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第十九話 新しい王とアルミアの使者

新しい王が即位してアルミアから使者が来ます。

 王に譲位を迫る俺達に子供の様に駄々をこねる王。

 宰相はリチャードに近付き申し出た。

「リチャード様、私も王と一緒に死なせてください。せめて一人でも王に殉じます」(宰相)

「何を言っておる。わしは死なんぞ。まだジョセフィーヌに城を建ててやらねばならん」(王)

「俺の国に逃げてきたお前の国民が言っていた。このまま獣王国に居れば飢え死にするとな。それなのにお前は愛妾に城を建てるという。そんな金があると思っているのか」(ジュンヤ)

「なぜだわしが何をしたと言うのだ。わしは悪くない。そうだろ宰相」(王)

「あなたは本来なら国や国民を守る為に使う金を愛妾に使ってきました。国が傾き国民が背くのも道理かと思います」(宰相)


「なぜだ、わしが悪いのか。分からん。分からんぞ」(王)

 いくら何でもおかしい。この王は精神的に来ている。正常な判断が出来ていない。そう言えば王が散財を始めたのは数年前からだと言っていたな。

『アイさん、分かるか』(ジュンヤ)

『ハルさん、マイアさん王の近くに来てください』(アイ)


 俺は王を羽交い絞めにしてハルとマイアを近付けた。

 ハルやマイアは獣人で五感は人間よりはるかに優れている。アイさんは俺達の五感を使って探索するCTスキャンなのでセンサーは敏感な方が良いのだ。

『頭蓋内に腫瘍らしきものが存在します。これにより意識障害、記憶障害などの障害が起きている可能性があります。ご主人様のスーパーキュアで原因は取り除けますが障害が残る可能性があります』(アイ)


「リチャード様、王は頭の病気です。治せるとは思いますが。ある程度の障害は残る可能性はあります。治しますか」(ジュンヤ)

 ジュンヤはこの時点で王の真似をやめた。元々交渉をうまくやる為の手段だったから。

「このままでは埒が明かん。治してもらえるか」(リチャード)

 ジュンヤは羽交い絞めにしたまま、スーパーキュアを唱えた。

「スーパーキュア」(ジュンヤ)


 ******


 王は暫く突っ立ったまま、手を回したり頭を抱えたりしていた。

 まるで今までの事を思い出したように。

「わしは、とんでもないことを・・・・」(王)

 王はしゃがみ込んだ。宰相が駆け寄る。

「陛下、お気を確かに」(宰相)


 王は立ち上がった。

「リチャードよ。王位はそなたに譲る。わしには子が無い。憂いも無いだろう」(王)

「陛下、お戻りになられましたか?」(リチャード)

「こんなに頭の中がすっきりしたのは数年ぶりだ。わしは正常な判断が出来なくなっていたようだ。そのわしを唆した奴らがいる。ジョセフィーヌ、ダキア、キッサリアの三人だ。あ奴らは結託してわしを騙して贅沢三昧をしておったのだ。捕まえて来てはくれぬか?」(王)

 王は3人の愛妾の名前を言い捕まえるように指示した。

「は、直ちに」(宰相)

 俺はストーンウォールを解除した。宰相は走っていった。

 3人の愛妾は正常な判断が出来なくなった王にあることない事吹き込んで、私腹を肥やしていたのだ。


「さて、リチャードよ、わしがやったことは病気だったとはいえ、許されることではない。譲位した後、わしを死罪にするが良い」(王)

「いえ、国を素早く立て直す必要があります。それには陛下のお知恵を借りなければなりません」(リチャード)

「さて、わしの頭がいつまで持つかは分からんが協力はしよう」(王)


 ******


 この後、三人の愛妾は処刑され、三人がため込んでいた財産で1年間の予算があった。そのほかぜいたく品をギルドで買い取って貰って、何とか各地の食料や給金などは賄えた。

 各地に譲位の知らせを送ったので、王位を狙っていた貴族たちも漁夫の利を得ることが出来ずにあきらめざるを得なかった。


 俺達は、ジニアからの人材の移動や、食料の配給など暫く王都に残って忙しく働いた。

「ジュンヤ殿、済まぬが戴冠式の費用を忘れていた。少し貸してくれぬか?」(リチャード)

