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神ノ箱庭  作者: SouForest
我々の敵は本当にプレイヤーなのか?
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あなた方だって、リポップできるんだから我々と大して変わらないですよね

 常闇の森近くのフィールドで、獣王ガンドルと剣王ブランは幾度となく、激しい戦いを繰り広げていた。圧倒的な力の差が遠目から見ても分かった。鼻歌交じりでキビキビと動くガンドルに対して、ブランは白い毛を赤く染めて、肩で息をしている。自慢の長い耳は千切れ飛んでいた。


 彼らの事情を知らないプレイヤーたちは、しめたとばかりほくそ笑んだ。


「棚ぼた、いただけるんじゃね」

「両方の体力が減ってるときに、いっきに片づければ美味しすぎるっしょ! 」

「ブランの1番旗は俺が頂いちゃいまっす」


 ゲラゲラと笑った3人のプレイヤーがシーフ職のスキル、隠密と俊足を使ってブランに近づき……我先にとダガーを振り上げる。


 ーー獣王ガンドルが怒りに満ちた目で怒号した。


 振動した空気が波紋のように広がりボコボコと土を削っている。直撃を受けた3人のプレイヤーは、グラグラとよろけて動けない……。にやりと笑ったガンドルに恐怖を感じた時、彼らの身体は鋭い爪で綺麗に輪切りにされていた。


「ブラン、大丈夫か? 」

「ええ、とっても苦い木の実を食べましたから」


「まったく! 楽しい対決にチャチャいれやがって、ムカツクな」


「だいぶ観客が増えたようですね」


「レベルはどうだ? 」

「この短時間で、5も上がったので上々ですね」


「そりゃあ、良かった。ーーあいつら目障りだから、ちょ~っと遊んでもいいかな」


「気分転換にいいかもしれませんね。ーーあっと、ガンドルさん、右奥の……大きな栗の木付近にいる、4人のプレイヤーだけは、傷つけないで下さい」


「ああん? どれだ? ーーあぁ、あれか。あのカメラみたいのを持ってる青い髪の奴? 」


「そうです。その人と、周りにいる3人です」


「りょっか~い。じゃあ、それ以外はーー」

「お好きにどうぞ」


 ガンドルはひゃっほ~い! と嬉しそうに叫ぶと、水を得た魚のように突き進んだ。慌てて武器を構えたプレイヤーたちを、次々に切り裂いていく。 


 そのガンドルの猛攻を、テレポートスクロールを使って避けながら移動している3人パーティがいた。


 彼らは剣王ブランだけなら倒せると意気込んでいた。シーフ職がブランの周辺にトラップを投げて弓を構え、ウィザード職がメテオを落とそうと集中している。その隣で、火縄銃式種子島をかまえたサムライ職が引き金を引いた。


 ドーンという銃声音がフィールドに響いた。脳天にヒットしたと喜んだ彼の頭が綺麗に飛んで行く……。それを間近で見てしまったウィザード職はメテオを落とす前に消滅した。ーーシーフ職はブランに弾かれた矢を胸に受けて膝をついた……。


 ブランは逃げようともがくプレイヤーの頭を容赦なくステッキで殴り、地に伏した彼の背中を踏みつけた。


「残念でしたね。私は同胞の中でーー1番、基礎ステータスが高いのですよ」


「お、お前らNPCだろ? 俺らプレイヤーに倒されてなんぼの存在じゃないかっ」


「うーん。自分の身を守ろうとするのは当たり前のことですよね? 誰だって殺されるのは嫌じゃないですかーー」


「狩られるためにいるのに? おかしいだろ……」

 

