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第四十五話 俺の弁護と勇者対マイア

勇者に魔王認定されそうになり、俺が住人を虐めていないことを証明します。

マイアが勇者に試合を申し込みます。

 住人を奴隷にする魔王としてジュンヤを見る勇者パティ、隷属した住人たちの姿を見せて誤解を解こうとしたジュンヤだった。


 ヤマト国 ソルトレイク 内壁内 俺

「ここに住む人々は俺と隷属契約を結んでいる。どうだ苦しんでいるように見えるか?」(ジュンヤ)

「確かに苦しんでいるようには見えないが、奴隷にしていることは確かだ」(パティ)

 まだ奴隷と言う言葉に拘っているようだ。

「その理由は説明するから、俺の家に来い。腹が減って来た」(ジュンヤ)

 酔っ払ったカンナを部屋に放り込んできたマイアとハルも戻って来たので家に戻ることにした。


 家の食堂ではすでに夕食を食べていた。

「誰か、この子の食事を用意してあげてくれ」(ジュンヤ)

「では私が用意しますね」(シルビィ)

「済みません、シルビィさん」(ジュンヤ)


 俺達の食事が揃ったところで夕食を取り始めた。

「今日は祭か何かか?」(パティ)

「いや、普通の日だが、何かあったか?」(ジュンヤ)

「この肉の塊や、鳥の卵を調理したものが出てるではないか」(パティ)

 確かに鶏のもも肉の照り焼きと卵スープが出てるな。


「君は鶏の料理が嫌いか?魚か牛かブタが良いか?」(ジュンヤ)

 この頃は南の海まで線路が通じたので魚も豊富に食べられる。

「いや、普通の日にこんなぜいたく品を食えるわけないだろう。寮の食堂でも肉を食ってたし・・」(パティ)


 そう言うことか。俺はまず食糧事情の改善に取り組んだからな。たんぱく質の摂取は積極的に進めた。

「ここでは皆毎日食ってるぞ。そういやセシルやエルザも驚いてたな」(ジュンヤ)

「そうですよ、皇帝だってこんなもの食べられないですよ」(エルザ)

「僕もう帰りたくないかも」(オスカー)


「この人たちは?」(パティ)

「ガーランドの第一皇女と皇太子だ。皇帝に無理やり押しつけられた」(ジュンヤ)

「お前の国はどうなっておるのだ。さっき道で会ったのはピョートルのデジレ師だったろうが」(パティ)

「まあ、説明するから料理が冷えないうちに食え」(ジュンヤ)


 夕食が終わって俺は勇者にこの国の成り立ちを説明した。

「ちょうど一年前、俺は魔法を覚えるため精霊の里に来た・・・・

 それで農業改革やインフラの整備をするために住民の一致団結が必要だったので隷属契約を強要した。それが最初だ。・・ということで各所の難民をまとめるため、差別や犯罪を許さないため新しい住人にも隷属契約を勧めた。もちろん強制的ではない。少数だが隷属せずにジニアやオタルに住む人もいる。

 ・・それで隷属している住人に契約の解除を打診したが怒られたよ。私達を見放す気かってね。

 それで今でも隷属が続いている訳だ」(ジュンヤ)


「無条件で信頼できる隣人か。しかしそれを強制的にやるのは間違ってると思う」(パティ)

「そうだな。俺もそう思うが代替えとなる形態が無い」(ジュンヤ)

「つまり必要悪であると言うのだな」(パティ)

「君が代わりに出来ると言うのなら代わっても良いぞ」(ジュンヤ)

「いや、クレアンスの正教会の中でもあのカンナと言う少女の様に無防備では居られない。私には無理だ」(パティ)


「勇者様!私はギズモニアの聖女であった者です。私達は戦う修行僧として育てられました。でも私達が守るのは信者ではありません。教会や司教様、司祭様です。魔獣に脅かされる信者たちは放置されます。なぜですか?私の信仰は迷いましたが少しでも人々の為に戦えるここに居ます」(セシル)


「正教会本部もアルミアほどではないが、信仰より自身の保身や出世を重要視する人が多い。

 しかし正教会が信者の心の癒しになっているのも事実。

 私は私が正しいと思ったことをするだけだ。君もそうすればいい」(パティ)


