第四話 青い精霊獣と猫人の村
新しい精霊獣と猫少女の村に行きます。
ノーラから青いムササビを受け取る。少し弱っているみたいだ。
「森の中でへたばってた」(ノーラ)
「済まない、魔力が切れそうであまり動けない。君が魔力をくれる人間か?」(青い精霊獣)
おお、ムササビが喋った。慣れないな。
「そうだ。君は風の精霊獣だな。代わりに精霊契約をして貰うぞ」(ジュンヤ)
「分かった。それでいいよ」(青い精霊獣)
前足を掴んで魔力を注ぐ。魔力が吸われていく。なぜかノーラの時より楽だ。
「あなた、魔力が増えているわ。どういうこと」(ノーラ)
ノーラが驚いているがそれは俺も解らない。恐らく魔力も成長可能なのだろう。昼前に散々使ったからな。
「ありがとう。満腹になったよ。僕に名前を付けてくれ」(青い精霊獣)
今度は男の子か。えーと風→風車→オランダ→オランでどうだろうか。うーんオランとノーラちょっと似てる。風→風車→オランダ→アムステルダム→アステルで良いか。
「アステルでどうだ」(ジュンヤ)
「良いよ、これからよろしく、僕も人間になったほうが良いんだろ」(アステル)
精霊契約をしたアステルは青い服を着た10歳位の子供になった。
猫少女が驚いていた。
「ムササビが人になった。あんたこの子の声が聞こえるの?」(猫少女)
「この子達は精霊獣だ。だから君には声が聞こえないんだ」(ジュンヤ)
ええーっと言って猫少女は固まった。
「ちょっと名前、私の時より長く考えていたでしょ」(ノーラ)
ノーラが不機嫌そうだ。自分の名前を考え無しに付けたと思ったようだ。まあ実際そうなんだけど。
「ああ、最初のがちょっとノーラに語感が似てたから考え直したんだ」(ジュンヤ)
「それなら許すわ」(ノーラ)
「相変わらず君は威張ってるね。でも助かったよ」(アステル)
ノーラと違ってアステルは真面目君みたいだ。
「良いの。気にしないで」(ノーラ)
僕は気が付いたら風の精霊様がいなくなっていた。
幾日経ったのか魔力は残り少ない。僕は死んでしまうんだろうか。
精霊様に作られてからいい思い出も無いけれどこのまま死んでいくのも嫌だな。
そんなことを考えていたら懐かしい気配がする。これは土の精霊獣。
「あんたまだ生きてる?助けに来てあげたわよ」
土の精霊様は風の精霊様より早くいなくなったはずだ。土の精霊様の気配はずっとない。
「返事をしなさい。帰っちゃうわよ」(ノーラ)
「待ってくれ。君に僕が助けられるのか」(アステル)
「私はノーラよ。私には無理だけど、私人間と精霊契約をしたのよ」(ノーラ)
「人間と?人間の魔力量では僕まで無理だろう」(アステル)
「普通はね。でも大丈夫、あいつはあんたも助けてくれるわ」(ノーラ)
「あ・・・・・・・」
「あんた、精霊様に義理立てしてるの?」(ノーラ)
ノーラは土精霊が精霊鎧を着た男について行った話をした。
「私達は捨てられたの。もう生きようと思ったらあいつに頼るしかないのよ」(ノーラ)
「分かったよ。でも歩けないんだ。連れて行ってくれるかい」(アステル)
ジュンヤ様に会った。第一印象で頼れる人間だと思った。この人なら最後まで一緒に居れそうだ。
アステルは回想から帰って来た。
「魔法を教えてくれるかい」(ジュンヤ)
「分かりました。広い場所に行きましょう」(アステル)
湖に向かって立った。
「まず攻撃魔法、気弾圧縮空気をぶつけます」(アステル)
右手を握って水面に撃つ。
「エアーグレネード!!」(ジュンヤ)
水面に水柱が上がる。
「次は補助魔法 飛翔空を飛びます。まず体の周りに空気の壁を作ります。そしてそれを風で持ち上げます」(アステル)
「ソアリング」(ジュンヤ)
体が宙に浮く。そのまま飛ぶ、時速20km位か。遅いし、結構魔力を使う。思ってたのと違う
「次は・・・」(アステル)
「ちょっと待ってくれ」(ジュンヤ)
俺の中でこれは求めている空の飛び方じゃないという声がする。
