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神ノ箱庭  作者: SouForest
NPCになった彼らが羨ましいカ?
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兄と妹の戦い

ーー誤字脱字やその他もろもろを読みにくい箇所を修正しました。きっとまだあるぅ

 マイルームの工房でカナデは何度も制作の失敗を繰り返していた。額から汗が流れ、黒のハイネックシャツの背中は汗でびっしょりになっている。槌を傍らに置いて、首にかけていた手ぬぐいで顔の汗を拭きとった。


「ダメだ……。素材に何かが足りない」


 ビビが小さなしっぽを振りながら、カナデの足にすり寄った。顎の下をこしょこしょと撫でると、子猫は嬉しそうにグルルルと喉を鳴らした。


「工房塔の図書室でこの世界の素材アイテムをすべて調べないとダメかもしれない」


 リビングのソファーに置いていたコートを羽織ると、ガロンティアの街の人気が少な場所へテレポートした。


 カナデはいつの間にか、ポータルを開けることなく街のあちこちへ移動できるようになっていた。息をするようにスキルを発動している。そんなカナデを誇らしく思ったビビは、ポケットの中で嬉しそうな顔をした。


 工房塔2Fある職人ギルドの向かいに専用の図書室があった。エレベーターを降りたカナデが左手にある自動ドアを目指しているとーー職人ギルドエリアから出てきたデルフィと鉢合わせた。


「あれ? カナデさん? ログインして大丈夫なんですか? 」

「え~っと……。実は僕も、帰れなくなってしまったみたいでーー」


 デルフィは言葉が詰まり、悲しそうな目をカナデに向けた。


「なので、ちょっとこの現象についていろいろ調べていまして……」


「そう、なんですね……。俺はマーフさんたちを手伝っているんです。サブ職を商人にしたので、職業訓練所でスキル講習を受けてたんですよ。ーーあの、3Fの301号室にある情報ギルドに、後で顔を出してもらえませんか? 」


「分かりました。後で必ず行くのでマーフさんたちによろしく伝えて下さい」

「ええ、では、また後で! 」


 デルフィと別れたカナデは、片っ端から素材アイテムに関する本を手に取って、すべてのデータを自分の身体にダウンロードしようと試みたが……。終わるまで26時間以上かかると分かり、がっくりと肩を落とした。


「ダウンロードは……ダメだな。回線が細いのかな。それとも本からの出力がーー」

「あるじさま、ビビはいいことを思いつきましたにゃ」


 ポケットに前足を乗せたビビが耳をピクピクさせた。


「どんなことかな? 」


「ミミックの王ハルデンを保護するのですにゃ。ハルデンはこの世界のすべてのアイテムデータを蓄積しているのですにゃ」


「なるほど……。ビビはそういうデータはーー」

「ビビはそういうデータ蓄積はしていないのですにゃ。代わりにーー」


「ビビ、ストップ! その話は別のとこでしよう。お口チャックだよ? 」

「ふにゃっ。わかりましたにゃ」


 ビビはポケットから顔を引っ込めるともぞもぞと足ふみをしてから丸くなった。



 工房塔の3Fにある301号室は、エレベーターから出てすぐだった。壁には防犯カメラ設置され、扉が無い入口の傍に警備員NPCが立っていた。中に入ると目の前にカウンターがあり、受付でディグダムがプレイヤーの話を聞いていた。その隣にいるNPCは彼らの会話をノートパソコンに記録している。


 右奥には、ソファーやテーブル席で、疲れ切ったような表情をしたプレイヤーたち座っていた。誰もしゃべることなく、ぐったりとしている。テーブルに突っ伏して寝ているプレイヤーもいた。