「おやおや、あなたはいま、鬼畜発言をしたことにお気付きですか? 」


 ブランの踏みつけている足の力が強くなった。プレイヤーは苦しそうにうめいている。


「うぐっ……だ、だって、ここはゲームの世界じゃないか」


「我々は、あなた方プレイヤーの、残虐性を満たすための存在ーーということですかね。……息をするようにNPCやクリーチャーを殺す……なんて残酷な世界なんでしょう」


「何言ってんだ、意味がわからなーー」


「ならば……。私は狩られるという役割を拒否させて頂きます。ーー楽しいお話をありがとう。では、そろそろお別れの時間です」


「え、ちょっと待って……助けーー」

「あなた方だって、リポップするんだから我々と大して変わらないですよね」


 ブランは目を細めながら微笑み、プレイヤーに引導を渡した。


「こういうのって……あんまり、いい気分じゃないですね」


 憂鬱そうに細いひげを指で撫でたブランは、ステッキをティーセットとテーブルセットに変えた。レモングラスティーが入ったポットをカップに注ぎ、座り心地がよさそうな椅子に深く腰掛ける。


 鼻をヒクヒクさせて清々しい香りを楽しんだ後に、ーー銀色に輝くドローンに向かって手を振った。



 ヨハンは大きな栗の木の下で撮影をしていた。インスタントカメラを持つ手が震えている。調査隊メンバーは、会話を盗み聞ぎするために地獄熊の耳というアイテムを使って、ブランたちの会話をすべて聞いていた。


 ーーなぜ、ブランは俺たちを助けてくれるんだ?


 ヨハンを含め、ボーノやミンミン、ディスティニーも疑問に思った。推測と憶測の中から1つの結論を導いたが……彼らはどうしても認めたくなかった。


 すぐ近くで獣王ガンドルが狂気に満ちた狩りをしている。ーー男性プレイヤーが叫び声を上げながらヨハンたちがいる栗の木に向かって走ってきた。


 全速力で逃げていた彼は大楯を構えているボーノのすぐ横で、無残にも砕け散りーー勢いがつきすぎたガンドルの爪が、さらに伸びた。


「あっぶねぇ……壊すとこだった。お前ら、危ないから、もうちょっと後ろに下がってろ! 」


 ガンドルは、シッシッと言いながら右手で追い払うような仕草をした。優雅にティータイムを楽しんでいるブランに目を移す。ーー危うくあいつに怒られることだった……。


 眼前ギリギリでガンドルの爪が止まって助かったディスティニーは放心状態になっていた。ボーノは彼の腕を肩に乗せて、ミンミンと一緒に引きずりながら、ガンドルに言われた通りにかなり後ろへ下がっていく。ヨハンは地面に散乱する栗のイガを蹴とばしながら慌てて後をついていった。


「いやいやいやいや、やばいでしょ! 何だあれ! 」


 ミンミンが目を見開いて叫んだ。地べたにペタンと座っているディスティニーはまだ呆けていた。ヨハンはインスタントカメラのズームアップ機能でガンドルの様子を確認している。


「ルルリカも強かったけど、ガンドルはそれ以上に見えますね……」

「ヨハンさん、情報ギルドに戻った方がいいんじゃーー」


 ボーノの心配そうな声とは裏腹にヨハンはあっけらかんとしていた。


「俺はドローンを回収してから帰ります。あそこに落ちてるんで」

「え? ちょっ、ヨハンさん! 」


「もう終わったみたいですよ。見て下さい、ガンドルはブランとお茶してます」


 ーーもしも、自分が知っているあの人ならば……話をしたい。ヨハンは誰にも邪魔されることなく無事にドローンを回収し終わると、少し緊張しながらティーテーブルの方へ歩いて行ったーー。


「は~い、ストップ! それ、回収したのなら、お家に帰んな」


 ヨハンの顎をガンドルが掴んでいる。ーーえ? ついさっきまで、彼は椅子に座ってティーカップを持っていたはずなのに……。


「ガンドルさん、放してあげて下さい。そろそろ移動しましょう」

「はいは~いっと。じゃあな! 寄り道をしないで真っすぐ帰るんだぞ~」


 ガンドルは硬直しているヨハンに笑顔で手を振ると、ブランの後を追いかけていった。



「ブラン、潮の香りがするぞ! 」

「本当ですね。あっ、ちょっと置いて行かないで下さいよ」


 彼らは小さな子どものように競走しながら無邪気に走っている。眼前に大海原と白い浜辺が見えてくるとーー顔を見合わせて嬉しそうに笑い、昔なじみのようにふざけ合ってはしゃいだ。


