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神ノ箱庭  作者: SouForest
第4部~ふたりの王~これは私の物語
139/166

私が主役(上)

システム:レイラと幼子になったルルリカのラクガキ挿絵追加。20231112

 パキラは朝からすこぶる機嫌が良かった。蚊帳の外だった自分が中心になって物事が動いていると実感したからだ。連続クエスト攻略会議では茶菓子付きのVIP席を用意されーーパキラが少し愚痴ったからなのだがーー、外出時はアイノテとミンミンが常にボディガードのようにパキラに付き添った。


 ルードベキアが『邪魔が入るかもしれない』と言った言葉を重く見ているようだった。レイド進行中、カンストしていないプレイヤーはお呼びじゃないという雰囲気だったボーノもパキラを姫プレイ扱いしている。


 さらにパキラの装備を整えるために情報ギルド団長のマーフが自らが動いた。


 防具は頭からつま先まで、銀の獅子商会が名匠認定した鍛冶職人リアムノバが製作することになった。耐性値とステータスをアップするアクセサリー類についてはーー。


 つい先ほどから……ディグダムに依頼された鍛冶師オリビアが、大きなカバン3つに入ったアクセサリーをデーンデデンと会議室で広げている。彼女はアクセサリー製作を得意とする職人職のプレイヤーで人気が高い。パキラは美しい宝石が付いたアクセサリー類を手に取って目を輝かせた。


「す、すごい……。メイドインオリビアのアクセを、こんなにたくさん見たのは初めてですっ! 」


「好きなものを、ぎょうさんえらんでや! 」


 ところが、オリビアの説明を聞きながらじっくり選ぼうとするパキラを差し置いて、ボーノがささっとチョイスしてしまった。好みとかけはなれた物を渡されたパキラは愕然とした。


「ボーノさん……。これ、あんまり可愛くないんですけど……」

「見た目よりも機能重視だよ。今回は闇と恐怖耐性をあげないといけないしーー」


「えっ。えええ~っ!? そんなぁ……」


 パキラは到底納得がいかず、不満を訴えるようにふくれっ面をしたのだがーー。スタンピートの顔を見た途端にーーしおらしくボーノに御礼を言った。『代金はすべて職人ギルド持ちだということを忘れるな』と言わんばかりの視線をスタンピートがパキラに飛ばしていたからだ。


「ーーそんなに怖い顔しなくてもいいじゃない」

「最近のパキラは、何をしでかすか分かんないからな」


「何それピート、酷くない? 」

「でなきゃ、カナデが俺にパキラの御目付け役を頼むわけないじゃん」


「はぁ!? サポート役でしょ! ってかカナデは? 」

「カナデは俺らと違って、いろいろ忙しいんだよ」


「え~……。あっ、もしかして私のために日本刀を作ってるのかな!? やだぁカナデったらっ、サプライズ狙い? ピート、私が気付いちゃったこと、内緒にしててねっ。うふふぅ」


 ポジティブモンスター再び現る! 


 ドスンドスンと街を破壊する肉食恐竜パキラを想像したスタンピートは呆れるを通り越して、なんだかパキラが哀れに思えた。どうしてこんなに前向きなれるのか不思議でたまらない。そんな事を考えていると……鍛冶師オリビアと入れ替わりにマーフが会議室に入って来た。


 マーフは柔らかく微笑みながら、一振りの日本刀をテーブルにそっと置いた。


「パキラさん、これを使ってください。連続クエストで行く『フレデリカが眠る城』はゴーストや人狼が出現するので、この日本刀が役に立つと思います」


「こ、これって……武器スキルが2つあるっていう『須佐之男』!? ほ、本当に貰っていいんですか? 」


「ランクが低いもので申し訳ないのですが……。パキラさんのレベルは成長途中なのでーー」


「あ、ランク2だ。なんだ残念」


「パキラ……何て言い草だよ。それランク1でもスキルが発動しちゃう優れもんだぞ。そのことをこの俺でも知ってるぐらい、有名な刀じゃないか。ちゃんとお礼を言えって! 」