 カウンターの奥でカナデに気が付いたデルフィが手を振った。スタンピートとヨハンが目を見開いている。マーフはさほど驚くこともなく、カナデを休憩室に招き入れた。


「え? ホントにカナデ? ケモミミで黒髪だけど、なんていうか……まるでーー」

「ルードベキアさんみたいですよね」


 ヨハンは淹れたての紅茶をちゃぶ台に置いた。スタンピートは目をゴシゴシと擦っている。


「カナデさん、デルフィさんから話は聞きました。早速なんだけど……。ダンジョンでミミック王ハルデンを探すのを手伝ってもらえませんか? 」


 マーフはノートパソコンの画面をカナデに見せた。


「彼がいるダンジョンの入り口にはヒントらしきマークがあるです。これ見てください。ツタの葉に隠れていてかなり小さいですがーー」


「すみません、マーフさん大変です! 」


 ディグダムが慌てた様子でドアを開けた。


「ガ……ガロンディアに、ヴィータが……笛吹ヴィータが現れたって、いま情報が……プレイヤーを虐殺してーーゲホッゲホッ」


「ディグダムさん、大丈夫ですかっ! ヨハン、手を貸して! 」


 マーフとヨハンは身体が震えているディグダムを支えた。カナデはすぐに立ち上がったーー。


「マーフさん、ガロンディアに行ってきます」

「俺も一緒に行きます」


 デルフィは部屋から出ていくカナデの後に続いた。スタンピートはオロオロしながらも靴を履いている。


「お、俺もガロンディアにーー」


「ピートさんは、ディグダムさんの代わりに受付で対応をお願いします。ヨハンはディグダムさんをーー 」


「マーフさんすみません、俺もガロンディアに行ってきます」



 タルルテライの街でにこやかにクエストを配布していたクイニーが突然、立ち止まった。いままで見たことがない険しい表情をした彼女にマーチンが驚いている。クイニーはにっこりと微笑むと、集まっていたプレイヤーたちに優雅にお辞儀をした。


「わたくしはガロンディアの街を暴漢から救わねばなりません。また後程、お会いしましょう」


 そう言うと、レースの日傘をパンッと開いた。クイニーは煙が消えるようにフェードアウトしてマーチンの目の前から消えた。


「ガロンディアに行くぞ! 」


 マーチンは叫ぶと同時に商人の移動スキルを使って移動した。女性プレイヤーと2人の男性プレイヤーも同じように続いた。



 笛吹きヴィータはガロンディアの街の市場エリアで目につくものすべてを破壊していた。NPCを捕まえ腕を引きちぎっている。そんな彼の前に討伐パーティを組んだレベル50のプレイヤーたちが立ちふさがった。楽しい遊び相手が来たことにヴィータは喜んだ。


「やぁ、初めまして冒険者さん。私のクエストを楽しんでくれているかな? あはははは!」


「これが、クエストだっていうのか! 」

「藁に掴まっている子豚ちゃんたち、さぁ、おいで……。遊んであげよう」


 パラディンが石畳に大楯をガツンと立てて、パーティメンバーの防御をあげるスキルを発動した。さらにバードがヴァイオリンを弾いて攻撃力とスピードの底上げする。ウィザードが魔術書を開き、最大火力がでるスキルを使うためにヴィータを凝視した。


「行くぞ! 」


 挑発スキルをヴィータにぶつけたパラディンが、盾乱舞でスタンをかけようと先頭を切って突進した。その後ろからダガーをかまえたシーフが走り出し、弓に持ち替えたバードが掃射を撃った。


 ヴィータは彼らを見据えながら首をかしげる。ーーパリンという音が市場エリアに響いた。


「え? 盾が……」

「そんな、ぶ、武器がーー」


 彼らが身に着けていた防具や武器はすべて粉々に砕けてしまった。ヴィータは楽しそうにニヤニヤと笑って手を広げた。


「縋っていた藁はあっと言う間に吹き飛んでしまいましたとさ。はははははは! さぁ、どうやって子豚ちゃんたちを食べようかなーー。そうだなぁ。果物狩りは飽きちゃったから……普通にソテーにするか」


 ヴィータは炎がエンチャントされた両手剣を出した。それを見たパラディンが、逃げろと叫んだが、ウィザードの女性プレイヤーはへなへなと座り込んで動けない。バードの女性が彼女を背負って逃げようとしている。


「ぎゃああ! 」


 シーフの男性がヴィータに捕まり燃やされている。パラディンが彼を助けようとサブ武器として持っていたもう1つのメイスで殴り掛かった。ヴィータはシーフから両手剣を抜くと、笑いながら向かってきた獲物の胸に手に持っていた両手剣ではなく、手刀を突き刺した。


「やっぱり、この方が楽しいな」


 女性プレイヤーたちが悲鳴をあげた。ーー殺される……。死んでもデスペナはないし、デスリターンするだけだけど、こんなの嫌だ。怖い……怖いよ。彼女たちに恐怖が波のように押し寄せている。


