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神ノ箱庭  作者: SouForest
黒い彼岸花
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油断してると痛い目に合うぞ

システム:ラクガキ挿絵を追加。※服装はテキトーです。20230125

 茶葉イタチの村でパキラとスタンピートが脱出クエストを受けている頃、盗人の森で獲物を探していた茶葉イタチ三人衆はプレイヤーとは違う危険な香りがすることに気が付いた。


 文吉が鼻を動かしながら眉間にしわを寄せている。


「森がざわめいている匂いがするな」

「あぁ、俺も感じる。いままで嗅いだことがない匂いだ」


 三郎はそう言うと、さっきプレイヤーから盗んだグレネードを背中に背負っている袋に入れた。権左は頭にかぶっていた手ぬぐいを外して、耳をピクピクと動かしている。


「段々と近づいてる音がする。文吉、今日は終いにして村に引き返すか? 」 


「いや、この森にいるモンスターでないことは確実だし、プレイヤーじゃねぇなら、確認した方がいいだろう。取り合えず、いつものようにやるぞ。危険な奴だったらすぐに逃げよう」


 文吉はすぐさま茂みに身を潜め、権左は岩と岩の隙間に入り込んだ。背負っている袋が邪魔で狭い場所に隠れられない三郎は鉤付きロープを使って木に登った。彼らは声を押し殺し、聞こえてくる足音に耳を傾けている。



長閑(のどか)すぎる」

「いいじゃないですか、ガンドルさん。遠足みたいで楽しいと思いません? 」


「ブラン……俺の頭の中で、鯛が靴を履いてる! 」


 ガンドルはグーにした両手を枝葉から見える空に向かって突き上げた。ルードベキアはおめめぱっちりの鯛が、いそいそと玄関で靴を履いている姿を想像して笑っている。


「ガンドル、ここは盗人の森だから、油断してると痛い目に合うぞ」


「ルーちゃん、俺は何にも持ってないから盗まれなーーおっとぉ、木の実があったヨ! てへぺろりん」


 ガンドルは下をペロリと出しながら、お道化たように右手を頭にポンと乗せた。


「……ガンドルさん、大事な木の実を盗まれても知りませんよ。ーー盗むと言えば『黄金の砂時計を奪え』という配布クエストを持ってるんですけど、これプレイヤーに配らないといけないんですかね? 」


「え? ブラン、何でキャンボスなのに配布クエストがあるんだ? 」


「さぁ? どうしてでしょうね。運営さんが考えることは、難しくてわかりません」


 ガサガサッガサガサッ。


 3人はふいに聞こえてきた葉擦れ音に警戒して立ち止まった。茂みに目を向けると……オーディンの人形であるルードベキアよりも少し背丈が低いイタチが、ヨロヨロしながら後ろ足だけで立っていた。具合が悪そうな顔で少しうなだれているーー。


「わお、抱き枕サイズのもふもふじゃん! 」

「茶葉イタチですね」


 その場に立ち止まったブランは目を細めて警戒している……。茶葉イタチは左腕を抑えてふらふらと歩いていたが、急にぐらりと前のめりになった。ガンドルは慌てて駆け寄り、倒れるもふもふを助けるために両手を伸ばした。


「あ、ガンドルさん。気をつけて」

「えっ? 」


 ヨロけていた茶葉イタチはガンドルの大きな手を身体を捻ってすり抜けーーふらふらしながら見つけた獲物に向かって小さな手を伸ばした。ガンドルのポケットから少しはみ出ていた小袋はサッと盗られ、茶葉イタチと共に茂みに消え去った。


「あー! あいつ、俺の木の実を! 」

「だからさっき、僕が『油断したらダメだ』って言ったじゃないか」


「ルーチャン、マジカヨ……。木の実は作れるけど、なんか悔しい! 」


 ガンドルはすぐにしゃがんで地面に両手を押し付けた。スキルを使って茶葉イタチが逃げた方向を重点的に探索している。


「……見つけたぞ。ブラン、ルー、ちょっと鬼ごっこしてくるから、ここにいてくれ」


 ガンドルは悪役(ヒール)っぽい笑みを浮かべながら戦闘テリトリーを展開した。スキル獣王の叫びを使ってスピードとパワーを上げると、刃物のような切れ味の爪で茂みを引き裂きーー走り出した。