 砂浜にたどり着いたガンドルはキラキラと光る水面を眺め、ザザザーという波の音に耳を傾けた。しばらくの間、隣に立っているブランと穏やかな時を共有した。


「やっぱ、海はいいな! ブラン、この浜辺で対決の続きをやらないか? 」


 ブランは真剣な目で、寄せては返す波を眺めている。


「ボディボードやりたいですね……」

「え? ……ふわふわな毛がペショっとなるぞ」


「細マッチョな美ボディをお見せしますよ」

「あぁ、うん。そうねーー」


「信じてませんね。では、対決で負けたら服を脱ぐっていうルールはどうでしょう? 」


「お前、脱ぐ気満々だろ……」

「ははは! さぁ、いざ勝負です! 」


 何ラウンド目か分からない対決の火蓋が切られた。彼らは殺気に満ちたオーラを飛ばし、砂を蹴り上げている。


 ブランのジグザグに素早く移動する動きにガンドルは翻弄された。スピードに自信があっただけに、少しだけ焦りが生じた。それをあざ笑うかのようにガンドルの頬をブランのステッキがかすめる。


 ブランの成長の速さに驚きと喜びが混ざったガンドルが次の1手を撃ち込もうとした時ーー砂中から細長いイカ足が砂を噴き上げながら飛び出した。2人の身体にぐるぐると巻き付いている。


 少し遅れてから本体を露わにしたクラーケンがギーギーと叫び声を上げた。何かを訴えているようだ。


「ここは自分の縄張りだから、出ていけって言ってますね」

「ええー? 別にいいじゃないか、そんなに怒んなよ……。あぁ、もう! 」


 ガンドルは容赦なく身体に巻き付いてる足をぶちぶちと引き裂き、ブランを救出するとーークラーケンの本体を沖にポイッと投げてしまった。大きな吸盤が付いている足はうねうねと浜辺で踊っている。


「なぁ、ブラン。これ、焼いたら旨いかな」

「試してみます? あそこにキャンプ場が見えますよ」


「ナイスだ! 焚火を使わせてもらおう! 」


 彼らは屋台のイカ焼きを思い浮かべて、よだれが出てくるのを感じた。急いでクラケーンの足を持てるだけ持つと、海の絶景を眺めることできるという、ポセイダス海浜キャンプ場へ向かった。



 ガツン、ガツン。剣がガンドルの腹筋に何度もぶつかり鈍い音を立てている。ガンドルは剣の主が壊れないように、力加減に注意しながら指でピンッとはじいた。


 キャンプ場には気晴らしで遊びに来ていたプレイヤーたちの他に、ガンドルに恐れをなして逃げ込んだ者もいた。皆んな隅っこで小さくなっている。


 ガンドルはクラケーンの足をブンブンと振り回し、プレイヤーを守るために剣を振っている管理人NPCをペチンペチンと叩いて遊んでいるが、面白くなさそうな顔をしている。


「ちぇっ。まさかキャンプ場に入れないなんて、思わなかったよ。なぁ、これ焼いてくれるだけでいいんだけど? 」


 プレイヤーたちは無言で首を横に振った。彼らは移動石を強く握りしめている。しかし、キャンペーンボスの戦闘テリトリーがキャンプ場すべてを包んでいるため発動しなかった。


 早々にイカ焼きを諦めたブランは、海に向かって勢いよく次々とクラケーンの足を投げていた。


「目の前に魚の塩焼きや肉があるのに食べられないなんて、理不尽極まりないですね」


「ーーじゃあさ、冒険者さんたち~、俺とこっちで遊ぶってどうよ。……何だよ、いっぱいプレイヤーが詰まっているのに、つまんねぇなぁ」


「ゴールドを少しづつ……餌のように入口に置けば、出てくるかもしれませんよ」

「金なんか持ってねぇぞ」


「ふふふ、私もです」


 管理人NPCは2人を追い払おうと、諦めずに立ち向かっていた。ガンドルの横腹とブランの腕をドラマーのようにリズミカルに叩いている。


「こいつ全然痛くないけど、うざったいな」

「壊しちゃダメですよ。ーーそうですねぇ……。近くの街へ遊びに行きましょうか」


「そうするか! クイニーに会えるかもしれないしな」


 2人は軽やかに駆け出し、ポセイダス海浜キャンプ場を後にした。管理人NPCは獣王ガンドルと、剣王ブランを追い返したと喜び、威勢よく勝ち鬨(かちどき)を上げると、誇らしげな顔をした。



