第六十三話 カゴシマ旅行とボルク覚醒
旅行を楽しむ子供達、火山島で進む悪の陰謀、ボルクが怒る。
シンディと子供たちは学校の球かを利用してカゴシマに旅行することになった。
火山島ではアジダバーガが敵の首領によって復活して、悪の組織もアジダバーガに吸収された。
朝にカゴシマ駅に降り立ったシンディ達はカゴシマ村の歓迎を受けていた。
そして午前中は農園の見学をするが、広い土地なので馬車で移動する。
コーヒー園、サトウキビ畑、胡椒畑、ミカン、新しくバナナ園も出来ていた。しかし時期がずれていたので食べられなかった。
案内をしている人も秋に来てくれればと残念がっていた。
昼食はカゴシマ牛のステーキが出て来た。柔らかくて口の中で溶けるようだった。
お昼からはその牛と馬の牧場を見に行く。
「ここの牛は茶色いのね。ソルトレイクに居る牛は白と黒のブチだったわ」(シーナ)
「ソルトレイクの牛は牛乳用でこちらのは肉用よ」(シンディ)
「じゃあ、お昼に食べたのはここの牛?」(キュール)
「うまそうだ」(サクラ)
「もうサクラったら、今食べたばっかりでしょう」(シーナ)
牧場は高台にありそこからはカゴシマ湾が一望できる。
湾の中央に火山島があり、明日遊びに行く予定のカツラ島という。
「あそこに火の精霊とボルクさんが居たんですね」(オスカー)
「そうだぞ。オイラはずーとあそこで精霊様にこき使われていたんだぞ」(ボルク)
威張れることではないのにふんぞり返っている。
「もう、ボルクったら。そう言う事言わなくて良いの」(レイコ)
その後は乗馬体験だ。
サクラ・キュール・ジャンテはすぐ慣れて、人に引かれながらも堂々とした乗馬スタイルであった。
オスカーはガーランドで乗馬は習っていたので慣れたものである。
シーナは怖い怖いを連発してまともに乗れない。
オスカーがすぐそばに寄る。
「シーナ、お前が怖がると馬も怖いと思う。お前なら馬を従わせる位、簡単だろう」(オスカー)
普段からオスカーに競争意識を持つシーナは恐怖を押し殺す。
数分でサクラたちと同じように出来るようになった。
シンディはそれを温かく見守っている。オスカーは人の性格を見ながら導いたのである。
シンディは未来の皇帝を見ている。
宿舎はカゴシマに短期で逗留する人のためにある定員二十人ぐらいの小さな宿舎だ。
夕食には寿司が出た。
ソルトレイクの寿司は火を通したネタばかりだが、ここでは生の魚介類がネタになっている。
その後、温泉を堪能して今日見たもの、体験したものを各人が発表した。
一応、修学旅行で予算が組まれているので報告書を市の方に上げないといけない。
二日目、今日はカツラ島に行って海水浴とBBQを楽しむ予定だ。
晴天に恵まれ、波も穏やかだ。
みんな水着に着替えて船に乗った。中間点位に来るとレイコが立ち上がった。
「いやな気がある。引き返した方が良い」(レイコ)
「船長さん、引き返してくれますか」(シンディ)
子供たちは文句を言うがシンディは無理をしない。
「オイラが様子を見てくるよ。レイコは皆を守って」(ボルク)
「気を付けてね。すごく悪い気よ」(レイコ)
「火山でオイラに勝てる奴はいないよ」(ボルク)
船は引き返し、ボルクはカツラ島に向かって飛んだ。
カゴシマ側からは見えない南側の砂浜に二隻の船が見える。
『悪い気は南側の方が強い。降りてみる』(ボルク)
念話をオープンで送信する。聞きたい人は聞き、聞きたくない人は閉じればいい。
数人乗りの小さな船と百人以上乗れそうな大きめの船が繋いである。
大きな船の影から人が現れた。
「おーい、助けてくれ」(ミッテラン)
「あなたは誰?」(ボルク)
「俺はミッテラン、速く逃げないと化け物が襲ってくるんだ!」(ミッテラン)
「詳しく説明する」(ボルク)
