第三十八話 セシルとエルザ
エルザの雲行きが怪しくなってきます。
エルザとカンナは服飾機械の製造応援を求めるため、ブロガリアに向かって飛んでいる。
マイアとセシルは獣王の要請で辺境の村にオーク退治に来ていた。
獣人国 ヤマト国との国境に近い村 セシル
「これで全部だな」(マイア)
「そうですね」(セシル)
私が6頭のオークを倒す間にマイアさんは15頭とハイオーク1頭を倒していた。
私がオークを収納に入れている間にマイアさんがアイさんと周囲の探索をしている。
人間の私より兎人のマイアさんの方が探索が正確に出来る。特に兎人は耳が良いのだ。
まだまだ未熟だな。私は痛感している。
村の中央にオークの死体を並べて村長に依頼の達成報告をする。
「ありがとうございました。このように素早く処理して頂けるとは・・・」(村長)
村長はオークの数が多かったこととハイオークが居たことに驚いているようだ。
「本当にお二人でこれを???」(村長)
「ああ、これくらいなら問題ない。すまんが魔石を抜いて貰えんか?獣王陛下にも報告をせねばならんので証拠が居るのだ。肉はこの村で食って貰って構わん」(マイア)
「ああ、はい、今すぐ取り掛かります」(村長)
村長が村人に指示してオークの解体に取り掛かる。
集まった村人の中に母子が居て、7、8歳の男の子がオークを指差して母親に何か言ってる。
その子がとことこと私の所に歩いて来た。
「このお肉食べられるの」(男の子)
村人が解体して積み上がっていくオーク肉を見て物欲しそうにしている。
「多分、今夜にでも食べられるんじゃないかな」(セシル)
「ホント、嬉しい。お姉ちゃんありがとう」(男の子)
「これだけあれば今夜皆で食べても余るでしょうな。明日も食べられるぞ」(村長)
村長の言葉を聞いて村人から歓声が上がる。そうかここの人達にとって肉はごちそうなんだ。
私もソルトレイクに来て忘れていたが、ギズモニアでも肉なんてめったに食べられるもんじゃなかった。
清潔な衣類や住居、滋養豊富な食事、次男以下でも、女でも独立して生活できる仕事や環境、ジュンヤ様の住民に与えているものは今までこの大陸に・・・いえ、この星に無かったものだ。
私にもその一端を担うことが出来るのだ。これほどのやりがいのある仕事は教会に無かったことだ。
私はジュンヤ様にすべてを捧げて・・・・。
「・・・い・・ぶか!おい!大丈夫かと聞いている」(マイア)
マイアさんが私の顔を覗き込んでいる。
「は、はい、大丈夫です」(セシル)
危ない危ない。もう少しで妄想の世界に入り込んでしまう所だった。
少しよだれが、慌てて手で拭う。
「なんだ肉が欲しいのか?少し譲ってもらうか?」(マイア)
「いいえ、大丈夫です」(セシル)
マイアさんの中で私は食いしん坊キャラに認定されたみたいだ。シュン(涙)。
村長が袋を持ってマイアさんの方へ来た。
「魔石が取れましたのでご確認ください」(村長)
マイアさんはざっと数えて納得すると一枚の紙を取り出した。
「これが依頼書になる。確認してサインをくれるか?」(マイア)
今回の依頼は獣王からだが、書面になっていないのでギルドの様式で作って貰った。
村長はちゃんと読んでサインをして様式を差し出した。
「済みませんが少し話を聞いてくれませんか?」(村長)
「ああ、私で良ければ聞こう」(マイア)
「去年の秋頃でしたか、この村からあなた方の村へ行った男から便りが来まして、やれ魔法を使えるようになっただの、結婚したら石造りの家をもらえるだとか、埒も無い事を書いて幼馴染の娘にソルトレイクへ来て結婚しようとか、書いてあるのですがどこまで信用していいものかと・・」(村長)
