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第七十五話 勇者と四大精霊

パティのお話です。

 時間はジュンヤがゲイルと会う前にさかのぼる。

 ソルトレイク近くの訓練場 


 マイア達は三十分程前に敵の親玉が現れたとかでカゴシマに行ってしまった。

 パティは一人では飛べないから山の中の訓練場に行けないのでウユニ湖に行く道にある比較的大きな訓練場に来ている。


 ここでは大きな魔法も使えないし何よりパティの相手をしてくれる者も居ない。

「ウーッ腹が立つ!なぜパティを連れて行かない?」(パティ)

 敵が来たのにパティを連れて行かないジュンヤに対して腹が立つのか、戦いに加わる実力の無い自分に腹が立つのか自分でも良く分からない。


 昔は良かった。パティはそう思う。

 パティはギズモニアの片田舎で生まれた。

 十歳の頃にはすでに村で喧嘩でパティに勝てるものは、大人でもいなかった。


 それで両親が修行僧モンクの集まる教会にパティを預けた。

 それでも十二歳になるとその教会でもパティに勝てる者は居なくなった。


 十三歳になった頃、正教会から迎えが来てクレアンスの正教会で修行することになった。

 十五で成人して正教会から勇者認定を受けた。


 勇者と言っても悪の魔王がいるわけでもないので、やることは教皇や幹部が外に出る時の護衛位だ。

 相手は殆ど野盗か魔獣だ。パティの敵じゃない。


 久しぶりに休みを貰ってギズモニアの両親に会いに行ったときに、ヤマト国で住民を奴隷にして支配する魔王が現れたと聞いて行ってみることにした。

 魔王云々はすぐに誤解だと分かったが、そこでマイアと言う少女と試合して、勇者認定以来初めて負けてしまった。


 そしてパティはジュンヤに頼み込んでヤマト国で修業をした。

 そこでパティはものすごい早さで強くなれたが、教皇の意地悪で修行は途中で終わってしまった。


 この度ジュンヤが正教会でも世界の王認定を受けたので、また修行に来たわけだが、今回はあまり上達しない。

 前回追付いたと思ったマイアに全然勝てない。ハルには全くかなわない。


 自分は強さだけが人に誇れる存在価値で、慕ってくれる正教会の信者もパティが弱いと思えば離れていくだろう。


 生まれてから今まで揺るがなかったアイデンティティが崩れていく。

 どうすれば良いのだ?


「勇者様、いかがなされましたか?」

 不意に後ろから声を掛けられた。

 猫獣人の爺さんが心配そうな顔をして立っていた。

 人の接近にも気付かないとは落ちぶれたものだな・・。

「いやなんでも無い」(パティ)


「顔色が良くありません。体調が悪いなら私は風魔法で飛べますからソルトレイクまで送りますよ?」(猫獣人)

「本当に大丈夫だ。ジュンヤ殿の眷属と試合をして勝てないので、少し悩んでいるのだ」(パティ)

 何を言っているこんな話を一般人にしてどうなると言うのだ。

「何を悩んでおられるのかと思えばそんなことですか」(猫獣人)

 あまりに軽く返されたのでカチンときた。


「お前に解ると言うのか?」(パティ)

 猫獣人はこともなげに言った。

「はい、あの方たちは精霊が憑依して手助けしています。普通の人が勝てる訳無いですよ」(猫獣人)

 そうか剣の試合をしていたので、精霊や魔法は関係ないと思っていたがそう言うことか。


「しかし、私は勝ちたいのだ」(パティ)

「ならば、精霊を憑依させるしかないでしょうな」(猫獣人)

 精霊を憑依させればマイア達に勝てるのか?


「しかし、精霊などどこにも居るまい」(パティ)

「確か、滝の有る湖に四大精霊が閉じ込められていると聞いたことがあります」(猫獣人)

「近いのか?」(パティ)

「いえ、数百km離れているし、山の中です」(猫獣人)


「そうか、行くとしても決戦に間に合いそうもないな」(パティ)

「勇者様もジュンヤ様に加勢して頂けるのですか?!」(猫獣人)

「そのつもりだったが今の実力ではな」(パティ)

「では、私が運びます。今日中には着けますよ」(猫獣人)


「あなたにそのようなことをさせる訳にはいかん!」(パティ)

「ジュンヤ様のためならどんとこいです」(猫獣人)

 二人はソルトレイクで昼食を取り、晩飯を弁当にして湖に向かった。



 二人が湖に注ぐ滝に着いた時にはもう日が暮れていた。

 灯の魔法で周囲を見渡すが精霊らしきものは見えない。

「精霊の巣に入っているのでしょうな」(猫獣人)

 猫獣人が言った。

「精霊の巣?」(パティ)

「精霊は空間魔法で巣を作って、その中で暮らすのです」(猫獣人)


 猫獣人が腕を伸ばして空を引っ搔く動作をすると空間が割れ、そこから別の空間が見える。

 本来なら驚くべき行為だが、なぜかパティは驚かない。

「何者だ!!」

 空間の中から顔を出したのは風精霊らしい。


「おぬしらの中でパティに憑依して力を貸してくれるものは居ないか」(パティ)

 パティは切実に訴えるが・・。

「主であるジュンヤ殿が言うのならば考えもしようが、お前ではな」(風精霊)

「くっ」(パティ)


 猫獣人が前に出てパティに言う。

「私にお任せください」(猫獣人)


 猫獣人が右手にペンダントを掴み前に出し、カッと気合を込める。

「こ、これは精霊鎧の・・・・」(風精霊)

 風精霊は何かに抵抗するそぶりを見せるがそれも続かなかった。


 風精霊は猫獣人の前に跪いた。

「あなた様に忠誠を捧げます」(風精霊)

