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第四十四話 世界の王と勇者の来訪

ドラゴンの言った世界の王の秘密。

ジュンヤはどうするのか?

 世界の王が一人ではない。

 本当なのだろうかドラゴンのバルトが言った言葉に動揺が隠せないマイアとハルであった。

「確か本聖書の欠落部分は聖女が知っているはずだ。セシルに聞こう」(マイア)

 二人は慌てて帰途に就いた。


 ヤマト国 ソルトレイク 俺の家 食堂 俺

 ドラゴン騒ぎで時間のロスがあったので二人が着いた時には昼食の真っ最中だった。

「話は念話で聞いた。まずは落ち着いて昼食を食べろ」(ジュンヤ)

 慌てて駆けこんできた二人に俺は言った。


 二人が食べ終わるのを待つことにした俺は他の者を見た。シルビィ、オスカー、シーナは学校へ行っているのでここには世界の王の眷属と聖獣しかいない。


 昼食を食べ終わった二人は朝の出来事を話した。

 気になったのは竜種が精霊種ではないかという事。

「ノーラ、分かるか?」(ジュンヤ)

「私は分からないわ、ボルクなら近くに居たんだし分かるんじゃない」(ノーラ)

「オイラは何回かドラゴンに会ったことがあるよ。あいつらは精霊の巣にも入れたし、精霊種だと思うよ。でも詳しいことは分からない」(ボルク)


 精霊の巣には俺も入れなかったから精霊種だと言うのは確実みたいだ。

 そうなれば彼らが魔元素で出来た体を持っていることになる。

 今回のドラゴンが子供だったのは、ノーラ達みたいに魔力を増やして行って成長するんだろう。

 今のところ、我々に敵対する意思は無さそうだ。流石に大人のドラゴンがそれも大挙して攻められたくはない。


 次は世界の王の件だ。

「マイアが世界の王の眷属だと名乗ったら、他にも世界の王がいるようなことを言われたと言うことだ。セシル、君が世界の王の事を言いにくいのは分かるから、言えるだけで良いから話してほしい」(ジュンヤ)


「師匠が話せと命令すればセシルは断れません。話せと命令すべきです」(マイア)

「俺が今の体制を築けたのは住民に自由を与えているからだと思う。そのことは二度と言うな!」(ジュンヤ)

「はい」(マイア)


「済みません。我々の口伝では具体的に何人の世界の王がいるのかは分かりません。ですがテンカフブを経て最終的に一人に絞られると言うことです」(セシル)

「テンカフブってなあに?」(マリー)

「分かりません」(セシル)

 アーリアが言っていたという天下布武はここで出てくるのか。しかも真の世界の王を決める戦いが。


「天下布武と言うのは武力で世界を統一すると言うことだ」(ジュンヤ)

「戦争でですか?」(マリー)

「そうだ、俺の性格では天下布武と言うのは違うと思うし、武力で征服なんてやらない」(ジュンヤ)


「でもそれでは他の世界の王に負けることになるのでは」(マイア)

「住民の自由と生活が保障されれば負けてもいいさ」(ジュンヤ)

「いやです。師匠の負ける所など見たくありません」(マイア)

「そう言うな。俺は世界征服など考えていないし、この西大陸が平和を守る力を手に入れれば、ハル達の依頼をこなしたことになると思ってやっているだけだ」(ジュンヤ)


「俺が世界の王なのは、そうなのだと思う。しかし聖書の通りにやるつもりはない。俺に着いてくるかどうかはお前達の自由だ。君達はどうしたい?」

 俺はみんなの意見が聞きたくなった。


「あんたに着いてくって言ってるでしょう」(ノーラ)

「その通りです。あなたが我々に生きがいと言うものをくれたのですよ」(アステル)

「アステルが言った通りよ」(レイコ)

「オイラも着いてくぞ」(ボルク)


「ご主人様が例え一人になろうとも私は横に侍ります」(ハル)

「今更結婚したくないって言っても逃がさないわよ」(マリー)


「私は何が出来るのか分かりませんが、あなたに着いて行きたいです」(エルザ)

「私はジュンヤ様が人々を幸せに導くところを見たい。恐らくは世界はジュンヤ様に気付くと思います」(セシル)


「私は師匠を負けさせません。もっともっと強くなります」(マイア)


