ハルデンクエストを入手せよ
探索推奨レベル50のダンジョン、コラル海中神殿の入口に情報ギルド調査隊メンバーが集まっていた。その他にも、冒険者ギルドで依頼を受けてきた2チームと、ハルデンからクエストを受けたいというプレイヤーたちがいた。
「こに入れる人数ってーー」
「20人までですね。ヨハンさん、俺が挨拶がてらに数えてきますよ」
「ボーノさん、ついでに、職業と使う武器も聞くといいんじゃないかな。パーティが分裂してるから遠距離が多いと楽ですな~。ってことで、俺がメモりましょう! 」
「アイさん、よろしく。それにしても、コラルに来るのは久々だな」
「いやぁ、その昔、ここでレベあげに明け暮れたのを思い出すね」
「右手前の4人パーティから行こう」
「らじゃりましたぞっ」
アイノテはスマホのメモアプリを立ち上げ、ボーノと共に笑顔で挨拶をした。ーー取材の結果は、ほとんどがシーフ職で、メイン武器の他、遠距離武器を所持しているプレイヤーが思ったよりも多かった。
「キャラクターレベルもカンストが多いし楽勝だな。うちのメンバーにも道中は遠距攻撃をメインに、って言った方がいいな」
「俺は弓だけどーーあれ、ボーノさんって……そういえば、遠距離武器を使ってるの見た事ないな」
「何を言ってるんだ……。俺の種子島愛は日本海溝よりも、深い! ジャジャーン! 」
「それ、マキナさんがよく言ってたセリフじゃないか。しかもその銃、メイドインルードベキアだし! 金持ちめっ…… 」
「はっはっは! なんと、見た目も火力も素晴らしいという、SМG式の特注品! アイさん、これ見てくれよ。ここの部分がさーー」
「あ~、はいはい。ヨハンさ~ん、人数ですけど~」
自慢話が長くなりそうだとふんだアイノテは、そそくさとヨハンの元へ走った。その後ろを慌てたようにボーノがついていくーー。
ヨハンは水辺にある円形の石門でミミックの王ハルデンのがいることを示す宝箱マークを確認していた。彼はボーノとアイノテから人数や道中の戦闘についてを聞くと、これから一緒にダンジョンに入ろうとしているプレイヤーたちに注意を促した。
「情報ギルドのヨハンです。皆さん、よろしくお願いします。ーーここは人魚のウロコが必須なので、スマホから必ず出して身に着けて下さい。それと……ハルデンに会った時ですが、絶対に! 攻撃しないで下さいね」
プレイヤーたちは即座に頷き、緊張した表情でカバンを確認した。ーー調査隊はボーノを先頭にして、順番にダンジョンに足を踏み入れている最中に、パキラは急に不安に駆られ……入口手前でお気に入りの赤い革のカバンを開けた。
「人魚のウロコ、ちゃんと入ってる。さっき見たけど、なんか心配になっちゃうね」
「あ、俺も……もっかい確認してからーー」
スタンピートはあたふたとポケットに手をいれてアイテムを出すと、ほっとした表情をになった。イリーナも心配になったのか、ウエストバッグを覗いている。
このダンジョンは海中にあるため、人魚の結婚式というクエストをクリアしないと手に入らない特殊アイテム、人魚のウロコをカバンかポケットにいれていないと溺れてしまうことで有名だった。
パキラとスタンピート、イリーナの3人はここに来る前に人魚のウロコをゲットし、初めての海中神殿にドキドキしながら、水中にいるような不思議な空間を歩いている。
「まさか、海の中にあるダンジョンに来るなんて思わなかったよ。ワクワクしちゃうね」
「イリーナさん、怖くないんですか? シーフのレベルはまだ低かったですよね」
「うん、大丈夫だよ、パキラちゃん。さっきサブクエクリアでレベルあがったから、いま45! 」
「えっ! もうそんなに? 私はまだメイン職のサムライが40前ですよ……」
レベル上げの速さにびっくりしたスタンピートがイリーナの隣に並んだ。
「イリーナさん、俺よりレベル高いじゃないですかっ。どこで経験値稼いだんですか? 」
「えへへ。ボーノ先生と~、ディスティニーさんが~、めっちゃ頑張ってくれたのですよっ。も、もちろん私も懸命に働きましたけどねっ。……ほんとだよ? えへっ」
「う、羨ましいっす……」
総勢18人のプレイヤーが遠足のように美しいサンゴ礁で彩られる海中エリアを泳ぐようにふわふわと進んでいる。そんな彼らをタコやイカの姿をした海洋モンスターがひっきりなしに襲い掛かった。
スタンピートやパキラはあわあわしていたが、ウィザードや弓を持った猛者プレイヤーたちがあっという間に片づけていった。その光景を目の当たりにした2人は感嘆の声を上げ、あんな風に強くなりたいと目を輝かせた。
