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神ノ箱庭  作者: SouForest
我々の敵は本当にプレイヤーなのか?
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こんなアトラクション、全然楽しくないっ

 神兎剣の包囲網を破られてしまったブランは再びスキルを発動させて、さらに多くの剣を出現させていた。対峙しているヴィータは対抗するために同じ数の黒狼剣を作り出し、眼前で円を描くような陣形に整えた。黒い刃先をブランに向けて、威嚇するように刀身を回転させている。


「まさか……私のスキルをコピーした!? ーー原作から逸脱しすぎですよ! 」


 ブランはにやりと笑っているヴィータに驚愕し……その能力に嫉妬した。すぐさま神兎剣を飛ばしたが、それよりも速く瞬時にテレポートした黒狼剣が、さっきのお返しをするように長くて白い両耳を跳ね飛ばした。


 神兎剣は応戦しているが、勢いづいた黒狼剣に押されている。ブランの腕や脇腹は切り裂かれ、白い毛が赤く染まったーー。


 慢心しすぎたことを悔やみながら、ブランは迷路の壁よりも背が高い花の上に飛び乗った。追いかけてくる黒狼剣から逃げながら、ガンドルからもらった木の実をかじっている。


「体勢を立て直さないとまずいですね。ーーそれにしても、ヴィータが魔法の笛を使わずに戦えるなんて、最悪ですよ! 開発者を恨まずにはいられませんね」



 その一方で、ガンドルは思いのほかヴィータの黒狼剣といい感じで戦っていた。踊るように襲ってくる剣を軽いフットワークでかわしながら、隙をついて破壊している。


「めっちゃ楽すぃぃ! 俺ってイケてるぅ」


 調子に乗り始めた頃に、ガンドルの大事なふさふさの尻尾が根本から切り落とされてしまった。身体バランスが崩れたのか、段々と不利な状況に追い込まれている。小袋から木の実を取り出す暇がないほど、黒狼剣から猛襲を受けていた。


 ガンドルがエリアのどこかにいるブランに聞こえるように大きな声で叫んでいる。


「ブラン! なんでこんなに、ヴィータが強いんだよ! 」

「そんなこと私に言われても、知りませんって! 」


 ブランはトレーの上にいるガンドルからかなり離れた花の橋を走っていた。しつこく追いかけてくる黒狼剣を神兎剣で砕いているが、イワシの群れのような彼らは、なかなか減らなかった。懸命に走りながら敷地が広い観覧車エリアを目指した。


 ガンドルは小袋に手を伸ばすと攻撃してくる、円錐陣形をとった黒い剣の群れと、空から刀身を回転させながら降ってくる黒狼剣にうんざりしていた。執拗に攻撃してくる彼らから逃げ出し、悲鳴を上げている。


「うぎゃああ、木の実を食べられないぃぃ! 」

「ガンドルさん、ファイト! 」


「ファイト無理ぃぃ! ブラン、どうにかしてくれぇ! 」

「相手はチートキャラです! 私にはどうにもできません! 」


「痛い、痛い、痛いっ! ブラン、たちけてぇ! 」

「痛くない! 痛いような気がするだけです! 」


 弱音を漏らしているガンドルを助けるために、風ウサギが大きな口を開けて黒い群れを飲み込んだ。風ウサギはテリトリー内を掃除するかのように黒い剣だけを次々に吸い込んでいる。黒狼剣はウサギの口の中で暴れることなく、ヴィータの力が届かない空間に飛ばされーー消え去っていた。


「うっひょう、吸引力すっげぇ! うさちゃんサンキュ。ーーブラン、どこにいるんだぁ! 」


「観覧車エリアに向かってます! 」

「りょっか~い! よっしゃぁ、早くブランと合流しよっと」


「ガンドルさんは大丈夫になったようですね。こっちは……この手を使うのは気が引けますがーー」


 ブランを追いかけている黒狼剣の前には羽ウサギたちが立ちはだかった。主人を守るために次々と爆発しては再生を繰り返しているーー。彼らのおかげで黒い群れはかなり縮小されたが、ブランは複雑な気持ちになっていた。