「ああ、全て本当だ。ジュンヤ様と隷属契約をすると2つか3つの初級精霊魔法を使えるようになるし、独り身の時には独身寮だが結婚すれば一戸建ての家に移れる。普通に肉や卵を3食食えるし、一週間に2日は休みだし、身分での上下は無いし、恋愛と結婚は自由だ。税金は無い、風呂は共用だがある。悪い点は仕事は持っている才能で決められる。ぐらいかな」(マイア)
「そんなことがあるのですか?私がヤマト国への併合を拒んだのは間違いだったのか」(村長)
「それを間違いかどうかと決めるのは後世の人だと思う」(マイア)
「もし、娘さんがその人の元に向かいたいのならお連れしますよ」(セシル)
住民の中から娘が数人出て来た。
「連れて行って下さい。お願いします」(娘)
「ええ、ひとりじゃないのぉ」(セシル)
「村長、連れて行けるのは二人までだ。私達の背中に乗るのでな。夕方か明日になるか分からないがここに迎えに来るから荷物をまとめておいてくれ」(マイア)
「この村をヤマト国に併合していただくわけにはまいりませんか?」(村長)
「それは正規のルートで獣王陛下にお願いするんだ。私達にはどうしようもない」(マイア)
私達は獣王陛下に報告すべく出発した。
******
ブロガリア ピョートルの町 BSコープ エルザ
デジレさんに応援のお願いをした二人は街をぶらぶら散歩していた。
「洞窟の中に街があるなんてすごいですね」(エルザ)
「ここももうおしまいかもしれない」(カンナ)
「どうしてですか?」(エルザ)
「今までここはマスケットの生産で潤っているんだけど、西大陸はジュンヤ様が平和にしちゃったし、ガーランドも西大陸は攻めないって約束したんでしょう。魔人国の内乱も終わりそうだし、もう注文が無いのよ」(カンナ)
「でもマスケット以外も作っているのでしょう」(エルザ)
「ここは鉱山の跡地を利用した街、なぜこんなことをしたかというと秘密を守る為よ。だから馬鹿みたいに儲かる秘密兵器を作ってる分には良いけど、普及品を作るには単価が高くなりすぎるのよ。時々凝った性能の剣とかの注文はあるけど、それだけじゃ食っていけないわ」(カンナ)
「では、ジュンヤ様みたいに精密な機械を作れば良いのではないですか」(エルザ)
「小さなものならともかく大きな機械を運び出す手段が無いわ。カノンくらいが限界ね」(カンナ)
「平和な時代が来れば、この町は用済みよ・・・・」
カンナは寂しそうに上を向いた。
「カンナさーん!」(男)
後からかけて来た男がカンナを呼び止めた。
「デジレさんが呼んでます」
デジレさんの部屋にはカンナさんだけが入るように言われたので、私は廊下の長椅子に座って待つことにした。
暫く経つとカンナさんの声が聞こえてきた。内容は分からないがかなり怒ってるようだ。
勢いよく扉が開かれカンナさんが出て来た。泣いているようだ
「大丈夫ですか?取敢えずおうちに帰りましょう。ね!」(エルザ)
泣き止まないカンナさんをダナンさんのお店に連れて行った。
「お帰り、・・どうしたカンナ!!」(ダナン)
「お父さーん、お爺ちゃんが狂っちゃった」(カンナ)
「エルザさんでしたか、済みませんが店の方で待っていてくれますか」(ダナン)
ダナンさんはカンナさんを抱えるように店の奥に入っていった。
カンナさんのお爺さんは何を言ったのかな。あんなに泣くなんて尋常じゃないわ。
ダナンさんが出て来た。店のカウンターの方に行って陳列してある短刀を取ると店を出ようとした。
私はダナンさんの前に立ちふさがった。
「短刀を置いて下さい。短気を起こしてはいけません」(エルザ)
ダナンさんは短刀をじっと見て、私に短刀を渡した。
「ありがとうよ。カンナを見ててくれるかい」(ダナン)
ダナンさんは走って出て行った。
私は店の奥のカンナさんの様子を見に行った。
カンナさんは少しは落ち着いたようだ。
「どうしたの?」(エルザ)