 国内の貴族ではない俺は恩を受けても弱みになることはない。使い放題である。

 王の戴冠式は、それは華やかに行われた。

 貴族や外国の外交官などが参加する大掛かりなもので俺も散財させられた。

 ソルトレイクにようやく帰れたのは年が改まってからだった。


 俺は報酬のジニアと精霊の里に隣接する王の直轄領が二つを見て回った。

 ジニアには隷属契約を強制しないことにした。ジニアは村と違ってこちらが助けてやる必要が無いからだ。周りにある農業中心の六つの村も特に問題ないのでそのままとした。

 ジニアはタマを町長として領主邸を役所として独立して管理させる。


 直轄領については王の直轄領と言う誇りを持っていたため、こちらの言うことを聞きそうもなかった。

 従わない領地に労力やお金を投資したくないのでリチャードに返すことにした。

 リチャードとしては厄介払いらしくて渋っていたが、金を払わなくていいと言ったら引き取ってくれた。


 俺は精霊の里を縦断する蒸気機関車を走らせるための研究に入った。

 まずレールを作るには高炉と転炉が必要である。

 この世界には高炉はすでに存在する。

 しかし高炉で作れるのは銑鉄である。

 これは炭素含有量が多く硬くて脆い。鋳造ぐらいにしか使えない。

 そこで鍛造であるが熱して叩いて、鉄密度を増やして炭素を追い出す作業である。

 余談だが炭素の含有量によっていろいろな性質の鉄を鍛造で作ることが出来る。


 高炉や転炉を作るには蒸気機関と石炭が必要になる。石炭は木炭で代用できるが熱量が低いので森が無くなってしまうだろう。

 蒸気機関は空気を送り込むファンを動かしたり、転炉に空気を入れたり、石炭を蒸し焼きにしてコークスにしたりする。

 この世界では蒸気機関はまだないから一から作る。


 まずは、高炉を作って木炭で鉄の生産を開始する。

 ボルクとノーラに石炭を探させる。石炭紀と思われる地層があちこちにあるので期待している。

 鍛冶技術を持つ者を集めて簡単な蒸気機関を作らせる。まあ2カ月くらいで出来るだろう。


 精霊の里は南北に長く、日本で言うと四国ぐらいから沖縄位の緯度に当たる。

 そこで農業は人が増えたこともあってジニアの北の草原で麦と大豆、ソルトレイク辺りで米とジャガイモ、トウモロコシ、そこから南は米とトウモロコシ、一番南ではサトウキビや胡椒、コーヒーを栽培する予定だ。

 今は南の村で堆肥と用水路・田んぼを作らせている。


 産業はジニアが獣王国から外れた為、大河に出ることが出来る。

 今はギルドを通じて塩、鉄鉱石、余剰の食料を輸出している。

 実は、移民たちが持ってきた食料が質が悪いので、誰も食べたがらずにいるので輸出した。

 港は、拡張して倉庫と宿を建てただけで放ってある。手が回らないのだ。


 精霊の里はジニア以外は原始共産主義を取っている。

 どういうことかと言うと財産、生産品はすべて共有財産になる。

 この主義の弱点は良く働こうがさぼっていようが収入は同じということで労働意欲が上らないのだ。

 それでソ連や東ドイツなどは崩壊した。中国も非常に貧乏だったが資本主義を一部取り入れて今は世界二位の経済大国だ。

 俺は崩壊を防ぐために隷属契約を結ぶという荒っぽい技で手当てした。

 ある程度、国の形が整ったら契約を解除するつもりだ。


 そんな冬の日の事だった。

 ソルトレイク 俺の家 執務室。

「ご主人様、港からの念話でアルミア神国の使者が着いたそうです」(ハル)

 寝耳に水だった。前触れもなく来るか?

 どいうつもりなのか?敵だった俺に会いに来るのか?

