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神ノ箱庭  作者: SouForest
第三部~オーディンの人形と転がる歯車

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ミイラと笑う魔法

 グランマイヤ遺跡は石造りのダンジョンで、パーティ毎にエリアが形成されるシステムだった。石壁のあちこちから生えるように飛び出ている青白い水晶が、松明のように通路を照らしている。


 パキラは思っていたよりも明るいと言って、目をぱちぱちしている。不思議な雰囲気に目を奪われているようだ。カナデとスタンピートは水晶を間近でじっくりと観察している。


「へぇ……小さな青い炎が水晶の中で燃えてるのか。これ、インテリアにしたら売れそうだな」


「うわっ、とうとうカナデがマーフさんみたいなことを言い始めたっ」


「あはは……。最近、銀獅子に作品を持っていくようになったから、ついーー」


「あ、そう言えば、湖で使ってたスケボーだけどさ、めっちゃイリーナさんが食いついてたね。俺も欲しいから、売って欲しーー。あぁ! 」


 スタンピートの大きな声に驚いて、パキラが小さくぴょんと跳ねた。


「ピート、急にどうしたの? びっくりするじゃない」


「ここ、もしかして……。おばあちゃんの指ぬきクエがあるとこじゃ……」


「サブクエにそんなのあるんだ? 」


「シーフの隠密スキルをレベル9に上げるやつなんだよ。図書館で調べても、ダンジョンの場所が分からなくて困ってたんだよね。うひひ……クエ受けといてよかったっ」


「でもさぁ、スキルクエって、ソロでやらないとクリア扱いにならないよね? 」


「ふっふっふ。それがだね、パキラさん。大型アップデートで、なんとぉ! 同じ職でパーティ組めばオッケーになったんよ。カナデがいるから楽々クリアだなっ! ひゃっほい」


 パキラはキョトンとした顔でカナデを見上げた。


「カナデのサブ職はシーフだったの? 」

「え? サブ職は何も選択してないよ」


「ガーン! ずっと俺は……カナデもパキラと同じようにシーフにしたと思ってた……」


「ピートごめん。あはは……。えっと、それってどんなクエ? 」


「ーー遺跡内のどこかにある隠し部屋で、指ぬきを取ってくるってやつ。隠密スキルを使って、裁縫ネズミに見つからないようにしないと駄目なんだ」


「部屋はシーフじやないと入れないんだよね? 見つけたら、パーティを抜けて待ってるから教えてね」


 スタンピートは残念そうな顔から一変して明るい笑顔になった。


「やってもいいの? じゃあ、パキラに手伝ってもらうかなっ」


「おっけーだよ。ーーねぇねぇ、部屋に入ったらパーティ解散して、私がネズミを集めている間に、ピートがコッソリ……アイテムを取ってくるってのはアリ? 」


「おおっ……パキラ、それアリ……おりはべりいまそかりだ! 試してみる価値ありそう」


「ぶはっ。ありおりって、懐かしずぎるよ。ーーピート、私の隠密スキルクエも今度、手伝ってねっ」


「了解之介っ」

「ぷぷっ。アイノテさんの口癖がうつってるしーー」


「へへっ」

「パキラ、ピート、シーッ……」


 パキラとスタンピートは口元に指を置いたカナデと顔を見合わせると戦闘体勢をとった。周囲を警戒しながら小声で話し始める。


「カナデ、何かいるの? 」

「……何かが這っているような音が聞こえない? 」


 通路の奥を注視しているスタンピートの目に、クリスタルの青白い炎に照らされたモンスターの姿が映った。スライムが壁を這っているを確認した彼は怪訝そうな顔をしている。


「スライムに、黒なんかいたっけ……? 」


「ピート、取り合えず、手前にいるやつから順に倒そう。パキラは念のために、できるだけ近寄らないで戦った方がいいかも」


「うん、了解之介だよっ。頑張って、種子島を買いましたっ! 火縄銃式だけど、連射速度がちょっとだけ早いのっ」


「おぉ! やるじゃん、パキラ。いつの間に買ったん? 」


「あのね、ピート。ヨハンさんに相談したら、少しだけ安く売ってくれたの。ぐふふ」


「おっとぉ、俺のこの弓と同じですな。ぐふふ」


 背後から聞こえるぐふふの合唱にカナデは思わず吹き出した。どこかへ飛んでいってしまった緊張感を取り戻すために、深呼吸をしている。気を取り直したカナデは落とし穴トラップをポイッと投げて、アサルト式種子島を構えた。


