第五十五話 エルフの王と少女弓士
エルフの王と戦後処理をします。
ソウキの依頼で鬼人国へのエルフ軍侵攻の戦争に介入した俺達は、エルフ軍一万六千と魔翅族10人を殲滅した。
今、俺達は戦後処理のためエルフの王城に空を飛んで向かっている。
エルフ国のほぼ中央にある王城は鬱蒼とした森に囲まれていた。
王城自体は巨大な木の幹を円筒状の建物で覆うように建設されていた。
俺達は最上階にあったバルコニーのようなところに着地した。
周りに敵の姿も見えなかったのでマイアに音を探知させる。
マイアは兎人で大きな耳でかすかな音の探知できる。
「右の奥に20名ほどのエルフがいるようです」(マイア)
外壁に沿った通路を右に進むと衛兵が入り口の両脇に立っている部屋がある。
「マイアが奥、ハルが手前だ。殺すなよ」(ジュンヤ)
二人が目にもとまらぬ速さで衛兵を無力化する。
「エルザ、口上を頼む。マイア、ハル、セシルは護衛を」(ジュンヤ)
エルザ達は部屋に入ると部屋の中にも十数名の衛兵が居て、誰何しながら囲んできた。
しかし衛兵たちはマイア、ハル、セシルの3人に一瞬で倒される。
「私はヤマト国代表ジュンヤの先触れです。
すでに鬼人国に入った兵と魔翅族は全滅させました。
ついては今後の話し合いを行いたく。ここにこの国の代表者は居られますか?」(エルザ)
エルザの口上に残った人員が奥の一人を見る。
皆に見られた壮年の男はため息を吐いた。
「私が王だ。君達がわが軍を殲滅したとは本当か?」(エルフ王)
「その知らせはすでに魔翅族から届いているはずですが」(エルザ)
「やはりそうなのか。信じられん」(エルフ王)
王は首を振りながら今まで空いていた玉座に座った。
「それより、話し合いをするのですか?しないのですか?」(エルザ)
「我々の事は放って置いてはくれないか」(エルフ王)
「話し合いに応じないなら我々はこの城を更地にして、住民を隷属化します」(エルザ)
エルザの言葉に反応して奥の壇上に居た数名が騒ぎ始めた。
「では君達が魔翅族を倒したというのか?」(エルフ王)
「はい、我々は魔翅族より強いですし、この国を簡単に滅ぼすことも出来ます」(エルザ)
「少し時間をくれないか。我々も考える時間が欲しい」(エルフ王)
エルザは少し考え、通路に居るジュンヤに念話を送る。
「分かりました。我が国の制度について分からないこともあるかと思いますので私も参加します。ジュンヤ様を待たせてますので、1時間位で効率よくお願いします」(エルザ)
エルザはにこやかにエルフ王に言った。
会議の参加人員を集めたいと言われたが却下した。人数を多くしたって時間が掛かるだけだから。
エルザにはマイアが護衛に付いて、エルフ達と王の執務室に去って行った。
俺達は謁見室に入り、14名の衛兵を収納から出したロープで縛り上げ、昼食を取った。
昼食と言ってもおにぎりと漬物と水筒のお茶だけだけどな。
30分も経つと衛兵の何人かが目を覚ましたので幾つか質問してみた。
それで分かったのがエルフの主食が栗であること。副食は虫や魚、野菜などらしい。
まあ、森の中で暮らしているならそうなるか。牧畜もやってないし。
また寿命は人間の倍位だそうで、16,7歳くらいまでは人間と同じように成長して100歳位で人間の30歳位、後は人間の様に年を取っていく、長く生きて160歳位だそうだ。
やっぱり何百年も生きるエルフは居ないそうだ。
大分打ち解けて来たので、俺が余った牛肉で作ったビーフジャーキーをやってみた。
かなりうまかったらしい。もう少し呉れと言われたよ。
口も緩くなってこの戦争の原因と言うか、どうしてこうなったかが解って来た。
元々は3年前に鬼人族が越境して木の伐採をしたので、近くの部落の民が怒って鬼人族を殺した。
報復でその部落が全滅させられた事件があった。
それでエルフが報復を考えていたが、鬼人族の方が軍事力が大きく手をこまねいていた。
1年前にゲイルと言う人間と六肢族が現れ、報復を手伝うと言って来た。
ゲイル、どこかで聞いた名前だな。
いつの間にかそいつらが玉座に座るようになり、大量のマスケットを持ってきて、エルフの軍を訓練し始めた。
そして侵攻が始まると六肢族の手伝いもあって、あっという間に鬼人族の王城まで攻め寄せた。
と言う事だった。
