表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

コロニーの亡霊

 地球出身の日系ジャーナリスト、真壁涼子は、宇宙コロニー・ノアズアークへと降り立った。

 周囲に広がるのは、難民たちの雑然とした住居、汚れたホログラム広告、空に浮かぶ反重力ロープウェイのシルエット。近隣の戦争による難民が押し寄せ、社会基盤が崩壊寸前であると報じられていたが、思いのほか街には活気があった。だが、その活気は決して繁栄によるものではなく、焦燥と怒りのエネルギーが渦巻いているようだった。

涼子は、カメラドローンを飛ばしながらロープウェイの駅を出ると、目の前で車椅子の老女が道を塞いだ。押しているのは、片足が機械義足になった少年だった。

「話を聞かせてくれたら、10ドル払うわ」

涼子がそう切り出すと、少年は警戒するように目を細めたが、やがて口を開いた。

 少年の名前はアフメド・サリーム。車椅子の老女は祖母のウルファ。彼らはこのコロニーの出身だった。

「俺たちのコロニーは、ずっと地球の国々に支配されてきた。食料資源はすべて連中に管理され、俺たちは配給を受けるために従うしかない。俺の父さんは、地球政府の傭兵に殺されたよ。」

「……傭兵に?」

「そうさ。俺たちは反乱軍だと決めつけられた。コロニーの人間はみんなテロリスト予備軍だってな。」

ウルファは呆然と虚空を見つめ、震える手で空を指さした。

「シャーヒド……おまえは元気で……おまえは私の誇りだ……。」

涼子は息をのんだ。アフメドの目は、静かに、しかし深い憎悪に満ちていた。

「ばあちゃんは、俺の父さんが死んでからおかしくなった。俺を父さんだと思い込んでるんだ。」

アフメドは冷たく笑った。

「でも、そんなことはどうでもいい。俺は絶対に地球のやつらを許さない。」

涼子は、鼓動が速くなるのを感じた。

「お姉さんはコロニー出身だよね?」

アフメドが涼子を真っ直ぐに見つめながら、そう問いかけた。

彼の目に浮かぶ狂気と哀しみを見た瞬間、涼子は全身が凍りついた。

 その時、コロニーの警報が鳴り響いた。頭上のホログラム画面に、赤い文字が浮かび上がる。

――コロニー内部に不明機接近、緊急警戒態勢。

アフメドは涼子の手から10ドルをひったくると、車椅子を押しながら人混みに消えていった。涼子は立ち尽くしていた。人々の怒りと憎しみの渦が、やがて戦争という名の業火を再び生み出す。その予兆を、彼女は今、確かに感じていた。

警報が鳴り響くなか、涼子はとっさにカメラドローンを上昇させ、コロニー上空の映像を確認した。視界に映ったのは、黒く塗装された無人戦闘機の群れ。通常の警備ドローンとは異なり、重火器を搭載している。

「地球政府軍か……?」

だが、そのエンブレムは違った。見覚えのない紋章が描かれている。

――新たな敵か、それとも……

「クソッ、取材どころじゃないわね……」

涼子は身を翻し、避難のために移動を始めた。だが、その時、先ほど別れたばかりのアフメドとウルファの姿が視界に入る。

「アフメド!」

叫んだ瞬間、爆発音が轟いた。

コロニーの空に閃光が走り、無人戦闘機がコロニー施設を狙い始めた。反重力ロープウェイの支柱が一つ、爆風によって崩れ落ちる。

人々の悲鳴が響き渡る中、涼子は咄嗟にアフメドのもとへ駆け寄った。

「逃げるわよ!」

だが、アフメドの目には、ある決意が宿っていた。

「俺は逃げない。このコロニーを守るために戦うんだ」

涼子は息をのんだ。

彼の腕には、いつの間にか銃が握られていた。

「そんな銃で、あんなドローンに勝てるはずがない!」

涼子は素早く周囲を見回した。そして、一台のホバーバイクが道端に駐輪されているのを発見する。

「乗るわよ!」

アフメドを無理やり引きずるようにバイクへと押し込むと、涼子はすぐにアクセルを開いた。バイクは重力を振り切り、滑るように宙を駆ける。

背後からドローンが迫る。赤外線スコープがロックオンし、次の瞬間、熱線が発射された。

「くそっ!」

涼子はバイクを大きく旋回させ、狭い路地へ飛び込む。ドローンも追尾してくるが、速度が速すぎる。

「アフメド、タンクローリーを撃て!」

涼子が叫ぶと、アフメドは迷うことなく引き金を引いた。弾丸が燃料タンクに命中し、大爆発が起こる。

衝撃波が広がり、ドローンの一機が制御を失い壁へと激突した。

「まだ来るぞ!」

涼子はバイクを加速させ、次の手を模索する。

 戦場と化したコロニーの中で、彼女たちの生存戦が始まった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