 ドンッという音と同時に3体ほどのスライムが穴に落下した。穴の奥底で右往左往している彼らの身体は、弾丸が食い込むと豪快に弾けて消えていった。


 カナデは身体が黒いということで警戒していたが、普通のスライムのようにあっさりと倒せたことに拍子抜けをしている。


「割と簡単に溶けるね……。これならトラップを使う必要はないか」

「マジデスカ! 俺ちゃんもがんばっちゃうよ~」


「わ、私だってぇ! 」


 ドンドンッという銃声音が響き、弓の白い閃光が通路を走った。カナデのように1発で倒すことはできなかったが、それでも次から次へとやってくる黒いスライムたちを粉砕していった。


 スタンピートがぜぇぜぇしながら銀に輝く弓、月夜見(ツクヨミ)を抱きしめている。


「めっちゃ多かった……。軽く20以上いたような気がするんだけど、このダンジョンは初っ端からこんなにハードなん? 」


「うーん、イリーナさんは青いスライムが出るって言ってたのに……変な感じがする。ドローンで録画すればよかったな……」


「ルードベキアさんが作ったやつ、まだ残ってたんだ? 」


「情報ギルドには、あと3個しかなかったから、1つ貰ってさ、それを元に改良版を量産したんだよ。とりあえずテストしようと思って5個持ってきた。ーー湖の鬼ごっこと、釣りの時に1つずつ使ってたんだよ」


「へ? えええええ!? まったく、気付かなんだ……。なんだか、カナデは段々とルードベキアさんっぽくなってきたね」


「ははは。それは嬉しい誉め言葉だね。この先に1つ目の中ボスエリアがあると思うから、入る直前にドローンを出すよ」


 ーー確かドローンって両手のひらを合わせたぐらいの大きさってヨハンさんが言ってたような……。パキラはドローンの姿を見ていないことを不思議に思っている。


「ねぇねぇ、カナデ。ドローンって、投げる前はボールサイズだけど、発動するとーーこのぐらいの大きさで、10分後に地面に落ちるって聞いたけど? 」


「あぁ、えっとね。改良版は最大録画時間が3時間で、終了時はもちろんだけど、好きな時に指示すればカバンに戻るんだ。で、サイズはねーー」


 カナデはピンポン玉サイズの艶がない黒いボールを手のひらに乗せた。


「発動しても大きさはこのサイズなんだよ。しかもステルスタイプだから、活動している姿は、自分以外は見えない。録画が終了したものは、ーーこんな感じで、模様が出るんだ」 


 渦巻き模様が浮かび上がった黒いボールをパキラに見せると、カナデは渦の真ん中を押した。シュっと浮かび上がった27インチほどの窓に、イリーナが子ギツネを撫でている映像が流れた。


 パキラは目を見開いて、口をあんぐりと開けている。スタンピートは興味ありげに黒いボールを眺めた。


「俺もこれ、使ってみたいな……」


「録画が終わったやつを、感想レポートと一緒にマーフさんに提出してくれるなら、オッケーだよ」


「まっかせなさいっ! 使い勝手とか、要望を書けばいいんだよね? 」


「投げるか落とせば発動して、オートであちこち撮り始めるけど、指示もできるよ。使ってみればコマンドが見えるようになると思う」


「うほっ。なんだか凄そうで、楽しみだ! 」


 スタンピートは嬉しそうに、黒いボールを取り出しやすいポケットにしまった。どこで試そうかウキウキしながら考えている。カナデは引きこもっていた彼が、以前のように明るくなったことが嬉しくて笑みをこぼした。


「あ、できれば3日以内でよろしく。ーーじゃあ、先に進もうか」



 奥に進むにつれて、白い石壁が少しずつ黒ずんでいるように見えた。3人とも念のために壁に触らないようしようと言い合い、パキラが指を差している様子をスタンピートはインスタントカメラで撮影した。