「あ、それから世界の王は一人でないことと戦いがあることが分かった。俺が世界の王であることや君達が眷属なことは秘密にしてくれ」(ジュンヤ)


 ******


 ソルトレイク 俺の家 執務室 俺

 マリーは移民の中から才能の高いものを選んで、ギルドの仕事を任せ執務室にいる。

 エルザも俺の仕事のうち政治向きの仕事をフォローできるように勉強中だ。

 ハルは俺のメイドとしてここにいる。護衛や討伐の仕事はセシルに代わった。

 マイアとセシルは獣人国の依頼で魔獣の討伐に行っている。

 前の討伐費用も未払いなのに討伐依頼だけは絶え間なく来る。


 獣人国の台所は火の車だ。それは解っている。だが現金収入の道を自ら切り開くつもりが無い。

 仕方ないので綿花の栽培と繊維産業を持って行って、何とか再生しようと思っているが特に領主たちの協力が得られずに難しい。


 そこで鉄道を王都まで引くことにした。綿花の生産を引き受けた領には駅を作ってやることにした。

 領主たちは手の平を返して今度は早く鉄道を引けと言い出す始末。おかげで王都までに50もの駅を作ることになった。建設費は綿花の利益で支払うことになるので自分の腹は痛まない。


 王都まで行くのに最大一か月も掛かっていた領主もいるので、1日で行ける鉄道を熱望しているし、鉄道の無い領主に対して優越感に浸れるのだ。


 つい愚痴が出てしまった。まあ獣人国の再生は今年の綿花の生産で決まるだろう。


「ギズモニアの定時連絡ですが、問題が出ています」(マリー)

 獣人国の再生を考えていた俺にマリーが報告する。

 何だろう。あの王が何かやらかしたか?ギズモニアは地力の大きな国なのであまり手を掛けてない。

 ただ王に不安定さがあった。


「王がやらかしたか?」(ジュンヤ)

「いいえ、今回は王ではなく勇者がクレアンスから帰っているのですが、ジュンヤさんが魔王ではないかと疑われているようです」(マリー)

「俺が魔王???どういうことだ?」(ジュンヤ)


「分かりません。昨日ギズモニアを出て大河を遡っているようです」(マリー)

「チャールズさんに聞くしかないか。チャールズさんが空いてたらすぐに来てって連絡して」(ジュンヤ)

「分かりました」(マリー)


 チャールズさんはすぐにやってきてくれた。

 クレアンスにある正教会本部やギルド本部は中立なので、ガーランドの攻撃は受けていないそうだ。

「厄介な人に睨まれましたね。幼い頃は思い込むとなかなか意見を変えず突っ走る人でした」(チャールズ)

 チャールズさんの人物評である。


 勇者は幼くして見出され、正教会本部で訓練を受けていたはずで、その実力はマイア以上ではないかと推測される。

 今までの勇者で言うと魔法の威力が凄くて、まさに魔王を倒すために作られた人間兵器だ。恐らく今代の勇者も同じ力を持っている。


「勇者がオタルに着いて、ソルトレイク行きの汽車に乗ったようです」(マリー)

「ゴクッ」エルザが唾を飲み込んだ。

 この時間に着いたと言うことは汽船に乗ったと言うことだ。機械文明への忌避は見られないのか?

 なぜ俺を魔王と思うのか?


 勇者の乗った汽車がソルトレイクの駅に着く時間だ。

 暫く待ったが勇者が街に入ったという連絡が無い。

「どうしたんだ?」(ジュンヤ)


「・・・・折り返しの汽車に乗ってオタルに向かったようです」(マリー)

 出迎えるかと用意していたが肩を空かされたようだ。

「何を考えている?」(ジュンヤ)

「さあ、もしかすると乗客にあなたの情報を聞いているのかもしれません」(マリー)

 そうすると油断できないな。俺を悪く言う奴はいないと思うが・・・。


 結局勇者はソルトレイク―小樽間を二往復半して、ソルトレイク駅に降りたのはもう夕方になっていた。

 門番から勇者と名乗り、俺に面会を求める少女が居ると連絡が有った。


「え、少女?女の子なの?」(ジュンヤ)

「歴代の勇者はすべて女性です」(マリー)

