第二十四話 敗戦とハルの覚醒
元聖女アーリアの魔力で進化が起こります。
俺とハル、マイアは敵が土魔法で造った最初の陣地に取り付いた時点で、この河原に浮かぶ船を攻撃目標にする。船は少数の兵が流されないように見張っているだけで手薄になっていた。
燃やそうかとも思ったが手っ取り早く流してしまうことにした。
ハルとマイアが見張りを倒し、風の初級魔法タイフーンを最弱で静かに岸から離れて貰う。
流石に千隻以上30kmだから30分掛かったが、船をすべて流してしまうことに成功する。
10隻ほど鹵獲して隠しておこう。必要になるかも知れないので、上流に引っ張って行って隠した。
これで敵は長さ30kmの河原に孤立した。
回り込もうと思えば陣地の中に入って、もう一度3mの壁を登らないと横には出れない。
流石に装甲板の梯子は壁を越させることは出来ない。
今は最初の陣地を挟んでマスケットの撃ち合いが続いているが、敵には補給も無いのでそれほど持たないだろう。
後は補給させないように見張るだけだ。一週間も経てば音を上げるだろう。
次の日、敵が壁を壊す者と装甲板を壁を越させようとする者が現れた。
河原の石を壁にぶつけ始めたがそれ位では壊れない。
もう一方は装甲板を壁の上まで持ち上げ、それを何人かの背中に括り付け、ロープを伝って壁の内側に降りる作戦だ。
此方は現実味があった。両端に次々と装甲板を降ろし側面の壁まで装甲板で囲ってしまった。側面の壁を抜ける作戦だ。すぐさまマスケット隊が対応に動くがうまく拠点を作られ両サイドに道が出来てしまった。
こうなればハルとマイアの出番だ。まだ飛び道具が揃っていないので両サイドの拠点の内側に一人ずつで斬り込む。
土魔法のサブマシンガンで斉射して相手の中に斬り込む数分で20人位の敵を倒す。
壁に掛かるロープを切り、装甲板をグシャグシャに壊して引き上げる。
そんな時にマリーから念話が入る。
『上流に残っていた船を下らせ始めました。その数約200隻。どうしますか』
船のたまり場に居た兵は1000人位だった。どうするつもりだ。
「そうか、ちょっと偵察に出る」(ジュンヤ)
敵の本陣は向こう岸から500m位のところにある。そこにはまだ10000の兵が居る。それを北の渡河地点から渡らせるつもりではないか?
それが俺の思いついたことだ。
この辺は草原の中に林が点在するような地形だ。兵が行進していたらすぐに分かる。
案の定、居た。北に向かう軍隊、5000人位だ。この分だと渡河地点まで1日は掛かる。
要所要所に対空武器・防備を備えた隊列に手出しが出来ない。
仕方ない船の方に行くか。
支流を下っている約百隻の船を発見、近付くといきなり発砲された。
一隻に一人ずつマスケットを乗せてる。魔法の射程距離まで近づけない。
ライフルで応戦するが装甲板や盾で防御している。
くっそー、うまく行かない。
どうも相手の方が上手みたいだ。
精霊獣達から魔法を教わった時から、俺は第六天魔王を除いて敵はいないと思っていた。
しかし、この戦争で昨日までは思ったとおりに推移していたが、今日になって俺の弱点を見透かされるようになった。
とにかく数を使って多方面から攻めてくる。長射程はライフルだけだとバレている。
相手に相当賢い奴が居るみたいだ。
俺は陣地に戻ってマルキエルに相談する。
「負けだ。上流から5000が来る。後ろから挟まれると全滅の危険もある」(ジュンヤ)
「どうしろというのだ?まだ相手の数も然程削れてない」(マルキエル)
「撤退しよう。うまく行けば聖都に兵が集まっている」(ジュンヤ)
行軍が2日、陣地造りが2日、戦闘が2日、帰るのに2日で8日経っている。聖都に兵を集める期日7日はすでに過ぎている計算だ。
