第四十一話 デジレの思いと小さい来訪者
デジレの悩みが解決します。
マリーが小さな仲間を連れてきます。
エルザの中の精霊はお母さんだった。
デジレ達ピョートルの住民は、ブロガリア兵に追われながらもなんとかソルトレイクに着いた。
ソルトレイク 軍の調練場 デジレ
ここに着いて一週間、わしはどうもここの仕事のやり方になじめずにいた。
それでこんなとこに一人座ってボーっとしているのだ。
そのうち二人の獣人の娘が木剣で試合稽古を始めた。
驚いた。この娘達は一体、あまりにもすさまじい、殆ど剣が見えない。
双剣を使っている猫人娘には見覚えがある。確か脱出した時に護衛の応援に来ていた。
十五分ほどで稽古は終わったようだ。こちらに近付いてくる。汗も掻いてない。
「今日は8対7で私の勝ちですね」(ハル)
「いや、3回目のは骨まで入ってない。だから引き分けだ」(マイア)
「良いものを見せて貰ったよ。ありがとう」(デジレ)
このような稽古を昔見たことがあるが思い出せん。久しぶりに興奮した礼を言っておこう。
「デジレさんですよね。どうしたんですか?」(ハル)
ここの仕事のやり方が不満で拗ねていたなどとは言えんわな。
「いや、いいアイデアが浮かんだと思ってちょっと考え込んでいたんだ」(デジレ)
うん、兎人の腰の剣には見覚えがあるような・・。
「うさぎのお嬢さん、腰の剣を見せてくれないか?」(デジレ)
娘さんが剣を外して渡してくれた。
これは!!剣を抜いて見るとやはりそうだった。
「これはわしが打った剣だ!しかもオーダーメイドだ!何処で手に入れたのかな」(デジレ)
「これは私の父が大切にしていた剣で去年引き継ぎました」(マイア)
「そうか親子で使ってくれているのか嬉しいな。ほれ、ここにイニシャルがあるじゃろ。わしが作った印だ」
わしは感動した。こんなところでわしの打った剣と再会できるとは、しかも大切にしてくれている。
「それって!私の剣にもあるよ。元はお父さんのだけど」(ハル)
そう言って猫人が収納から双剣を取り出してわしに見せた。
わしは剣を兎人の娘に返して猫人の双剣を受け取った。
「これもわしの・・思い出した。これは、この3本の剣は初めて師匠がわしに打たせてくれたオーダーメイド品。確か注文主は兎人と猫人の若者だった」
あれはもう30年位前の事だ。ピョートルの師匠の店に二人の獣人がやって来た。
わしが店番をしていた。
30年前 ブロガリア ピョートル デジレ
「お客さん。悪いんですがその金額じゃあオーダーメイドは受けられませんよ」(デジレ)
「そこを何とか頼む!もうこれ以上は無理なんだ」(兎人)
「帰りの旅費も入ってるんだ。頼むよ」(猫人)
「どちらか一人分なら何とか出来るんですけど」(デジレ)
「「そんな殺生な」」(二人)
「どうした。騒がしいぞ」(師匠)
師匠に訳を話したら少し考えて振り返った。
「お客さん、その金額じゃあオーダーメイドは無理だ。俺のならな」
「「「へっ」」」(3人)
「デジレ!お前が打ってやれ。お客さん、こいつの腕は俺が保証する」(師匠)
「いいんですか、師匠?」(デジレ)
「俺に聞くな、お客に聞け」(師匠)
二人はうんうんと頷いている。
そうだそれで二人に試合稽古をして貰って二人の癖を紙に書いて、それを元に剣を思い描いて、剣を打つのは二人にも手伝って貰った。宿代が無いというので家に泊めた。ダナンとよく似た年だったからよく遊んでたなあ。
出来上がった時には泣きやがった。余程嬉しかったんだろうぜ。まあ俺も初めて一人前に認めて貰って嬉しかったけどな。
そうかわしはお客の姿を見失っていたのか。良いものが出来るのなら、どんなやり方でも良いじゃないか。そう言うことか。
この年になって原点を見直すとはな。少し恥ずかしくて他の者には言えんな。
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」(ハル)
