第四十七話 正教会と教皇
正教会に行きます。
青鬼ソウキと竜人族の少女ミカヅキを仲間にした俺は彼らを使って東大陸の情報を集めようと画策していた。
ソウキはこちらで化学工場を立ち上げさせるつもりなのですぐには動かせない。
慣れたら故郷に手紙を出させて鬼人族の仲間を募らせるつもりだ。
ミカヅキはこちらで鍛えて物になったら、故郷に凱旋させてこちらの駐在員としたい。
俺はこれらの事をエルザとオスカーにやらせようと思っている。もちろん鍛えるのはマイア達に頼むが対外的な情報収集はマリーからエルザを中心に替える。オスカーは学校にも行っているので施政者の実習の一環と考えている。マリーは商売を中心に据える。
鍛えると言えば勇者はもう教えることもほぼ無いのだが、マイア達と試合するのが面白いらしく帰るそぶりが無い。
「パティそろそろクレアンスに戻らないと怒られるんじゃないのか?」(ジュンヤ)
「まあ待て、私がこんなに強くなれるなんて、ここに来るまで分からなかった。もうちょっとマイア達と試合をすればまだ強くなれるんだ」(パティ)
「それは解るが一度クレアンスに戻って、また来ればいいじゃないか」(ジュンヤ)
「お前はそんなに私を追い出したいのか」(パティ)
「俺は正教会に睨まれたくないだけですぅ」(ジュンヤ)
「心配するな。ギルドの魔伝信で近況は伝えてある」(パティ)
「そうか、それなら大丈夫か」(ジュンヤ)
魔伝信とはギルドに設置された魔道具で、文字をほぼリアルタイムで指定したギルドに送るシステムだ。20文字も送れば金貨が2枚いる。
此方の地球の電報のようなシステムだ。
『ジュンヤさん、今いいですか?マリーです。ガーランドのハンナさんから念話で正教会の聖騎士百名がガーランドに来て、アルミアに向かうと連絡が有りました。彼らの目的が勇者の奪還らしいです』
「はあー!どういうこと」(ジュンヤ)
突然のマリーの念話に俺は慌てた。なんで勇者を取り返しにくる?
「おまえ!どんな魔伝信送ったんだよ?聖騎士がお前を奪還に来るって言ってるぞ」(ジュンヤ)
「そうなのか?ええっと「メシウマイ フロキモチイイ カエレナイ」だったかな」(パティ)
「あほか!お前の目的は飯と風呂なのかよ!?」(ジュンヤ)
「そんなに怒らなくてもいいだろう。来たら事情を話して帰って貰おう」(パティ)
「今、ヤマトは正教会に敵認定されてるの。行くぞ!」(ジュンヤ)
「え、どこへ」(パティ)
「聖騎士のとこだよ。誤解を解かないと駄目だろ」(ジュンヤ)
「ジュンヤが行って謝っといてくれ。私は飛べないからな」(パティ)
「お前が行かないと誤解が解けんだろうが!!」(ジュンヤ)
「分かった。分かったから怒らないで」(パティ)
俺はハルを呼んで勇者をおんぶさせて、早速ガーランドに向かった。
三時間ほどでガーランドを移動する聖騎士の集団を見つけた。
先頭に降りて聖騎士を止めた。
「ヤマト国の主席ジュンヤだ。誤解があったようなので来た。おいパティ」(ジュンヤ)
「ご苦労!私は剣の修行をしているだけだ。だから帰っていいぞ」(パティ)
馬を降りた聖騎士が近寄って来た。
「私はこの隊の隊長をしている者です。勇者様、私達は子供の使いではありません。きちんと教皇様達に申し開きをして下さい。そうしないと帰れません」(隊長)
「何を言っているのだ。私が拉致されていなければ良いのだろう。それが分かったのだからそう報告すればいいではないか」(パティ)
「突然いなくなったと思ったらヤマト国から意味不明な魔伝信が来るし、こちらは大混乱でしたよ」(隊長)
「うう、仕方ないのだあ」(パティ)
「じゃあな、しっかり弁明して来い」(ジュンヤ)
「ちょっとお待ちください。ジュンヤ様も一緒に来ていただければ話が速いかと」(隊長)
「そうだジュンヤが来れば教皇もあまり怒れない。一緒に来い」(パティ)
