「第三話」罠
体中の神経を研ぎ澄まし、周囲の魔力の流れを全身で知覚する。あれだけの違和感だったのだ、奴のいる周囲一帯がおかしくなっていても過言ではない……あの時は特に意識はしてなかったが、探知だけに意識を集中させれば、見つからないわけがないのだ。
「……見つけた!」
手綱を引き、一気に急降下する。耳の奥の違和感、周囲の魔力の流れ、それら全てがあっという間に歪になっていく。そして私は、歪みの中心であるその男を目視で捉えた。間違いない、あいつがシエルを呪った張本人だ!
「……!?」
振り返ってももう遅い。猛スピードで急降下するイルに対応しきれなかった男は、そのまま激突して吹き飛んでいく……すかさず私は髪束を展開し、男を宙吊りのような状態で拘束した。
「がっ……ごほっ」
「街の人にかけた呪いを解きなさい! じゃないと、生きたままあんたを燃やす!」
男は宙ぶらりんのまま私を睨んでいた。私の指先の炎を見ても動じない辺り、どうやら拷問の類は効かなそうだった。──できれば平和に解決したかったのだが。まぁ、仕方ない。
「……燃やすね」
「っ!?」
幸い、ここは人の通りが少ない。もしもこれが町の中であれば色々と面倒だったが、ここでなら思う存分にやれる。私が髪糸を引っ張ると、男を拘束している髪が一気に燃え上がった。悲鳴を上げることも、苦しむことも許さず……ただ、静かに黒焦げになった。
「……やった」
これでもう安心だ、と。そう思ったのも束の間だった。目の前の黒焦げ死体がいきなり風に霧散し、中から白い歯が一個出てきたその瞬間。私はこれが、体の一部を使った分身の魔法だということを理解した。
そして同時に脳裏に浮かんだのは、何故こんな面倒くさいことを相手はしたのか? という理由。私だけを引き剥がすため、誰から? ──理由は明白だった。
(シエル……!)
イルの背中に再び飛び乗り、私は手綱を引いて空へと躍り出た。なんで気が付かなかったのだろう、私はまんまと罠にはまってしまい、敵のおもうツボである。
家にはウィジャスがいる、だから大丈夫。
確証はない、そうだと決定づける証拠なんてなにもない。
頭では分かっているものの、拭っても拭っても不安は消えてはくれなかった。