第二話 精霊魔法とノーラの気持ち
精霊の属性魔法を覚えます。
早速魔法を教えてもらうことにした。
「あんたとの絆はまだ浅いから初級の魔法しか使えないわ。まず、攻撃魔法よ。ストーンバレット。石を弾き出す要領で手を出して・・」
石が鋭く飛んで行くイメージを描いて右手を突き出す。
何もない空間に石が現れ、手を突き出した方向に飛んで行く。放物線を描いて。
崖に向かって放ったのだが崖にコンと当たって転がった。
これでは攻撃と言えない。
「練習すればもっと威力が増すわ。頑張りなさい」
20分程練習してビシッと崖に突き刺さるようになった。
「それで良いのよ」
ノーラはそう言うが威力が足りない。
アイさんに測定して貰うと秒速180m、ピストルの半分だ。
そうかピストル、石を紡錘形にして回転させ、火薬で発射されるイメージを描く。
右手を握り人差し指を前に親指を上にして撃つ。反動が来る。
初めてバンという音がして崖が少し崩れた。音速を超えた。
「何よ!今の音!」
ノーラが驚いている。
「音速を超えたから衝撃波が出たんだ!」
俺は興奮気味にノーラに話す。
「オンソク、ショウゲキハ、それ何?」
俺は説明するが理解はして貰えなかった。
「要するに速いという事ね」
褒めて貰えるとは思わなかったが喜んでもらえると思ったのに。
次はライフルだ。ピストルの格好で左手で右手首を掴み両手の魔力で弾丸を加速する。
やはりバンという音がして崖の崩れがやや大きい。
『ピストルの初速が秒速370m、ライフルが秒速590mです』
よし、次は連射だ。
ピストルを連続発射するサブマシンガンだ。
バババババンと崖に打ち込む。左手で支えないと反動で狙えない。何とか使えるか。
これはライフル連射のマシンガンは無理だな。
「あんたみたいな人初めてよ。石礫をあんな威力にしちゃうなんて、もう中級魔法よ」
ノーラに呆れられてしまった。
次に教えて貰ったのが砂嵐。
これは相手の周りに砂嵐を起こして戦闘不能にする魔法だ。
今のところ強力にしてもこちらが巻き込まれるのでこのまま覚えた。
最後の初級魔法が石盾。
自分の左手に石の盾を作って相手の攻撃を防ぐ魔法だ。
ピストルなら止められるがライフルを止めようと厚くすると重過ぎて取り回しが悪い。
普通はそのまま使うしかないだろう。
慣性の低い魔法や火などは大きくして防ぐことも可能だろう。
「次は精霊魔法ね」
ノーラが嬉しそうに宣言した。
ノーラと精霊魔法を練習することになった。
魔法における精霊との精霊獣との違いは、精霊獣は通常魔法は使えるが、精霊魔法は契約者の魔力がないと使えないことだ。もちろん精霊は単独で精霊魔法を使える。
俺が精霊魔法を使う時に精霊獣は演算装置のような位置付けになる。
ノーラは精霊によって生まれ、土精霊に従属して魔力を貰い、雑用をしていた。
土精霊が居なくなって命の危機を感じたノーラは、魔力をくれるジュンヤと精霊契約した。
精霊契約は精霊獣の力をジュンヤに貸す代わりに魔力を貰うものである。
精霊魔法の攻撃魔法、石槍。
ノーラをそばに置いて絆を探る。繋がりを感じたら手を前に出し叫ぶ。
「ストーンランサー!!」
狙った地面から細い円錐状の石が何本も突き上がる。そこに居る相手は串刺しとなる。
細くて狭い範囲や太くて広い範囲を確認してみる。
質量の大きな相手には良さそうだ。
流石に5発も打つと魔力が足りなくなってくる。ピストルやライフルでは減った感じも無かったのだがな。
魔力が回復するまで休憩だ。
さっき乾かした塩が乾いていたので収納に入れる。
「塩が消えた!!」
ノーラがびっくりしたようである。相変わらずモグラの表情は分からない。
「これは亜空間収納だ。この魔法は知らないのか?」
「そんなの知らないし、聞いたこともないわ」
この世界でも珍しい魔法を貰ったようだ。女神に感謝だ。
しかし、あまり人前では見せない方がよさそうだ。
「ノーラ、このことは黙っていてくれ」
「心配しなくても精霊の声が聞こえる人間なんて殆どいないわ」
「ああ、それで話し掛けた時に驚いていたのか」
「せっかく石に化けていたのに見つけるなんてね」
うん、では。
「姿は普通の人も見えるのか」
「もちろんだわ。色も派手だし目立つわ」
「まずいな、流石にピンクのモグラを連れていると目立ちすぎる」
人里に降りた時に不審な事この上ない。
「仕方ないわね」
ノーラの姿がピンクの服を着た黒髪の少女、10歳位に変わった。
石に変化したし、そうは驚かないが感心はする。
「これでどう」
「大人にはなれないのか?」
「無理だし。人間はこの姿だけよ。後は石くらいだわ」
「人がいる時はその恰好をしていてくれ」
「うん、分かった」
疑問がググっと俺の頭に持ちあがる。
「なんで人の姿になれるんだ。なる必要があるのか?」
「精霊様は人の生活、特に貴族の生活に憧れてるの。だから雑用をする従者も人の姿が必要なのよ」
「子供なのはどうして?」
「精霊様が私に与える魔力を節約するためよ。進化すると大きくなれるらしいわ」
精霊の世界も世知辛いもんだな。
魔力が半分以上戻ったので精霊魔法の続きだ。
次は防御系の精霊魔法、石壁だ。
この魔法はノーラがどこに居ても良い。
「ストーンウォール!!」
こう叫ぶと目の前に分厚い石の壁が現れる。
相手の遠距離攻撃や相手と接近したくない時に有効かな。相手が見えなくなるので使い方が難しい。
幅や高さ・厚さなどは変えられるが魔力が足りないので試せなかった。
うまく使えば城や砦も作れるかも。
塩を乾かしながら休憩する。
そう言えば昼飯も食わずに魔法の練習をしていたな。
食料は三か月分を用意したので収納から取出す。今は塩おにぎりと味噌汁だ。
「ノーラはご飯は要らないのかい」
「食べられるけど食べなくても大丈夫よ。あんたの魔力だけで十分だわ。ここには人間の食べ物は少ないし、自分だけで食べると良いわ」
「すまんな、そうさせて貰う」
私はジュンヤが食事を始めたので思いついたことを考えてみる。
精霊様はいきなり現れた男に攻撃もせずに臣下の礼を取った。もしかすると前に聞いたことがある精霊を使役できるアイテム、”精霊鎧”あの男の着けていたのはそれに違いない。
精霊鎧は魔人の元にあると聞いている。あれは魔人だったのだろうか?