 カナデは石柱が何本か立っている少し広いエリアにたどり着くと、黒いボールを取り出し足元に落とした。すぐに透明化したドローンは、光が差し込んでいる崩れた天井付近まで上昇し、エリア全体を録り始める。


「イリーナさんがモンスターは石棺から出現するって言ってたよね」

「カナデ、真ん中に5つあるよ。じゃあ、5体かな? ここは日本刀で頑張るぞっ」


 鼻息を荒くしたパキラが先頭をきってズンズンと進んでいった。スタンピートもやる気満々で後についていく。彼らがある程度まで近づくとーーギギギギギ……と石棺のフタがゆっくりと開いた。


 石棺から起き上がったモンスターの頭や身体には、包帯がぐるぐる巻かれていたが、顔の部分は水気のないしわしわの茶色い肌をむき出していた。黄色く光る(まなこ)をパキラに向けている。


「ミイラなら別のダンジョン(べつダン)で戦ったことがあるからパターンは分かってる! 」

「パキラ、ここのミイラはーー」


 カナデが最後まで言う前に、パキラはミイラに日本刀を振り下ろした。スタンピートはターゲットをパキラに合わせえて弓を弾いている。


「イリーナさんがこっそり教えてくれた事があったんだけど、ネタバレなしで経験する方がいいかなーー。ひと先ず、あのミイラは2人に任せて……僕はーー」


 振り返ったカナデは背後の地面からに這い出してくるミイラたちに散弾を浴びせた。パキラはドーンという銃声音を聞きながら1体を切り崩し、嬉しそうに笑っている。


 その笑いは残りのミイラたちが魔法を使い出すと、さらに激しさを増してーー止まらなくなった。


「ーーぶはっ。ぶはははははっ。何コレ!? いまのうちに留めを、ぶははははっ! 」


 日本刀を構えているパキラの脇の下を、薄っすら透けているミイラの分身がくすぐっている。5秒ほどで消えたが、もう1体のミイラが魔法で分身を出現させーーほぼエンドループくすぐりが続いていた。


「幽霊ミイラがプロテクト通り抜けてる! ピート、早く1体倒さな、うははははっ! そろそろ消えちゃーーあははははっ」


 パキラを包むプロテクト壁が消えかかっている。焦ったスタンピートがスクロールを投げるために近くまで走った。


「パキラ、いまスクロを投げたから! やば、俺んとこ幽霊キター。ぶはっ、やめっ、ぶははっ! 」

「ピートサンキュ。今のうちにこいつを、あはははははっ」


「あちゃあ……イリーナさんが言ってた通りになってる」


 少し離れた場所にいたカナデは種子島を散弾式からスナイパーライフル式に持ち替えると、魔法を絶え間なく使っているミイラたちの眉間を弾丸で順番に打ち抜いていった。


 笑いが止まったパキラたちが、ほっとしたのも束の間ーー全てのミイラが塵になった途端に大地が小刻みに揺れた。足元からゴーンゴーンという音が徐々に近づいている。


「パキラ、ピート! 次にボスがくるから、地面が光ったら避けてね! 」


 石棺がある辺りから包帯を巻いた大きな手が這い出した。勢いよく地面の土や石を飛ばしながら出現したボスミイラは、カナデの背丈の3倍はありそうな巨大な体躯でファイティングポーズをとっていた。さらにボクサーのような軽やかなステップを刻んでいる。


「このミイラの身体もなんか変だな……」

「カナデ! 私がタゲとったらまずいよね? 」


「あ、うん。パキラ、僕がタゲ取るよ。スクロは投げなくていいからね」


 メデューサの魔盾とメイスを持ったカナデは何もためらうことなくパラディンの挑発スキルを使うと、ミイラの背中がパキラたちに向くように移動した。パキラはシュシュの森でヨハンから聞いた通り、カナデが全ての職スキルが使えることに感心している。