神殿の1つ目の部屋に入ると、サメに乗った半魚人10体のと、3体の全長10メートルほどのウツボに似た怪魚がウロウロしていた。
ボーノは道中のような攻撃方法でも良いかと考えたが、怪魚の体力はそこそこあるため、削り切れないと被害が出そうな予感がして思い留まった。
各パーティで各個撃破した場合は、流れ弾が当たったプレイヤー同士が喧嘩をしたり、最悪死んだりして混乱を呼びそうだ。かといって1パーティに任せると経験値やドロップアイテムに関して、もめそうな気がする。
どうするんだろうと注視しているプレイヤーたちに、ボーノはちょっと待って下さいねと言うと、調査隊メンバーを集めた。サラっと作戦を伝え、他のプレイヤーたちの前で大きな声を張り上げる。
「え~、皆さんここのお掃除ですが! わたくしパラディンのボーノがアレらの全てのタゲをとって集めます! そして、ここにいるディスティニーが私にスクロを投げるために途中までついて来ますので、彼が安全地帯に移動したら、攻撃をヨロシクです! 」
ミンミンがヴァイオリンでスピードと防御増加のバフを付与したのを確認したボーノはーーでは行ってきます! と言って軽やかに駆けだし、少し間をおいた後にディスティニーが追いかけていった。
ボーノはパラディンの挑発スキルをばらまいて、エリア内全てのモンスターを集めると、彼らの背中が味方に向くように移動した。大楯で半魚人の槍を防ぎながら範囲挑発を使っている。そんな彼にディスティニーが回復ポーションと対人用プロテクトスクロールを投げた。
弓を構えたアイノテが号令をかけながら怪魚目がけて、スキル爆射を撃った。1本の矢から分散した矢じりがウロコに回転しながら食い込み、次々に爆発していく。デルフィもファイヤボールを次々に放った。
それに倣って他のプレイヤーたちも遠距離攻撃を開始する。ーーいくつもの白い閃光が飛び、種子島の銃声音が響いた。
魔法壁に当たる銃弾と矢の音を聞きながらボーノは大楯を構えていた。ーー彼はこんな大勢で倒す相手じゃなかったなと苦笑いをしている。
アイノテはすべてのモンスターが消滅したことを確認すると大きく両手を振った。
「オッケーでーす! 攻撃を止めて下さ~い! 」
連続攻撃をしていたプレイヤーたちは急に止めることができなくて慌てふためいた。各々、ごめんなさいと叫び、手に汗を握りながらボーノが無事かどうかを食い入るように見ている。
「はい。みなさん、お疲れ様です! 」
想定内だったボーノは気にすることなくプレイヤーたちに手を振った。謝罪していたプレイヤーたちは、その姿にホッと胸をなでおろしている。
敵が消えたエリア中央にぞろぞろと移動している途中、赤髪の男性プレイヤーが手を挙げながらヨハンの元へやってきた。
「あの、すみません。自分、冒険者ギルドでヨハンさんの依頼を受けた者ですがーーこのエリアからの通路は5つありますよね? 各パーティでハルデンを探しに行くってことでしょうか? 」
「そのことですがーー」
「ヨハンさん! お待たせしました。皆さん、よろしくお願いします」
ここを待ち合わせ場所として指定していたカナデがヒョッコリと現れた。いきなり登場した人物にプレイヤーたちがどよめいている。
「カナデさん、こちらこそよろしくお願いします」
「えっと、大丈夫ですかね? 」
ボーノは心配そうなカナデの目線の先にスタスタと移動し、緑の扉を守るように大楯をドンッと地面に刺した。
「いざという時は、私が盾になります」
「ボーノさん……。ありがとうございます」
カナデが開けた扉をからーー頭上にオーディンの人形という名称を表示したルードべキアとぱっと見、プレイヤーにしか見えないリディが現れた。
オーディンの人形の出現にプレイヤーたちはざわめき、おどおどしているリディを怪訝な顔で見ている。さらに彼らを案内しているカナデについても、ヒソヒソ声で話し始めた。
「なんでこんなところにオーディンの人形が? 」
「後ろの人は……? 」
「まさか、あの人がハルデン? 」
「あの猫耳の人って何者? 」
カナデは訝し気なプレイヤーたちのことを特に気にせず、淡々と話を進めた。
「みなさん、よろしくお願いします。クエスト配布のために、ハルデンにお願いして来てもらいました。何度も聞いているかもしれませんが……彼に危害を加えないで下さいね」
プレイヤーたちはヨハンやボーノではなくカナデが仕切っていることを不思議に思ったが、危害を加えないという件についてはダンジョンに入る前からの約束だったため、素直に頷いた。