「だ、誰か助けて、クイニーさま、助けて……」


 泣き崩れながら叫んだ彼女たちに人影が落ちた。バードの女性プレイヤーが顔を上げると大きな羽付き帽子をかぶった女性の背中が見えた。クイニーが助けに来てくれたことが分かり喜んだのもつかの間、腰が抜けて動けない。


 レースの扇を口元にあてたクイニーの目は怒りに満ちていた。彼女たちを守るためにヴィータを睨みつけて牽制している。


「早くお逃げなさい」

「それが……。た、立てないんです……」


 クイニーを追いかけてきたパラディンのマーチンは大楯を石畳にドンと突き刺し、ステータスを上げるスキルを次々と使い始めた。


「体力、防御、スピード、攻撃、回避、耐性……」


 ルッコラとカイリは、恐怖で腰が抜けて泣きじゃくる女性プレイヤーを担ぎ、安全圏を目指して走っていく。サムライのレイラはクイニーの隣でスナイパーライフル式種子島を構えた。


 クイニーはレースの扇で優雅に舞っていた。彼女は傍らにいるマーチンとレイラ、そして自身にプロテクトの魔法が降り注いだことを確認すると、指を鳴らして木製のおもちゃのような容姿をしたシェフたちを召喚した。


「クイニー様ありがとうございます。レイラ、行くぞ」

「はいっ」


 シェフたちは瞬時に空中を飛び、大きな鉈をヴィータの身体に叩きつけた。マーチンは無数の聖属性のハンマーを召喚して、ありとあらゆる角度から殴りつけ応戦してる。クイニーの傍にいるレイラは、スナイパーライフル式種子島でヴィータの額目がけて弾丸を連射した。


「メイドインルードベキアの威力を食らえ! 」


 マーチンは立て続けにパラディンの最大火力が出せるスキルを使った。ヴィータは天から落ちてくる巨大な剣に頭から貫かれた。レイラも息つく暇もなく弾丸を打ち込んでいる。クイニーのシェフたちは鉈をリズミカルに振り続けた。


「あははは! 君たちはなかなか面白いね。楽しませてくれてありがとう」


 ヴィータは笑顔で帽子を取り深々とお辞儀をすると……無表情のまま息を大きく吸ってーー吐いた。たったそれだけで、マーチンたちは声を出す暇もなく粉々なり、クイニーのシェフたちと左右にあった建物が破壊されて崩れた。


「なんてこと……」


 クイニーは口元を隠していたレースの扇をはずして怒りをあらわにした。


「お兄様は、わたくしを挑発なさっているのかしら? 」


 ヴィータは何も答えない代わりに指を2回鳴らした……。ふいに彼の戦闘テリトリーは街全体にギュンと音を立てて広がり、人の影のような物が地面から這い出てきた。ゆらゆらと歩きながらプレイヤーに近づいている。


 カナデを追いかけてガロンディアの街に到着していたデルフィがその影に向かってファイヤーボールを撃った。しかし攻撃が当たった感触が無い。ヨハンはその隣で写真を撮っていたが、攻撃が効いていないことに顔面蒼白になった。


「攻撃が通らないなんて……ヨハンさん、これかなりヤバイですね」

「デルフィさん、逃げましょう! 」


「きゃあああ! 誰か、助けて! 」


 人影に腕を掴まれた青髪の女性プレイヤーが叫んだ。その腕は青紫色に変色し、ボロボロと崩れ始めている。戦闘テリトリーから出ようとしたプレイヤーたちは、境界線にある壁にぶつかって跳ね返った。


「う、嘘だろ、出られない……」

「ーーた、助けて」


 影たちはゆっくりとプレイヤーたちに近づいている。カナデはみんなを逃がすためにヴィータのテリトリー壁を壊そうとしていた。


「くっ……なんでこんなに何重にも壁があるんだ! ーー1枚壊しても、次を壊そうとしている間に修復されてしまうーー」


「ふにゃぁ、ビビよりも演算が速いにゃん」


 女性プレイヤーの甲高い悲鳴が聞こえた。振り返るとユラユラと揺れる青黒い人の形をした影が、ユラユラと揺れながらカナデたちに近づいていた。慌ててビビをポケットにしまうと、カナデはテリトリー壁に沿って一時退避をするために走った。



