第十三話 収穫と戦争準備
ハルとマイアが魔法を覚えます。
雨期も過ぎ、7月に入ると暑い日が続き、夏野菜の収穫が旬になり、大量に作ったので収穫はさらに大量である。食べられない分は収納に入れて置けば良いので非常に便利だ。
収穫の終わった畑には秋野菜を植える。ノーラの魔法が連作障害を防ぐので、堆肥さえ与えて置けばそれなりに育つ。
塩は雨期で運べなかったのでジニアの方からの請求がきつい、タマジロウが四苦八苦してる。
マイアとハルの剣術はとうに俺を追い越しているが、俺に練習を付けろと毎日せがんでくる。
俺の才能は師範程度だが、ハルやマイアは名人や達人と言った才能を持っている。
それが俺の効率の良い上達方法で一気に抜き去られたのである。ちょっと寂しい。
「お前ら、魔法を使えるようになっているだろう。魔法も練習しろよ」
確認すると村人とは違って初級魔法をすべて使えた。
俺はファイティングスパローを教える。これを覚えて貰えるとおんぶと抱っこで飛ばなくて済むからな。彼女達はなぜか不満そうだったが。
まずソアリングで浮かばせて、空気の壁の形を燕の様な形に変化させる。イメージの問題だ。
壁が出来たら水平飛行をさせる。次は空気の壁の形を変えることで旋回、上昇下降、自由に飛べるように練習する。
俺は覚えるのに一時間掛からなかったが、彼女らは半月掛かった。
理屈が解っているのと解らないのでは随分違う。
後はピストルを覚えると接近戦でほぼ無敵だ。
「これがピストルだ」
パンと言う音と共に20m先に置いた木片がはじけ飛んだ。
今回は理屈から教えることにした。
「ストーンバレットは丸い石、何個かを真っ直ぐ弾き出す」
3個の石を撃つが20m先の木片には当たらなかった。
「違いが分かったかな?」(ジュンヤ)
「ストーンバレットは狙った所に行かない。それに曲がるよ」(ハル)
「その通りだ。10m位でないと正確には狙えん」(マイア)
「球形は空気の抵抗が大きいので曲がったり、速度にバラツキが出るんだ。そこで椎の実型の石を作るんだ」(ジュンヤ)
俺の手の上で球形の石が椎の実型に変化する。
ハルとマイアも形を整える。イメージが出来ればすぐに作れるようになる。
「今度はこの弾丸を回転させる。こういう風に」(ジュンヤ)
俺は指で弾丸を回転させながらハルに放る。弾丸は尖った方をハルの方に向きながらハルの手の中に納まる。
「次は回転させずに放る」(ジュンヤ)
普通に放ると縦に回転してマイアの手の中に納まる。
「つまり回転させずに撃つといろいろな方向を向く。そうなるとどうなる。空を飛んだ時を思い出して見ろ」(ジュンヤ)
ファイティングスパローの練習を思い出させた。
「曲がります」(マイア)
「そうだ、だからこの弾丸を回転させて撃つ練習をする」(ジュンヤ)
「「はい」」
回転させながら弾丸を撃つ練習は二人とも3日で習得した。
次は速度を上げる練習だ。
バレットは弾丸を一度の魔力の爆発で押し出していたが、これを3回連続爆発で押し出す。
そうすることによって弾丸は音速を超える。
ちなみに魔力の爆発は精霊の声と同じ理由で音がしない。
両手の魔力で加速するのがライフルだ。これはまだ覚えなくても良いかな。
******
そうこうしているうちに8月になった。
「一度ジニアに来て欲しいとオーバルさんが言ってました」(タマジロウ)
タマジロウがジニアから帰ってくるとそう俺に告げた。何の話があるんだろうか?鶏卵や鶏肉を卸し始めたからかな?。
「コボルトの魔石も溜まってるし、明日行って来るか」(ジュンヤ)
タマジロウはジニアで買って来た資材や鶏の餌を配りに行った。
「「私も行きます!」」
最近、付き纏ってるハルとマイアが勢いよく言って来る。
精霊獣の子達は村人たちと一緒に働いている。少し見習えよ。
言ったところで言い負けるので言いませんがね。
次の日、ジニアに3人で編隊を組んで飛んで行った。
ギルドの受付でオーバルさんの名を出すと、受付嬢がギルドの奥に案内してくれた。
かなり良い部屋に通されると、すぐに来るのでソファに座って待つ様にとのことだった。
俺が3人掛けのソファの真ん中に座るとハルとマイアは俺の後ろに立った。あくまでもボディーガードなのね。
すぐにオーバルさんと中年の男が入って来た。
「ここのギルド長です」(オーバル)
オーバルさんの紹介は気さくなもんだった。
「ジュンヤさん済まないが、これからの話は秘密にしてほしい」(ギルド長)
「分かった。・・この子達なら心配ないです。秘密は話せない契約をしています」(ジュンヤ)
ギルド長が二人の娘を見て不安そうにしていたので説明しといた。
ギルド軽く咳をして話し始めた。
「あなたも聞いているかも知れないがアルミア神国が攻めてくる。まだどこに攻めてくるかは分からんが、まず9割方ジニアに来ると思われる。ついてはジュンヤさんにも防衛に参加して欲しい」
アルミア神国か、たしかジニアの北側にある人間の国だな。
「なぜ、アルミア神国が攻めてくるんですか。原因は何ですか?」(ジュンヤ)
「恐らく神教の求心力が弱まったので邪教を懲らしめて信者の支持を上げるのでしょう」(ギルド長)
「宗教の支持率アップに利用されるのですか」(ジュンヤ)
「奴らは人間至上主義で獣人を人類とは見ていません」(ギルド長)
戦争を仕掛けて危機感を煽り、支持率を上げる。独裁者が良くやる手法だ。
