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神ノ箱庭  作者: SouForest
我々の敵は本当にプレイヤーなのか?
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人形を奪還せよ

ソステム:ブランの戦闘テリトリーのイメージイラストを挿絵として追加。2022.12.19

 ウィステリア山キャンプ場で肉とか肉とか肉が食いたい! と駄々をこねたガンドルは、周辺の景色を眺めながらブランと街道を歩いていた。だが、しばらくすると……木を見るのは飽きた! と騒ぎ始めた。


 何か口にしたいが食料が手に入らないという状況に苛立っているようだ。


「ゲームだしぃ、NPCだからぁ、別に食べなくても死なないけどさっ。食欲が泉のように湧くとかシステムがおかしすぎじゃーー。ん? ブラン、あれ。ヴィータじゃないか? 」


 ガンドルは進行方向から黒いマントをはためかせながら歩いてくる人物を指差した。


「おやおや、奇遇ですね。こんなところでお会いするなんて……」


 人形劇のワンシーンが脳裏に流れたブランは……激しい憤りを感じた。ステッキの柄を強く握り、殺気がでないように押さえこんでいる。ブランはゆっくりと街道を歩いてくるヴィータの進路を塞ぐように立った。


「笛吹ヴィータ殿、ご機嫌いかがですかな」


 ヴィータは目深にかぶった帽子の奥から黒く染まった眼球をギロリと動かした。彼は何かを思い出したような表情をしたが、ブランに興味を示す事なく、その場を立ち去ろうとしている。


「マントに隠している人形……頂けませんかね? 」


 ブランはそう言うと同時に、ヴィータの黒いマントの隙間にステッキを差し込みーーひらりとめくった。目を閉じたオーディンの人形が顔を覗かせる……。ブランは奪おうとして左手を伸ばしたが、彼女はスゥっと暗闇に消えてしまった。


 その暗闇にネズミたちの赤い目が点々と光った。彼らは、げっ歯類独特の歯ではなく、ライオンの歯のような牙を剥きだし、ブランに向かって一斉に飛び出した。


「そんな子供だましを! 」


 後ろに飛びのいたブランはステッキを振った。風魔法で出現した戦闘馬たちが全身にまとっている風刃でネズミたちを粉々に砕いている。ブランはすぐさま戦闘テリトリーを発動させ、ヴィータを引きずり込んだ。



「あれ? ブランとヴィータがいなくなったぞ? この球っころはなんだ? 」


 山道に直径1メートルほどの丸い球体が浮かんでいた。カーブミラーのように景色を映している球体をガンドルがキョトン顔で覗き込んでいる。ーー庭園と植栽でつくられた迷路の中に2人がいるのが見えた。


「こんな隠し玉もってたのかよ! 」


 興奮して鼻息が荒くなったガンドルは握った両手の拳を身体の前でブンブンと上下に振った。もっと近くで見ようと球体に額をつけるとーー。


 シュルルルル……。ガンドルは頭から捻じれるように吸い込まれーー迷路の壁よりも高い花の上にふわりと落ちた。花の道の向こうに植物で出来た観覧車とジェットコースター、その手前に巨大なティーポットとカップを乗せたトレーが空に浮いていた。


