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二人の旅立ち

村から続く荷馬車の車輪の痕跡を追いながら、リーシャは自分が何をしているのか、なぜこれほどまでに体が突き動かされているのか、少女を大人達から解放したのちどうするのか。半ば衝動的にはじめてしまった自分の行動に後ろめたさと困惑を抱いていた。


数日かけて達成した討伐の報酬を一銭たりとも受け取らず、必要の無い不仲を依頼主との間に招き、そしてこれからするであろう身勝手な行いにどんな正当な理由をつけられるのか。


なにも知らなければこんな事はせず報酬を受け取り立ち去るだけだった辺境の村なのに、ただ少し話をしただけの子供のために、なんでこんなにも心が搔き乱されてしまうのか。

相手が庇護すべき小さな少女だから?生い立ちに同情したからか?村の大人立ちのやり方が気に食わなかったからか?


ひとつずつ、ひとつずつ自分に問いかける。それでもどの理由もうまく噛み合わない。


依頼主との信頼関係を失うことは冒険者として失格である。

郷に入っては郷に従うべきであり、部外者である自分があの村の決定に口を出すべきではない。

自分の行いに対する責任は。

そんな事考えて行動していただろうか、今までの自分自身は。



リーシャは首を横に振った。



依頼主の決定とはいえ気に食わなかった。

誰も彼女への理解を深めようともせず、いい大人達が一人の子供を迫害していることが許せなかった。金を払ってはい終わり、としようとしたのも。そのうえ人身売買?馬鹿も休み休みにしろ。


ああ、むしゃくしゃする。なぜ大人という生き物はいつも勝手なんだ。自分達を正しいと信じて疑わず理不尽も不条理も振りかざす。少数に同調を強要し従わせる。それが大人というものならば、自分は大人になんてなりたくない。


だが大人達が勝手な生き物なら、自分だって勝手で良いのだろう。自分のエゴを貫いても、誰かに理解されなくても。

それが自分の信じた正義なら、自分の信じる正しさならばそれが今の行動の理由で良いだろう。


リーシャは駆ける足に力が入る。自分の行動を肯定出来る、自分の中の正義を信じることが出来る。


やがて見付けた襲われている馬車を、少女を今にも食い殺そうとする魔物めがけてリーシャは迷い無く一条の流星のような一撃を蹴り込んだ。












魔物は上半身を弾けさせて息絶えた。

ギリギリのところで間に合いイアを救出することが出来たリーシャは走り続けて今にも張り裂けそうな心臓の鼓動をよそに、腕のなかで自分の顔を見上げる少女を抱き締めた。


良かった。間に合ったんだ。自分の意思で救うことが出来たんだ。

リーシャはそれまでの旅の中で得られなかったはじめての達成感にのどが震えた。


イアもまた同様に、直前まで全てを諦めて殺していた心にぽつぽつと火が灯り、やがて堰が外れ年相応の幼子のように泣きはじめた。

本当なら親の胸のなかでするように、少年の小さな胸に顔を埋めて。両親が亡くなって以来久しくしていなかった叫ぶような少女の泣き声を、リーシャは暫く胸のなかで受け止めた。


それからどれくらい経っただろうか。

ひとしきり泣きじゃくった少女は赤く腫らした顔をリーシャに向けて、リーシャもまたイアに顔を向けて小さく笑顔をつくった。


「また助けられてしまいました。2年前と同じように。

やっぱり、リーシャさんは私にとっての勇者さまなんですね」


「違うよ。俺はもう勇者じゃない。君を助けたのだって俺の・・・子供のような我が儘だよ。

君を・・・イアを助けたいって、そう思ったら自然と走り出してた」


「嬉しかったです。こうやってギュッてしてもらえるのも、久しぶりで・・・」


イアはそう言うと改めて胸にピタリと頬を寄せた。

そんな彼女の頭を優しく撫でながらリーシャは改めて彼女に問いかける。


「イア。あの村には、多分もう帰れない。戻ってもまた今日みたいなことになるだけで、その時俺が居なければ、今度こそ・・・」


自惚れているのはわかっている。自分ならどうにか出来る、と。子供の根拠の無い自信で自分にどこまで責任を持てるかはわからない。


「そこで、昨日のはなしの続きなんだけれどさ」


それでも今の彼女を救い出せるのならどこまでだって背伸びして手を伸ばす。


「俺と一緒に来ないか、イア」


「・・・」


「俺さ、冒険者としてあっちこっち歩きながら仕事受けて働いてるし、食べ物に困ることはあまりないと思う。一ヶ所に留まらないからフカフカのベッドで眠れない日の方が多いかもしれないし、危険と隣り合わせの日々にはなるかもしれないけれど、さ。・・・何かあっても俺が君を守るから。だから」


そこまで言うとイアは腕をリーシャの顔に伸ばし

、その小さな手でリーシャの両の頬に触れた。

見上げるその幼い顔は、小さな勇者に期待の眼差しを向けていた。


リーシャは彼女の言葉を待たずにもう一度優しくイアを抱きしめて、うん、うん、と頷き、イアもまたリーシャの顔から離した手を首の後ろに回して、そのまま二人は言葉を挟むことなく暫く抱き合った。





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