 それが当たり前のように言われてもずっと男だと思ってたよ。


 ソルトレイク 迎賓館 応接室 俺

 ハルが門まで迎えに行って、勇者を迎賓館に連れて来た。

 ハルと変わらない背格好で当然人間だ。由緒の有りそうな鎧や剣を身に着けている。

「正教会の今代勇者パティという。よろしく」(パティ)


 俺の向かいに立ち名乗った。

「ヤマト国主催のジュンヤです。よろしくお願いします」

 マリーも挨拶して、握手をして座る。


「あの汽車と言う乗り物は面白いな。改札を通らなければ何往復でも出来ると聞いたので、夕方まで乗っていたぞ」(パティ)

 何だよ。子供みたいに喜んで乗っていただけかよ。深読みしすぎたな。

「3年のうちに汽車を西大陸全部の国に走らせるつもりです」(ジュンヤ)

「そうかそれは楽しみだ・・・あ、いやそうではないのだ」(パティ)


「どうされましたか?」(ジュンヤ)

「お前が人々を奴隷にして苦しめていると聞いた。観念せよ!!」(パティ)

 勇者は立ち上がってジュンヤを指差した。


「隷属させているのは確かですが、苦しめてはいないと自負します」(ジュンヤ)

 俺は真っ向から反論した。俺は苦しみから救うために隷属させたのであり、苦しませることはない。


「奴隷にしていることは認めるのだな!大人しくお縄に着け」(パティ)

 勇者は剣に手を掛けた。同時にマイアが俺の前に出て剣に手を掛け、ハルが気配を断った。

「やめろ!!パティさんは勘違いされているだけだ。手を引け」(ジュンヤ)

 マイアが俺の横に下がり、ハルはまだ気配を消している。


「俺が住人を苦しめているかどうか、見て貰えばわかる」(ジュンヤ)

「分かった、見せて貰おう」(パティ)


 内壁の中に入り、家族のだんらんを壊すのは申し訳ないので独身寮に行く。定時は一時間以上前に過ぎているはずなので、今頃食堂にカンナたちがいるはずだ。


 勇者は俺の二歩後ろを着けてくる。何かあったら抜き打ちにするつもりだ。

「ここが独身寮だ。今仕事が終わった住人がご飯を食べてるはずだ。俺が苦しみを与えてるかどうか見てくれ」(ジュンヤ)


 独身寮の食堂に入ると食事をする人でごった返している。

「ああ、ジュンヤさん。ヒック」

 突如女が抱き着いて来た。カンナだ。

「おまえ、もう飲んでるのか?」(ジュンヤ)

「はい、わらしは明日と明後日は非番なので、今日は朝まで飲むのです。いけませんかあ」(カンナ)


 カンナが絡み酒とは初めて知った。

「いけないとは言わないが、若い女がそんなに酔っ払ってちゃ危ないだろ」(ジュンヤ)

「何言ってんですか。ここにはいたずらするような人はいないのは知ってるじゃないですか」(カンナ)


「そうだけど。世間体ってものがあるだろ」(ジュンヤ)

「分かりました。ジュンヤさんならいたずらしても良いです。どうぞ」(カンナ)

 両手を広げたカンナをマイアとハルが、素早く両脇を抱えて部屋に連れて行った。

 食堂に居た人々が二人の素早い対応に拍手をする。


「済まない、普段は大人しい子なんだが」(ジュンヤ)

 勇者はプッと噴出した。

 そこにデジレと市長が現れた。


「おお、ジュンヤ殿、新しい眷属か?」(デジレ)

「違いますよ。今代の勇者様ですよ」(ジュンヤ)

「勇者様ですか。ソルトレイク市長です。ゆっくりして行って下さい」(市長)

「お二人はどうしたのですか?」(ジュンヤ)

「わははは、二人して女房にあまり早く帰ってくるなと言われて、この先の酒場で時間つぶしだ」(デジレ)

「それは可哀そうに」(ジュンヤ)

「いやいや、今ではデジレさんと女房の愚痴を言いながら、ちびちびやるのが楽しくって」(市長)

「わしはそんな愚痴など言っておらんからな。女房にそんな事言うなよ」(デジレ)

「解ってますよ」(ジュンヤ)

二人は居酒屋に消えて行った。


「みな、お前の奴隷か?」(パティ)

「そうだよ。俺は奴隷だなんて思ってないけどね」(ジュンヤ)

勇者が俺を魔王認定?弁明させろよな。

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