第二十一話 世界の王と蒸気機関
聖女が俺に平伏?蒸気機関を作ります。
聖女は段を駆け降りると俺達に平伏した。
「どうされたのです!!聖女様、立ってください」(マルキエル)
マルキエルは平伏する聖女に起こそうとするが微動だにしない。
アズモデルは事態が呑み込めずおろおろしている。
俺は声を出そうとするが出ない。まるで体が別の人間になったみたいだ。
そのうち気が遠くなる。
「控えよ!!王の御前である」(ノーラ)
ノーラがそう言うと変身を解きピンクのドラゴンの形態になる。後の三人も変身を解いた。
それを見たマルキエルとアズモデルも平伏する。
後ろに居たマリーも平伏する。
「どうした!!マリー」(マイア)
「本聖書の最終章よ!!分からないの?」(マリー)
貴族や商人は読み書きの練習に聖書を利用する。なので聖書は暗唱できるほど覚えている。
「最終章って確か、
晴れやかなるかな、晴れやかなるかな、前に桃色の獣を従えて、後に青き竜を従えて、
右に白い水の獣を従えて、左に赤き火の鳥を従えて
世界の王が降臨す。我らの王が降臨す。
王は我らを従えて、悪を滅ぼし、魔を滅し、地上に楽土を築くべしって、ええ」(マイア)
マイアも慌てて平伏した。こんな間近に世界の王が降臨するなんて、どうすれば良いのか分からない。
オロオロしてるのは聖書なんか見たこともないハルだけです。
「聖女よ、表を上げよ」(ノーラ)
「はい」(聖女)
聖女は顔を上げた。マルキエル達にはノーラの声が聞こえないので何を言っているのか分からない。
聖女は確実に聞こえている。流石だ。
「王はまだ目覚めて居らぬ。おまえは早急に教皇を定め、この国を平穏にせねばならない」(ノーラ)
「はい」(聖女)
「王の事は誰にも言うな。王の目覚めを妨げるやも知れん。分ったな」(ノーラ)
「はい」(聖女)
「お前達もな」(ノーラ)
「はい」(ハル・マイア・マリー)
ノーラ達は人間の姿に変身し、聖女たちも立ち上がった。
俺は朦朧とした意識が急速に覚醒するのを感じる。
「一体何があったんだ」(ジュンヤ)
「あれ、何で私こんなところに居るのよ」(ノーラ)
「本当だあ、オイラも解んないぞ」(ボルク)
「・・・・」(レイコ)
「これは誰かに操られていたようですね」(アステル)
精霊獣も意識が無かったのか忙しく辺りを見回している。
「なあ、マイア何があったんだ」(ジュンヤ)
「・・・聖女様が教皇を選んでいただけるそうです」(マイア)
マイア達は隷属契約しているからジュンヤに対して嘘が付けない。
「本当ですか、聖女様」(ジュンヤ)
マルキエルとアズモデルに何か説明をしていた聖女に聞いてみた。
「はい、今さっき、桃色の服を着た娘を通じて神託が有りました。皆さんは意識が無かったようです」(聖女)
マイアは聖女がうまく言ってくれたのでほっとする。
マルキエルがつかつかと寄って来た。
「ありがとう、この礼は必ずするから、それまで聖都に居てくれないか?」(マルキエル)
「そうもいかない。仕事を投げ出してこっちに来てるからな。また様子を見に来るよ」(ジュンヤ)
マルキエルは神託を降ろすのに世界の王の形を取ったと思っている。ジュンヤが世界の王とは思っていない。
俺は神託が降りて聖女が教皇を指名するなら、大した混乱もなく安定していくのだろうなと思っていた。
しかし、この神託ってなんか変じゃないか?
まあいい、後でハルにでも聞いてみよう。
まだ明るいし、急いで帰れば暗くなるまでにソルトレイクに帰れるだろう。
******
俺達は帰路についていた」
「帰って来ちゃって良かったんですか」(アステル)
「聖女が自分で教皇を選ぶと決めた以上、俺達に出来ることは無いよ」(ジュンヤ)
「でも私を神託に使うってひどくない」(ノーラ)
「まあ神様も狙ってたんだろう。聖女が精霊獣の声が聞こえるとは思わなかったけどな」(ジュンヤ)
「あれ、あの子達話に入って来ないわね」(ノーラ)
「ハル達か、神託に驚いたんだろう」(ジュンヤ)
ハル、マイア、マリーの3人は少し離れて飛んでいた。
その日の夜は3人は自分の部屋に籠って出て来なかった。
次の日の朝食、いくら何でも3人とも静かすぎる。
「おーいおま・・・」(ジュンヤ)
俺の言葉はハルがドドドと走って来たので途中で遮られた。
「私がいません!!ご主人様は私を捨てるのですか?」(ハル)
ハルは本を半泣きで俺に差し出した。
俺は本の開かれたページを読んだ。
聖書の最後のページだ。昨日の聖女に会った時の精霊獣と俺の並びが書いてある。
しかも俺は世界の王になっている。
そしてハル達に関する記述はない。
「これは俺達の事じゃないな。だってそうだろ、ハル達がいないわけないじゃないか」(ジュンヤ)
「ノーラさんに秘密にしろって言われてどうしようかと悩んでいました」(マリー)
「師匠に嘘は付けないし、ハル!!良く言った」(マイア)
「私の言葉じゃないのに」(ノーラ)
二人とも俺にこのような秘密を持つのは苦しかったのだろう。涙を浮かべている。
「うまく、アルミアの神様に利用されたみたいだな」(ジュンヤ)