「すぐに再生するとはいえ……ウサギたちが自爆する様は、せつなすぎますね……」



 ガンドルは観覧車があるエリアに行くために、空中に浮かぶトレーから花の橋に飛び乗った。必死に走っていた彼が、もう少しで橋を渡りきる! と思った矢先に、ドコンドコンという不穏な音が聞こえてきた。


「めっちゃ、不気味な音だなっ。そして、お花が揺れてるぅ! 落ちっ、怖っ、やばっ」


 あわあわしながらも、ガンドルは筒状花(とうじょうか)部分に掴まっていた。大きくグラグラと揺れている花の橋から振り落とされないように耐えている。音が聞こえなくなったと思った途端に、彼の足元から大きな右手が突き上がったーー橋の花ごとガンドルを握り潰そうとしている。


「ぎゃあああ! ぶらぁぁん! 」

「あぁ、もう! しょうがないですね」


 空にある白い雲からポンポンと生み出された羽ウサギたちはすぐさま瞬間移動すると、ガンドルを捕らえている巨大な指に渾身の力をこめて槍を突き刺した。ーー巨大な手は痛みでひるんだのか、太い指を広げている。


 羽ウサギの猛攻のおかげで、どうにか巨大な手のひらから這い出すことに成功したガンドルはヨタヨタと立ちあがった。


「うさちゃんたち、ありがとー! ーー橋の下に落ちちゃったのか。階段はどこだ? お、黒いうさちゃんだ。かっわ、いい? んん? 」


 刃物を持った黒ウサギたちがガンドルが行こうとしている先に立っていた。羽ウサギよりも目つきが悪い彼らは、威嚇するようにダンダンと足を踏み鳴らしている。ガンドルは作り笑いをしながら、彼らに小さく手を振った。


「えっと……。ハロー? 」


 黒ウサギが返事の代わりに投げた牛刀がガンドルの頬をかすめた。


「うげっ!? 味方じゃないのかよっ! 」


 うっすらとついた傷から血がにじみ出るのを感じながら、ガンドルは地面を殴った。土の津波が目をギラギラさせている黒ウサギたちを飲み込もうとしている。しかし彼らは軽くジャンプして波をやり過ごし、野太い唸り声をあげた。


「うっそぉお! ウサギを倒すのは忍びないが……ごめんなさいってことで! 」


 ガンドルはそう言うと、集団で飛び掛かってくる黒ウサギたちを銀の爪で斬り裂いた。羽ウサギのように爆発することはなかったが、すぐに再生し……ぽこんと分裂した。


「ふ、増えた……? ブラン、黒ウサギやばいぞ! 」


「ヴィータは、うちのウサギ()たちまでコピーしたんですか!? ーーおっと、危ないっ」


 狼の毛を生やした巨大な右手がブランのすぐそばに落ちた。レンガ舗装された敷地が手の形にへこんでいる。ーー地面を叩いたタイミングを狙って、ブランは追従していた神兎剣を飛ばした。大きな指や手の甲に次々に突き刺さり、針山のようになっている。


 しかし、何事もなかったように巨大な右手は上空に浮かび上がりーーブランを叩きつぶそうとして、追いかけている。


「頑丈すぎますね、っとーー」

「俺に任せなさい、っとーー」


 黒ウサギを羽ウサギに任せて逃げてきたガンドルが巨大な右手の小指を鋭い爪で切り落とした。どんなもんだいっ! と言う感じでドヤ顔をしながら、ブランに向かって親指を立てた。


「へっへへーだ! 切り刻んでやるよ、次は親指だっ! 」

「ガンドルさん、待った! 」


 ポトリと地面に落ちた小指は消えることなく、ぐにゃぐにゃと動いていた。ブランが小指が無くなった巨大な右手から逃げながら観察していると、どんどんと肥大化していった……。すくすくと成長したそれは巨大な左手となってーーガンドルにVサインを向けた。


 2本の指をチョキチョキと動かしながらガンドルを追いかけている。


「増えるなんて汚ねぇぞ! 」

「おかしなアトラクションを増やさないでくださいよ……」


「何言ってんだ、ブラン! こんなアトラクション、全然楽しくないっ」

「あ、ガンドルさん。危ないですよ」


 大事な尻尾を2本の巨大な指に挟まれたガンドルが、ぎゃああ! と叫んでいる頃、ーーヴィータは巨大迷路の中央にあるガゼボでくつろいでいた。余裕たっぷりの表情で、このテリトリーの主人は自分であるかのように芳醇な赤ワインを楽しんでいる。