 ーーキャンペーンボス2体がサーベイの街に向かっている。その連絡を受けた情報ギルドは、すぐさまイリーナとアイノテが街中を走りながら避難を呼びかけた。クイニーと共に街にいたマーチンとレイラはガロンディ崩壊事件の二の舞になるのではと青ざめてる。


「獣王ガンドルと、剣王ブランが暴れたら、この街は……」

「クイニー様、避難誘導の手伝いをしてきます! マーチンさん、行きましょう」


 レイラは叫んでいるイリーナに自分はサブ職の商人スキルでギリギリでも別の街に移動できると言って、避難誘導の手伝いを申しでると、マーチンと共にまだ誘導が完了されていないエリアに向かって走った。


「西門からフィールドに出て移動して下さい! 商店や工房塔には逃げ込まないでください! 」


 大声で叫んでいるマーチンの元に、2人の女性プレイヤーがやってきた。


「あ、あの……ちょっと聞いていいですか? 工房塔には休憩所や情報ギルドがあるし、逃げ込むには良いと思うんですけどーー」


「そこがダメな理由は、()()()()()()()だからです。もしもこの街の建物が崩壊したら、出口が無くなってしまいますーー」


「あっ……。建物内部から永遠に出られなくなるってことですね。でも、クイニー様が街を元に戻してくれたら大丈夫なんでしょう? 」


「完全に全てが元通りになるという保証はないんですよ」


「そ、そうなんですね。い、急いでレンタル騎乗ペット借ります! ありがとうございました! 」


 彼女たちは聞いてよかったねと言いながら門に向かって走っていった。ーーレイラはチョークで石畳に落書きをしている子供NPCを眺めている。


「……マーチンさん、ここのNPCたちは逃げられないんですよね」

「ーーとても心苦しいが、彼らを助ける術がない」


「ガロンディアの噴水公園で、毎日いつも決まった時間に、ハトにエサやりしていた老夫婦がいたんです……。だけど、あの崩壊事件の後、いなくなってしまったんです……」


「レイラ……」

「私の……亡くなった祖父母に、面影が似てて……凄く、好きだったのに……」


 グッと涙を堪えるレイラを、突如ふわりと現れたクイニーが優しく抱きしめた。


「レイラ、今度こそーーわたくしがこの街とNPCたちを守ります」

「クイニー様……」


 クイニーはレイラの涙をハンカチで拭った。


「さぁ、2人ともお逃げなさい。そろそろ、彼らがやってきます」



 獣王ガンドルと剣王ブランは、サーベイの街の東門よりもずっと手前で佇んでいた。触ると弾力があり、体当たりするとボヨンと押し返される境界壁と戯れている。爪で切り裂くことはもちろん、剣も通用しない壁がぐるりと街を包んでいた。


「何だよ……俺らは街に入れない仕様か! ガッカリだ! 」

「キャンプ場に入れなかった時点で、なんとなく予想はしてましたけどねーー」


「タピオカミルクティーが飲みたかったのになぁ」

「その顔でですか? 似合いませんね」


「ケーキセットでもいい」

「それは、私も賛同します。ショートケーキが食べたいですね」


「美女と名高いクイニーに会いたかった……」

「彼女が作る料理はとても美味しいそうですよ。本当に残念ですね」


「あぁ、マジで悔しい! 美味い飯が食いたい! ……ブラン、これからどうする? 」

「ーールルリカに会いにいきましょうか」


 どうやっても街に入れないと悟ったガンドルとブランは精霊王ルルリカがいるシュシュの森を目指すことにした。

システム:楽しく戦えるっていいですよね。


※半数が言い間違えるの半数に入ってました。ありがとうございます! 2022,12,16

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