「何だこれ、面白すぎる! ぶはははっ 」


 上空を駆けていた巨大な風ウサギたちが笑い声の主を探そうとギョロリとした目を動かした。ガンドルは彼らに手を振り、楽しそうに周囲を見渡している。


「おおっ、ウサギが飛んでいる。めっちゃファンタジー! 」


 羽が生えたウサギがあちこちでパタパタと飛んでいる姿にガンドルの興奮度はさらに上がった。自分に近づいてくる小さくて白い生き物を食い入るように見つめている。


「ぐぬぬ、くっそキャワイイな! ここ本当に戦闘テリトリー(せんとり)か? まるでふれあい広場だっ! 」


 撫でたくなったガンドルが顔を綻ばせながら駆け寄ると、耳元に花飾りを着けたウサギは低音の良い声で、ぶっきらぼうに言葉を吐き出した。


「金ーーでは無く、手を出せ、お客人」

「ガーン……、見た目めっちゃ可愛いのに……怖い」


「早くしろ。ーー違う! 手のひらじゃない、手の甲だ! 」

「は、はいっ。ごごごごめんなさい……」


 しょんぼりしてしおしお顔のガンドルの手の甲にスタンプが押された。うっすらとウサギを模ったマークを見たガンドルは、目を輝かせて小さな子どものようにはしゃいでいる。


「うわぁ! これって、もしかして入場スタンプ? すっげぇ、遊園地みたいじゃないか! 」


「戦いを大いに楽しんでくれ」


 ドヤ顔をしたウサギの歯がキラリと光った。彼は飴玉をガンドルにプレゼントすると、あでゅ! と言って煙を吐き出し、消え去った。


「飴ちゃんか。どれどれ、お、イチゴ味。うっま。 あれ? なんだこれ、ステが上がってるぞ!? イケボうさちゃん……ありがとう。マジイケメン! 」


 ガンドルはステータスを上昇させる飴玉をコロコロと口の中で転がしながら、花で出来た橋の下を覗いた。切り株の隣にある巨大な迷路にヴィータが閉じ込められていた。


 ヴィータはトランクケースを開けて害虫やネズミをばらまいていたが、周囲が何も変化しないと分かると……炎属性の両手剣を取り出した。植栽の壁に向かって狂ったように振り回している。


 植栽の壁上からその様子を眺めていたブランは嘲笑った。


「残念ですが、私のテリトリーはそう簡単に壊せませんよ」


 ブランはステッキを振って、風の戦闘馬たちを突撃させた。獲物を踏み潰そうとしている彼らの前脚をヴィータは軽く避けるとーー白く耀いている馬の体に触れた。


 ……瞬く間に戦闘馬たちは青紫に変色し、ボロボロと身体が崩れていった。


「彼自身が病原体そのものなんでしょうか……。ならば別の手でいきましょう。ーー人形は必ず頂きます! 」


 植栽から羽が生えたウサギたちがぴょこんと顔だした。ヒュンヒュンと素早く飛びながら手に持っている槍でヴィータの身体のあちこちをグザグザと突き刺し始める。顔をしかめたヴィータは足元にいる邪魔な1羽を掴んだーー。


 ボンッ! 囚われたウサギがヴィータの左手を吹き飛ばした。


 ウサギ自身も木っ端みじんになったが、すぐに何事もなかったように再生した。復活した白いウサギは目をギラギラさせながら、左手首から血を垂らしているヴィータの足に槍を投げている。


 剣で突き刺したり、疫病に感染させたりすると、自爆と再生を繰り返すと分かったヴィータはその場から逃げ出した。無くなった左手をにゅるりと生やして修復している。


 指を動かして問題ないか確認しながら迷路の中を走っているヴィータを、羽ウサギたちは槍を投げながら追いかけた。その様子を花の橋から見ていたガンドルが愉快そうに手を叩いてゲラゲラと大笑いをしている。


「ヴィータがめっちゃ逃げてるぅ! すげぇなブラン、あのうさちゃんたち、めっちゃ強いじゃないか! 」


「お褒めいただき光栄です」

「俺も戦いに参加したぁい! いやっほぉ! 」


 ガンドルはプールに足から飛び込むように、大きくジャンプして迷路に降りた。植栽の壁が邪魔だと感じたが、ガンドルの通行を隔てることなかった。もっちりした空間をスルリと通り抜けながら、彼は幸せそうに微笑んだ。


「ヤバ……この壁ん中、何だかお布団ぽいっ。むっちゃくちゃ癒される……。いやいや、俺は戦いに来てたんだっつーの。寝たらあか〜ん! 」


 羽ウサギと一緒に壁に潜ったガンドルはヴィータに気取られないように、そろりそろりと忍び寄った……。


 迷路の行き止まりに追い込まれていたヴィータは羽ウサギたちに翻弄されていた。眉間にしわを寄せながらダガーの柄の部分でウサギたちの頭を殴っている。苛立っている彼の背中にガンドルは鋭く伸ばした5本の爪を突き立てたーー。


 即座にヴィータは身体を捻って乱舞するように背後にいる敵目がけて双剣を連続で撃ちこんだ。だが、植栽の壁にシュッと逃げ込んだガンドルには当たらなかった。刃先が葉に当たって跳ね返る音が辺りに響いている。


「うっひょう! 触ったらヤバイかと思ったけど、大丈夫じゃ~ん。銀の爪のおかげかなっと」


 すぐにヴィータの死角から飛び出したガンドルは無防備な彼の背中を引き裂いた。同じような攻撃を繰り返しながら、壁の向こうでほくそ笑んでいる。ヴィータはというと……ガンドルの攻撃よりも羽ウサギをどうにかしたいと考えていた。