「ピート、自慢せずにさらっとこなしちゃうカナデにアンビリバボー! だよっ」


「うんうん、俺はチーム仲間として、誇らしく思ってる! パキラ、そろそろ10秒立つから攻撃スタートだ! 」


 カナデはメイスで殴ることなく挑発スキルを使いながら、ボスミイラが撃ち込んでくる右ストレートやジャブをひらりひらりとかわしていた。じっくりとボスの身体を観察している。


「両足は完全に真っ黒だな……。身体のあちこちに黒い斑点があって、まだらになってるしーーなんでだろう? 」


 一方で、パキラは踏みつぶされないように気を付けながら、真っ黒な包帯が巻かれている足を日本刀で斬りつけていた。しかし、ダメージが通っていない気がして焦りを覚えている。

 

「このミイラ、日本刀が弾かれちゃう! ピートはどう? 」

「パキラ、物理耐性があるんじゃないか? 俺の攻撃もあんまり効いてないっぽいっ」


「属性付きの武器もってないよぉ。ーーピート、犬ミイラ出てきた、気を付けて! げっ、床が光ってたっーー」


 足元からの光に包まれたパキラの眼前に舞台のような場所で蝶ネクタイをしている小さなミイラのホログラムが映し出された。お笑いステージにいる司会者のような陽気な口調で喋っている。


「はい、ようこそいらっしゃいました。ミイラのお笑いの館へようこそ! はい、拍手~」


「えっ、ちょっと。もう、勝手に手がぁ! 武器が持てないよ! 」

「くっそぉ、俺も拍手が止められないぃぃ! 」


 彼らは自分の意思とは関係なく動いている手に困惑しながら、犬型ミイラから逃げている。視界を邪魔しているホログラムのミイラは気にも止めずに話を続けた。


「では、いまからゲストターイムのお時間ですっ。5秒以内に1発ギャグをどうぞ! 5……4、3、2、1終了~」


「はやっ! お、手が自由になった。ピート、さっさと犬ミイラ片づけよう」

「パキラ、オッケー。ってかなんでこんなトコで1発芸!? 」


「では、ゲストの皆さん、お笑いを存分にお楽しみくださあいっ! はぁば、ないすでいっ」


「ちびミイラがやっといなくなった……」

「パキラ、スクロ落とすからカモン! 」


 目の前がクリアになったパキラは、スタンピートが展開したプロテクトスクロールの魔法壁に滑り込んだ。光る床でダメージを受けると思っていた彼女は拍子抜けした顔をしている。


「光る床やばいかと思ったけど、大したことなかったね 」

「芸人ミイラを見ただけだったな」


 スタンピートはホログラムのミイラの去り際の言葉が少し気になっていたが、意気揚々と敵を日本刀を振るパキラとともに犬型ミイラを蹴散らしていた。しかし、背後に透けた手の指をぐにゃぐにゃと動かしているミイラがいることに気が付き、青ざめたーー。


「笑いを楽しめって、まさか……。そして、やっぱりプロテクト壁を抜けてくるぅ。うはっ。はははははっ」


「え、ピート? うわっ! 手の動き、きもっ、ぬははははっ。これは、あははははっ。やめっーーあははっ」


 その頃カナデは荒ぶるミイラを翻弄しながら、インスタントカメラで真剣に撮影していた。フックを効かせたボスのパンチと、光る床を軽いステップでかわしている。


「写真はこれぐらいでいいかな。パキラとピートはーーあぁ…‥あの床を踏んじゃったのか」


 スタンピートは弓を持つことが出来ず、お腹を抱えて笑っている。


「脇やめて、ぎゃははははっ。まじで死ぬ、うひょひょひょっ。笑い死ぬからっ」

「ぶはっ! カナデ、あははっ。攻撃が、うほほっ、でき、あはっ、ない! 」


 パキラが笑いながら叫んでいるとーー巨大なミイラは巨大な石の塊に変化した。頭から細かいヒビが入り、パラパラと細かい砂になって砕けていった……。カナデは笑いつかれて茫然としているパキラとスタンピーに申し訳なさげな顔をしている。


「ごめん。観察するのに夢中になってた」

システム:こんな魔法があったら嫌だなシリーズ第1弾は……どどんっ! 延々とくすぐられる。 笑う門には福来る? でも、ダンジョンだと死神が来そうですね。


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