「ああ、もう、急いでるのに!俺達の首領が有史以前の怪物アジダバーガを復活させたんだ。そいつは百人の奴隷と二十人以上の手下と首領を食っちまったんだ。今は寝ているみたいだけど起きたら襲ってくるから早く逃げないと。俺は船が使えないから逃げられずにいるんだ」(ミッテラン)
ジュンヤから念話が来る。
「お前達の首領はどうやって怪物を復活させたんだ?」(ボルク)
「首領は世界の王でネクロマンサーと言って死人を蘇らせることが出来るんだ」(ミッテラン)
「では、ワ国のスケルトンもお前達の仕業か?」(ボルク)
「なぜ知ってる?そうだワ国でヤマタノミズチを復活させようとして失敗した」(ミッテラン)
「なぜ怪物を復活させた?」(ボルク)
「世界の王にふさわしい力を手に出来ると神の啓示を受けたと言ってた」(ミッテラン)
「そのアジダバーガってどんな怪物なんだ?」(ボルク)
「赤い目と大きな口の髭面の化け物だ。有史以前に会った文明を滅ぼしたと言われている」(ミッテラン)
その時、火山島が地鳴りを上げ揺れ始めた。
「お前は島の裏で隠れてろ」(ボルク)
ミッテランは慌てて島の裏側に向かった。
『上がってくるぞ気を付けろ』(ジュンヤ)
『火山の上ならオイラ負けないよ』(ボルク)
ジュンヤはボルクの体を借りてミッテランと話していた。
アジダバーガの正体は良く分からないが、ワ国のスケルトンよりはるかに強そうだ。
ボルクの言う通り、火山の上に居るボルクより強い奴は想像できない。
火山のすそ野を壊して人型の怪物が現れる。
モンスターはみるみる大きく変化する。最終的に十mを超える巨体と二つの顔、四本の手を持つ怪物に成長する。
醜い巨体が現れると人間には致死量の瘴気があふれ出す。
怪物が現れると風は渦巻き、波は荒れた。
ミッテランは大丈夫だろうかと一瞬脳裏を過ったが、そんなことを考えている暇はなさそうだ。
「これはうまそうな餌がいるではないか」(アジダバーガ)
赤い目をした獣の顔がそう言った。もう一つの爬虫類のような顔は舌なめずりをしている。
ボルクは火球を飛ばすが体中に生えた黒い毛を焼くことも出来ない。
「フン!!」(アジダバーガ)
鱗で覆われた尻尾を振り回す。
ボルクは飛び上がって聖獣に変身する。翼長五mを超える赤い鳥だ。
途端に周りが静かになる。怪物のエネルギーを相殺したのだ。
レイコたちはようやく港に着いたがカツラ島の反対側で起こっている戦いは見えない。
風はそこらの物を吹き飛ばし、湾内の波は荒れ狂い、さながら台風のような様相を呈していた。
「これってどういうこと」(シーナ)
「多分敵の出すエネルギーが嵐を起こしてる」(レイコ)
「とにかく風の避けられる場所に避難しましょう」(シンディ)
レイコは魔力障壁でみんなを守りながら思っていた。
六肢族なんて相手にならない敵だ。これまでの敵とは桁がいくつも違う。
恐らくこの星を滅ぼせるくらいの力を持った奴に違いない。
「風がやんだ。どうしたんだ」(オスカー)
「ボルクが本気を出したのよ。敵の力を抑えたのよ」(レイコ)
「今のうちに避難しましょ」(シンディ)
「信じらんねえ、お前らこんな奴と戦っているのか」(サクラ)
「早く安全な場所に、私も加勢しないと危ないかも」(レイコ)
ジュンヤ達もこちらに向かっているが早くても2時間かかる。それまでは私達で何とかしないといけない。
聖獣は自分の属性にあった場所に居ると、魔素の影響を受けて使える魔力の桁が上る。
ノーラは土属性で地面の上、レイコは水の中、アステルは嵐の中、そしてボルクがマグマ溜りの近くだ。
アステルやボルクは属性のエネルギー量が大きいので、場所の使い勝手は悪いが魔力の桁がもう一つ上がる。
アジダバーガが空中に浮かびあがり、間合いを詰めようとする。
近接戦闘のスキルの無いボルクは距離を取りながら口からビーム状の炎を吐く。
収束された炎の威力は凄まじく、アジダバーガの腕を一本焼き切った。