 スタンピートに何度も肘で小突かれたパキラは軽く組んだ両手を胸元に置いて、背の高いマーフを見上げた。申し訳なさそうな表情を浮かべてはいるが脳内ではーーミニミニパキラがスタンピートに見立てたかかしをポカポカ殴っている。


「ごめんなさいマーフさん。最近、心の声が漏れやすくて……。この日本刀、ありがたく使わさせて頂きます! 装備が整い次第、マーフさんの分も大活躍してきますねっ」


 苦笑するマーフに何度も謝罪するスタンピートに耳を引っ張られながら、パキラは帰属解除された日本刀『須佐之男』を腕に抱えて、会議室を後にした。



「ピート……カナデからメッセージがこないんだけど」

「忙しいんだろ? 察してやれよ」


「朝から何度も送ってるのに……。ひと言ぐらい返事くれもいいじゃん」

「何度もって……。そういうの止めないと、そろそろフレ切られっぞ」


「カナデはそんなことしないもんっ」

「パキラ、いい加減に諦めろって。カナデはオーディンの人形のことをーー」


「あ~あ~聞こえな~い」


 パキラは両手で耳を塞いで小言をねちねちと喋るスタンピートを見ないように目を閉じた。そんなはずは無い! 懸命に否定したが……オーディンの人形に笑顔を振りまくカナデが脳裏に浮かんでしまう。パキラはそれをかき消すように頭をふるふると横に振った。


「ところでさ、アーチボルトさんたち、情報ギルドに全然こないね。連続クエストに絶対、参加すると思ってたのにさーー」


 レイド戦に参加したアーチボルトが率いるチーム『グリフォンの牙』は連続クエスト不参加表明を早々に出していた。あんなにユグドラシル奪取に力を入れていたというのにどういうことなのか、パキラにはさっぱり分からなかった。


 小耳に挟んだ話では、剣王ブランと行動を共にしているらしいが……。ボーノやマーフが何も言わないところを見ると、単なる酒場の噂なのかもしれない。


「そう言えば、あの人たち……シュシュの森から帰るとき、感じ悪かったなぁ」

「……そりゃあね。パキラが作戦妨害したようなもんだし」


「うわ、何それ……。アイテムがドロップしたら普通に手が出るでしょ? 」


 レイドパーティ解散時、パキラはアーチボルトたちから冷たい視線を向けられていた。そのことを思い出すと、何とも腑に落ちない気持ちになる。理由を考えるのが面倒になったパキラは代わりにーー連続クエスト『ミミックの王の願いを叶えて、生命の水と育みの土を手に入れろ』を颯爽とクリアする自分を思い描いた。


「準備が整うまでダンジョンに行けないんだよねぇ……。何もしないで待ってなきゃいけないなんてもどかしいなぁ」


「レベル上げすればいいんじゃないか? フレデリカが眠る城って、推奨レベル50だろ? 」


「うんうん。明日、ボーノさんがパワーレベリングしてくれることになってる。それでね、イリーナさんが物資支援に来てーー。あれ? ちょっと思い出したんだけど……。サポートするって豪語したオーディンの人形は何してんの? 」


「ええっ!? 」


「ブランやルルリカはどうでもいいけど、ガンドルさまは? なんで姿を見せてくれないんだろ……」


「おいおいおい……。パキラはもう忘れたっていうのかよ! あの時のことを思い出すと、俺は胸が痛くなるのに……あんまりじゃないか? ってか、獣王ガンドルだけ『さま』付け? 」


 精霊王ルルリカはディスティニーの目の前で幼い子どもに変化し、彼女が助けたはずのオーディンの人形は未だに行方知らずだった。想定外の出来事であったことは、ステンピートでさえすぐに察したというのに……。パキラは腕組みをして首を傾げている。


 その態度にカチンときたのか、スタンピートは口元を引くつかせた。


「……パキラ、じっくり話そうか」

「ええ~? 今日はオフ日だから、だらだらしたいのよねぇ。また今度っ」


 パキラは足早に立ち去ろうしたが、スタンピートがそれを許さなかった。『正座しろ! 』とはさすがに言わなかったが、パキラは有無を言わさず無人となった会議室に連行された。

 