 羽ウサギと戦っていたはずの黒ウサギたちがガゼボに集まっていた。ヴィータを囲んでキュイキュイと何かを訴えている。


「お前たち……職務怠慢だぞ」


 困り顔のヴィータの膝によじ登った黒ウサギがキューイと鳴きながら前足でワイングラスを差した。真っ黒な瞳でヴィータの顔をじっと見つめている。


「キュイキュイ」


「あぁ、そういうことか……。お前たちも飲みたいんだな? では、好きなだけワインをやるから、ブランのウサギ共を誘ってパーティを開くといい」


「キュキュイ? 」

「キューイキューイ! 」


 大喜びした黒ウサギたちは植栽に隠れてヴィータの様子を伺っていた羽ウサギたちを呼びに走った。彼らはワインボトルをちらつかせて相手の警戒を解くと、盛大な宴会を始めた。巨大迷路の中のあちらこちらに白と黒がゲームの駒のように並んだ。


 そんな事を知らないブランとガンドルは木の実をかじりながら、さらに増殖した巨大な手と死闘を繰り広げていた。増えると分かっているのに、なぜ切り落とすのかとブランが怒鳴っている。


「だってぇ、殴られたら殴り返さないとーー」

「だって、じゃありません! 殴りじゃなくて、斬ってるじゃないですか」


「斬る、イコール、殴りでっす! ブラン、知らないのかぁ? 」

「そんなの、知りませんよ! 」


 遠くから聞こえるコントのような会話にヴィータは思わず、クスっと笑った。ワインを飲んで酔っぱらってフラフラしている白と黒のウサギを楽しそうに眺めている。


「彼らにはもっと強くなってもらわないとーー。あぁ、大丈夫だ、心配するな。このテリトリーはロックされている。ブランの許可がなければ入場はおろか、覗き見すらできない」


「それにしても、ここはいいな。外と隔離されているから、俺のスキルを存分に発揮できる。ーーははは、残念だけど、想像力が乏しいからなぁ。見本があれば何とかなるが……ファンタジー系は正直、難しい」


 ヴィータは猫足の赤いカウチソファで眠るオーディンの人形をじっと見つめながら喋っている。おもむろに昆虫図鑑を出現させると、パラパラとめくった。


「どうせなら、好きなものを作ってみたいよな。え? 戦う系じゃないと駄目って言われても……俺が作るモンスターに期待しないでくれよ? 取り合えず、パニック映画に出てきたやつからにするかーー」


 ふふふと楽しそうに笑ったヴィータは……ワイングラスを軽く指ではじいた。



 ブランは逃げながらも巨大な手の攻略方法を早くも発見していた。氷属性の神兎剣を飛ばして敵を凍結している。


「ガンドルさん、いまです! 」

「オーキードーキー! 任せろ! 」


 ガンドルのスキル噛牙斬が氷塊に牙を食い込ませて噛砕くと、バリンという良い音をさせながら氷をまき散らした。巨大な手は再生することなく、氷と共にキラキラと消滅した。


「よっしゃぁ! 次はヴィータを叩きつぶすぞっ」

「ガンドルさん、上! 」


 右、左、右……と順番に巨大な手を倒して安心していたガンドルの目に、自分の身体の2倍は大きさがありそうな蚊が映った。ゾワッと鳥肌が立った彼は両腕をポリポリと掻きながら、叫び声を上げている。


「ひぎゃああああ! でっかい虫シリーズなんかいらねぇ! 」

「蚊はさすがに嫌ですね。ーーさっさと退場していただきましょう」


 B級映画みたいなシチュエーションはごめんだと騒ぐガンドルに苦笑しつつ、ブランは炎属性に変えた神兎剣で迫りくる害虫を次々に駆除していった。

システム:幼いころにTVで見たでっかい虫の映画がめっちゃ怖かったことを覚えています。体液吸われちゃうとか恐ろしい……。

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