家族の距離感
ギルドに戻ったリーシャはイアをロビーのソファーに寝かせるとすぐに受付嬢のところへ向かった。
「どうしてイアのこと頼んだのに寝てたのさ。あとを追って現場まで来て危うく、ていうかこの有り様」
「あ~~・・・悪いねリーシャくん。なんだかね、すっごく体が重くて気付いたら寝ちゃってたんだよね」
受付嬢はそう言うと今も気だるげに椅子にもたれ掛かっていた。
「ほんとごめんねぇ。報酬に追加で傷薬入れておくから」
「傷は良いんです。これでもそこそこ丈夫なんで」
「わーリーシャくんかっこいー流石男の子~。だから今回はお姉さんのこと許してほしいなぁ」
雑におだてられはしたが、そこまで傷付いたことを責めるつもりもなかったリーシャは詰問もそこそこにして報酬の話しと次の仕事の話しに切り替えた。
「許してもいいけど、報酬を出来高制にしてもらえないかな。情報以上の魔物の数だったし、あれ以上増えてたら下手すると街に来てたかもしれない」
「え、まってまって!お金の話しなら負けられませんって!
もともと誰かやってくれたらなーくらいで募集してた依頼だったし、うち自体そこまで余裕のある経営してないんだから!」
「世知辛い話しだね。そんなんだから誰も受けなかったんでしょ」
小さく鳴き声をあげて媚びるような仕草をみせる受付嬢。どうやら追加の報酬は見込めないと思った方が良さそうだ。
しかし何かを思い出したのだろうか、受付嬢はあっ!と声をあげると人差し指を立ててリーシャに顔を近付けた。
「報酬を多く支払うことは出来ないんだけれどね、高額の報酬が出る依頼の斡旋なら出来るよ!ねっ、ねっ、これでどうかな?!」
受付嬢の自信ありげな表情に圧され、リーシャはそれならとその提案を受け入れた。
またしても内容の確認をせず安請け合いしてしまったと気付くのは、少しあとの話し。
日が落ちて夕食の時間の頃。イアはようやく目を覚ました。
眠たげな眼をこすり、隣でイアが起きるのを待っていたリーシャを見付けると嬉しそうにくっついてきた。
離れたところから見ていた受付嬢はニマニマと笑い、今にも余計な事を口にしだしそうな予感を感じたリーシャはイアと夕飯を食べに街に出た。
「本当にいいのか?そんな量で」
出てすぐ近くの飲食店に入るとリーシャは大量の肉料理を注文して、対照的にイアは具の多いスープだけを注文した。
向かい合って座る席には多くの皿とスープの器が出され、まるで女の子にそれしか与えていないみたいな絵面の食卓になってしまいやや居心地が悪い。
「はい。なんだか、そこまでお腹が空いてなくて。
あ、でもリーシャさんは気にせず食べてください!」
うん、と返事をしてガツガツと肉を頬張るリーシャ。
しかしその手をいったん止めて真剣な顔でイアに向き合った。
「イアはさ。なんだか遠慮がちっていうか、敬語を使うよな」
「あ、はい。それが・・・?」
「それ、俺にはいらないよ。
昼間も言ったけど、家族のようなものなんだから。遠慮も敬語もいらない。さん付けもね。言いたいこと言っていいし、甘えたい時には全力で甘えてほしいから。兄妹みたいなさ、そんな関係になりたいんだよ」
イアはスープの器を口元に持っていき、視線を少し外しながら小さく頷いた。
「じゃあ・・・・・・リーシャ」
小さく読んだ名前にリーシャは返事をする。
イアは口をもご付かせたあと、さらに消え入りそうな声で囁いた。
「・・・お兄ちゃん・・・って、呼んだ方が、いいかな・・・?」
「いやっ、名前で!名前でいいから!」
流石にそれはちょっと恥ずかしかった。
食事から戻るとその日もギルドの倉庫を借りて寝支度を整えた。
そのさい、昨日とは違いイアは最初からリーシャの掛け布団に入って来てご機嫌な様子でくっついて来たのだ。
確かに甘えたいように甘えてくれていいのだが、ちょっと距離感バグっているのではと感じながらも冷たい倉庫の床の上。イアの掛け布団を敷き布団代わりにして二人は小さく一つの布団にくるまった。
幸せそうな顔をして眠りにつくイアを見たリーシャは、(まあ、でもいいか。家族みたいだし)と小さく笑いながらイアの髪を撫でて自分も眠りにつくのだった。