「ああ、嬢ちゃんたちの親父さんたちの事を思い出していたんだ」(デジレ)
「父上が私達くらいの頃ですよね。ぜひお聞かせ願いたい」(マイア)
わしはその時の話をしてあげた。
「嬢ちゃんたちの父親は二人で組んで、獣人国で魔獣を狩る仕事をしていたらしい・・・・」
そして・・・。
「嬢ちゃんたち、あんた達の剣をわしに打たせてはくれんかね。今の剣は男向けだし、もう寿命が近付いてるよ」(デジレ)
こうしてわしのソルトレイクでの初仕事は嬢ちゃんたちの剣を打つことなった。
もうオーダーメイドで剣を打つこともめったになかろう。ダナン達にも教えておかないとな。
暫く経ったある日 ソルトレイク俺の家 執務室 ジュンヤ
長かった冬も終わり、春がもう足元まで来ている。
思い返すとアルミアとの戦争が秋の終わりで、その後獣人国の王位争いが正月まで掛かって、ギズモニアとの戦争が2月だったか、その後チャールズさんと移民の受け入れ、ガーランドでの六肢族との戦い、ドワーフの大脱出、なかなか濃い半年だったな。
ハルがお茶を淹れてくれた。うん?
「おいハル、なんでメイド服で嬉しそうに剣を差してるんだ?」(ジュンヤ)
「あ、分かりますう。私、剣を新調したんです。デジレさんに打って貰いました」(ハル)
「そうか良かったな。どうだ使い心地は?」(ジュンヤ)
「それが刃筋が通るというか、ぶれないというか、五割位剣が上手くなった気がします」(ハル)
「そうか良かったな」(ジュンヤ)
初めて剣を買ったのが嬉しくて手放せないのだろう。
ハルは十六歳だが日本に居た二十台半ばの女性に比べても大人びている。要は甘えが無いのだ。
それが少し子供じみた行動をとるとすごく可愛い。
マイアが走って来た。
「あ、ずるいぞ。私もデジレさんに剣を打って貰いました」(マイア)
「そうか、どんな感じだ」(ジュンヤ)
「六肢族の時にこの剣があったら、苦戦することも無かったのにと思いました」(マイア)
「それほどか。良かったな」(ジュンヤ)
マイアがドヤ顔でハルを見るハルはふふんと言う顔だ。
マイアはハルに比べると少し甘えが残っている。それも可愛い。
「それでお金は足りたのか?」(ジュンヤ)
この娘達は小遣いしか与えてない。ちょっと心配になった。
「それがあんなに高い物とは思わなかったので、ねえ」(ハル)
「そうだな。厳しい金額だった」(マイア)
この娘達が今まで働いた給料は別にプールしてある。預かっておいてくれと言われてるのだ。
「払えたのか?前にも言ったがお前達の給料は預かっているぞ」(ジュンヤ)
俯いていた二人がハッとなってこちらを見る。
「実は支払いを待って貰ってます」(ハル)
「要らないと言われたのですけどそれは困る。必ず払うと約束していたんです」(マイア)
「やれやれ、それでいくらだ」(ジュンヤ)
俺は二人に剣の代金を渡した。
「これからは自分で給料の管理をするか?」(ジュンヤ)
「預かってください!かわいい洋服があると買っちゃうので」(ハル)
「私もお願いします。お菓子の誘惑に負けてしまいます。太らないように預かってください」(マイア)
「話は変わるがマリーから連絡はあったか?」
マリーは叔父の葬儀に出かけていて、もう一週間くらい経つ。
「はい、昨日はもう少しかかると言ってました」(ハル)
マリーがいないと信号のない交差点みたいにあっちこっちで仕事が滞る。
俺の業務が増えすぎたのが原因だがマリーが交通整理をしてくれるとかなりスムーズになる。
今の俺はチャールズさんや市長、タマなどからせっつかれているのだ。
「オタルのタマジロウさんから港の拡張工事の決済はまだかと連絡が有りました」(ハル)
「あれか、資料は何処へ行ったかな?」(ジュンヤ)
後からサッと手が出た。
「これですかね」(エルザ)
「おおこれだ、良く分かったな」(ジュンヤ)
「良く父の仕事を手伝ってましたので」(エルザ)
事務処理能力はハルもマイアもからっきしなので、エルザは救世主となってくれるのか?