ジニアが無くなっては村の再建策が滞るな。
「相手の数は?主力武器はマスケットですか?」(ジュンヤ)
「恐らく1万人、半分は農民兵かと、マスケットは千丁はあると思います」(ギルド長)
「時期はどれくらいになると見てますか?」(ジュンヤ)
「収穫が終わってからと思われます」(ギルド長)
村人を出すまでもないな。普通の魔法使いは俺達の初級魔法にも勝てない。マスケットは届かない上空から攻撃すれば一方的に攻撃できる。
「分かりました。参加しますので敵が川を渡る前に連絡してください」(ジュンヤ)
「よろしいのですか?」(ギルド長)
「はい、大丈夫です。でも私達は皆さんと一緒には戦えないので、単独でやらしてください」(ジュンヤ)
「分かりました。領主様にそう伝えます」(ギルド長)
ギルド長は元々ジュンヤに期待はしていなかったので、話も簡単に終わった。ギルド長はそれより傭兵がまだ100人ほどしか集まっていないことに頭を悩ませていた。
オーバルはジュンヤが淡々と冷静に参戦を決めたことに驚いていた。恐らく絶対の自信があるのだと思う。もしオーバルの思い通りならば戦後の方が面白そうだと思っていた。
ジュンヤ達は帰りにアルミア神国を偵察することにした。
高度を2千m位にしておけばまず見つかることはない。
神都まで行ってみたが流石にまだ兵を集めている様子はなかった。
戦争はまだ2カ月は先だろうからな。
しかし川岸には多くの船が並べてあり、作っている途中の物もあった。
その中の1割くらいの船が、鉄の板で囲われていた。
「師匠、あの鉄で囲った船は何ですか」(マイア)
奴らの作戦は恐らく火矢を防ぐための装甲船で対岸に接近してマスケットで敵戦力を殲滅、その後上陸して橋頭保を確保なのだろう。
「多分、火矢を防ぐためだろう」(ジュンヤ)
獣人国側は川岸に防御陣地を作りたいところだが、相手は陣地を避けてくるので数十kmにわたって作る必要がある。まあ無理だ。
それから週に一回は偵察に出ることにした。
魔法で渡河中の敵を倒すにはダウンバーストかウォーターフォール、ファイアーカノン、全部精霊魔法だな。精霊獣を連れてくるしかないか。
大体初級魔法の射程距離が2、30mしかないのが問題だ。
帰ったら、色々研究してみよう。
この娘達にもライフルを教えないとな。
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9月になった。魔法の研究をしている。
最近分かったことだが、進化は俺達だけではなかった。アイさんもグレードアップしていた。
ハルとマイアもアイさんを利用できるようになった。
具体的には検索が使える。探索が3人分になった。特にハルの目、マイアの耳の能力が普通の人間よりはるかに優れているので単に3倍と言う事ではない。
亜空間収納を使えるようになった。ただし、俺の持つ亜空間とは別の亜空間なので物の受け渡しは出来ないし、容量も小さいそうだ。俺がオーストラリア大陸だとすると四国位だそうだ。変わらんだろう、それって!!
俺は元々の精霊魔法が多くの属性を持っていて、それが合成、分離、消滅した結果が今の4元素精霊魔法だと言うことから。他の属性の魔法を復活できないか試行錯誤をしていた
例えば水の魔法ミストで雲を作り、風の魔法で静電気を溜め、土の魔法の電位差で雷を誘導する。
残念ながら魔法を発動するのに数分かかるし、魔力の消費も大きいので戦いでは使いにくいが威力は絶大だ。
その中で4元素魔法で金属の加工が割と簡単に出来ることが分かった。
俺は試しにリボルバー式のライフルを作ってみた。黒色火薬なのでガス圧が低いため自動ライフルは無理だった。動作方式はボルトアクションにしてガスの漏れを最小限にした。弾丸を込めたシリンダーを交換することによって連続射撃も可能だ。当然銃身にはライフリングが施される・。
弾丸の補充は後部の雷管を交換、火薬を入れ、付属のレバーで圧縮、弾丸を入れ再度圧縮してシリンダー内に固定する。
リボルバーライフルは、射程400mでマスケットの4倍以上、かなり精密に作ったので2丁だけだ。
交換するシリンダーは2個ずつで18発、弾込めをしないでも撃てる。
さて、誰に持たそうか?
え、おまえだったら無煙火薬作れるだろうって、あくまで領地防衛のための兵器なので俺がいなくても造れる火薬じゃないとな。
9月にもなると稲穂が実って田んぼが黄金色に染まる。ノーラのお陰で病気も無く育ってくれた。
米も麦も収穫後の作業はあまり変わらない。最終的な形態が精米になるか、小麦粉になるかの差だ。
しかし、元の種もみが少なかったので来年の種もみを残すと10人分くらいだ。
全体を見ると耕作面積は10倍以上、収穫効率は10倍で2万人以上を養える収穫がある。
秋から春に収穫する作物もあるので他の村から来る人や残る人への支給も可能だ。
馬も20頭に増えた。農耕馬と馬車馬だ。塩湖の下の草原で、牛や羊も飼いたいが人手が足りない。移民に期待しよう。
10月には秋の収穫を記念して、収穫祭を企画した。
皆で作った料理やお菓子と買って来た酒でお祝いしたよ。来年は今仕込んでいるこの村の葡萄酒を飲もう。朝から晩まで大騒ぎして夜中には何組かのカップルが出来ていたから収穫祭ベービーが生まれるかもな。
その頃にはアルミア神国が随分きな臭くなってきてたよ。
アルミアとの戦争です。