「第七話」好敵手との協力
あれから血眼になって探し回ったが、シエルと彼女を攫った悪党を見つけることは出来なかった。連れ去られた時、完全に痕跡が消されてしまっていたのだ。加えてあのカルムとかいう男は土の魔術師、奴個人を探すには、この国……いいや、この世界はあまりにも広すぎるのだ。
「……」
丸一日が経ち、私は今も彼女を探している。
私の不注意のせいで、彼女は呪われ、攫われた。だったらせめて彼女を見つけるぐらいは成さねばならない……なのに、私は一向に彼女を見つけることが出来ていない。これは一体どういうことなのだろうか? 疲れたから休む? 休まなければ死んでしまう? ──ふざけるな。彼女はあと一日で、呪い殺されてしまうんだぞ。
「……シエル」
名前を呟く。それで何か変わるわけではない。夢物語のような時間は既に終わった、私が自分自身の手で台無しにしたのだから。
「シエル……!」
泣き崩れた自分に嫌気が差した。ただでさえ時間がないのに、こんな事をしている場合じゃないのに、もう一歩も体が動かない。動かなくなった彼女の手の冷たさを想像するだけで、怖くて怖くて仕方がなかった。──蹲っていた私の近くで、誰かが立ち止まる。
「無様ですね、髪結いの魔女」
「……うるせぇ」
「これでは前と立場が逆だ。今のお前を倒したところで、私の二度の敗北を生産することは出来ない──」
むしろ殺してくれと、私は声の主に心のなかで願った。別に声に出さなかったのは、シエルがそれを絶対に願わないだろうなという理由でしか無い。こんな惨めで嫌な思いをするぐらいなら、今すぐ死んだほうがマシだと心底想う。
「──なので私は、お前の人探しに手を貸そうと思います」
「……え?」
「犯人は土の魔術師カルム、実力者でありながら竜の呪いに苛まれた哀れな男。シエル王女……いいえ、シエルを攫ったその男は、『竜の墓場』と呼ばれる森に潜んでいます」
私は直ぐに自らの殻を打ち破り、顔を上げて報いた。そこには清々しいハルファスの顔があり、ゆっくりと私の方に手が差し伸べられていた。
「まだ、貴方は死なせない。貴方はこんなところで絶望するほど、諦めは悪くないでしょう?」
その、何もかも見透かしたような感じが気に食わなかった。傲慢で、自信たっぷりで、それでもきちんとした根拠に基づいているような正当性……ムカつく。ムカつく、けど。
「……当たり前じゃん」
差し伸べられた手を取り、私は立ち上がる。彼はそれを力強く見届け、私にくるりと背を向けた。
「力を貸して、ハルファス」
「勿論ですとも、我が好敵手」
互いに背中を狙い合う中だった私達は、今は互いに背中を預け合い、同じ目的を共有して協力している。私はそれがとても奇妙で、同時にとても、いいものなんだなとなんとなく思った。