「そうか、ありがたい。ちょっと手伝ってくれるか」(ジュンヤ)
「はい、分かりました」(エルザ)
「今、マリーさんから念話が有りました。明日帰るそうです。一人居候が増えるのでよろしくと言っておられました」(ハル)
「そうかやっと帰ってくるか。えっ居候?」(ジュンヤ)
「ジュンヤ様、早く仕事を済ませましょう」(エルザ)
「お、おう」(ジュンヤ)
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次の日 ソルトレイク 迎賓館 シーナ
ここがソルトレイクの街、高い壁に囲まれた大きな街、壁の中は殆ど農地それに倉庫・工場、メインストリートには商店街やホテル、大きな建物も見えるその奥には高い壁がある。
これは内壁?、この中に居住区があるのですか?私には内壁の中に入る資格が無い?
マリー姉様におんぶされてやって来た街の中心部に私は入れないので、迎賓館という建物に来た。
「シーナ、ここであなたにもジュンヤさんと隷属契約して貰うわ」
マリー姉様には何回も説明して貰ってるから分かってるわ。隷属契約しないと内壁の内側に入れないのでしょう。
「はい、お姉さま」(シーナ)
迎賓館に入ると向こうから人のよさそうなお爺さんが来た。
「お待ちしていましたよ」(市長)
「市長、わざわざ出迎えて頂いてありがとうございます」(マリー)
「マリー姉様の従妹でシーナと言います」(シーナ)
「これはかわいいお嬢さんだ。私はソルトレイクで市長をしています」(市長)
「シーナです。よろしくお願いします」(シーナ)
「ジュンヤ様が応接室でお待ちです。どうぞこちらへ」(市長)
応接室に入ると若い男の人が座っていた。まだ十代に見えるし、かっこいい。
「ようこそ、ソルトレイクに。ジュンヤです」(ジュンヤ)
「シーナです。よろしくお願いします」(シーナ)
「そちら側に座ってくれるかな。隷属契約の話は聞いてくれた」(ジュンヤ)
「はい、お願いします」(シーナ)
「はい契約は終わったよ。これで内壁の中に入れる」(ジュンヤ)
特に変わった感じはしない。マリー姉様に内容は聞いていたから大丈夫よ。
「状況を教えてくれるかな」(ジュンヤ)
「はい、私の父親が亡くなって、母親も早くに亡くなっていたので、私は一人になってしまいました。
引き取り手はあったのだけど、父の財産が目当てで、成人したらすぐに政略結婚させられるのだろうなと思いました。
そんな時にマリー姉さまに声を掛けて貰って、ここに来たら自由に将来の事が決められると聞きました。
マリー姉様は一族の中で唯一ギルドから独立され、しかもギルドに大きな権限を持っておられる方です。
私はマリー姉様みたいになりたくてここに来ました」(シーナ)
「分かった。君は11歳だね。家は俺の家に住んで、学校に通って貰う。いいね」(ジュンヤ)
今更平民と学校に通えって言うのとんでもないわ。
「私、読み書きも計算も出来ます。いまさら学校へ行く必要はありません」(シーナ)
「うん、君ぐらいの子はここでも、大体読み書き計算は出来るよ」(ジュンヤ)
「それなら何を習うと言うんですか?」(シーナ)
「生活一般だ」(ジュンヤ)
「女は家事をしろって言うのですか?」(シーナ)
マリー姉様が笑っている。何がおかしいの。私が底辺に居る女と同じに扱われているのに。
「うん、女じゃなくても家事ぐらいは出来ないとね。自分の部屋を掃除してくれる人はいないし、仕事をするまで洗濯もして貰えないよ」(ジュンヤ)
「私も半年ぐらいは掃除洗濯、料理もしたのよ。今は忙しくて出来ないけどね」(マリー)
「ええーそんなの聞いてないようー」(シーナ)
次回俺が今やっている仕事を紹介します。
マイアがハルを連れて獣人国の実家に帰省します。