それでも警戒が解けないボーノは威嚇するかのように……自分の足元に対人用プロテクトスクロールを落としたーー。
信用されていないと感じた赤髪の男性プレイヤーはムッとするどころか、攻撃する無いことを証明するためにーー持っていた杖をスマホに収納して胸の前で両手を開いた。他のプレイヤーも彼の真似をし始めーーその意思表示は伝染するように広がった。
カナデは不安げなリディに、大丈夫だと声をかけた。大楯を構えるボーノに加え、ヨハンや調査隊のメンバーたちはリディを守るように囲っている。
手を広げて戦う意思はないことを示しているプレイヤーたちを見たリディはやっと柔らかい表情になった。
「分かった。カナデいつでもいいぞ」
「では、よろしくお願いします。『ハートの小さな銀の箱』」
合言葉を聞いたリディはミミックの王ハルデンの姿である黄金の宝箱に変身した。フタをパカパカと開け閉めしながら喋り出す。
「やぁ、冒険者諸君、元気かな? 会えて嬉しいぞ! では早速、オイラの依頼を受け取りなっ! 」
宝箱のハルデンは天井近くまで飛ぶと人数分のハートの小箱を吐き出した。そしてポンッと言う音と共に小さな雲の中に消えてしまった。色とりどりの紙吹雪がプレイヤーたちの頭上に降り注ぎ、わぁっという歓声が上がった。
ハルデンはずっと逃げ回っていたせいもあり、滅多に出会えないレアなユニークNPCとなっていた。初見プレイヤーのみならず、ダンジョンにいる全てのプレイヤーたちがハルデンに出会えたことを喜び、嬉しそうな顔をしている。
あっという間の出来事だったが、女性プレイヤーたちは変身した姿が可愛いと興奮気味に喋っていた。さっきまでカナデを不審げに見ていたが、どうでもよくなったようだ。
杞憂に終わったことに安堵したボーノが意気揚々と声を上げる。
「皆さん、ありがとうございます。では、クエストを頑張りましょう! ーーカナデさんも我々と一緒にいくんですよね? 」
「はい、よろしくお願いします。えっと、クエストは……」
銀の小箱を開くとクエストが記載された小窓が出現した。
ーーお腹が空いて泣いている半魚人の子どものために、コラル海中神殿内にある新鮮なウニを3つと、大タコの足を1つ獲ってきて下さい。
「クエ内容って、みんな一緒ですか? 」
調査隊メンバーはそれぞれ、クエストの内容を言い合ったところ、半魚人の子どものためというのは同じだったが、獲って来る物が少しずつ違っていた。
「あっはっは! まさか、微妙に違うなんてビックリだね。じゃあ、エリアを全部、回ろうか」
「ねぇねぇ、ミンミンさんっ。1番左の通路に行ってみようよ! 」
「では、わたくしアイノテが音頭をとらせてーーえっ、ちょっとミンさん、イリーナさん、置いていかないでぇ~」
笑いながら通路へ向かっているミンミンとイリーナを慌てたようにアイノテが追いかけ、他のメンバーたちも移動し始めた。ルードベキアと一緒に行こうと思ったカナデは振り返ったーー。
「バンッ! 」
力強い声を耳にしたカナデの目にクマ型の隷属獣がサラサラと消えていく様子が映った。主力で使っていた隷属獣の頭を、簡単に吹き飛ばされた男性プレイヤーは茫然としている。そんな彼をルードベキアは睨みつけ、右手の人差し指を突き出した。
「なめんなよ。いつまでもカウンタースキルしかないと思ったら大間違いだ! テイマーなら、簡単に倒せると思ったんだろうがーー。考えが甘い! まだやるか? 」
「オーディンの人形、そのぐらいで彼を許してあげて下さい。ーーえっと、僕のハルデンクエストを手伝ってくれませんか? 」
カナデはルードベキアが指を差している男性プレイヤーに目配せをした。それに気が付いた彼は、ごめんなさい! と叫ぶと、左から3番目の通路を目指して走っていった。
「カナデ、指弾を試したいから一緒に行くよ」
ルードベキアは無表情のまま両手を胸の前で交差し、二丁拳銃を持っているようなイメージを思い浮かべながらポーズをとった。
システム:18人でダンジョンとか混雑度が凄すぎるやろ! しかし、構想段階では35人でした。マンモス小学校の遠足かよ! って思ったので修正しましたw
パーティ内ではフレンドリーファイアはありませんが、別パーティ同士だと取り合い&フレンドリーファイアしまくりという。PvPvEってやつですかね。大人数レイド組めるようにすればいいじゃんって考えたりしましたがそれだと、数の暴力でなぎ倒せちゃうのでつまんないですよねぇ……。多少の苦労とか工夫があった方が面白い……たぶん。