俺が世界の王と言うことはないだろう。それなら神様と最初に話し合った内容と食い違うからな。
アルミアに神がいるかどうかは知らない。しかし俺達を利用した奴はいる。
もしかして聖女か?彼女はノーラ達が変身する前から聖書の記述と合致することを知っていた。
まあ、考えても結論は出そうにないな。
「聖女にばれないように秘密にせよと言ったんだよ。多分」
俺達はアルミアの事を忘れて本来の仕事に掛かった。
俺は蒸気機関の試作が進んでいる。
マリーはギルドの仕事が溜まっている。
マイアはジニアの北に作る畑の工事の護衛に行く。
ハルは高炉で鉄作りの護衛。
ノーラとボルクは石炭の鉱脈探しだ。
レイコとアステルは、ジニアの北で畑の工事だ。
その他に南に試験的にコーヒー・サトウキビ・胡椒の試作生産に入る。
蒸気機関と言うのはマキや木炭・石炭などを燃料として水を加熱して水蒸気を作る。
高い圧力の蒸気をシリンダーに導き、ピストンに往復運動をさせる。それをクランクで回転運動にするのだ。
水車に比べて力があり、川のそばでなくても動力が手に入れられる。
難しいのは高い圧力の蒸気を漏らさないことだ。
今日も試運転中にボイラーから派手に蒸気漏れがあった。爆発することもあるから大人しい方だ。
どうしても鋼鉄にバラツキがあり、うまく圧力を閉じ込められない。
転炉ができれば均一な鋼鉄が作れる。転炉には蒸気機関が必要となる。
つまり最初は蒸気機関なのだ。
鋼鉄が出来始めるとレールを作れる。精霊の里縦断鉄道が出来るのだ。
南からは砂糖・胡椒・コーヒーが北へ送られる。石炭は恐らくソルトレイクまでの山にある。ソルトレイクまでにいくつかの村を作って農業・酪農をする。
精霊の里は南は一大穀倉地帯と北は工業地帯になる。
俺は来年いっぱいまでにこれにめどを立てるつもりだ。
いずれにせよ蒸気機関が出来ない事には絵にかいた餅だ。
「ジュンヤ様、試作3号機が用意出来ました」(技術者)
「よし、圧力を上げるぞ」(ジュンヤ)
「圧力上昇 2、・・3、・・4、・・・5」(技術者)
「水、抜けえ」(ジュンヤ)
「水抜きします」(技術者)
プシュート言う音と共に大量の湯気が出て周りが真っ白になる。
「水抜き弁閉鎖」(ジュンヤ)
「水抜き弁、閉鎖します」(技術者)
「ピストン始動」(ジュンヤ)
「ピストン始動します」(技術者)
ピストンが動き始めてシュッ、・・シュッ・シュッシュッ・・・・・・。
蒸気が抜ける音が段々小刻みになりクランクを通して大きな輪を回し始める。
安定した回転だ。やったか。
「圧力上昇・・7・・・8・・」(技術者)
「圧力抜けえ!!」(ジュンヤ)
「圧力ぬきます」(技術者)
「圧力6で安定させろ」(ジュンヤ)
適当に作った圧力計だ。正確な数値は分からない。しかし今までの試験では7以上で蒸気漏れを起こすことが多かった。
「圧力6、安定しました」(技術者)
「そのまま3時間の連続運転に入る」(ジュンヤ)
「連続運転入ります」(技術者)
「試作3号機はどういう改造をした」(ジュンヤ)
「前回の試験でボイラー部分が吹っ飛びましたから一からボイラーを作って、今まで蒸気漏れを起こした部分を強化しました」(技術者)
「連続運転に成功したら量産試作を開始する。部品設計は3号機をバラくか」(ジュンヤ)
「いえ、大体の図面は起こしてあります」(技術者)
この試作は転炉の送風用だが、高炉及びコークスの作成用にも使える。ようやく目処が立ちそうだ。
******
その頃、ノーラはボルクの背中に乗って石炭を探していた。
一度、山すそをずっと見ての帰り道だ。
鉄鉱石みたいに平地に出ているかも知れないと思い、森の上を飛んでいる。
「あそこら辺の植生が弱いわねえ。ちょっと降りてみて」(ノーラ)
「分かった」(ボルク)
ゴツゴツした岩があるが石炭ではない。
「ちょっとあんたスピットファイアでこの岩を吹っ飛ばしてくれる?」(ノーラ)
「分かった」(ボルク)
ボルクは人間に変身するとスピットファイアを撃つ。
大きな岩が砕けて下の地層が見える。
「石炭じゃないけどその時代の地層ね。もう一発お願い」
ボルクがもう一発スピットファイアを撃つと先ほどの場所がさらにえぐれる。
ノーラはえぐれた下を魔法で掘る。
鼻を着く匂いが漂ってくる。
ノーラがさらに掘ると黒い岩が出て来た。
「間違いないわ。石炭よ」(ノーラ)
「わーい、やったあ!!」(ボルク)
サンプルをいくつか取ると場所が解るように用意した赤い布を木の天辺に上から見えるように結んでおく。
「さあ帰るわよ。あんた、山の形覚えておきなさいよ。大体の場所が分からないと目印も探せないから」(ノーラ)
「うん、分かったあ」(ボルク)
******
「見つけたわよう!!」
俺達の居る食堂に黒い石を持ったノーラが駆けこんできた。
ノーラは俺に石炭を渡すとふんぞり返った。
『上質の石炭です。何にでも使えます』
アイさんが保証してくれた。よし、明日は掘りに行こう。
次回、ギズモルアがアルミアを攻めます。




