第三十三話 皇女の願いと六肢族の計画
皇女の依頼を受け六肢族と戦うことに。
六肢族の思惑とは?
ガーランドからやって来た皇女と皇太子、偶然会ったジュンヤに何を願うのか。
「う、嘘を吐くな!!西大陸一の強国の主が、何でアルミアで偵察の拠点づくりしてんだよ」(オリビア)
「うわー、それ言われるとつらいなぁ。本当になんでこんなことやってんだろうねえ」(ジュンヤ)
「俺って依頼されると国じゃなく個人で動いちゃうんだよね。なにせ国民が精一杯働いても人手が足りない状態がずーっと続いてるからさあ、今は身内も線路工事に駆り出してるから俺しか動けないんだよなあ」(ジュンヤ)
などとブツブツ愚痴を言っている。
「あなたがヤマト国の代表と言うことは分かりました。センロと言う物が何かは分かりませんが」(エルザ)
「分かってくれた。ありがとう。線路っていうのは・・・」(ジュンヤ)
言葉はエルザの手で止められた。聞きたくないらしい。女の子は機械に興味がないからなあ。
(この顔は絶対訳の分からない専門用語を羅列して、ただ話すことで満足するという職人系のあるあるですわ)エルザの内なる声。
「お願いしたいことがあります。ガーランドを救ってください。今ガーランドは六肢族によって操られ、この大陸を戦乱の渦に巻き込もうとしています」
エルザは両手を胸の前で組み祈るようなポーズをした。
『アイさん、六肢族って何?』
『他の大陸から独立した場所にある。暗黒大陸で独自の進化を遂げた脊椎動物です。こちらの大陸では手足は4本ですが。それが六本あります。例えばケンタウロスや天使、悪魔、ペガサスなどを思い浮かべて貰えば良いかと思います。人間は群れることで強くなりましたが彼らは魔法で個々が強くなりました。最近まで六肢族がこちらの人類に関わったことは無かったのですが』
エルザは語り始めた。
「1年程前の晴れた日、別大陸からやって来た船の商人が面白いものを見せると帝城にやって来たのです。彼の見せたものは檻に入った上半身裸の若い男でした。男の背中には蝙蝠の様な羽があったそうです。私とオスカーは帝国の南の別荘に居て被害を免れました。その日から優しかった父は戦いに邁進しました。隣国のクレアンスに突如攻め入り、数カ月で属国化しました。私達が何を言おうと取り合ってくれません。国民と属国化されたクレアンスの民は重い税を課され、西大陸に攻め込む戦費を捻出しました。近いうちにアルミアを落とし、そこから西大陸をすべて征服するつもりです」(エルザ)
「分かったと言いたいけどその六肢族が皇帝たちを操ってるって言う確証はあるのかな?それに君達を操らないのはなぜかな?」(ジュンヤ)
俺は話を聞くうちに疑問に思ったことを聞いた。
「確証は御座いませんが帝城の中で六肢族が放し飼いにされ、皇帝のそばにいつもいるのです。私達が操られないのは操れる人数に限りがある為と思われます」(エルザ)
「うーん、これだと俺は六肢族を倒せばガーランドを救うことが出来ることを立証しないといけない。さらには間違った場合、西大陸が危険に曝されるのを容認しないといけないと言うことになる」(ジュンヤ)
「それはそうなんですけど。どうか助けてください」(エルザ)
「そう聞くとジュンヤ殿には、かなり分の悪い賭けになるな」(ハンナ)
「我々が焦り過ぎたか?しかし、今の時点で逃げ出さないと殿下達が危ないだろう」(オリビア)
「よし、飯にしよう。もう昼を随分過ぎてしまった。腹が減っていては良い考えも出ない、そうだろう」(ジュンヤ)
俺は大きな皿を出しておにぎりを大量に出す。