「このまま撤退すれば数の不利は解消するか」(マルキエル)
幸い敵は上流からの増援を待っているのか攻めて来なくなった。
マルキエル達はすでに退却を開始し、俺達は日が暮れたら退却を開始することにした。
聖都に使いに出したマイアが戻ってきた。
徴兵は順調に進んで、5万人は集まるみたいだ。
俺達は聖都まで引かれた簡易舗装を壊しながら撤退する。
敵は次の日は合流及び補給を行い、出発したのはその次の日だった。
マルキエル達はすでに聖都に着いている。
俺達も半日遅れで聖都に着いた。
またもタマサブロウ達が聖都内に入れない。
獣人差別があって市内に居ると襲われかねないのだ。
今回は外にも置いとけないので帰らせることにする。
アズモデルが平身低頭で謝っている。
「申し訳ありません。時間は掛かりますが、獣人の方が安心して市内を歩けるようにしますのでお許しください」(アズモデル)
「はい、期待しております。それでは失礼します」(タマサブロウ)
タマサブロウは気遣って貰えるだけでも嬉しそうだ。
問題が起きないように司祭らが先導して帰って行った。
俺はタマサブロウ達が誰一人欠けることなく帰途につき、ホッとした。
ハルとマイアは俺達と一緒に直接、空から十二天使の詰め所に行くので問題ない。
「戻ったばかりで申し訳ありませんが私に付いて来て頂けないでしょうか?」(聖女)
俺達にあてがわれた部屋に入ろうとすると聖女が待ち構えていた。
「あんたね。この間のいたずらは?」(ノーラ)
「まあ、いたずらなんて、本当の姿を見せて頂いただけですのに」(聖女)
そう言うとクルッと回って歩き出した。
俺とハル、マイア、マリーと精霊獣の8人は、教会の奥まった所にある部屋へと案内された。
聖女がノックをすると女性の声で返事があった。
「失礼します。ジュンヤ殿たちをお連れしました」(聖女)
「すみませんね。目が悪いのでこちらに来ていただきました。アーリアと申します。こちらにお掛けください」(アーリア)
聖女と同じ修道服姿のおばあさんがいた。おばあさんの目は白く濁っていた。
俺達は大きな長方形の机の椅子に座った。聖女はアーリアの後ろに立った。
「あなた達に来ていただいたのは、あなた達の力についてです」
アーリアが話し始めた。
「あなた達は、挫折を感じてますね。でも諦めていない。力を求めていませんか?」
俺は内心ドキリとした。この戦争で感じた敗北感、代わりに無くなった自信、そう言ったものを見抜かれたような気がした。それと同時に沸き上がる力も感じた。
「私達は戦うようには作られていない。もしそうだったら、あんたにこんなところで負けなんてつけないのに!!」(ノーラ)
ノーラが立って言った。目には涙が溜まってる。アステルは机の上で両拳を強く握っている。
「僕も悔しいです。もっと力があれば!!」(アステル)
レイコとボルクも大きくうなずいている。精霊獣達の感情が高ぶっている?。
「私も何も出来ませんでした!!」(マイア)
「それを言うなら私なんか戦ってないのに」(マリー)
これは何だ。マイアもマリーも泣き出してしまった。
こんなに感情を表に出すような子達じゃないのに・・・・・。
「うちの子たちを虐めるのはやめてください」(ジュンヤ)
アーリアさんか聖女が何かやったに違いない。
「アーリア様の前では感情を隠せません」(聖女)
そう言えば一番騒ぎそうな奴が静かだ。
ハルを見ると俯いて何か小声でつぶやいているみたいだ。
「ハル、大丈夫か!!」(ジュンヤ)
「ククク、私は戻ったのだ。復活したぞ。アハハハハ」(ハル)
ハルは顔を上げ、笑い始めた。
ハルの髪の毛の色が見る見るうちに白から黒に変わっていく。
皆、息を飲んでハルの変化を見つめる。
「ハル(ちゃん、さん)」(皆)