 シュシュの森が消え去ったあの時、砂だらけのフィールドで剣王ブランはオーディンの人形を抱きしめながら泣いていた。それを思い出すと、今でも胸が締め付けられる。その後オーディンの人形は精霊ルルリカの全身全霊を込めた回復魔法で修復されたが、いつの間にか……いなくなっていた。


 カナデは違和感を覚えつつも……『瞬間移動ができるルードベキアのことだから、一足早くリディの元へ行ったに違いない』と考えた。さっきまで涙を零していたブランが涼やかな顔をしていたからだ。スタンピートもカナデと同様にすっかり安心しきっていた。後に、それは大間違いだったと気付くまでは……。



 幼児に変化した精霊王ルルリカがどうなったかというとーー。眠りから覚めた彼女は抱き寄せようと両手を広げたディスティニーを嫌がり、ガンドルにしがみついていた。記憶が無くなってしまったのだろうか……。辺りを不思議そうにキョロキョロと見回して、怯えた表情を浮かべている。


「ん~……ディスティニー、悪りぃんだけどよ。いまはそっとしておいてやってくれないか? きっとルルリカは混乱してるんだよ」


「はい……。ではせめて彼女の服を、用意させてくれませんか? 」

「あ、裸ん坊だったな。でもよ、幼児服なんてあるん? 」


「そこは萬屋商会副団長である(わたくし)、イリーナにお任せ下さい! 」


 イリーナはパッとメジャーを取り出し、キョトンとするルルリカの寸法を測り出した。カナデに特注したお気に入りの万年筆で、ヨハンからもらったリングメモ帳にサラサラと数字を書いている。


「ふむふむなるほど……。ルルさまは特大らいなたん人形とほぼ同じサイズですね。では、ぜひコレをっ! 」


 数分後……ルルリカはディスティニーが用意した姫系衣装に目もくれず、ふわふわ起毛のクマちゃんロンパースを身に着けた。その愛らしい姿にすっかり心を奪われた女性陣はルルリカを抱っこする順番を決めるためにじゃんけん大会を始め、勝者レイナが縫いぐるみのような姿のルルリカを満面の笑みで抱きしめた。


「超、超、超絶可愛いっ。あぁ……胸がキュンキュン弾んでますっ」


「オーディンの人形の幼児バージョンだよねっ。レイラ狙撃兵と同様に、わたくしイリーナもキュン死しそうであります! 」


 フニャフニャ顔のイリーナの隣で、同じくフニャフニャ顔のベガが感嘆の溜息を漏らした。人差し指でルルリカの頬をぷにゅっぷにゅっと触っている。


「頬っぺた柔らか~い。こんな子どもが欲しいって、本気で思ってる自分がいるわ」

「ベガの気持ち分かる~。このゲームって幼児キャラいないから新鮮だよね」


「アイシャちゃん、ショコラダンジョンのキューピッドは? 」


「いやいや確かに幼児体形だけどさ。まったくもって……ぜん、ぜん可愛くないからっ。アウトオブ眼中だよ、エンリちゃん! 」


「ふたりとも、そんなに大きな声出しちゃ駄目よ。ルルさまがびっくりしているわ。ーールルさま、鮫ちゃん縫いぐるみをどうぞ」


 破顔するレイラから縫いぐるみを受け取ったルルリカは鮫の尻尾を掴んでぶんぶんと振り回し、さらに彼女たちの幸福感を刺激した。


挿絵(By みてみん)


「おやおや、随分と楽しそうですね。クマの着ぐるみが良く似合ってますよ、ルルリカ」

「ぶらんっ。ん~っ! 」


 レイラの腕の中から両手を伸ばしたルルリカをブランは壊れ物を扱うように抱えた。幼いルルリカの身体からは祈力も魔法も感じない。しかし頭を覆うフードに隠された神王の紋様が有無を言わさず、ブランを敬畏(けいい)させた。


 この世の理を揺るがす存在の誕生……。本来は喜ぶべきなのだろうが、ブランの表情は晴やかとは遠かった。そしてディスティニーも少し離れた場所で辛そうにルルリカを見つめているーー。ブランはそんな彼を一瞥することなく、胸にしがみつくルルリカの柔らかい髪の毛をそっと撫でた。


