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第二十六話 ハルの決断と戦争の行方

ハルが活躍します。

 有利と思っていたアルミア軍が俺達の偵察で一気に不利になってしまう。

 そこに偶然通りかかった大司教にアズモデルが食って掛かる。

「司教会が締め出した。獣人たちを戻してください」(アズモデル)


「何を言っている。聖なる都に獣人が入れるわけが無かろう」(大司教)


「私達は呼ばれて入っておりますが」(マイア)


「お前達はジュンヤ殿の奴隷であるので特別に許可したのだ。有り難く思うが良い」(大司教)


「ご主人様、このような者を助けるのですか?私は嫌です」(ハル)


「獣人の娘ごときが無礼であろう。アズモデルつまみ出せ」(大司教)


「何を言っているのですか。その娘は十二天使全員より強いですよ。私にどうこう出来るもんですか」(アズモデル)


「何、そんなことが。私は仕事の途中であった。失礼する」(大司教)

 大司教は慌てて部屋の外に出る。


「これはどういうことだ?」(ジュンヤ)


「司教って言うのは政治をするために司教区から司祭、助祭の選挙で、選ばれるから俺達や教皇の意見は通らないんだ」(マルキエル)


「獣人差別については宗教的見地から間違っていると、教皇や聖女が言っているのだが、なかなか根が深いものがあって改善できないんだ」(アズモデル)


「折角、上層部を綺麗にしたんだがやっぱり同じような奴が来るんだよ」(マルキエル)


「これじゃあ、俺達が応援する意味がねえな」(ジュンヤ)


「その通りだ。だが俺はお前にこの国を見てもらいたいと思っている」(マルキエル)


「十二天使と教皇の総意です。この国の教会はすでにどうしようもない。クーデターをして分かりました。膿を出そうとしてもすべて腐っているのですから。せめて我々に政治能力があればと何度思ったことか」(アズモデル)


 そんなこと急に言われても対応できない。でも、あれが政治のトップとなると国民が気の毒って言うのはあるな。

「もしかしてマルキエルが遊びに来てたのは下見か?」(ジュンヤ)


「失礼な、お前の手腕は見せて貰った」(マルキエル)


「その話は後だ。この戦争に勝たなければ未来はないぞ」(ジュンヤ)


「分かってるさ」(マルキエル)


「さあ、俺達は昼飯を食って、昨日話した作戦の確認だ」(ジュンヤ)


 昼食後、俺達は聖都の外に出て新しい魔法を確認する。


 まずはホーリーシールドと名付けたバリアだ。これは聖獣達の服が聖魔力で作られていることに着目して服の代わりにバリアを作る実験だ。


 最初は半球型の物を意識して作ってみる。割と簡単に出来た。

 ピストルとライフルで強度を確かめる。結構、厚みと硬さが要ることが分かった。

 全員がライフルを防げるホーリーシールドを条件反射で張れるように練習する。


 やっていく中で、結構な弱点が露呈する。シールドを張った状態で魔法が使えないのだ。

 魔法を発動するとシールドが消えてしまうことが分かった。多分、聖魔力と普通の魔力を同時に操ることが出来ないのだろう。


 あと聖獣達の魔法の威力も精度も上がっていることが分かった。体の維持に魔力を使わなくなった分魔力の使用できる量が格段に増えたのだろう。


 ホーリーシールドの習得に時間を取られたのでハルの魔法を確認する暇が無くなった。

 夕方の偵察に出る時間だ。


 王都軍は聖都まで半日くらいの所で夜営の準備を始めている。本陣は朝と同じところにあった。

 北の拠点を出た軍は渡河地点ではなく船着き場に着いていた。そして次々と下流に向かっていく。

 夜に移動するつもりだ。うまくいけば明日には陣地に着ける。しかし決戦には間に合わない。

 放っておいて良いだろう。

 他は動きが無かった。


 マルキエル達に偵察結果を報告して夕食を取る。


 作戦で決めたのはまずマスケットの上空から俺、ハル、マリー、マイア、レイコの5人で精霊魔法のウォーターフォールを撃ってマスケットの火縄を使えなくして、後は後方からライフルで撹乱する。

 それからは戦況を見ながら臨機応変に対応するつもりだ。


 ******


 その日の深夜、ハルは隠形を使って聖都を抜け出し、敵の本陣に向かって飛んだ。

 ご主人様には内緒だ。言うと止められるのは解っている。

 ご主人様は私達が傷付くのを嫌がるというか恐れてるみたいだから。

 ご主人様は両軍が戦って多くの人が死ぬのを嫌っている。

 ならば敵の王が居なくなれば、敵は戦う意味を失って、引き上げて行くはずだ。


 夕方の偵察で敵の王の居る場所は目星が付けてある。夜の闇も私にとっては昼間と同じくらいに見えるから大丈夫だ。


 私は王の為に設営されたテントの近くに降りると隠形を掛け直した。何人かの護衛の兵が居る。

 歩哨の横を通り、入り口をふさいでいる布の幕を少し開いて中に入る。

 思った通り気付かない。


 そのまま王の寝室に入り、ベッドで寝ている人物、脇には王冠もあるので間違いないだろう。


 金髪で髭を生やした白い顔、その下の首に刃を降ろして切り取った。返り血は布団で防いだ。


 私は血の抜けた首を髪の毛を持ってぶら下げ、逃げる体制から首を歩哨の前に転がした。


 歩哨は周りを見回したのち、首の正体を見て大声で悲鳴を上げた。


「王が、王がああああ!!!」


 大勢が集まりだし、口々に何やら叫んでいる。


 私は殺した相手が本物かを確かめるため、ちょっと離れた場所の上空5mで成り行きを見守っていた。

 敵の王に間違いないようだ。私はゆっくりその場を離れ始める。


 いきなり私の左足首に何か巻き付く。もがいたが外れない。

「お嬢さん、静かに」


 下に黒ずくめの男が居た。足に巻き付いたのはその男のムチのようだ。

 その男は黒い短めの剛毛、太い眉毛、張り出した額、幅広い口髭、細い目、深いしわ・・男を体現するような男だった。


「私の名前はチャールズ、君が殺したのは王で間違いないよ。多分撤退することになるから追わないでくれないか?それからそのうち、君の御主人に挨拶に伺いたいと知らせておいてほしい」(チャールズ)