「これはどういうことだ!!」(ジュンヤ)
俺は聖女とアーリアを睨んだ。
「む、その子の内にあった者が感情と一緒に出て来たようね」(アーリア)
内にあった者だと、ハルの精神が乗っ取られたというのか?。
「お前は何者だ。ハルを解放しろ!!」(ジュンヤ)
「お前がこの子の御主人様か。心配するな。私は闇の精霊だ。今はこの子の許可を得て、表に出ている」(ハル)
「闇の精霊だと。なぜハルの中に居た」(ジュンヤ)
「遥かな昔、精霊の統廃合が起きたのは知っているな」(ハル)
「聞いたことはある。無数にいた精霊たちが4元素の精霊になったんだろ」(ジュンヤ)
数百年前にいろいろな能力を持った精霊がそれこそ無数に居たが何があったのかは知らないが統廃合されて今の4元素精霊になったと言われている。
「戦うのも統合されるの嫌だった私は、契約者であった女の中で眠ることにした。女が死ぬとその子に移り、父親からこの子に移った。この子は素質はあったが魔力が足りなかった。今、その女の力で魔力の底上げが起こり、私が復活したのだ。それを説明するために私が表に出ている」
「ではハルは元通りになるのだな」(ジュンヤ)
「もちろんだ。今の世界は面白い、肉体を手に入れるかいが有りそうだ。それまではこの子の中に居る。この子が私の力が必要な時には能力だけ貸すことになる。質問があれば今のうちに聞いておくが良い」(ハル)
「肉体はどうした」(ジュンヤ)
「とっくの昔に四散したよ。肉体を構築するには魔元素が居るのだが集めるのに時間が掛かる。そこの精霊獣が分けてくれると速いのだが、うん、お前達を構成しているのは魔元素じゃないね。お前達は精霊獣なのになんでだ」(ハル)
精霊獣は自分を見てオロオロしている。そんなことを言われてもと言う感じだ。
「それについては私が説明しましょう。あなた方が私の前に来た時に私が操れる聖魔力をすべてあなた方に渡しました。精霊獣の方々は聖獣に進化しました」(アーリア)
アーリアが爆弾発言をしたので精霊獣達はびっくりしてアーリアの方を見る。
「聖獣って何なの。私達に何が起こってるの?」(ノーラ)
「まあ待て、私が表に出ている時間には制限がある。先に私の話をしておこう」(ハル)
「分かったわ」
ノーラは聞き分けてくれた、本当は早く知りたいだろうに。
「私を構成する魔元素を集めるには半年くらいかかる。それまでにはこの子も私の能力を吸収しているだろうし、私が肉体を持つことに問題はない」(ハル)
「お前の能力ってどういうのなんだ」(ジュンヤ)
「私は闇の特性を持つ。闇とは光が届かない状態だ。相手に存在を悟らせない隠形、逆に存在を分散させる影分身、相手の動きを止める影縛り、精霊魔法は辺りを闇に包む黒闇、見える範囲の影に移動する影移動の魔法が使える」
「まるで忍者だな」
ハルが凄い形相で俺を睨む。
「ご主人様は転生者か?忍者を知っているのは日本人だけだ」(ハル)
「お前、忍者を知っているのか、ちなみに俺は転生者じゃない」(ジュンヤ)
俺は生まれ変わってないから転移者だし、今や忍者は世界中の人が知っている。
「最初の契約者は日本で忍者をしてて、この世界で猫獣人に生まれ変わったと言っていた。なんといったかなあ、く、・・・」(ハル)
「くのいちか」(ジュンヤ)
「それだ!!ご主人様は本当に転生者じゃないのか?」(ハル)
「違うってば」(ジュンヤ)
「おお、もう時間がない。これ以上私が表に出ているとこの娘の意識に障害が出る。最後にマイア、マリー、お前達の中に眠る精霊ももう直に目を覚ますだろう。焦らずに待って居れ。さらばだ」
「「ちょっとそれどういうこと」」(マイア、マリー)
ハルの髪の毛が白く戻っていく。
次回、ハルの魔法と偵察の出来事です。