「で、俺への魔王の嫌疑は晴れたのか」(ジュンヤ)

「そんなものは汽車に乗った時から晴れているさ。魔王があんなものを造るわけがないからな。後は形式だよ」(パティ)


 マイアが立ちあがった。

「難しい話は終わりましたか?チャールズさんが私より勇者の方が強いと言ったそうですが、私と一手試合をして貰えませんか」(マイア)

「君達が本気で魔法を撃ったらソルトレイクが更地になってしまうからやめてくれ」(ジュンヤ)

「面白い、私に挑んでくる奴など、ついぞいなかった。魔法抜きの剣の試合なら問題なかろう」(パティ)


「それなら仕方ないな。もう外は暗いから明日ね。君達、勇者とお風呂へ行ってきなさい」(ジュンヤ)

「風呂だと!!風呂があるのか?」(パティ)

「一緒に行きましょ。私、勇者様の武勇伝を聞きたいわ」(シーナ)


 女性たちが風呂に行き、俺がフウーッとため息を吐くとオスカーが俺の肩を叩いた。

「世界の王も大変だな」(オスカー)

 ガキに同情されちゃったよ。


 次の日の朝も大変だった。

「この四角いものは何だ、この白い液体は何だ」(パティ)

「これは食パンを焼いたトースト、これは牛乳です。サラダと目玉焼きは分かりますよね」(ハル)

「トーストは香ばしくて中が柔らかくてうまいぞ。お替りだ。しかしこの白いのは飲みにくい違うものは無いか?」(パティ)

「ではブドウのジュースがありますから、ちょっと待ってください」(ハル)


「勇者よ、教会でもそんなに我ままなのか?」(ジュンヤ)

「教会でこんなことを言ったら飯を抜かれる。言える訳無いだろ。ここだから言ってる」(パティ)

「おまえなあ。はあー」(ジュンヤ)

 オスカーがこちらを見てニコニコしてる。

 あいつこの頃、俺が凹まされてると嬉しそうにするんだよなあ。


「おまえ、その泥水みたいなのは何だ」(パティ)

「これか、コーヒーという飲み物だ。近頃ようやく量産の目処が立った」

 コーヒー豆・サトウキビは量産のめどは立ったが胡椒は苦労しているようだ。


「私も飲みたい」(パティ)

「やめとけ、子供舌のお前には無理だ」(ジュンヤ)

「なにい、そんなことあるか!飲ませろ!」(パティ)

「ハル、カフェオレを作ってやれ」(ジュンヤ)

 ハルはハイと返事をして台所に消えた。


「カフェオレとはなんだ」(パティ)

「コーヒーに砂糖とミルクを入れて、飲みやすくしたものだ」(ジュンヤ)

「私はコーヒーを飲みたい」(パティ)

「じゃあ、これを飲んでみろ。一遍に飲むなよ」(ジュンヤ)


 俺のマグカップを差し出す。

 マグカップに口を着けて飲む。

 顔がクシャクシャに歪む。

「にが、苦い!こんなもの飲めるか」(パティ)

「だから言ってるだろ」(ジュンヤ)

 そこにハルがカフェオレの入ったマグカップを持ってくる。


「これなら飲みやすいです」(ハル)

「本当かあ?」(パティ)

 一口飲んでにっこり微笑むと一気に飲み干した。

「うまいぞ、もう一杯くれ」(パティ)


 こんな調子の朝食が終わり、いよいよ勇者対マイアの試合が始まる。

 内壁の外の訓練場を貸し切ることにした。周囲にはいつの間にか観客が集まっていた。

 俺も勇者の剣術には興味がある。

 得物は刃をつぶした鉄剣だ。

 訓練場の中央に10m程離れて対峙した。


「行くぞ覚悟は良いか」(パティ)

「どうぞ」(マイア)