 私が頷くとムチは解けてチャールズの手元で丸まった。


 私は大急ぎで帰途に就き、ベッドに潜り込んだ。


 ******


 俺が朝起きるとベッドの横にはハルが正座をして居た。

「ハルどうした?」(ジュンヤ)

「ご主人様、申し訳ございません。昨日の夜、勝手に出かけました」(ハル)


「へ、どこへ?何をしに?」(ジュンヤ)

「敵の本陣で敵の王を暗殺しました」(ハル)

 そう言うとハルは土下座した。


「え、えええええ!!」

 同じ部屋で寝ていたアステルとボルクが起きて、どうかしたのーとか言ってる。


 とりあえずマルキエルを叩き起こし、敵の王が死んだらしいから俺達が偵察から帰るまで動くなと言っておいた。


 ということで俺達は今飛んでいる。

 王都軍は昨日の野営地にはすでにいなかった。一時間は前に撤退を始めたらしい。

 本陣も撤去され、川を戻り始めている。

 感心するくらい素早い行動だ。


 俺達は戻りマルキエル達に報告した。

「良し!追撃戦だ!!頭を押さえておいてくれ」(マルキエル)

「俺に言ったのか?俺達は帰るぞ」(ジュンヤ)


「なぜだ!敵に大きなダメージを与えるチャンスだぞ」(マルキエル)

「俺達はアルミアの国民の為に加勢した。目的を果たしたら帰るのに決まってるだろう」(ジュンヤ)


「お前達が居なければ追付けない。追撃戦は諦めるしかないのかあ」(マルキエル)

 マルキエルはこの戦争でまともに戦っていない。消化不良なんだろう。


「お前達も国境線までは追い掛けないと砦とか作られると厄介だぞ」(ジュンヤ)

「分かってるよ」(マルキエル)

「マリーを置いておくので事後処理までよろしく」(ジュンヤ)

「後は任せてください」(マリー)

 ノーラが早く風呂に入りたいので急かしてくるからな。


 ハルが敵の王を暗殺したのは俺達だけの秘密だ。

 ハルについては処分保留にしてある。行くなとも言ってなかったので命令無視ではない。無許可の行動となる。俺達は軍隊ではないので、ある程度の行動は自由だが、今回の様な命の掛かった行動はして欲しくない。


 ハルが死んだときの喪失感に俺は耐えられそうにないからな。

 はっきり言えばアルミアの国民全員よりハル達の命は重いと思っている。


 ハル達・聖獣達とは家族より深い絆を感じる。俺は優れた施政者にはなれそうもないな。


 マリーは俺達が帰ってから一週間ほどで帰ってきた。

 アルミアには俺達の戦争費用を貸し付ける形で来年度の国家予算の承認権を手に入れた。もちろん司教たちの浪費を押さえるためである。アルミアには食料の輸出などの弱みも握っているのでおいおいこちらの管理下に置いて行くつもりだ。


 俺達はと言うと農地拡張、新品種の栽培準備をやっている。作付面積は去年のおよそ10倍を目指さしている。そんなに作ってどうするのかって、もちろん輸出だ。安価でおいしい食料を作れば各国で食料不足は無くなり、人口が爆発的に増える。その結果、2次3次産業に従事する人が増えて、文明が一気に加速する。とらぬ狸の何とやらだ。俺が生きてる間に出来るかな?。


 もちろん産業革命も進めている。南で見つかった石炭を北の鉄鉱石の採掘場まで運び、製鉄所で鉄を作る。港近くも考えたが防衛上やめておいた。

 製鉄所の蒸気機関はすでに出来ているので。後は製鉄所から石炭の採掘場まで鉄道を引く、これが夏までの予定、来年までにジニア・港までの鉄道と石炭の採掘場から大陸南端までの鉄道を引く予定だ。


 それから一か月が経ったある日、港の出先機関にチャールズと名乗る男が来たと連絡が有った。

 俺はジニアまで馬車で送るように指示を出し、ジニアで会うことにした。


 次の日の朝、俺達はジニアに出向く。

 前の領主館、今は市役所の応接室に行く、チャールズはすでに待っていた。


「お初にお目にかかる。ギズモニア宰相、チャールズと申します」

 ハルが言っていた通り、男だ。まごうことなき男、男より男らしい男だ。

「初めまして精霊の里代表のジュンヤです」

 握手をする。なぜか興奮する。


 メイド姿のハルが紅茶をチャールズと俺の前に置く。

「お嬢さんはその恰好の方が似合ってるよ」(チャールズ)

 ハルが一瞬構えてしまう。まだ修行不足だな。


「それでどのようなお話でしょうか」(ジュンヤ)

 日常会話をする気はない。単刀直入に相手の要件を聞く。

「用件はあなたにギズモニアを差配して・・」(チャールズ)


「ちょっと待ってください」

「それは困るよ。君」

 突如部屋に入って来た男たちがチャールズの言葉を遮った。

次回、ジュンヤがドワーフの町へ

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