第五話 村長と猫少女の気持ち
ジュンヤは村人に裏切られた?
村長の向かいに座ると早速、村長が話しかけて来た。
「魔獣を退治してくれるんですか」(村長)
「まだ魔獣がオークとしか聞いてない。どれくらいの群れなんだ?」(ジュンヤ)
「100頭はいないと思うが70よりは多いです」(村長)
「被害はどんなものだ?」(ジュンヤ)
「今は農作物だけですが、それが無くなれば人を襲うと思います」(村長)
「それでオークを退治したら報酬はあるのか?」(ジュンヤ)
「こんな貧しい村です。金目のものは無いです。この子をあげますから」(村長)
ちょうど猫少女がお茶を運んで来たところだった。ショックなのか止まっている。
エッ、アタイ(猫少女)をジュンヤ様に?。でもでもでも村のためには仕方ないよね。うん仕方ない。ソッカー、アタイなのかー。子供が出来たら人間、猫獣人どっちなんだろう。ああ、どうしよう。その前にこんなチビガリ嫌だって言われたらどうするの。そんなことないよ。ジュンヤ様優しいし、きっと、大丈夫だよとか言ってくれるのよ・・・・・・。
などと妄想を始める猫少女だった。
「この村を管轄する領主はいないのか?」(ジュンヤ)
「いません、この森は精霊様の領土です」(村長)
「一番近い村と大きな町は?」(ジュンヤ)
「近い村までは3日、大きな町までは5日です」(村長)
「海までは」(ジュンヤ)
「1カ月以上かかると思います。行ったことが無いので」(村長)
村長はなんでオークを倒すのにこの村の地理を聞くんだ? いくら強いのかも知れんがわしを馬鹿にしておるのか。若造が!!オークを退治したらお前は・・そうか、まだコボルトが居るのだな。もう少し下手で居よう。などと考えていた。
暫く考えて結論を出す。
「村長、この子一人では全然足りない。村人全員隷属契約でどうだ」(ジュンヤ)
村長が何か言いたそうにするが続ける。
「まあ聞け。オークを倒したところで精霊の加護が無くなったのだ。この冬をどうやって越える。しかもコボルトも近くに居る。あいつらは肉食だから村人を襲うぞ。
ここはほぼ大陸の真ん中だ。俺はここを活動の拠点としたい。そのために今の冬も越せない食糧事情の改善、魔獣を防ぐ防衛施設の設置、現金収入を目指し産業の育成をまずやりたい。そのために人がいるのだ。そのために村人が兵として働く必要もあるし、自分の食い扶持以上の食料生産もせねばならん。それには村人全員の協力が必要だ」(ジュンヤ)
「それはどのような内容なのでしょうか」(村長)
村長は出来もしないことを何を言っている若造が、と思っているが顔には出さない。
「食料増産は水利の開発と技術改善で十倍くらいの収穫になる。防衛施設は俺の魔法で石造りの塀で村を囲み、少数の常備軍と非常時には全員が防衛軍となって貰う。訓練後は恐らくオークの群れなど自分たちで処理できるようになる。産業はまず精霊の里にある湖で取れる塩を大きな町に売りに行く、当然馬車が通れるくらいの道も造る、何回か行けば向こうから買いに来るだろう」(ジュンヤ)
「ちょっと待ってください。いくら何でも」(村長)
そんな夢みたいなことに村人を使おうっていうのかと村長は思っていた。
「ではオークに滅ぼされるか、冬を越せずに滅ぶか」(ジュンヤ)
俺は立ち上がる。
猫少女が俺の足に縋りつく。
「アタイ、何でもするから!何をされてもいいから。村を助けて」(猫少女)
「村を助けるには君だけでは駄目なんだ」(ジュンヤ)
オークやコボルトを討伐したって冬は越せない。それが想像できないのか。俺は憤りさえ感じる。
村長が立ち上がった。
やれやれ若造は辛抱が足りん、命の保証と食料増産の手伝い位を条件で良いだろう。
「村人を説得してみます。少し時間が欲しいです」(村長)
「分かった。今日の日の入りまでだ」(ジュンヤ)