 傷を負った箇所を修復しながら、ふと思いついたヴィータは軽く鬱憤を晴らすように舌打ちをした。その途端にーー羽ウサギたちは氷の中に閉じ込められた。クリスタルの置物のようになった彼らは迷路内にコロンと転がった。


 それらをヴィータは踏みつけることなく、その場で膝を軽く曲げて飛び上がりーー高さ5メートルはある植栽の壁上に静かに立った。


 良い感じでダメージを与えたと思っていたガンドルが悔しそうに叫んでいる。


「ちくしょう! 俺の攻撃は全然、効いてなかったのかっ」

「物語のヴィータとは、ひと味違うーーというわけですか……」


 ブランはステッキを自身の力が最大限に発揮できる神兎剣に変えると同時に、無数の剣を出現させた。それらは黄金色に光りながら、ぐるぐると渦を巻いてヴィータに向かっていったーー。


 雁の群れのような神兎剣は幾つもの部隊に分かれ、指揮者のように手を振るブランの指示に従った。


 単独で飛んでいる剣たちは弾かれてもめげることなくヴィータの注意を惹きつけーーその間に、円錐陣形をとっている無数の剣が回転しながら獲物の死角から突進した。


 身を翻して回避したヴィータの頭上からはーー雨のように鋭い剣先が降り注いだ。黒いマントを切り裂かれたことで、ヴィータの表情から余裕の色が消え去った。……歯を食いしばりながら双剣で応戦している。


 ブラン本体に攻撃するどころか近づく暇がないヴィータに、追い打ちをかけようとガンドルは走っていたが急に立ち止まった。テレポートを繰り返しながらヴィータを攻撃している神兎剣たちに魅入られている。


「ブラン、俺もその剣と戦いたい! 」

「ガンドルさん……。ヴィータから人形を奪ってくれたら、考えてあげますよ」


 ガンドルはヤッター! と叫ぶと、即座に植栽の壁上に飛び乗って、雄たけびを上げた。パワーアップした彼は赤いオーラをユラユラと立ち昇らせながら……ブランが操る神兎剣のタイミングに合わせて滑り込みーーヴィータの黒いマントを引き裂いた。


 暗闇から姿を現したオーディンの人形がするりと零れ落ちた。慌てたヴィータは双剣を投げ捨てて、彼女を抱きかかえた。黒く濁った眼でガンドルを睨みつけている。


 人形の全身を確認したブランは1000以上はあるだろう神兎剣でヴィータの身体をぐるりと囲み、刃先を彼に向けた。


「人形を捨てたくせに……身勝手すぎますよ。ーーガンドルさん、彼の腕を落としちゃって下さいな」


「オッケーなぁう! 」


 ガンドルは壁上を蹴ってジャンプし、ヴィータの右腕に狙いをつけた。


 人形をぬいぐるみのように抱えているヴィータは、動じる事なく不敵な笑みを浮かべている。彼は迷路内に落ちている2本の剣を、それぞれ身体が無い頭だけの黒狼に変化させていた。


 黒狼たちが宙に浮いてるガンドルの足を目指して一気に上昇した。気配を察知したガンドルは大きく咆哮して身体を後ろに押し戻しーーくるりと後方宙返りをして植栽の中に身体を潜り込ませた。


 獲物を見失った黒狼たちは。主を脅かしている神兎剣にすぐさま目標を変えて大きな口を開けた。刀身を噛砕き、ボリボリと音を立てながら食べている。壁上でしゃがんでいるヴィータは砕けた剣の破片が人形の顔に降りかからない様に右手を上げた。


 その瞬間にヴィータの足元から飛び出したガンドルは大きな獣の指先から伸びた爪をーー突き出した。


 パンッ! 


 ガンドルは物体が弾ける音と同時に後ろに飛びのいた。その場から離れ、走りながら身体を修復する木の実を口に放り込んでいる。


「まじかよ……。指1本で俺の右手を、腕ごと吹き飛ばしやがった! 」


 巨大なティーポットとカップが乗っているトレーに飛び乗って振り返るとーー上空で待機していた風ウサギがサメのような歯をむき出して、ヴィータの黒狼たちに食らい付いていた。


挿絵(By みてみん)


システム:おおまかな風景と逃走ルートや配置関係を確かめるためにブランの戦闘テリトリーのイメージイラストを描いてから執筆しました。挿絵はスクラッチアート風にしたので端折ってスッキリしています。が! コピー用紙の絵はなんというかぐちゃぐちゃ? ですw 

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