「そろそろ、我々モンスターNPCはお暇させて頂きましょう」


「そだな~。もうやること無いしなっ。ブラン、この後はカナデさまのマイルームでパーティすんだろ? 俺ちゃんてば、指折り数えて楽しみにしてたんだよね~。旧友ハルデンに……やぁっと、会えるぅ! ひゃっふぅ! 」


「……楽しみにしてたのはハルデンの料理じゃ? 」

「ち、違わいっ。ミミックの王ハルデンは俺の良き好敵手(ライバル)でーー」


「待ってください! 」


 ディスティニーはガンドルの会話を遮るほどの大声を上げたかと思うと、慌てたようにブランの右腕を掴んだ。


「ブランさん、俺にルルを任せてもらえませんか! 」

「……ほう。ルルリカに怯え泣かれたというのに? 」


「今は混乱しているだけだと思うんです。ずっと傍にいればきっとまたーー」

「随分と食い下がりますね。ルルリカどうします? 」


 ディスティニーをちらりと見た小さなルルリカは、すぐさまブランのジャケットにしがみついた。


「やぁああっ! 」


「だそうです。残念でしたね。この子はもう貴方が知っているルルリカではありません。お帰り下さい」


「それでも……お願いです。俺に彼女を守らせて下さい」

「ディスティニーさん……。単なるプレイヤーの貴方に出来ることはありませんよ」


 冷ややかに言うブランの身体から青白い冷気が立ち昇っている。静かな警告を感じ取ったディスティニーは初めて出会った時のキャンペーンボス剣王ブランを思い出して青ざめた。恐怖という鋭い爪に胸をえぐられる感覚に陥り、無様にも足が震え……声を出すどころか、一歩もその場から動くことができない。



「ブラン、ルルの彼ピに意地悪するなよ」


 ガンドルはポンっと軽くブランの腕を拳で叩いた。明るい笑顔を見せてじわじわとブランから流れて来る冷たいオーラを押し返している。以前のガンドルならディスティニーのことなど気にも留めなかった。だが今は、僅かな時間でも共に戦ったことで仲間としての親近感を覚え、力になりたいという気持ちが芽生えていた。


「こんなにルルの事を想ってるのに可哀そうじゃん。ーーそれにさ、なんだか親権を取り合う夫婦みたいだぞ? 」


「獣王のくせに随分とお優しいことで。しかしながら、親権はこちらにあるということで話は終わりです」


「待った! 夫側の面会の権利を主張する! 」

「……後日、弁護士を通して連絡させて頂きます」


「だってよ! 良かったなディスティニー」


 ニカッと笑ったガンドルは呆気にとられたディスティニーの首に腕を回すと、気の置けない友人のようにグイッと引き寄せ、『俺はお前らを応援してるから』と囁いた。凡そキャンペーンボスらしからぬ言動に、ディスティニーは驚きと同時に、胸が熱くなるのを感じたーー。


「ガンドルさん、お願いがあるんですが……。この箱をルルに渡してもらえませんか? 以前、彼女に頼まれていたものなんです……」


「お? いいぞ~。俺ちゃん郵便にバッチリ任せろっ」


 ガンドルは赤いリボンがついたピンクのプレゼントボックスを、枝葉から落ちた鳥のヒナを保護するように……そっと両手で包み込んだ。

システム:第4部がスタートしました! ユグドラシル・テラリウムを手にしたパキラが情報ギルドのメンバーと共に、ハルデンやブランといったモンスターNPCの連続クエストで奮闘します。うっかりというか、ほぼ確信犯的にパキラはクエストアイテムを拾っちゃいましたからねぇ。どんなに辛いことがあっても、頑張ってもらいましょう!


 今回はUPに合わせてラクガキ挿絵を追加しました。レイラのイメージです!! 推定身長170cm……でっかいので、幼子ルルリカがさらに小さく見えるぅぅ。という設定です。いやぁ、ちっさい子はええね。かわええね。


 それにしても、銃器を描くのはオラにはムリゲーだった……。練習しますです、はい。

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