「お爺さんがね、連発銃を盗って来いって言うのよ。連発銃があればガーランドがまた戦争を始めてこの街も復活するって言うの。私は”いつからドワーフは死の商人になったの?”って言ってやったわ。ジュンヤさんは皆が幸せに暮らせるように頑張っているのに、自分達の権益を守る為に戦争を起こすって馬鹿じゃないの」(カンナ)
私の父はどうなのかしら。クレアンスを武力で属国にして、それにも飽き足らずに西大陸を攻めようとしていたのを六肢族に利用されて、少しは反省したようだけど・・・。
「でもダナンさんは解ってくれたんでしょう」(エルザ)
「うん、お父さんはお爺さんに説教してくるって出て行った」(カンナ)
暫くしてダナンさんはデジレさんを連れて来た。デジレさんはうなだれていた。
「カンナよ、すまん!俺はどうかしていた。お前やダナンが止めてくれて有難い、俺はやり直せる」(デジレ)
「お爺ちゃん!分かってくれたの」(カンナ)
「ああ、組合長の責任で押しつぶされそうになっていた」(デジレ)
「そんなに状況が悪いのですか?」(エルザ)
「もう三割くらいの職人がこの街を見限って出て行ってしまった。仕方がねえ、仕事が無いんだからな」(デジレ)
まさかガーランドの西大陸征服が中止になった影響でこんなことになるなんて、私には考えが及ばなかった。
「まあ、戦争で儲けようなんて、これまでの考え方がおかしかったのさ。ちょうどいい機会じゃねえか。全員でヤマト国に移住しねえか。カンナの言うことを聞く限り、仕事が無くなることなんてなさそうだぞ」(ダナン)
「お父さん、それ本気なの」(カンナ)
「ああ、母さんもカンナと一緒に居られるならって喜んでたぞ」(ダナン)
「ええ、一人暮らしが良いのに。ジュンヤさんは多ければ多いほど良いって言ってたけど」(カンナ)
「じゃが、どうやってヤマト国まで行くんだ。歩いたら一か月以上かかるぞ」(デジレ)
「大丈夫よ、ここから200km位のところにギズモニアの支流の船着き場があるの。そこまで行けば蒸気船で2日で大河の港町オタルに行けるわ。そこからは蒸気機関車に乗れば2時間かからずにソルトレイクに付ける。だから一週間ぐらいね」(カンナ)
「蒸気船に蒸気機関車だともう実用化されて居るのか」(デジレ)
「当たり前でしょ。私達が何の為に行ったと思ってるのよ」(カンナ)
・・・・・・
私はこの三世代の話を聞いていて自分の思いがどこにあったのか分からなくなった。
何、これ、こんな簡単に解決するの・・???分からない。
大体、西大陸は去年まで獣人国が弱体化した影響でアルミアとギズモニアが覇を競っていたはず。
ジュンヤ様がアルミアの獣人国への侵攻を退けたのがきっかけで、今の獣王が獣人国を正常化した。
その後、アルミアとジュンヤ様が組んでギズモニアのアルミアへの侵攻を食い止めた。
これらの戦いでジュンヤ様は人を殆ど殺していないギズモニアに数百人の犠牲が出たくらいだ。それも侵攻人数15万人だから微々たるものだ。
流石にまだギズモニアは完全には従属していないが、アルミアと獣人国は従属の兆しがある。
そして我ガーランドは六肢族の謀略からジュンヤ様に国を救って貰った恩がある。
今度はブロガリアの・・いえ、この大陸最大の技術力を取り込もうと言うのだ。
東大陸に大きな勢力の無い以上、ジュンヤ様はこの大陸最大の勢力になった。
これが意図したものならすごいのだけれど、これは偶然、流石、世界の王だ。
なら私は、・・せっかく王の眷属となれたのに何もしないのか。
いえ、眷属になった以上、私にも役割があるはず。
私は、今、歴史の真ん中に居る。ここで何も成さないなんて考えられない。
必ず、その役割を果たして見せる。
「エルザさん、エルザさん」
私を呼ぶ声がする。
次回、エルザの母、登場!!




