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「プロローグ」通り魔

「本作品をお読みになる皆さまへ」

この作品は私の執筆した既存作品である「髪結いの魔女」の続編に該当する作品です。

このままでもお楽しみいただけますが、本作品をお読みになる前に、前作である以下のリンクの小説を先に読むことを強く推奨いたします

https://ncode.syosetu.com/n0929ig/


 晴れやかな天気の割に、町にはあまり人がいなかった。がらんとした市場のど真ん中で、私はこの王国の内政に溜息をつく。


 仕方がないといえば仕方ないのも確かではある。何故ならこの国の現女王はあのイザベラ……世間知らずの愚かで、財政も外交もろくに知らない、挙句の果てには人間としての旨味すら無いような小娘である。あれが一国の王となったその日から、この国からは活気が失われつつあったのだ。


 事実、店に並ぶ商品はたかが知れていた。潰れたトマト、ハエのたかった肉や野菜。他国との外交をすることでしか手に入らない魚など、並んですらいなかった。


「見てるだけなら、帰ってくれよ。どうせ買わないんだろ?」

「いやいや買いますよ、人間は食べなきゃ生きていけないし。そこのお芋をくださいな」


 適当に銅貨を何枚か取り出し、渡す。生気のない店主は適当にそれを受け取り、私に芋を何個か投げてきた。どれもこれも小さなものばかりで、渡した銅貨に見合うだけの価値があるようには思えなかった。まぁ無いよりはマシであり、文句は何一つ言えないのだが。


 私は芋をカバンの中に突っ込み、そのまま店を後にした。


 それにしても、本当にこの国は哀れだと思う。いくらトップが無能とはいえ、大臣やらなんやらがどうにかしてくれるようなところだと思うのだが……まぁ、大方あの女王がしくじり続けて、この国を正しい道から蹴飛ばしているのだろう。


(シエルだったら、もっといい国になってたのにな)


 過ぎたことを悔やんでも、時は戻らない。彼女は王族としての権威ではなく、私とともに生きる未来を選んでくれた。私はそれを喜ぶべきであり、この幸せの踏み台になっている人間のことなど、考える必要も余裕もないはずである。──最も、彼女はそう思ってはいないだろうが。


 速く、彼女のもとに行こう。私は辺りを見渡すが、彼女はどこにもいない。ここの市場は大きくないため、そんな遠くに行ってないはずなのだが。もう少し奥にいるのだろうか? そう思って一歩を踏み出そうとした私は、目の前から歩いてくる男にぶつかった。


「あっ、すみませ……」


 幽霊、影、呪い。そんな不穏な言葉を全部詰め込んだような暗く不気味な雰囲気、黒いフードを全身に羽織っているため良くは見えないが、右目に一閃の傷を負っており、残った左目と目が一瞬合って、私は思わず睨み返してしまった。


「……気をつけろ」


 そう吐き捨て、男は踵を返して去っていく。なんだろう、ものすごく嫌な感じがする……気がつけば私は杖代わりの櫛を手に握りしめていて、あろうことかその手の中には汗がべっとりと握られていた。念のために追いかけてみよう……そう思った次の瞬間、私の耳に入ってきたのは悲鳴だった。


「!?」


 あっという間に自分の背後に人混みが作られている。その中に漂う声色から察するに、通り魔か何かが出たのだろうか? 間違いない、根拠もなにもないけどあの男の仕業だ。考えてみれば当然だ、警備が手薄になったこの王国では、この手の犯罪を抑圧するシステムが崩壊しているのだから。


 人混みの中に潜る。誰がどうやられたのか、どのような魔法によって害されたのかを調べるためだ。手がかりは少ないだろうが、何も得られないわけではない。治せるものならさっさと治して、早くシエルと合流してしまわなければ。これがもしも始まりに過ぎないのであれば、これからすぐに同じようなことが起き続ける。


 人の波をかき分けて、私は注目の的。地面に倒れ伏している被害者を見た。


「……嘘でしょ」


 それは、体中から呪いの匂いを漂わせているシエルだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterからやって参りました。 前作?を一気読みさせて頂き、意気揚々と貴著を拝読しておりますが、やはり表現力が群を抜いて優れていらっしゃいます。街の活気の無さ、焦燥感、漂う絶望感が生…
2023/06/20 22:11 退会済み
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