衛兵達は六肢族が居なくなるまで王に近寄れなかったので、まだエルフ軍が全滅したことを知らない。
いずれにせよ、鬼人族とエルフ族に任せておけば、報復合戦になることは間違いないので、俺が上から押さえつけるしかないと思っている。
出来れば上層部を隷属化したいけど、また勇者に怒られるかな?。
そうこうしてるうちに会議が終わったようだ。
エルザの念話でほぼ内容は解ってるんだけどね。
俺は執務室に入った。エルフ族は俺を見ても侮っていない様だ。まあ、彼らは年齢が分かりにくいからね。
俺は王の執務室に付属する会議机にいる王を退けて上座に座った。
「この度の戦争は、俺の勝ちだ。従って俺の要望を聞いてもらう。いいな!!」(ジュンヤ)
返事はない。静まり返っている。
「文句はないようだな。お前達が自分達の願望を利用されて操られていたのは解っている。だから殺すことはしない。
お前達には俺の奴隷、つまり隷属化して貰う。エルザには聞いて貰ったと思うが、そんなに不自由なものではない。人を裏切れない事だけだ」(ジュンヤ)
俺達の強さと恐ろしさを現実的には分かっていなかった彼らをエルザはとことん威圧した。
その結果、彼らは従順になっている。
「私達は甘言に操られたとは言え、欲を出し、出兵して一万六千人もの若者を失ってしまった。私達は生きていて良いのでしょうか?」(エルフ王)
彼らは会議で自分達の安易な決断が起こした結果に対して責任を痛感するようになった。エルザがそう誘導したんだけどもね。
俺は彼らを隷属化すると言ってやった。
「お前達は、死んでいった者達より生き残った国民に対して罪を償って幸せにしてやることだ」(ジュンヤ)
「第一に終戦を宣言する。軍担当者は早急に戦争行為の中止を隅々まで連絡して実行しろ。以後戦争行為を継続する者はその罪の軽重により処罰される。すぐに実施しろ!」(ジュンヤ)
「はい」(エルフの一人)
多分、軍担当者と思われる男が部屋の外に走っていく。隷属の効果で彼は必死で命令をこなそうとするだろう。
「第二に賠償はこれを求めない。戦争責任も裁かない。安心して良い。但し報復は考えるな。戦争の傷は鬼人国の方が深いのだ」(ジュンヤ)
エルフ達はそれを聞いて安心したようだ。こんな縄文時代を彷彿させる生活をしている彼らに金があるとは思えん。
「第三に国民に平和を享受させよ。足りないものがあれば俺が援助する。十年後、望むなら隷属は止めても良い。
第四に生活は今のままでも良いが、一部で良いので門戸を開放せよ。今回の戦争も話し合いが出来る状況なら防げたかもしれない。
問題があればエルザに念話で伝えよ。何も無くても週一回は定時連絡せよ。
まあ、これくらいか」(ジュンヤ)
エルフ王が立った。
「ありがとうございます。これなら私達は立ち直ることが出来ます」(エルフ王)
エルフ達は口々に”良かった”を連発している。
さらにエルフ王が続けた。
「私には孫がたくさんいるのですがヤマト国の生活を体験させて頂きたいのですが?」(エルフ王)
「うーん、仕事をする気があるのなら何人でも、子供なら今俺の家には10歳の男の子と11歳の女の子を預かっていて、似た年齢二人までならば受け入れるぞ」(ジュンヤ)
エルフ達も自分達が生き残れたことで前向きな心が生まれたのか、別の可能性を探るためにだろうか、俺に要望してきた。
俺達は部屋を貰って休憩することことにした。
俺はため息をフーッと吐いた。ハルが駆け寄ってきた。
「ご主人様は焦っていますか。今までのご主人様のされように比べて、今回は苛烈でした」(ハル)
俺は右手を伸ばしてハルの白く短い毛の生えた猫耳を優しく弄る。ハルはくすぐったそうにしているが嫌がることはない。
「そうだな、そうかもしれないな」(ジュンヤ)
俺は早くこの大陸の戦国時代を終わらせたい。西大陸は平和になった。
中央大陸はブロガリアとクレアンスは力を失い、覇権を争うことはないだろう。
ガーランドは一応覇道を諦めてくれている。
魔人国は内戦が終わったばかりなので、すぐに動くことはないだろう。
後は東大陸であるが、エルフ国と鬼人国は今回の戦いで影響下に置くことが出来そうだ。
後、竜人国を何とかすれば、ほぼこの大陸から戦争を根絶できる。
そうなれば、そうだな、各国の名所に眷属を連れてお忍び旅行なんて良いんじゃないか?