アジダバーガは手から黒い靄を出し、靄はボルク目指し一直線に飛ぶ。
靄はボルクの張った魔力障壁に当たるがすぐに吸収して虫食い状態になる。
靄は魔力障壁を突破してボルクに襲い掛かる。
ボルクは上昇して回避する。
いつの間にかアジダバーガの腕が再生している。
アジダバーガはボルクを餌と見ており、近接戦闘とエナジードレインの黒い靄だけで攻撃している。
ボルクも赤い鳥形態では近接戦闘はできないし、炎ビーム以外の技は黒い靄に吸収されるし、魔素補給のため火山から離れないので攻めあぐねていた。
ボルクは連続で炎ビームをアジダバーガを撃つが、体に穴が開いてもすぐに再生してしまう。
もっと破壊力のある技で仕留めないと、いつかは捕まってしまう。
充分海岸から離れ、風を避けられる山のすそ野まで非難したシンディ達。
「レイコさん、これは今までの敵ではない。レイコさんもボルクさんの所へ行ってあげてください。僕たちはここで身を守りますから」(オスカー)
「俺でもわかる。あれは俺達じゃ相手が出来ない奴だ。頼む」(サクラ)
「多分ですけどあれを自由にさせたら、この星が滅ぶ気がします。済みません、自分で自分を守ってください」(レイコ)
「ここに隠れていれば大丈夫よ。思い切りやって来て」(シーナ)
「はい」(レイコ)
レイコは聖獣形態に変身するとボルクの戦う場所にすっ飛んで行った。
ボルクは一つの技を思い付く、いや技とも呼べないものだがこれしかない気がする。
「こんなものを使ったら自分がどうなるのかも判らない。でもみんなと一緒に居れなくなるのは嫌だなあ」とか考えていた。
その時、ボルクの右翼を黒い靄が襲う。翼が半分無くなる。
魔力の供給がここでは豊富なのですぐに再生するが、その分アジダバーガのエネルギーが増える。
「くっそぉ、油断したア、もっと魔力を貯めれたらいいのに」(ボルク)
『ボルク、私は今下の海に居るわ、どうしたらいい?』(レイコ)
レイコが来てくれた。それだけで奮い立つボルク、あれをやるしかない。
『精霊魔法は駄目、魔力を纏わない飛び道具で攻めて、あいつの気を引いて』(ボルク)
レイコは氷の槍を何十本も作ると超音速で打ち出す。
「アイススピアー!!」
ボルクに集中していたところに後ろの下から攻められたアジダバーガは、アイススピアをまともに受ける。
氷の槍は数cmしか刺さらない。一瞬、アジダバーガはボルクの事を忘れて氷の槍を放ったレイコを探す。
「今だ」ボルクは気合を入れる。
次の一瞬、ボルクの体の表面は超高温の炎に包まれる。
体の表面に収束した炎を纏わせる。熱耐性はあるがそれでも自身を焼いてしまう技だ。
「超超級魔法!!ファイアーバード!!」(ボルク)
白い輝きを感じたアジダバーガは振り返るが、目の前に迫る光の鳥を見るが避けることは出来なかった。
白く輝く光の鳥はアジダバーガを貫く。
アジダバーガの胴体は瞬時に蒸発して熱膨張で爆発した。
そしてバラバラになった破片が下の海に落ちて行った。
「ボルク!!」(レイコ)
しかし、全ての魔力を使ったボルクは、もはや飛ぶことも出来ずに表面が焦げた黒い鳥になって、海に落ちて行った。
人間形態に戻って、海に落ちたボルクを回収する。カツラ島の砂浜にボルクを引き上げるレイコ。
「しっかりして、スーパーキュア!!」(レイコ)
聖獣に治療魔法は効かない。肉体ではないから。
「ここに居たらすぐに良くなるから心配しないで」(ボルク)
「ボルクはすごいよ。あんな化け物をやっつけるなんて」(レイコ)
「レイコ・・泣いてるの?」(ボルク)
「うん、貴方が生きていてくれたから。私もノーラみたいに感情が豊かになって来たみたい」(レイコ)
あふれる涙をぬぐいながらボルクを嬉しそうに見つめるレイコ。
少し離れた海の中に南に向かう腕があった。
次回、戦いの後、日常に戻っていくジュンヤ達。