「シルビィさん、緑茶って分かりますか?」(ジュンヤ)
「はい、東の方の飲み物ですよね。何回か淹れたことがあります」(シルビィ)
カップの紅茶を緑茶に入れ替えて貰った。
「これはどうやって食べるのだ?」(ハンナ)
「この黒い紙のようなもので、こう包んで食べる」(ジュンヤ)
「殿下に手づかみで食事をせよと申すか!」(オリビア)
「俺の故郷の携行食で王様でもこうやって食べるのさ」(ジュンヤ)
俺はおにぎりを頬張った。ハンナが食べるとオリビアも食べ始めた。
「おいしい、姫殿下滅茶苦茶うまいです。これ」(ハンナ)
「殿下、本当においしいですよ」(オリビア)
エルザもオスカーも食べ始めた。
「シルビィさんも食べて」(ジュンヤ)
「私は後でいただきます」(シルビィ)
「このおにぎりと言うのは皆が一斉に食べるからおいしいんです」(ジュンヤ)
エルザが頷く。
「では失礼していただきます」(シルビィ)
いつの間にか皿が空になったので追加のおにぎりを出す。
「これって中の具がいろいろあるみたいですねえ。モグモグ」(ハンナ)
「この黒い紙みたいのが海の香りがします。モグモグ」(オリビア)
シルビィさんがお茶の淹れ直しで忙しいので可哀そうだ。
リラックスしてくれたようだ。これならこちらの話をしても良いだろう。
「君達にはヤマト国の首都ソルトレイクに来てもらう。エルザの話の内容では君達に価値は認められないから、追手も差し向けられないだろうが放って置くことも出来ない」(ジュンヤ)
「何、どういう意味だ?オスカー様は帝国の唯一の継承者なのだぞ」(ハンナ)
「六肢族にとってと言う意味だ。君達がここまでこれたことを考えてみるが良い。帝国の国境はそんなに甘いのか?」(ジュンヤ)
「では私達が国境を出ることが見過ごされていたと仰るのですか?」(エルザ)
「そう言うことだ。君達には殺す価値も見出さなかったのだろう」(ジュンヤ)
「ジュンヤ様はどうして私達を助けてくれるのですか」(エルザ)
「それは、六肢族を倒した後、帝国を安定させるためには血脈があった方が良い」(ジュンヤ)
「そう言うことでしたか。・・・それならばそれで構いません。ジュンヤ様に価値があるならお邪魔いたしましょう」(エルザ)
エルザは父親が死んでも構わないと言っているのだ。それより国の方が大事だと。
「助かる。・・・おお、来た来た」(ジュンヤ)
ハル、マイア、マリー、アステル、ボルクが到着した。念話で迎えを頼んだのだ。
「30分程休憩してくれ。その後、彼女たちを連れてソルトレイクに戻る」
「「「「「はい」」」」」
彼らにエルザたちを紹介し、これまでの流れを説明した。
「ということは私の出番ですね」(ハル)
「すまんな。他に方法が無い」(ジュンヤ)
エルザに帝城の間取りを聞き、侵入経路を確認する。
「ハルは昼の間に帝城を見ておいてくれ。分からない所はマイアを通じてエルザに聞くんだ」(ジュンヤ)
俺はオスカー、マイアがエルザ、マリーがハンナ、アステルがオリビア、ボルクがシルビィさんをおんぶする。
俺達はソルトレイクに向けて出発した。
ハルも帝都に向け出発した。
ハルは帝城が見えた時点で隠形を使用する。相手が探索を使っても発見できない能力だ。
髪の毛が白から黒に変わると気配が消えていく。
『敵に探索の気配はありません。このまま近付きます。・・・
エルザさんから聞いた間取りに間違いは無いようです。・・警戒が薄いようです』(ハル)
春からの念話で探索も警戒もしていない様だ。余程戦闘能力に自信があるのか?