「あらら、ガンドルさんは本気になっちゃったみたいですね。お茶でも飲みながら待ちましょうかーー」


 ブランはステッキをティーテーブルセットに変えると、ガンドルが向かった方向をじっと見ているルードベキアを白い椅子に座らせた。丸いティーポットとカップは主人の指示通りにお茶の準備を始めている。


 お茶を待っているルードベキアがゴシゴシと目を擦り続ける様子にブランの表情が曇った。少女の手を取って右目を確かめるとまぶたが少し腫れていた。


「ルー、義眼の調子が悪いんですか? 」


「大丈夫、ちょっと痒いだけだから……」

「あまり使いすぎない方がいいですよ。今さっき、ガンドルさんの動きを追ってましたね? 」


「サイバーアニメみたいにズーミングと探索ができるようにしたから、つい面白くてさ。壊れたら、写真機能付きにグレードアップしようかな、いやパソみたいに……」


「目が痒くなるなら、ほどほどのした方がいいですよ」


 ルードベキアはーーうんうんと返事をしつつも、様々な機能を組み込んだ義眼の空想に浸っていた。何か良いアイデアを思い付いたのかーーふふふと笑っている。


「あ、お茶が冷めないうちに頂こうかな。これはセイロン? 」

「アッサムティーですよ。おっと、ルー、まだです」


 ブランは特に呪文を唱えたり、指を鳴らすようなこともせず、自然にゆったりと椅子に座っていた。お預けをくらったルードベキアが不思議そうに首をかしげて待っていると……パタパタと飛んできた羽ウサギが常温のミルクを紅茶に注いだ。


「お、ミルクティーだ! ブラン、砂糖をーー」

「1つですよね? 」


 パァと明るい笑顔になった少女のために、ブランは薔薇の形に固めた砂糖をティーカップに静かに落とした。ルードベキアは嬉しそうに蝶の透かし彫りが柄にある純銀のスプーンで、くるくるとミルクティーに円を描いている。


「なぁ、ブラン。茶葉イタチってさ、結構すばしっこいから、取り返すのは至難の業だと思うんだけどーー」


「ガンドルさんもスピードは負けてないはずですよ。ただ……夢中になりすぎて、彼らを壊してしまう可能性が無きにしも非ずですね」


「うぐっ……茶葉イタチと仲良くなりたいから、傷つけないで欲しいな……」


 ルードベキアはティーカップをそっと持ち上げると、ほんのり甘いミルクティーひと口飲んだ。茶葉イタチが心配でしょんぼりとしていたが、すぐに幸せそうな表情に変わった。


「ブランが用意するお茶はどれも美味しい」

「それは光栄です。欲を言えば茶菓子が出せるようになりたいですね」


 リディに食いしん坊将軍と言われるのも頷けるぐらい、ルードべキアは食べたいものを楽しそうにアレコレ語っている。ブランはコロコロと表情を変える少女を微笑ましく思いながら眺めていた。


挿絵(By みてみん)


 ガンドルはというと……夢中になって木の実泥棒を追いかけていた。いつの間にか増えた茶葉イタチに翻弄されながらも、鬼ごっこを楽しむ余裕がまだあるようだった。


「うひひ、もふ撫での刑にしちゃるっ」

「ひゃあっ」


 首根っこを捕まえられた文吉は観念したように身体をだらーんと脱力させている。だが、ガンドルがほわんとした顔になった途端に、身体をぐねぐねとくねらせて暴れ始めた。


「わわわ、おいおいどうした。食ったりしねぇから、ちょっ大人しくーー」


 今だと言わんばかりに、文吉がプレイヤーから奪った閃光弾を投げつけた。すかさず、権左が眩しさで目を閉じたガンドルの膝裏に飛び蹴りをくらわした。


 ガンドルがカクンとバランスを崩して前のめりになった瞬間にーー文吉はぐるんと身体を捻って大きな手からの脱出すると、すぐに茂みを入り込んでまんまと逃げ去った。


「うにゃああ! あいつらデコピンの刑も追加だっ」



 茶葉イタチを逃がしてしまったガンドルが地団太踏んで悔しがっている一方で、ブランとルードベキアはプレイヤー時代の思い出話に花を咲かせていたーー。


「ブラン、そういえばさ。茶葉イタチに攫われたプレイヤーを助けるっていうクエストあったよな」


「あぁ、脱出クエストですね。パーティメンバー全員で捕まって、牢屋からスタートする攻略方法が流行ったのを覚えています。クエと言えばーーバンシーからドロップする魔法の金貨を使った隠しクエやりました? 」