 港の倉庫に居る責任者は念話が使える。もちろん、俺に直接は出来ない。今回は責任者→タマ→ハルそしてハルが直接俺に話したのだ。


「ジニアに案内しろ、俺も行くから」(ジュンヤ)

 港に迎賓館がいるかな。マリーと相談しよう。

 マリーと話してるとマイアが来て”護衛します”と言って俺の横に立った。

 ハルも当然のように横に居る。


 仕方ない、魔法を使わなければ俺より強いからな。

「ジニアまで飛ぶぞ。付いて来い」(ジュンヤ)

 俺達4人はジニアに飛んで行く。一番遅いマリーに合わせるので時速100km位だ。

 ジニアには30分程で着く。

 マリーに使者を迎える準備をさせる。俺達の中では礼儀に一番詳しいんだ。


 港からジニアまでは舗装した道が造ってあるから3時間で着くだろう。

 ジニアの旧領主邸は使者を迎える設備が整っているのでここで迎えることにしたのだ。

 まあ、ソルトレイクは遠すぎるけどな。

 準備万端で使者を待つ。

 あれ、ハルがいつの間にかメイド服に着替えている。これってどうなんだろ。


 ******


 豪華な馬車が車寄せに入って来た。

 メイド姿のハルが出迎える。

 使者は白い詰襟の上下と飾緒しょくしょ・肩章・サーベルと軍人然としたスタイルだ。

 それに若い、3人とも10代半ばに見える。そして俺より弱く、マイアがいれば3人でも大丈夫だろう。

「使者様、休憩を取られますか?ご主人様はすぐにでもご面会できますが?」(ハル)

「すぐに会いたい」(使者)

「分かりました。ご案内いたします。武器をお預けください」(ハル)

 サーベルを取り上げる。


 ハルに先導されて執務室に3人が入って来た

 俺は立ち上がり挨拶した。

 俺の右にマリー、後にマイア、入り口近くにハルが着く。

「精霊の里の代表、ジュンヤだ」(ジュンヤ)

「補佐のマリーです」(マリー)


 真ん中の奴から挨拶を返した。

「セラフィムのマルキエルだ」

「ケルビムのアズモデルだ」

「スローンズのアブリエルだ」

 なにかに出てくる使徒みたいな名乗りだな。


「それで交流もない我々にどのような御用でしょうか」(ジュンヤ)

 俺は単刀直入に聞いた。

 たいしてマルキエルと言う奴が表情も変えずに言った。

「まず確認したい。去年のアルミア軍を撃退したのはあなたか?」(マルキエル)

「獣人国で調べた所あなたがだまし討ちをしたと言うことになっている」(アズモデル)

「我々の兵士は神に天罰を与えられたと言っている」(アブリエル)


 何処まで言って良いのやら良く分からんから誤魔化しておこう。

「タイミングよく雷が落ちて、我々の火炎玉に驚いて逃げていきました」(ジュンヤ)

「私達は真実が知りたい。君達が空を飛んでいたこと、対岸にあった船もすべて燃やしたことは何千人も証人がいる」(マルキエル)

「なるべく人が死なないように誘導するのに神を騙ったことは認めよう」(ジュンヤ)

 こいつら、わざわざこんなことを聞きに来たのか?この後の事を考えると誤魔化しきれんか。


「やはり、我々の兵を皆殺しに出来たのに生かして返してくれたのだな」(マルキエル)

「ああ、恐らくあんた達の上層部が私利私欲の為に起こした戦争で、兵士たちには罪が無いと思った」(ジュンヤ)

「その通りだ。彼らが神の教えを捻じ曲げ、金儲けの手段にしていた。だから次第に信者が減りだし、挽回策として獣人を悪魔に仕立てて戦争を起こした」(マルキエル)

 こいつら何をしに来たのか。自分たちの上層部を批判し始めた。敵の敵は味方という論理らしい。


「話が見えない。あなた達は我々に要求があるのではないのか」(ジュンヤ)

 マルキエルは大きく深呼吸した

「済まない。どういう風に話したら良いか分からなかった。あなたに我々を助けて欲しい」(マルキエル)

「何を助けろと言うのだ」(ジュンヤ)

次回、アルミアに問題を解決に行きます。

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