 勇者が走る、速い、あっという間に間合いを詰めて横薙ぎに剣を振る。

 マイアは半歩下がって剣を避けて正面で面を打つ。

 勇者は引き戻した剣でマイアの剣を弾く。凄まじい力だ。

 普通、振り切った剣を簡単には引き戻せない。


 マイアが一歩下がると勇者は振りかぶった剣で面を打ってくる。

 マイアは左足を引き、剣を避けると同時に胴を抜き打つ。

 勇者は後ろ脚で飛び上がり、前回りでマイアの剣を避ける。

 勇者は一回転半捻りでマイアに向かって立ち上がる。


 勇者はニヤッと笑って剣を振り回し始める。凄まじい速度で上下左右に軌道変更しながら振り回す。

 周りの土埃が舞い上がり、さながらつむじ風のようだ。

「あれなら私でも勝てる」(セシル)

 横で見ていたセシルが零す。


 マイアはフーと息を吐くと無造作に近づいて行き、剣を横薙ぎに振るう。

 ギンと鈍い音がして勇者の剣が飛ばされる。

 剣はくるくると回りながら30m位飛んで勇者の手に納まった。

 いつの間にか勇者が剣の落下点に来ていた。


「リミッター掛けたままだと勝てないか。大概は勝てたんだけどね」(パティ)

 勇者に向き直ったマイアを見て言った。

「来いっ」(マイア)


 ドンッ!!と言う音で踏み切った勇者がマイアに向けて跳んだ。

 上段から振り下ろした剣を受けたマイアは後ろに吹っ飛ばされる。

 同時に剣を振り下ろした場所には直径1mのクレーターが出来ていた。


 今度は吹っ飛ばされたマイアに向かって、勇者が剣を担いでゆっくり歩いて行く。

 今度はマイアが突っ込む、左から右に振った剣を左手一本で持った剣で受けると同時に、右手でマイアの腹に拳を打つ勇者。


 左手で拳を逸らして半回転しながら右手の剣の柄で勇者の顔面を狙う。

 勇者はそのまま下にしゃがみ込み、右下から左上に片手の剣を振るう。


 マイアはそのまま前に出て体を密着、勇者の左わきに右腕を入れ、下手投げを打つ。

 こう密着されては勇者の速さも力も殺される。それがマイアの狙いだ。もう一つは・・・・。

「あれは私がマイアさんにやる戦法ですね」(ハル)


 至近距離で斬り合う二人、なかなか決定打が出ない。

 段々集中力を失くし、対応が雑になる勇者

 勇者が無防備に攻めた腕を打ってマイアが勝った。


 二人が俺の所へ来た。

「パティは負けるのは初めてか?」(ジュンヤ)

「勇者になってからは初めてだ。でもなんで負けたか分からない。私の方が速かったし力もあった」(パティ)


「マイア、パティがリミッターを外した時に派手に吹っ飛んだのは演技だろう?」(ジュンヤ)

「はい、パティの打ち込みは刃筋がずれているし剣先もぶれているから受けられると思いました」(マイア)


「それでパティが油断してマイアを懐に入れた訳だ。何時もハルにやられる奴だ」(ジュンヤ)

「いつもではありません。時々です」(マイア)

「つまりパティは剣の基本が出来てないのと強い奴との練習が足りない。速さと力は素晴らしいがそれを生かす方法を知らない」(ジュンヤ)


「そうか‥‥剣の基本と強い奴との練習か。二つが揃うのはここだな。ジュンヤ、しばらく世話になるぞ。費用は正教会に請求してくれ」(パティ)

「ここに住むなら最低でも守秘の契約を結んでもらわないと駄目だ」(ジュンヤ)


「おう、守秘で隷属でも構わんぞ」(パティ)

「お前と隷属契約なんか結んだら正教会に睨まれる。守秘の契約をするぞ」(ジュンヤ)

「うむ、好きにしろ」(パティ)


「そう言えば俺が住民を苦しめているって言った奴は誰だ」(ジュンヤ)

「確かアーモデウス商会の奴だ」(パティ)


「アーモデウス商会はこの大陸で上層階級を相手に商売している商会ですね」(マリー)

「俺がその商会に恨まれてるのか?」(ジュンヤ)

「いえ、主に私が彼らの縄張りをどんどん蚕食しています。より良い商品をより安くギルドを通じて販売しているのでかなり影響を受けているでしょう」(マリー)

「そうか、それならいいよ。自由競争は大事だ」(ジュンヤ)

次回東大陸に住む、鬼人族と竜人族がジニアに現れます。

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