「懐かしいな。5枚集めないとダメなやつだろ? 狩りまくったのを覚えているよ。ダンジョンのボス(ダンボス)の鬼兜丸からドロップするレア素材がさ、いまだから言うけど……インスタントカメラの素材の1つだったんだよね」


「それは、驚きな情報ですね……。素材があれば今でもカメラを作れるんじゃないですか? 」


「出来るさ。でも、それよりもNPCが使えるスマホを作りたい」


「それって……ネットワークのインフラ整備しないとダメですよね。それはどうするんです? 」


「その件は、適任者がいるから大丈夫だ。きっと今頃、楽しそうにやってると思うよ。ーーそうだ、人参マンっていう変なフィールドボスが出るのもここだったな」


「あぁ、そんなのいましたね。そうそう、茶葉イタチ村の近くに、氷穴があるの知ってます? 奥に鍾乳洞があって、なかなか見ごたえがある景色なんですよ。そこにアルカナ・ラリークエストのカードが隠されててーー」


「え!? それどんな絵柄か覚えてるか? 」

「うーん。杖を咥えた白鳥が氷の椅子に乗ってた絵だった気が……」


「あぁぁ! ずっと探してたカードだ……。こんなところにあったのか。取りに行きたい気もするが、いまさら手に入れてもなぁ」


 オーディンの人形になってしまった今では、手に入れたとしてもスマホのコレクションページに保管ができない。そう思った少女姿のルードベキアは残念そうな顔をした。


「そう言えば、だいぶ時間経ったよな? ガンドルのやつ、どこまで行ったんだよ」

「あっ、ルー。義眼を使っては駄目ですよ、また痒くなってもいいんですか? 」


「うっ……なんでバレたんだ……」

「ふふふ」


 ルードベキアが渋い顔をしているとーーガンドルが荒ぶる湯気を頭から飛ばしながら戻ってきた。苦虫を噛みつぶしたような顔でプンプン怒っている。


「くそぉぉ! 2匹をちょびっと折檻してやったけど、取り戻せなかった。あいつら、ラグビーみたいに小袋をホイホイ投げやがって! 最後に持っていった3匹目を探したけど、完全に見失った……」


 赤い髪に葉っぱを付けたガンドルは……肩をがっくりと落としてしゃがんた。ルードベキアはしおしおな表情の彼をよしよしと頭を撫でながら、茶葉イタチたちが逃げ切ったことにホッとしている。


「ルーちゃん、優すぃ。ありがとう」


 ガンドルは抱き着こうとして少女に手を伸ばしたが顔を掌打された。嫌がる猫のように手を突っ張っている小柄なルードベキアと、身体が大きなガンドルが愉快な攻防戦を繰り広げている。


「ルーちゃん、ちょっとぐらいいいじゃんか! 」

「なんか酸っぱい匂いがしそうだから嫌だっ」


「が~ん……。しどい……」


 精神的にトドメを刺されたガンドルは……力なく、ぱたりと横に倒れた。ブランは涙目になっているガンドルを横目でちらっと見ながら、三角を作るように並んでいる赤いキノコを探している。


「獣の王もルーの前では形無しですねぇ。あぁ、ここにあった。ーーガンドルさん、この葉っぱが付いてるキノコを頼りに進んでいけば茶葉イタチの村が見えてきますよ。そこに行けば泥棒イタチに会えるんじゃないですかね」


