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第十六話 マリーの野望と貪欲の王

獣王がちょっかいを掛けてきます。

 王城、王の執務室

 ひときわ大きな部屋に豪華な調度品に囲まれた。これも豪華なソファに対面して座るのはこの獣王国の王と宰相である。

「宰相よ、後宮の増築はどうなっておるのか?」(王)

「はあ、もう金がありません」(宰相)

「国家予算から出せ」(王)

「それも余分がありません。この間のアルミア軍との戦争で援軍を出せなかったではないですか」(宰相)


「そうか、あれも負けて居れば貴族どもに責任追及されるところだったな」(王)

「分かってらっしゃるなら出費を抑えてくださいませ」(宰相)

 王は何かを思い出したのかニヤッと笑った。

「そうもいかん。ジュセフィーヌに城が欲しいと言われて居るでな」(王)

「王よ、すでに王城以外に二つの城を建てたではありませんか。これ以上は王の領土の住民は重い税に苦しんでいます。すでに逃散する住民が出てきています。どうか出費を抑えてください」(宰相)


「そうか、税はこれ以上上げられぬか・・・・そうだジニアが敵の戦利品を大量に確保したと言っていたな。それを巻き上げよ」(王)

「そんなことをすればジニアが反旗を翻しますぞ」(宰相)

「あれは、精霊の里の村がやったと申すではないか。ついでにその村を我が領土に組み込めばあの塩の権利も手に入る。そうだ、これだ。コリンズを呼べ」(王)

 近くに居た執事に指示する。執事は早歩きで部屋を出て行った。


「王よおやめください。あの村の者はアルミア軍1万に勝ったのですぞ」(宰相)

「騙し打ちをしたというではないか。そうだな、男爵の位をやるとか言えば油断するじゃろう。こちらもだまし討ちをすればよい」(王)

 青い顔をした痩せた男が入って来た。

「来たか、お前はジニアの領軍長と知り合いであったな」(王)

 もう大金が手に入った気になって王はウキウキしてる。

「はい、欲深き男ですが」(コリンズ)

 あなたもですけどね。思ったがもちろん口には出さない。

「良し、ジニアに行って・・・・・・・・


 ******


 そんなこととは知らない俺はマリーの向かいの席に座っていた。

 マリーは村に来てからジュンヤがやってきたことを聞いていた。

 この男凄い、二けた同士の掛け算でも時間を掛けずに暗算でやってしまうし、知識の深さは底知れない。おまけにその知識の応用も簡単にやってのける。それにハンサムだし優しい。


「それでこれからどうするのですか?」(マリー)

「来年は南の方で胡椒、砂糖、コーヒーの生産を行うつもりです」(ジュンヤ)

「胡椒を生産、栽培するのですか?」(マリー)

「はい」(ジュンヤ)


 これはとんでもない大物に出会ってしまった。胡椒は自然に出来たものしか取れないと言うのが常識である。下手をすると金よりも高い。砂糖も生産と言うほど栽培は盛んではない。これも胡椒ほどではないが高値で取引される。最後のコーヒーと言うのが良く分からないが聞いてみるか。

「コーヒーと言うのはどういうものなのですか?飲み物として勧められましたが?」(マリー)

「飲んでみますか」(ジュンヤ)


 ジュンヤはピンクの服を着た少女に何か言った。少女は部屋の外へ出て、しばらくするとカップを二つと何かの入れ物をトレーに入れて持ってきた。

「何も入れずに飲むのをブラックと言います。香りを楽しむならお勧めですが、苦みが強いので砂糖やミルクを入れて飲みやすくすることも出来ます」(ジュンヤ)

 まずそのまま飲んでみる。まず良い香りが鼻腔をくすぐる。一口、口に入れると苦い。


「ミルクと砂糖はどれくらい入れたらいいのでしょう?」(マリー)

「ミルクはその小さなカップ、ミルクピッチャーって言うんですけどそれ全部入れちゃってください。砂糖は砂糖入れに付いてるスプーンで2杯くらいですかね」(ジュンヤ)

 何も入れずにブラックで飲むジュンヤちょっとかっこいい気がする。

 ミルクと砂糖を入れかき回す。濃いベージュの色になったコーヒーを飲む。美味しい。これは売れるわ。


「あのー唐突なのですが、結婚してください」(マリー)

 マリーは思い切って言った。

「ブッ」(ジュンヤ)

 ジュンヤはコーヒーを少し吹き出し、ハンカチで拭う。

「本当に唐突ですね。私とあなたはさっき会ったばかりだ」(マリー)


「正直にいいます。私はあなたが有望なら商売のパートナーとして利用するつもりでした。私は実績を残さないとつまらない男と結婚させられるでしょう。ギルドの次次期会頭の座を狙っていたのですが、結婚させられるとその座が絶望的になるのです。だから邪魔が入らないように一人でここまで来たのです。

 でもあなたと会ってあなたの話を聞いて、会頭の座などどうでも良くなったのです。私の人生はあなたに掛けました」(マリー)


「あなた又なの、いい加減にしなさいね」(ピンクのメイド)

 ピンクの服のメイド?ため口だよね。

「何言ってんだよ。結婚申し込まれたのなんて初めてだ」(ジュンヤ)

「あんた、ハルやマイアの事を言っているの、分からないの?」(ノーラ)

「ハルはともかく、マイアは弟子だろう」(ジュンヤ)

「あんたもこの男にはすでに二人くっ付いているわ。それでも良いの」(ノーラ)