それとも船旅でもするか、大陸一周とか他の大陸に行ってみるとかも良いな。
・・・どうも現実逃避になっちゃうな。ハルに心配させないようにしないとな。
騒がしい・・現実に戻ると部屋の入り口で騒いでいる奴がいる。
「何事だ?」(ジュンヤ)
いつの間にかうっとりとした顔になっているハルが真顔に戻る。
「部屋の入り口で師匠に合わせろとセシルと押し問答をしている少女が居ます」(マイア)
「具体的な用件を聞いてくれ」(ジュンヤ)
セシルに声を掛ける。
セシルが少女に用件を聞くと押しとどめる役をセシルに代わってこちらにやってくる。
「私達の仲間になって世界を平和にしたいと言っています」(セシル)
「フーン・・・マイア!こっちに連れて来てくれる」(ジュンヤ)
マイアは少女を俺の前に座らせた。
「で、君はどういう風に俺達に貢献したいの?」(ジュンヤ)
「私はキャールを言います。私は弓でエルフ国の少年の部で優勝しました」(キャール)
シーナより上、エルザより下って感じかな。薄い金色の髪に長い耳、整った容姿の典型的なエルフ族だ。
「ダークネス、彼女に精霊は居るのかな?」(ジュンヤ)
横に座るハルの髪の毛が黒く変わる。キャールが目をこれでもかと見開いて驚いている。
「この子からは精霊の力も大きな魔力も感じない。居ないね」(ダークネス)
それだけ言うとハルの髪の毛は元の白色に戻った。
「残念だけど君には俺達と一緒に戦う素質が無い。諦めてくれ」(ジュンヤ)
「ですが私は、外の世界に出て人の為に役立ちたいのです」(キャール)
「それは素晴らしい考えだと思うけどここでは出来ないのかな」(ジュンヤ)
「エルフは保守的で、女が前に出ることを許しません。女は一生日陰で暮らさなければなりません。どうかここから連れ出してください」(キャール)
キャールは必死だ。この世界では女に生まれたというだけで、何もできないのだ。
「エルフ王に俺の国に来たい人間を選んでおくように言っておいた。君もお願いしてみると良い。
あ、それから弓はもう時代遅れだ。いろいろやって見て、違うものを選んだ方が良い」(ジュンヤ)
「弓ではお役に立てないのでしょうか?」(キャール)
「そうか、分からないだろうな。見せてあげよう」(ジュンヤ)
俺は通路に出て窓から外を眺める。
「アステル、来てくれ」(ジュンヤ)
「何ですか?」(アステル)
アステル達は聖獣になって呼吸と声帯が出来た。訓練して普通に会話が出来るようになったのでキャールにもきこえる。
「連発銃を撃つから音が周りに漏れないようにしてくれるか」(ジュンヤ)
「分かりました」(アステル)
俺は収納から連発銃を出すと栗の木に残った去年の栗の実の皮を狙った。百m以上の距離がある。
「今からあの栗の木のイガを撃つよ。弓では狙えないだろう」(ジュンヤ)
あれに当てられるのかとキャールは疑い気味に頷いた。
パンパンと抑えられた音がして、イガが弾ける。
「分かったかい」(ジュンヤ)
これでも体から離れる兵器では、魔力障壁が越えられないので俺達の戦いでは意味をなさないのだ。
「・・・はい。信じられない」(キャール)
エルフ王にキャールを子供枠で推薦して置こう。
次回 錬金術師のソウキが鬼人国に残りたいと言い出します。