俺の感覚ではまだ朝の9時頃だ。日の入りまでは9時間位あるはずだ。
「ノーラ、アステル行くぞ」(ジュンヤ)
「どこにいく?」(ノーラ)
「ついて来てくれ。相談したいことがある」(ジュンヤ)
俺達は畑に来た。麦が実っている。出来は良くない。
俺の実家は田舎の農家だ。子供の頃から高校を卒業をするまで農業を嫌というほど手伝わされた。
だからここの農業が凄く原始的なのが解る。
まあそれだけ改善の余地があると言うことだ。
奥の方の麦の穂が揺れる。何かいる。
2頭のオークだ、2mの身長と人間の様な腕を持つ毛むくじゃらな猪である。
麦の茎を掴んで麦の穂を歯でむしり取って食べている。
ちょうど良い。ピストルが効くか試してみる。
俺は走り寄って20m位の距離でオークを撃つ。一頭に付き2発ずつだ。
一頭は倒れたが一頭はこちらに向かって走ってくる。
胸と腹に当たっているのだが致命傷になっていない。さらに距離が縮まりもう目の前だ。
タイミングを外して刀を抜きながら脇を抜ける。抜き胴だ。
そのままくるりと回って背中を斜めに斬り下げる。
ばたりと力なく倒れる。
コボルトの時の様な罪悪感は無い。慣れたのかな。
騒ぎを聞きつけた村人がやって来た。
まだ若い男が倒れたオークを見ていた。
「あのー、このオーク貰えませんか?」(若い男)
このオークを食うというのだ。まあ猪と思えばいいか。
俺もオークの肉も食って見るべきだと思った。食糧事情の改善に役立つしな。
それで若い男に一頭分をさばいて肉にしてくれたら一頭はやると言ってやった。
「分かりました。さばいて村長の所に届けておきます。ああ魔石はどうしますか?」(若い男)
魔獣には魔石と呼ばれる石が入っている。魔力をコントロール出来る性質を持っているので魔導具の核になる。なので売ると良い金額になる。それを目当てに魔獣を狩る者を討伐者とか冒険者などと呼んでいるくらいだ。
「預かっておいてくれ」(ジュンヤ)
若い男は何人か呼んで、村長の家の近くの小屋に運んで行った。
「相談って何よ」(ノーラ)
後からノーラが声を掛ける。オーク騒ぎで忘れる所だった。
「ここの農作物を君達の力で実り豊かには出来ないか?」(ジュンヤ)
精霊に出来るのなら精霊獣でも出来るかなと思ったのだ。
「そうね精霊様がいなくなった。加護が無くなったのなら今年は不作ね。だってこんなに土に力が無いのよ」(ノーラ)
流石は土の精霊獣見ただけでそんなことまで解るのか。
「僕たちには精霊様ほどの力は無いから難しいです」(アステル)
「ノーラも無理かい?」(ジュンヤ)
「そうね、わずかに土の状態を良くする位ね」(ノーラ)
川の様子や畑の様子、耕作地を広げるにはとか村人に質問しながら考えた。
そう言えば会議は終わったのかな。村人が外に居る。
村中を見て回っていると日が落ちて来たので村長の家に戻った。
朝の板張りの部屋に通された。
肉が出来ていたので収納に入れる。収納の中は時間経過を失くしているので痛まないのだ。
村長が出て来た。俺の前に座ると深く頭を下げた。
「お待たせをいたしました。村人の意見をまとめてきました」(村長)
自分たちを救って貰うんだ。よく考えたのか?
「聞こう」(ジュンヤ)
「あなたに隷属することは概ね了承いたします」(村長)
「概ねと言うことは条件があるということだな」(ジュンヤ)
「はい、単刀直入に申します。隷属後、人の売買の禁止、生命の危険がある命令の拒否権、婚姻の自由、食料の分配、これらをお約束頂きたい」(村長)
「随分虫の良い事を言う。大体軍を作ると言っているのに、命の危険がある命令を出せなければ成り立たんだろう。人を売ることを禁止、婚姻の自由、認められるのはこれだけだな」(ジュンヤ)
村長は難しい顔をしている。この若い男は村人を顎で使いたいだけではないのか?