「別に正妻でなくて結構です。この人と居ればきっと素敵な夢が見れるわ」(マリー)


「やれやれ、また増えるのか。なんかこれで終わりそうもないんだけど」(ノーラ)

「あのー。この人は?」(マリー)

「私は人じゃないわよ。契約すれば教えてあげるわ」(ノーラ)

「俺は?俺ほっといて何言ってんの」(ジュンヤ)

「どうせ断れないでしょ。ホントヘタレなんだから」(ノーラ)

 いつの間にか俺達の家にマリーの部屋が増えていた。


 ******


 それから1カ月ほどたった初冬のある日。精霊の里の村の表門。

 門の前に立った男が叫ぶ。

「橋を降ろして門を開けよぉ」(王の使いの部下)

「どちら様でしょうか」(村の兵士)

 門の横に覗き窓を作って鉄格子を嵌めた。防壁の上からだと見えにくいし大声を出さないと聞こえないと苦情があったのだ。兵士はそこから話している。

「王の使いである」(王の使いの部下)

「そのような予定は聞いておりませんが?どちらの王様でしょうか?」(村の兵士)

「獣王様に決まっておるではないか」(王の使いの部下)


 聞いていたのと違う。村には防壁は無いはずだし堀まである。しかもここまで来る道は石で舗装されていた。

 コリンズは馬車の中で領軍長の情報収集能力の幼さに憤慨していた。

 あれほど敵視する相手の情報を集めないとは馬鹿ではないのか。


 コリンズは馬車を降りて部下を制した。

「済まない、この村にこのような用意があるとは思っていなくてね。先触れをしなかったのだ。門を開けて貰えるかな」

「済みませんが証拠になるようなものを提示してください」

 橋が降りた。覗き窓に王の印章の付いた証書を近付ける。

「ありがとうございます。何名様ですか」

「御者を含めて4名だ」


 門が開いた。石畳が続く道を兵士が馬に乗って先導する道沿いにいろいろな建物が建っている。

 うん、今、建物の隙間から見えたのはマスケットを持った50人ほどの兵士が走っている姿だった。

 なんてことだ。これでは首領を殺してもあの兵と戦わないと村を奪えない。

 首領を人質にするしかないか?領軍長の大バカ者め。何が自警団だ。立派な軍隊じゃないか。

 コリンズが悩んでいるうちにゲストハウスについてしまった。


 メイドに応接室に案内されたが護衛の武器は取り上げられた。まあ相手は首領以外は女だというし問題あるまい。

 コリンズは3人掛けのソファの真ん中に座り護衛はコリンズの後ろに立った。

 メイドのハルが3人分のお茶を出し、部屋の奥に立つと兵のような恰好をしたマイアを先頭にマリーとジュンヤが入って来た。3人掛けのソファの奥にマリー、真ん中にジュンヤ、後ろにマイアが立った。


 挨拶を済ませてコリンズが話し出した。

「・・獣王国男爵に任じますので王都で任命式に出席してください」(コリンズ)

 要するにアルミアを破った褒美に男爵にしてやるというものだった。

「お断りします。私どもは独立した勢力として今後も獣王国と円満な関係を築いていきたいとは思いますが、獣王国に取り込まれたくはないと言うことです」(ジュンヤ)


 はっきり言われてしまった。ここで無礼なとか言っても角を立てるだけだしな。

「男爵になれば獣王様の庇護も受けられますし、後ろ盾があった方が安心でしょう」(コリンズ)

「ジニアに援軍は来ませんでした」(ジュンヤ)

「それは敵が王都に来る可能性があったので出せなかったのです」(コリンズ)


「やめましょう。不毛な話し合いは。私は今獣王国がどういう状態か、獣王様が自分の領地にどのような仕置きをしているか全て知っています。」(ジュンヤ)

「そ、それは・・・」(コリンズ

 コリンズは言葉が出て来なかった。

「ついでに言えばジニアへの道でジニアの領軍が、私を狙おうと動くのも知っています」(ジュンヤ)

「ああ、」(コリンズ)


「今から帰ると日が暮れますから、ここへ泊って行って下さい」(ジュンヤ)

「ありがとう」(コリンズ)

 コリンズは気の毒なほど憔悴していた。

 まああの王様に真実は通じないからね。


 俺達は俺達の家に戻って食堂で話をしていた。

「移動する村に逃散農家が来てくれて良かったよ」(ジュンヤ)

「まさか、自分の領地にあんなに重い税を掛けてたなんて」(ハル)

「それから王の事を調べ始めたら出るわ出るわ、もう最悪」(マイア)

「王国が破産しかかってるって冗談じゃないわよねえ」(ノーラ)

「この村に使者出したのも分りましたし、ジニアの領軍の話も筒抜けですし」(アステル)

「マリーさんは流石よねえ。王家の情報ってマリーさんが殆ど集めたんでしょ」(レイコ)

「オイラ全然分かんねえ」(ボルク)


「安心するのは早いかもしれません。王が国軍を率いて攻めてくるかもしれません」(マリー)

「でも、お金ないんでしょう」(ハル)

「だからお金を盗りに来るんです」(マリー)

「どうかな、王にはもう信用できる人間はいないし、王都を留守にすれば今の状態だとクーデターが起こりかねない」(ジュンヤ)


「今回の事が無事処理できたのはマリーの情報収集によるところが大きい。ありがとう」(ジュンヤ)

 マリーが顔を赤くしてはいと小さく答えた。

次回レイコとボルクが進化します。

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