しかし、精霊様は去って行くときに大声で呼んだのに振り向きもせずに行かれた。
精霊様は私を作ってから優しい言葉もくれたことが無いし、魔力も目いっぱい貰うことも無かった。私は所詮道具に過ぎなかった。
精霊様は躊躇なく私を捨てた。これまでの忠誠を否定された。そう思うと涙が出て来た。
でも、この人間は私に優しくしてくれる。照れ隠しに使った偉そうな言葉も許してくれる。
魔力も惜しむことなく与えてくれるし、私の事を気遣ってもくれる。
それに何だろうこれ。幸福感と言うか。ほわほわっとした安心感?良く分からないけどジュンヤのそばにいるとなぜか嬉しい。
ちょっとなさけないところもあるし、私がいないと駄目よね。仕方ないから付いて行ってあげよう。
「なあ、ノーラ」(ジュンヤ)
ああ、ビックリした。良い気持ちでいる時に何よ。
「魔法って人間は使えるのか」(ジュンヤ)
また漠然としたことを聞くわね。
「私も人間の事を良く知ってるわけじゃないけど、お使いなんかで人間の街に行ったことはあるわ。そこで見た人間は大体魔力量が少なくて、初級魔法を一回使えるかどうかぐらいだったから、魔法が得意っていう人間は、居ても少ないんじゃないかしら」(ノーラ)
「ここは獣人国だろ、獣人ってどういう姿なんだ?」(ジュンヤ)
「猫や犬の耳と尻尾があって他は人間と変わらないわよ。他には、狐、兎、羊なんかは見たことがあるわ。でもやっぱり多いのは猫と犬ね」(ノーラ)
「この近くにある村は何人?」(ジュンヤ)
「ここに一番近いのは猫人ね」(ノーラ)
獣人国を通ってここへ来たんじゃないの?でも山は越えられないだろうし、ジュンヤはどこから来たんだろう。
「魔物とかモンスターとかいるのか?」(ジュンヤ)
「あんたねえ。一体どこから来たのよ。ここに来る前は人間の街に居たんじゃないの?」(ノーラ)
「俺の居た所には獣人や魔物はいなかったし、いきなりここに飛ばされたんで、ここいらの事が分からないんだよ」(ジュンヤ)
良く分かんない奴ねえ。まあいいか、長い付き合いになりそうだから。
「魔獣と呼ばれるモンスターが居るわ。3日前までこの近くには居なかったけど、今は精霊様の加護が無くなったから近くまで来てるかもね。この近くには猪の魔獣のオークと狼の魔獣コボルトが居るわ」
「他にはどんなのが居るんだ?」(ジュンヤ)
「そうね、私は見たことないんだけど野牛の魔獣ミノタウロス、トカゲの魔獣リザードマン、大鼠の魔獣ゴブリン、アイベックスの魔獣デーモンこの辺に居るのはそれくらいかしらね」(ノーラ)
そうそうあれも居たわね。
「あと魔獣ではないけど竜が居るわ。縄張りからあまり出て来ないからあまり見ないけど、それとドラゴン、これは知能も高いし、どちらかと言えば精霊に近いかしら」(ノーラ)
「ノーラはどれくらい強いんだい」(ジュンヤ)
「私だけだと初級魔法しか使えないけど、コボルトとオークなら戦って勝ったわ」(ノーラ)
「どうやったの」(ジュンヤ)
「サンドストームで目つぶしして、ストーンバレットを撃ちまくったわ」(ノーラ)
あの時は怖かったけど精霊様も居たし、逃げられちゃったけど勝ちは勝ちよね。
なんかこんな話してるだけでワクワクしてる。やっぱりジュンヤについて行こう。
次回猫少女を助けます。