そうか壁の形が球形なので空気抵抗がでかいんだ。
今度は燕の形状を意識して壁を作る。
「飛燕」(ジュンヤ)
飛び上がるとすぐに時速150km位まで加速する。俺を包む壁の形状を変えることで凄まじい運動性能を発揮する。これ以上の速度では壁の形が保てそうもない。
「何ですか?あれは」(アステル)
アステルが信じられないといった顔をして呟く。
「そうなるよね。私の魔法も改造してとんでもないものにしたんだよ」(ノーラ)
アステルとノーラが呆れている。
やはり21世紀を生きて来た人間にとって我慢できないことがあるよね。
5分程飛んで戻って来た。
「次は防御魔法 台風相手や攻撃に向かって秒速40mの暴風をぶつけて相手を行動不能にしたり攻撃を跳ね返します」(アステル)
両手を着き出して叫ぶ。
「タイフーン」(ジュンヤ)
暴風が数秒吹き荒れる。人や弓矢位なら防げるだろう。相手が見えることだし、広い場所なら使い易そうだ。
「次は精霊攻撃魔法 爆落下相手に向かって上方から秒速100mを超える速度で圧縮空気が落ちてきます。100m以上離してお願いします」(アステル)
万歳態勢から両手を勢いよく振り下ろす。
「ダウンバースト」(ジュンヤ)
離れた場所で巨大な水柱が上がる。
遅れて飛沫が落ちてくる。すごい威力だ。範囲攻撃も出来そうだ。
「次は精霊防御魔法 超竜巻相手や攻撃に向かって秒速80mの超暴風をぶつけて相手を吹き飛ばしたり攻撃を無効化します」(アステル)
両手を広げて目の前で交差する。
「スーパーハリケーン」(ジュンヤ)
凄い風が湖をかき回す。タイフーンの上位互換だけど攻撃力も半端ない。
「随分簡単に覚えたのね」(ノーラ)
「すんなり頭に入ってくるようになったよ」(ジュンヤ)
実際、ノーラの時に比べて魔法の内容がすぐに分かって実現できる。魔法に慣れたんだろう。
「あのー、起きてることが全然分かんないんだけど」(猫少女)
猫少女は頭を抱えている。まあ説明しても解るかどうか。
オークがどの位強いか分からないが、今日のコボルトくらいなら100頭でも怖くないな。
今日、異世界転移して一日ですごく強力になった。この力をどう使っていくか?
この世界の事が良く分からないし、考えても仕方ないか。
日も暮れて来たし、晩飯にするか。
ライトの魔法で灯を作り、かまどを作ってる間に燃料の枯れ枝を猫少女と精霊獣に集めて貰う。
豚肉と白菜を中心に白出汁で味付けした鍋だ。白出汁をどうしたかって女神さまに頼んで日本の調味料を各種用意して貰ったよ。無くなる前に醤油と味噌だけでも手に入れる手段を考えなくては。
まずご飯を土鍋で炊く。
炊き上がったら今度は鍋をかまどに置いて材料を入れて煮込む。
取り皿と箸を4人分、皆に渡して鍋をつつきますか。パーティを組むことも考えて食器は四人分用意してある。
「この木の棒をどうするんですか」(アステル)
猫少女が聞いて来た。箸の持ち方を使い方を教える。
「そもそも、私達は食べないって言ってる」(ノーラ)
ノーラは食べたそうにしているが意地を張っているな。
「まあ食べてみろよ。この木の棒は箸って言って食べ物を挟んで口に運ぶんだ」(ジュンヤ)
取り皿にお玉ですくった鍋の具材を入れてやる。
猫少女はすぐに箸で具を挟み口の近くに持って行くが口に入れない。
俺はピンときた。
「息を吹きかけて冷ますんだ」
そう言ってやるとしつこいくらい息を吹きかけている。猫人だけに猫舌なんだ。
「うまいよ。こんなうまいの生まれて初めて」(猫少女)
猫少女はご機嫌だ。ニコニコしている。
アステルも恐る恐る口に入れる。
「おいしい。こんなの初めてだ」(アステル)
「まあおいしいことは認めるわ」(ノーラ)
ノーラも認めてくれたみたいだ。
あっという間に鍋の中は出汁だけとなった。
「あーもう無くなっちゃった」(猫少女)
「もう少しあっても良かったわ」(ノーラ)
「まあ腹八分と言いますし」(アステル)