「えっ? そうなのか! 」


 ガンドルはガバッと起き上がり、胡坐をかいて腕組みをした。並べた茶葉イタチを3匹を順番に、もふ撫での刑にしているシーンを妄想している。


 ニヤニヤとガンドルが笑っていると……ガサガサと茂みが揺れた。


 茶葉イタチかと思った彼はすぐに動ける姿勢をとって注視していたーーだが人違いならぬ、モンスター違いだと分かった途端に肩をがっくりと落とし……大きなため息を吐き出した。


 そんなガンドルと相反してルードベキアは大喜びしている。少し興奮気味になった少女は、さっき自分を抱き上げようとしていた小麦色の腕をバンバンと叩いた。


「うわああ! 人参マンだ! ガンドル、捕まえてくれ! 」


「ルー、こいつどう見てもキノコじゃないか。なんでニンジンなんだよ……」


 逃げ去ろうとしていた人参マンは大きく振っていた腕をピタッと止めると、きゅっと軽やかにUターンをした。どうやら、名前を貶されたことにムッとしたらしい。彼は口を尖らせながら勢いよく喋っている。


「ぷんぷ~ん! 失礼なやつだな! ニンジンほど偉大な種族はないんだぞ。色艶のいいオレンジの肌に、葉緑素たっぷりの緑の髪……あのような麗しい見た目になりたいという俺の願いが、この名前に込められているんだ! 」


 ふーんと言いながら、ガンドルは顔がある柄の部分をヒョイっと持った。いたずらっ子のような笑みを浮かべてキノコを高い高いしている。


「ぬぁあ、やめろ! 揺さぶられ症候群になったらどうすんだっ。ーー俺の魅惑ボディにメロキュンな気持ちは分かるが、は~な~せ~! 」


 ガンドルは手足をブンブンと振って暴れる巨大キノコの意見を尊重して、ぐるぐる回す方に切り替えた。考える様な仕草をしているブランは真面目な顔でその様子を見ている。


「メロキュンって……死語じゃ? それにしても人参マンに、そんな面白い逸話があるなんて驚きですね。ーーで、ルーは、こいつをどうするんですか? 」


「非常食を兼ねた仲間にーー」


 銀髪の少女の言葉にカッとなった人参マンは、ジャイアントスイングをされながら胞子をばらまいた。もろに細かい粉をかぶったガンドルは咳が止まらなくなり、元凶である巨大キノコを投げ捨てた。


「げほっ、げほっ。なんだこれーーげほっ」

「油断大敵ってやつだぁ! ざまぁみろ、ばーか! ばーか! 」


 ブランは人参マンの捨て台詞に呆気にとられていたが、愉快そうに笑って眠そうな表情をしているルードベキアを腕に抱えた。


「ルー、あんな口の悪いキノコを食べる気だったんですか?」


「いや、冗談だったんだけどな。あんなに怒るとは思わなかった……。捕まえれば面白い話を聞けるっていう情報が以前からあってさ、試して見たかったんだよね」


 ガンドルはやっと咳が止まったかと思うと、ぶーっと吹き出して、ゲラゲラと笑い始めた。キノコがニンジンに憧れているというセリフがツボに入ったようだ。彼の笑い声を聞いていたブランは雪のように黒い粉を降らせている空を見上げている。


「さっきから気になっていたんですけど、この黒い粉……何ですかね? こんなシチュエーションはこの森になかったと思うんですけど、ルーは何か知ってます? 」


「いや、知らない……。様子がおかしい気がするから、調べてみるようかな」


「あ~、笑いすぎてお腹い痛い。ーールー、ブラン、森の中だと分かりにくいからさ、茶葉イタチちゃんがいる村に行ってみようぜ。そこなら空が見やすいんじゃないか? 」


「ガンドルさんは、木の実を取り返す気満々ですね」

「当ったり~! そして、もふもふを撫でまくり、あーんどっ、抱きしめ放題っ」


 果たしてそんなに上手くいくだろうか……ブランは茶葉イタチと戦闘になりませんようにと願いながら、ネコカフェにでも行くような軽い足取りで歩いているガンドルの後をついていった。

システム:茶葉イタチの抱き枕……欲しい! 彼ら(大人)が立ったときの背丈はだいたい80~90cmぐらいと考えています。なのでオーディンの人形もちっこいです。

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