「あははっ。妹よ! 楽しいねぇ。すべて感染で消えてもらうよーー」

「お兄様、数々の暴虐、絶対に許しませんわよ」


 クイニーは右手のひらを上に向けてヴィータのテリトリー内にいるプレイヤーを捉えようと集中していた。そして……彼女は何かを掴むように握った。


 プレイヤーたちはヴィータの戦闘テリトリー外であるフィールドに一瞬で飛ばされた。身体が崩れていたプレイヤーたちはシュウウという修復音と同時に治っていく。デルフィのボロボロになっていた足も元に戻り、ヨハンは腕が治る音を聞きながらカナデの姿を探した。


「カナデさんは? 」

「ヨハンさん! デルフィさん! 」


 カナデはプレイヤーたちと同じようにガロンディアの街の外へ飛ばされていた。すぐに街へ戻ろうとしたが、ヨハンに腕を掴まれた。


「ダメです! あれは……あれは、化け物です」


 カナデはハッとして周囲を見渡した。すすり泣いてる女性プレイヤーや、顔面蒼白で座り込んでいるプレイヤーが見える。ヨハンとデルフィの手は震えていた。



 プレイヤーたちが安全圏に移動したことが分かったクイニーは、スキル最後の晩餐を使おうと扇を宙に投げた。しかし発動しなかった。


「そう、NPC相手には発動しないのね」


 クイニーは自分の前に、火の輪を召喚した。それは勢いよく回転しながら、火球をヴィータに向かって次々と撃ち込んだ。ドンドンドンという音が周囲に響いている最中に火の輪の中心に手をいれて追い打ちをかけるように大きな氷塊を放った。


 氷塊はヴィータの身体全体を押し潰すかのように正面から当たり、ドカーンという激しい爆音を轟かせた。だが砕け散る氷の向こうでヴィータは笑っていた。


「こんなものなのか? 妹よ」

「何ですって? 」


 ヴィータは涼しい顔でコートをパンパンと掃いーーゆっくりとクイニーに近づいていく。クイニーは手を2回叩いて、彼女の背丈の2倍ほどの大きさの衛兵人形が5体出現させた。彼らはサーベルでヴィータに切りかかる。


 ハエを払うように、ヴィータが右手を1回振ると、クイニーの衛兵たちはガラガラと音をたてて崩れていった。


「子ども騙しだな」


 クイニーは唇を噛んだ。ーーこんなの、規格外すぎるわ。いくらキングを守るキャラとはいえ……。


 ヴィータは石畳を蹴ってクイニーに突進し、素早く彼女の首に右腕をかけて締め上げた。クイニーは彼の腕に爪を立てて食い込ませる。ヴィータは笑いながら左手で帽子を取りーー自分の口元とクイニーの耳がどこからも見えないように隠すーー。


「クイニー、人形を探してくれ」


 そう囁いたヴィータは爪を立てられた腕を、苦しそうな表情で押さえながらクイニーから離れーー狂ったように怒号をあげながら上空へジャンプすると……黒い炎を纏う流星群を戦闘テリトリー内に落とした。


 クイニーは急いで街全体にプロテクトをかけたが簡単に破られ防ぐことができない。すべてを破壊つくしたヴィータはトランクケースを開けた。吹き出る黒い霧に溶け込み……笑いながら去っていった。


 黒い霧が晴れたガロンディアの街は以前の面影とは程遠く、何もない瓦礫のエリアになっていた。フィールドで固唾を呑んで見守っていたプレイヤーたちは唖然とした。


 家屋の残骸の中でーークイニーは閉じた扇子をぎゅっと握りしめて立っていた。涙がこぼれないように必死に我慢しながらは空を仰いでいる。


 ーー悔しい。兄妹でこんなに差があるなんて……。何1つ敵わないなんて……。


 クイニーはおもむろに天に祈りをささげるように両手を挙げた。ガロンディアの街が彼女のスキルによって時間が巻き戻るようにゆっくりと修繕されていく。フィールドで驚きが混じったクイニーを称える歓声があがった。


 カナデはクイニーに自分と似たようなビルドスキルがあることに驚きが隠せず、食い入るように見ている。ヨハンは動画に残そうとして慌ててドローンを出し、デルフィーは、すべてが修繕し終わるまでの様子を撮影している。


 ……心に刺さった疑問をクイニーは繰り返し考えている。


「どうして、あの人形が必要なの?  」



システム:なぜヴィータは人形を欲しているのか……。童話オーディン王の人形物語が深く関わっています。第34話の運命の昼下がりの人形劇で途中まで明らかになっています……。



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