「ふふふ、俺が鍋の前に作っていたものを忘れてないか?」(ジュンヤ)
炊きあがっているご飯を見せる。
「でもそれって味付けしてないよ」(猫少女)
鍋の中の具材の切れ端を取り除き、出し汁の量を調整し、ご飯を入れる。
もう一度火を起こす。そして卵を溶く。
煮立ってきたら卵を回し入れゆっくりかき回す。
レンゲを出して取り皿にお玉ですくってやる。
「これが〆のおじやだ。レンゲですくって食べてみろ」(ジュンヤ)
3人共おいしいを連発している。
伊達に33年独身を過ごしてきた訳では無い。
それなりに工夫した食生活を送って来た。
喜んで食べて貰っているのを見ると滅茶苦茶嬉しい。
猫少女と精霊獣に後片付けを頼んで、俺は今夜の寝床の設営をする。
始め、神様にテントを頼もうとしたが収納があるのでたたむ必要がない。それならということで6畳のプレハブを貰った。パーティを組むことも考えて4人でも狭くないように考えたよ。
土台の高さを会わせるだけで良いのだ。
プレハブの引き戸を開けるとカーペットが引いてある。布団は4組あるのでそのまま寝ればいいだろう。
トイレは簡易トイレの下に穴を掘ったよ。
猫少女は汚れていたのでウォッシュの魔法で綺麗にする。塩湖じゃ水浴びも出来ないからね。
なかなか可愛い顔をしているな。
ちなみに生活魔法は体や服を綺麗にするウォッシュ、着火するファイア、灯を灯すライトがある。
子供たちを寝かせて、俺は今日覚えた魔法の内、精霊を使わずに使える魔法の復習と練習をする。
いざという時に適切な魔法を使えるように備えておかなくては折角の魔法も意味がない。
次の朝、プレハブを片付け、朝食をおにぎりで済ませたあと、いよいよ猫人の村へ飛ぶ。
ノーラをおんぶ、アステルは足にしがみ付き、猫少女はお姫様抱っこ、これで飛ぼうとしたらノーラが”私を抱っこしなさい”と言って来たので猫少女と交代だ。
まずは球形の空気の壁を作る。そのまま上昇、足にしがみ付いてるアステルがつらそうなのですぐに体を水平にする。
「アステル大丈夫か」(ジュンヤ)
しがみ付いてるアステルが一番しんどそうだ。でもソアリングは村まで持たないし、ファイティングスパローはできないし、仕方ない。
「大丈夫です」(アステル)
壁の形を流線型に整え、揚力を発生する翼を形作る。
徐々に速度を上げていく。
「皆、大丈夫か」(ジュンヤ)
「「「はい」」」
湖の上を過ぎ、森の上を飛んで行く。
「すごい、速い、速い」(猫少女)
猫少女が背中で燥いでる。
流石に4人乗りでは速度は時速80km程度だ。
「あれはコボルトの群れだな」(ジュンヤ)
コボルト数十頭が森の中を移動している。この分ではほかにも居そうだ。
ノーラが静かだ。高度は50m位だがお姫様抱っこで真下が見えるからな。
20分ぐらいで村が見えて来た。
「あれがアタイの村だよ」(猫少女)
猫少女も村を見つけたようだ。
それから10分掛からずに村の上空に到着、広場にそのままゆっくり降下していく。
「立つぞ!!しっかり摑まってくれ」(ジュンヤ)
「「「はい」」」
凄い埃が舞い上がる。湖の周りは小石の原だったから埃は無かったが、土の上ではこうなるのか。
立った状態で着地。
「埃が収まるまでこのままで居てくれ」(ジュンヤ)
埃が納まるとぐるっと猫獣人に囲まれていた。
猫少女が背中から飛び降り、大きな壮年の男の前に行った。
俺達のことを話しているようだ。村長かな。
待っていると猫人の子供が数人俺達に寄ってくる。
「兄ちゃん、空飛んできたの」(子供)
「そうだ、見ただろ」(ジュンヤ)
「うん」(子供)
「お前らどいてろ」(村長)
子供を退けると壮年の男が近付いて来た。
「俺が村長です。ここではなんですから家に来てください」(村長)
「分かった」(ジュンヤ)
一応、礼遇されそうだ。ちょっと安心した。
広場に面した一番大きそうな家に案内された。板張りの部屋に麦わらで編んだ座布団があった。
次回猫少女の村の行く末を担う決断をします。