「ええ、俺は純然たる被害者なのにぃ」(ジュンヤ)
「ご主人様、ここまで来れば仕方ないかと」(ハル)
「そら、ハルも言っている。諦めろ」(パティ)
俺の背中をバンバン叩く。
こいつのせいで教皇に弁明をすることになったのにはしゃいでいやがる。
「ああもう、隊長さん背中に乗ってください。急ぎますから飛んで行きます」(ジュンヤ)
残りの聖騎士を帰して、俺は隊長を、ハルが勇者をおんぶしてクレアンスの正教会に行くことにした。
デカい、その一言だ。教会がソルトレイクの内壁内位の大きさだ。3万人は住める。
正門前で降りて門をくぐり、その建物を見上げる。
大理石だろうか?白い石を積んだ建物が高さ数十m、幅は両端が見えない。
建物に入ると礼拝堂がある。
奥行きが500m、幅は300m位、奥中央の少し高くなった神像を中心に扇の形をしている。
恐らく十万人は座れる席がある。
「どうです。すごいでしょう。感謝祭の時にはこの礼拝堂に入れないくらいの人が集まるんですよ」(隊長)
「はあ」(ジュンヤ)
宗教って儲かるんだなぐらいの感想しかないよ。
礼拝堂の脇の廊下を真っ直ぐに30分歩いているがまだ教皇区に着かない。
「まだか」(ジュンヤ)
「もうすぐだ」(パティ)
俺は勇者に聞いてみたがまだあるらしい。
それから5分位で教皇区に着いた。
「今教皇様は第八礼拝堂にいらっしゃいます。第十二応接室でお待ちください」
教皇区にいた受付の修道女が極めて事務的に言った。
「ちなみに待ち時間はどのくらいですか?」(ジュンヤ)
「さあ?」
不愛想な修道女が答えた。
先触れが門から走っているはずなのに予定も分からないのか。イラついて来た。
「なんだ怒っているのか?教皇が人を待たすのは日常茶飯事。ましてや今日は飛び込みだから今日中に会えれば良いんじゃないか」(パティ)
「俺は君に無理やり連れて来られたんだが?」(ジュンヤ)
俺は勇者の頭をゲンコツでグリグリしたい欲求に駆られている。
「ほら短気は損気と言うではないか」(パティ)
無駄に大きな建物の中を歩いて10分、ようやく第十二応接室に着いた。
「もう今日は歩かねえぞ」(ジュンヤ)
「何だ疲れたのか?ひ弱な奴だな」(パティ)
「この無駄にでかい建物に疲れてるんだ」(ジュンヤ)
「だから、ここはガーランドも攻められないんだ。防備も厚いしな」(パティ)
そう言うことか。このデカい建物は宗教の独立を意味しているのか。
ドンドン、とドアが乱暴にノックされた。何だ?
隊長が扉を開けようとした時、乱暴に扉が開け放たれた。吹っ飛ぶ隊長。
ハルと勇者が身構える。
「誰ですか!!?」(ハル)
ハルがいつの間にか収納から双剣を出している。
「おう、ハロルド悪かったな。俺は偽物がいると思ったもんでね」
「ジロンか!何をするんだ」(隊長)
隊長、ハロルドって言うのか。それでこの傍若無人なでか物がジロンか。
「ジロン何の用だ!無礼だろう」(パティ)
「勇者様もこの偽物に騙されちゃったんですかあ。エヘヘヘヘ、こいつが世界の王なんてありえないでしょう」(ジロン)
ジロンは俺に睨みつけている。どうも俺を挑発したいらしい。
バッとハルが俺とジロンの間に入って双剣を構えた。
「それはご主人様に向かって言っていますか?」(ハル)
「なんだメイドの後ろで震えているか。飛んだ臆病もんだぜ。ゲヘヘ」(ジロン)
「やめておけ!ジロン、そのメイドは私より強いぞ」(パティ)
「あなたは聖騎士として何人の人を救いましたか?ご主人様はすでに数十万人の命を救い、何万人の人に豊かな生活を与えています。何をもって偽物呼ばわりするのですか?」(ハル)
ハルが切れると怖いからその辺にしときなさい。まえに一回切れてるからね。
「俺は人を救うのが仕事じゃねえんだよ。教会の敵をぶっ殺すのが仕事なんだよ。こんな小っちゃい小娘が強い訳ないだろう。勇者様も目が曇ってますねえ」(ジロン)
