ逆方向に吹っ切れろ。
オリジナルであり本物であるところの『彼』が最強だと言うのなら、こちらはそれとは逆ベクトルの最小を目指そう。
それが、私達を作った開発者と、何よりこの私自身の意向。
そしてそれこそが、唯一『彼』に私達が勝てる部分なのだ。