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神ノ箱庭  作者: SouForest
我々の敵は本当にプレイヤーなのか?
89/166

旅は道連れ

システム:クリスマスなので、挿絵ーーではなく、落書き4コマ漫画をラストに投下しました。2002.12.25

「カナデ、僕はしばらくブランたちと一緒に行動するからーー」


 オーディンの人形はそう言うと、ええ!? と叫んだカナデから離れて、椅子に座っているブランとガンドルの間に立った。ガンドルはビックリな展開になったと大喜びしている。


 嬉しくなった彼は銀髪の少女を膝に乗せようとして手を伸ばしたーーだがすぐにパチンとその手をブランに叩かれてしまった。手を擦りながら、しおしおな顔をブランに向けている。


「ブラン、いいじゃないかぁ。俺だって可愛い子を膝に乗せたいっ」

「許可できません。ーーほら、ユーリさんが来ましたよ」


 ガンドルが後ろを振り向くと、ゲームやアニメの話で盛り上がったプレイヤーのユーリがススキの間を駆け抜けていた。彼はーーなんだあいつ、と言うプレイヤーたちの白い目を気にせずに大きく手を振っている。


「ガンドル~! アップルパイを持ってきたぞ~! 」

「まじか!? ホントに持ってきてくれるなんて、めっちゃ嬉すぃ! 」


「だって、約束したじゃないか」

「ユーリ……お前、良い奴だなっ。ーーんん? ブラン、もう1人、こっちに来るぞ」


 ユーリの後ろを追いかけるようにマーフが走っていた。2体のキャンペーンボスを恐れもせず、真っすぐにオーディンの人形に向かっている。プレイヤーのお客が増えたことに、ブランは複雑な心境だったが椅子を2脚、追加した。


 ブランの膝に乗っているオーディンの人形は不満げな声を出している。


「マーフが来ると思わなかった。すぐに出発しようとしていたのに出鼻をくじかれたよ」


「ルーさん、そんなこと言わないで下さいよ。どれだけ会いたかったか……」


 マーフはキャンペーンボス達に丁重な挨拶をした後に、手土産のシュークリームをティーテーブルに置いた。すると、ついさっきまで顔をしかめていたオーディンの人形がーー口元を思いっきり緩ませながら手を伸ばした。


「ブラン、銀獅子シューはめっちゃ旨いんだ! これ食べてから出発しよう」


「ははは。変わり身が早いですね。少しだけ待って下さい、お皿をだしますからーー」


 ポンっと現れた手のひらサイズの羽ウサギたちが、人数分の食器をセッティングし始めた。可愛いもふもふの出現に、マーフやユーリだけでなくカナデの顔も自然にほころんだ。


 街道にはキャンペーンボスの討伐を試みようとするプレイヤーが続々と集まっていた。彼らが緊張した表情で様子を伺っているのに対し、ススキ群生地の茶会では狩る側(プレイヤー)狩られる側(キャンペーンボス)が語り合う和やかな時間が流れていたーー。


「ブラン、シュークリーム食べないのか? 美味しいぞ? 」

「私の分もどうぞ」


「いいのか? じゃあ、食べちゃうぞっ」


 食いしん坊なオーディンの人形は大きなシュークリームを両手で掴んで、豪快にかぶりついた。


「あ……ぁあああ!? 極旨カスタードを落としてしまうなんて、なってこったい……」


 誰が見ても頭上にガーンという大きな擬音が乗っていると思うほど、オーディンの人形はカスタードクリームをボトリと落としたことに落胆している。よく見れば顔にもクリームがべったりと付いていた。


 ブランがクスクス笑いながら、濡れタオルで拭きとっているが……。彼女の探検隊のような服はクリームがべったりついた無残な状態になっていた。 


「……ブランさん、ティータイム中ですが席を立つことをお許しください」


 ここぞとばかりにマーフは椅子からスクっと立ち上がるとーー風景とミスマッチした試着室を、ティーテーブルの横にドドーンと出した。牡丹が金彩蒔絵で描かれた漆塗りの木製パネルの間で、銀糸で獅子が刺繍された赤いカーテンが揺れている。


「ルーちゃん、せっかくですからお着換えしましょう! 」

「……マーフ、いつもこんなの持ち歩いてるのか? 」


「メイドイン、カナデでございます。ルーちゃんのために作っていただきましたっ! デザインはボーノさんとディスティニーさんの合作です! 」


「うえぇぇぇ!? ーーランドリーアイテムを使えば、綺麗なるからいいよぉ」


 瞳をキラリと輝かせたブランが膝にいる少女を腕に抱えてすくっと立ち上がった。スタスタと試着室の前に移動すると、真剣な顔でマーフに少女を渡した。


「マーフさん、彼女を可愛らしい姿にして下さい! 」


「お任せください、ブランさん! ルーちゃんを美少女の中の美少女にしてきます! 」


 マーフは呆れ顔の少女を有無を言わさずに簡易試着室に連れ去った。アップルパイを満足げに頬張っていたガンドルが愉快そうに笑っている。


「ぶはっ! こんな所で生着替えか~。テレビ番組みたいだな。ーーあ、そうだ、ユーリ。これ、手土産のお礼なっ」


 ガンドルは胸の前で右手を握り、手品師のようにパッと広げた。人差し指と中指の間に挟まっている蒼い鉱石をティーテーブルの上にコロンと転がした。


「ーーえっ、これって……。ガンドルさんの討伐報酬じゃないですか! 」


 ユーリは日差しを受けてキラキラと光っている蒼い鉱石を手に取って、じっくりと見つめている。ブランはどうやって討伐報酬を出したのか考えてたがーーあぁ、なるほど、とつぶやき……テーブルの上に直径1センチほどの黒くて丸い猫目石を3個つ置いた。