仕方ない。ハルを下がらせた。
「君は俺がどうすれば満足なんだい」(ジュンヤ)
「痛い目に会いたくなければ俺に土下座して謝れ。そしたら無事に帰してやるぜ」(ジロン)
「つまり、君は俺が教皇に会うのが問題だと言いたいのかな?」(ジュンヤ)
「当たり前だ!猊下は尊いお人なのだ。偽物が会っていい人じゃねえんだ」(ジロン)
「君の意見は有り難いのだが、何せ俺はそこの隊長と勇者に無理やり連れてこられたのだからな」(ジュンヤ)
「お前がこいつらを騙してるんだろうが!!」(ジロン)
「ここで俺が君の言い分を通せば、今後活動しにくいのだ。でどうすれば分かって貰えるのかな」(ジュンヤ)
「お前は俺が半殺しにしてやるからそこでおとなしくしていろぉ!!」(ジロン)
「半殺しには成りたくないので抵抗しても良いかな」(ジュンヤ)
「勝手にしろぉ!!」(ジロン)
2mを越える大男のジロンが右手で殴りかかってきた。
俺は左手でジロンの右袖口を掴み、右手で横襟を掴み、くるりと回ってジロンの右腕を右肩に乗せて、両腕を引き、ジロンの体を腰に乗せ投げ飛ばす。
俺は武道はすべて師範並みなので大概の奴なら柔道で投げ飛ばすことが出来る。
受け身を知らないジロンは、背中から落下して自分の全体重が体を圧する。
ジロンは床を転がりながら唸っている。
「ジュンヤ、今の技は何だ。ジロンが吹っ飛んだぞ」{パティ)
「柔道の袖釣り込み腰と言う技だ」(ジュンヤ)
俺はドアで吹っ飛ばされて倒れてるハロルドの所に行き、トリートメントを掛けてやる。
「大丈夫か?」(ジュンヤ)
「済まない、身内が無礼をした。あれ、さっきまですごく痛かったのに治ってる」(ハロルド)
昔は打ち身に効きにくかったが今は大丈夫だ。
「隠れてないで入ってきたらどうです?」(ジュンヤ)
俺以外の3人が「え、」って顔をする。
ドアの影から豪勢な服を着た老人が現れた。
「教皇猊下」(ハロルド)
教皇は俺達の向かいの椅子に腰かける。
教皇の後ろには屈強な男が二人立っている。
「ハロルド、なぜここにいる?」(教皇)
「はい、勇者様と途中で会いまして、命令に誤解があったと分かりましたので、勇者様とヤマト国のジュンヤ殿に事情を説明頂くためにお連れいたしました」(ハロルド)
「ふん、そのまま攻め込めばいいものを」(教皇)
教皇は俺を悪意の籠った目で睨んだ。この世界に転移して初めての躊躇の無い悪意だ。
「猊下、私はヤマト国で剣の修行をしていただけなのだ」(パティ)
「そんなことはどうでもいい。こやつが世界の王を名乗っているのが問題なのだ」(教皇)
「俺は自分が世界の王だと名乗った覚えはないぞ。周りが勝手に言っているだけだ」(ジュンヤ)
ジロンがダメージから立ち直って立ち上がった。鬼の形相で俺を睨んで今にも飛び掛ろうとしている。
「ジロン!下がれ!役に立たん奴だな」(教皇)
ジロンは衝撃を受け、項垂れて部屋を出て行った。
「猊下、私はジュンヤの所でもう少し修行がしたい。許可をくれ」(パティ)
教皇は勇者を睨むと吐き出した。
「許さん!ギズモニアの聖女を盗まれたのにお前まで奪われたらシャレにならん」(教皇)
「失礼だな。聖女は自分が俺の眷属だと分かったからついて来てるだけだぞ」(ジュンヤ)
「とにかく、正教会はお前を認めん。分かったか!」(教皇)
「何が気に入らないのか教えて貰えるか」(ジュンヤ)
「うるさい!なんでわしの時に現れるのだ。全く」(教皇)
「そうか、帰ることにするよ」(ジュンヤ)
「待て私の修行はどうなる」(パティ)
「知るか!教皇に言え」(ジュンヤ)
「猊下ぁ」
勇者は上目遣いでお願いするが教皇は無視をする。
「ああ、勇者の修行の礼金だ。受け取れ。これで貸し借りは無しだ」(教皇)
教皇は革袋を俺に投げる。
俺は中身も確認せずに収納に入れ席を立った。
次回、現在の状況を振り返ります