『あまり接近するな。適当に切り上げて偵察拠点に戻ってくれ』(ジュンヤ)
昼では偶然見つかる可能性も高い、やはり侵入は夜の方が良い。
ソルトレイクでエルザ達を迎賓館に置いて、俺とマイアが偵察拠点にとんぼ返りする。
偵察拠点に着くとすでにハルが戻っていた。
「日が暮れるまで休憩しよう。暗くなったら3人で行くぞ」(ジュンヤ)
「「はい」」
軽く食事をした後、3人で帝都に向け飛ぶ。
俺とマイアはハルの精霊の影響を受けて夜目は効く様にはなったが、より夜目の利くハルの後ろについて行く。
俺とマイアは帝城から1km程離れた所で待つことにした。ここからはハルが隠形で行くことになる。俺達では敵の探索に引っ掛かってしまうからだ。それにここからなら1分掛からずにハルの所に行ける。
「ハル、最優先は六肢族が皇帝たちを操っている確証だ。無理はするな」
ハルはうなずくと飛んで行った。
ハルは女性用のトイレに向かう。トイレには換気用の小窓が有り、そこから侵入する。
この時間ここには女性はまずいない、使用者が居れば灯の魔法が使われるのですぐに分かる。
そこから皇帝の執務室を目指す。そこまでの廊下には灯は無いがハルの目にははっきりと見える。
向こうから灯の魔法を使っている巡回の兵が来た。ハルは天井に張り付く。
兵は気付きもせずに通り過ぎて行った。
執務室の扉の前に来たが話し声はしないが物音はする、さてどうするかな?
その時、灯が近付いてきた。
ハルは天井に張り付くと来訪者がドアをノックした。
来訪者は名を名乗ると報告がある旨を扉越しに話す。
「入れ」
来訪者が扉を開けて部屋に入ると来訪者の後ろにハルが居た。ハルは素早くソファーの影に隠れる。
「報告します。皇太子殿下、他4名が国境に向かったと連絡が有りました。今頃は国境を抜けアルミアに向かったのではないかと言うことです」(来訪者)
「分かった。下がれ」(皇帝)
来訪者は部屋を出て行く。
皇帝の机の影から男が立ち上がる。ハルからは見えないがそいつの背中には蝙蝠のような羽があった。
ハルは念話で音声を中継する。これはハルの聞いた音をそのまま念話にして俺に送る魔法だ。
「本当に放って置いて良いのですか?あなたの事がバレてしまいますが」(皇帝)
「構わんさ。暗殺者などを送り込んでも俺に勝てる奴など、この大陸には居ないのだ」(六肢族)
皇帝に自我はあるみたいだ。でもオスカー達に何も思わないのか?
「大陸征服のためには些事ですかな」(皇帝)
「西大陸を制してその兵で強い魔人国へ攻め込むのだ。そうすれば後は有象無象、この大陸は俺の物だ」(六肢族)
奥の部屋に繋がるドア(ハルの居る位置の反対側になる)から二人の足音がする。
「カーべネフ、お前手柄を独り占めする気か」(ジェベイエフ)
「ジェベイエフ、フバーリエ、聞いていたのか。言葉のあやだ気にしないでくれ」(カーべネフ)
「大体、精霊の里にいる男を忘れてるんじゃない」(フバーリエ)
「ふん、ギズモニアに負けた奴など怖くない。運がいいだけの臆病者よ」(カーベネフ)
ハルがムカッとして少し殺気が漏れてしまう。
ガタッ、急に机が動いたような音がする。
(ヤッバー、見つかっちゃう)ハルは気配をさらに薄くする。
「今、殺気を感じた」(ジェベイエフ)
「そうか?私は何も感じなかったけど」(フバーリエ)
「俺もだ。勘違いじゃないのか」(カーべネフ)
「それより、いつになったら戦争始めるのよ。待ちくたびれたわ」(フバーリエ)
「まだ兵糧が足りません。秋撒きの麦の収穫までお待ちください」(皇帝)
「面倒臭いわねえ。私達でチャチャッとやっちゃいましょうよ」(フバーリエ)
「バカヤロウ!俺達がこの大陸に居るのがバレたら天翔族が黙ってないぞ。だから面倒臭いの我慢して人間操ってるんじゃないか」(カーべネフ)
『良し、証言が取れた。俺達が行くまでハルは待機してくれ』(ジュンヤ)
『分かりました』
「マイア、行くぞ!」(ジュンヤ)
「はい」(マイア)
俺達は帝城に向かって飛び立った。
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