「第五話」決着
瞬時に姿形を変えながら、流動する泥の塊が襲いかかる。一つ一つは躱すことも吹き飛ばすことも容易いのだが、何しろ数が多い。……それに加えて。
「……」
泥の攻撃が霧散すると同時に、カルムと名乗る男が杖を動かす。するとどうだろう、吹き飛ばされた泥は収束し、再び塊を形成したのである。形成された泥は再び鋭い形に変わっていき、自分の方へと飛んできた。
埒が明かない。余りにも、相性が悪すぎる。
この世に最強という言葉は無い。少なくとも、自分はそれを捨てた側の存在だったからこそ言える。例えば世界最強の剣士などは白兵戦においては最強ではあるが、間合いに敵がいなければ戦いようがない。したがって間合いの広い世界最強の弓兵には敵わない……そう、相性とは純粋な実力差を埋める最大の要因なのだ。
あのカルトとかいう魔術師の使う魔法の属性は『土』だ、『風』である自分の魔法は効きが悪い。加えてあちらは長期戦が有利な魔法。本体を直接殴る以外に有効打などなく、じっくりと……堅実な『待ち』の戦い方である。一撃で相手を仕留める自分の魔法では、どう立ち回っていいかもわからない。
「今ならまだ逃してやるが?」
「──笑止!」
遠距離戦では圧倒的に相手が有利。であれば、無理矢理にでも接近戦を仕掛けるしか無いだろう。
(ハルファス君、君の魔法を使わせてもらうよ)
まだ見ぬ娘の好敵手に敬意を評し、杖だけに魔力を込める。集められた魔力は刀身のような形に変わっていき、それを見るや否や「いける」という確信に、私は突き動かされていた。
「!?」
驚いた表情のカルムの杖が動く。質量のある泥が襲いかかっては来るものの、私はそれを風の魔法で吹き飛ばした。一つ一つの魔法は思っていたよりも弱く、弱い魔法でも容易に弾くことが出来た。
泥を弾き、距離を詰めながらも威嚇の魔法を放つ。なるほど、ハルファスという魔術師は相当な才能を持つ逸材のようだ。心の中での彼の評価を改めながら、いつか会ってみたいとも思った。
──間合いに、懐に潜り込む。
「チェックメイト」
勝敗は決し、カルムの首が撥ねられた。