「お前達はあれか、村の防衛も食料の生産も俺一人でやれというのか?」(ジュンヤ)
こいつらの考えが分からん、俺が助けなければ村人は十中八九死ぬ。なのにこんなバカな条件を付けてくる。何を話し合ったんだ。
「そうは申しません、手伝いは致します」(村長)
「俺は拠点を作ると言った。ここにずっといる訳じゃない。俺がいないときはどうするんだ?」(ジュンヤ)
「農閑期に遠征するとか考えて頂ければ大丈夫かと」(村長)
「俺は俺の思い通りに動く。お前達の指図は受けない。交渉決裂だな」(ジュンヤ)
「それは困ります。オークの討伐だけでもお願いします」(村長)
俺は席を立った。こいつらは何も考えてない。
食料の分配って自分たちで食料を作る気が無いのだろうか。
残った村長は考えていた。こいつは脅しているだけだ。必ず折れてくる。
だから引き留めるとこちらの条件を緩めなければならない。
なあに、こんな甘い奴だ。許してやるとか言って戻ってくるはずだ。
全く自分の村の危険も理解できないのか。
俺としてはかなり優遇したつもりだったがこれまで精霊の加護で楽をし過ぎたんだろう。
流石にもう話し合う余地も無いしな。
「で、どうするの?」(ノーラ)
猫少女には悪いがおんぶに抱っこじゃ助けられない。お別れだ。
「大きな町へ行って冒険者にでもなるかな」(ジュンヤ)
「私達は付いて行くわよ」(ノーラ)
「もちろんだ」(ジュンヤ)
広場に出ると多くの村人が居た。
「どうなった?」(若い男)
肉をやった若者だ。
「交渉決裂だ。お前らが村を守る気が無いのなら、俺が居たって仕方が無い」(ジュンヤ)
「どういうことだ、俺達はあんたがずっと村を守ってくれるとしか聞いてない」(若い男)
猫少女にここに来るときに見たコボルトの群れについて話さなかったのか聞いた。
「村長には話した。でも他には言うなって」(猫少女)
「コボルトも近くにいるって言うのか?」(若い男)
「そうだ、だから常備軍が必要だと言ったら、命の危険のある命令は聞けないと言われた。
俺もずっとここにいるつもりはないから、それではオークを倒してもいずれ滅びるから無駄だと思った。しかも精霊の加護が無くなったからこの冬を越すだけの食料が生産できないことも伝えた」(ジュンヤ)
「そんなことは聞いてない。八方ふさがりじゃないか」(若い男)
村長の奴、村人に危機を告げずに俺をはめようとしたのか。
「俺はこの村が生き残るための提案をしたが断られた。もうここに用はない」(ジュンヤ)
「ちょっと待ってくれ。じゃあ隷属契約って俺達が生き残る為だったのか?」(若い男)
「そうだ、お前達に思い思いの事をやられたら冬まで持たない。全員一致の協力がいる。そのためだ」(ジュンヤ)
「そろそろ行きましょう。日が暮れるわ」(ノーラ)
ノーラが服を引っ張る。アステルもうなずいている。
「周りを開けてくれ。飛べないじゃないか」(ジュンヤ)
猫少女が抱き着いて来た。
「待って、アタイ達を助けてくれ」(猫少女)
猫少女には情が移ったのか放っておけないと思った。
「お前だけなら連れて行ってやってもいい。一人で暮らせるまで面倒見てやろう」
「みんなが死ぬを分かっていて、一人だけ行けないよ。お願い、皆を助けて」
「そうだ、俺達が聞かされたのと話が違う。もう一度、話合わせてくれ」(若い男)
猫少女と若者が放してくれない。善良な人たちに暴力は振るえないし、困った。
そのうちに村人の殆どが広場に集まって来た。
若い男の話を聞いて村人たちに不安が広がる。あちこちでもめ始めた。
少し暗くなってきたし、もう飛べないな。
「分かった、分かったから、それじゃあ今日は村に泊るから明日朝一番に話を聞こう」(ジュンヤ)
俺は村長に話したこの村を救う為の方策を村人たちに話した。
もともと、これだけの人が無為に死ぬのが分かって居ながら、捨てておく事が出来ないのでここにいるのだ。もう一回だけ待ってみよう。我ながら甘い事だ。
村造りを開始します。