 パティは反応しない。この光景が当たり前のように・・。


 火、水、土の精霊も巣から出て来て猫獣人の前に跪いて忠誠を誓った。

「ではあなた達は勇者様に憑依して、力を貸してあげてください」(猫獣人)


 いつの間にかボーっと正面を眺めているパティを猫獣人は指差す。

 四人の精霊は自身の体を魔力に替える。そしてパティの体にぶつかるように入って行く。

 パティの体が光を放ちだす。パティは苦しさに歯向かうように叫び出す。

「グオオオオオォーッ」(パティ)


 パティを包む衣服がはじけ飛ぶ。

 精霊の四色の光がミラーボールの様にキラキラと光る。

 パティは大の字に手足を伸ばして苦しみに耐えているようだ。


「やはり四体を一度には無理があったかな」(猫獣人)

 心配そうに眺める猫獣人。

「しかし、のんびりしていると奴らに感づかれるからな。ホッホッホッ」(猫獣人)


 五分位経過しただろうか?

 パティを包む光は薄くなり、彼女の顔も穏やかなものになって来た。

「流石に勇者だ。四体の精霊を抑えることが出来るとは。博打みたいなものだったが」(猫獣人)


 完全に光は消えて、パティは目を開けた。

「素晴らしい。精霊の力を手に入れたお気持ちはいかがですか?」(猫獣人)

「体の中に大きな力を感じる。少し試す」(パティ)


 彼女は手を伸ばして気合を込める。

 手の平から魔力が迸り、湖を真っ二つに割って進んでいく。そして数十km向こうの岸で爆発する。

 暗くて良く分からないが湖の形が大きく変わった事は解る。


「これはすさまじいですな。あ、これを首にかけておいてください。精霊が隷属できます」(猫獣人)

 そう言ってペンダントをパティに渡す。

「いつまでも裸ではあれですから」(猫獣人)

 猫獣人が彼女の方に腕を振ると、ペンダントを首に掛けたパティの体を黒い服が覆った。そう、カゴシマで見た八人の少女と同じような・・。


「さてどうされます?」(猫獣人)

「・・マイアと戦う」(パティ)

 彼女の言葉には抑揚も覇気も無く、ぼんやりとしている。


「マイアさんと戦うのですか?でも彼女は味方とは本気で戦いませんよ」(猫獣人)

「どうしたら良い?」(パティ)

「そうですね。敵になってみるのはいかがでしょう。一週間後にカゴシマの近くでゲイルと言う奴と戦うそうですよ」(猫獣人)

 まだジュンヤ達しか知らないはずの情報をこの猫獣人は知っていた。


「敵になるのか?」(パティ)

「一週間くらいなら大丈夫ですよ。これも正義のためです」(猫獣人)

「そうだな。正義のためだ、仕方が無いな」(パティ)

 パティの意識ははっきりしてきた。


「では、頭の中にゲイルの場所を入れて置きましたから、そこに行って下さい」(猫獣人)

「うむ、よくやってくれた。ありがとう」(パティ)


「では、これを」

 猫獣人は服と一緒にはじけ飛んでいたパティの聖剣を拾って渡した。

 彼女は聖剣を受け取ってすらりと鞘から抜く。

「今までこの剣を百%使えてなかったが今なら・・」

 そう言って気合を込めると刀身がそれに答えるのが解る。


 少し離れた所にある直径三m位の岩に向かって、剣を軽く振ると岩にまっすぐな傷が入る。

「ふむ、マイアの新しい剣にも対応できそうだ」(パティ)

 ガパッと言う音がして岩が真っ二つに割れた。


 パティは南の方角にすごい速度で飛んで行った。

 残った猫獣人は大声で笑った。

「これで眷属は九対九になったぞ。覚悟していろジュンヤ」(猫獣人)

 笑いながら猫獣人の眼球が零れ落ち、髪の毛も抜け落ちる。やがてその体は粉々になり、原型はなくなった。


 ゲイルは暗示を強くかけて相手を思うように動かすことが神に貰った力だ。

 この力でアーモデウスや、魔翅族、エルフ族、ネクロマンサーの首領などを操って来た。

 そして今勇者を味方に引き入れたのだった。


 ******


 ソルトレイク ジュンヤの家

 時間はパティがゲイルの方に向かう少し前。

「駄目です。ソルトレイク周辺にパティさんの魔力は検出できません」(マリー)

「カゴシマに連れてってもらえなかったから拗ねたのかな」(マイア)

「あいつはマイアにやられて凹んでたから、帰ったんじゃないのか」(ノーラ)

「彼女は責任ある立場ですし、誰にも連絡せずに帰るようなことはしないと思うのですが」(ハル)

「彼女の部屋は着替えも置いてあるので、近くに居ると思うのですが」(エルザ)

「腹が減ったら帰ってくるんじゃないか?」(ボルク)

「そんな無責任なこと言うもんじゃないわ」(レイコ)

「でも念話も繋がらないですし、心配です」(セシル)

「確かに!何か事件に巻き込まれたのでしょうか?」(アステル)


 夕食が済んでも帰ってこないパティを心配して騒ぐ眷属達。

 しかし、マリーの探索でも、念話でも行方が解らないので出来ることが無い。


『ご主人様、四大精霊の隷属契約が強制的に破棄されました』(アイさん)

 いきなりジュンヤのナビAIのアイさんから報告が入る。

『どういうことだ』(ジュンヤ)

『契約の拘束力を上回る力が働いたとしか解りません』(アイさん)


 次の日、四大精霊を隠していた湖に行ったが、湖の形が変わっていたこと以外何も分からなかった。

次回いよいよ最終決戦です。

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