「ブラン、それなんだか、ウサギのうんーー」


 パァン! ブランに頬を平手打ちされたガンドルは……涙目になった。


「叩かなくても、いいじゃんか……、ぴえええんって泣いちゃうぞっ」


「おかしなことを言おうとしたからですよ。ーーこれ、私の討伐報酬です。プレイヤーの皆さんで分けて下さい」


 誰も手に入れていないブランの討伐報酬に感動したユーリは目を潤ませた。ハンカチでキュッキュッと磨き、お守りにしますと嬉しそうに言っている。カナデは自爆せずにアイテムを出したことに驚いていた。


 ルルリカとの違いはなんだろうと考えながら黒い猫目石を眺めていると、着替えが終わったオーディンの人形が試着室から出てきた。黒のベレー帽を頭に乗せ、大きなボタンがついた紺のケープコートを羽織っている。スカートは嫌だと最後まで抵抗した彼女は細身のパンツを履いていた。


 マーフは満足そうに微笑みながら、目を輝かせているブランに少女を預けた。


「ブランさん、如何ですか? フフフ」

「素晴らしい! マーフさん……いい仕事をありがとうございます」


 ブランは、同士よ! と言ってマーフに握手を求め、自分の討伐報酬である猫目石を渡した。オーディンの人形はブランの腕に大人しく抱えられながら、ぷくーっと頬を膨らませている。


「もう! ジャージでいいのに! 」


 いままで表情を変えることが出来なかったオーディンの人形が百面相をしている様子にカナデは驚いていた。ヴィータに連れ去られている間、何かあったのだろうかと考えているとーーふいに、街道でポカーンと口を開けているプレイヤーと目が合った。


 キャンペーンボスとプレイヤーがお茶会をしているという光景に目を疑っているようだ。突撃するべきかどうか相談している声も聞こえてきた。


 ーーオーディンの人形を説得して、そろそろ帰った方がよさそうだ。


 カナデが立ち上がった途端、ティータイムを楽しんでいた光景は夢だったかのように跡形もなく消え去った……。尻もちをついたユーリをガンドルが起こしているが、オーディンの人形とブランが見えない。


 焦ったカナデが彼らを探しているとーーススキ群生の中からブランの声が聞こえてきた。ブランはシルクハットを取って軽く会釈をしている。


「観客が多くなってきたので、そろそろお暇しますね。では、皆さまご機嫌ようーー」


 オーディンの人形はブランに抱えられながら動揺しているカナデと、笑顔のマーフに手を振った。


「カナデまたな! マーフ、小鴉をよろしく頼む」


 カナデは慌てて後を追いかけようと走ったが、大柄なガンドルに行く手を阻まれた。戦うことになるのかと冷やせをかいているカナデのおでこをーーガンドルは愛嬌たっぷりな笑顔を見せながら軽く指で弾いた。


「カナデさまよ、無理に連れ戻さない方がいいぞ。そんな顔すんなって、ブランがいるんだから大丈夫さ」


 ウインクをしたガンドルは次は鶏肉入りのキッシュがいいとユーリにリクエストをすると、ニカッと笑ってブランの後を追いかけていった。残されたカナデは彼らの姿がススキの中に消えるまでずっと眺めていた。



 ブランたちは街道に戻らずに、獣が作ったような細い道を歩いていた。先頭を切って歩いているガンドルの赤い髪と尻尾に、またオナモミがくっついている。後ろからその姿に見ていたブランとオーディンの人形がクスクスと笑った。


「さて、オーディンの人形、我々と行動を共にするのは大歓迎なのですが……理由を聞かせてもらえますか? 」


「ブランたちは精霊王ルルリカのとこに行くんだろ? 会いたいっていう気持ちが治まらなくて……」


「あぁ……そう言う事だったんですね」


「ブラン、今度こそ光の王女から僕を守って、送り届けてくれよ! あいつが現れるかどうか分かんないけどな」


「フフフ……はらわたが煮えくり返る思いが蘇りますね。もちろん、全身全霊を持って貴女を守ります。それに……あの方の天敵であるガンドルさんがいますから、大丈夫ですよ」


 ガンドルは任せろと言わんばかりに拳を突き上げると、手に持っていたススキをオーディンの人形に渡した。夕陽に照らされた穂が輝いている。彼女はキャラクター設定に記憶が引っ張られているのを感じながら、黄金色に波打つススキ群生を眺めた。


「僕のことはオーディンの人形じゃなくて、ルードベキアと呼んでくれ」


「では、ルードベキアさん。旅は道連れと言います。よろしくお願いしますね」

「ブラン、敬称はつけなくていいよ」


「わかりました。ルー」

「いきなり愛称かよ……」


「レッツゴー、ルー! いざシュシュの森へ」

「ガンドル……。君は人懐っこい性格だったんだな。あの時のことは水に流すよ」


「え、あの時って? 俺ら会ったことないと思うけど? ……わかったぞ、以前に会ったことがありますよねっていう、俺への口説き文句だなっ」


「さぁね」


「ええ!? つれないなぁ……。ルーちゃん、教えてくれよぉーー。あっ、こらっ、やめっ、やめろってっ。ぶはははっ」


 ルードベキアにススキの穂でパシパシ叩かれたガンドルは愉快そうに笑った。


挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

システム:ヨーホホホ! メリークリスマス! サンタさん、ガンドル、ブラン、ルーの人形が欲しいすっ!


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