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第十一話 初めての現金収入と女剣士

女剣士が行く手を塞ぎます

 ジニアの領主との約束の日、俺はジニアの街に来ていた。

 お供はタマジロウとハルだ。

 なぜハルがお供に居るか、それは護衛としてだ。

 これは俺が水と火の精霊の所に行った日の夜の事だ。


 ノーラがその日の話をしていた。

「そしたらあいつが海の上に寝転んでいるのよ。聞いたら海に叩き付けられて動けないって言うじゃない。もうびっくりして・・・」(ノーラ)

「ご主人様怪我をしたんですか?」(ハル)

「いや、怪我じゃなくて打ち身、ちょっと痛かったから休んでただけだから」(ジュンヤ)

「ご主人様が死んだら生きていられません。ウウッ」(ハル)

 ハルが泣き出した。


 その後なだめたり、すかしたりしたんだけどご機嫌が戻らなくて、今度から私が付いて行くって言い出したんだ。

 流石にハルに付きまとわれても困るので、もっと強く成ったらなって言ってしまったんだよこれが。

「どれだけ強くなったら良いんですか?」(ハル)

「そうだなあ、タマサブロウ達全員に勝てるようになったらな」(ジュンヤ)

「じゃあ、明日やります」(ハル)


 そして次の日、タマサブロウ達この村の兵20人と戦って勝ちゃったんだよな。

 聞いた話では元々、父親が双剣術が得意でハルに教えていたらしい。

 それで精霊への使いも頼まれたのだが、その時はまだチビガリだったので父親の剣は使えずに木刀を持って行ったが、コボルト追われて俺と会った時には木刀は落として素手になっていた。

 それが、この間急激に成長した時に父親の剣がちょうど良く使えるようになったということだ。


「そんなの、ハルちゃんに勝てる訳ないじゃないですか。チビの時でも勝てなかったのに」(タマサブロウ)

 ええい、タマサブロウめ、言い訳など聞きとうなないわ!!

 ということで今回、ハルは俺の横にドヤ顔でへばり付いているわけだ。


 塩の話は、王都でサンプルに送った塩がうまいと評判を呼び、倍の価格でも引き取ると言って来たらしい。それでこちらの買取価格も上げて貰った。

 それで、村の塩をすべて王都に送り、こちらで売る海の塩に補助金を出すことにしたらしい。

 また、なるべく多く持ってこれるように馬車も安く譲って貰った。

 此方も道を造ったので少しでも多く稼ぎたい。


 タマジロウも領主邸での担当者、納品場所などを教えて貰っていた。

「タマジロウ、帰ったらすぐ納品だ。頼むぞ」(ジュンヤ)

「お任せください」(タマジロウ)

 俺達は領主邸を出て、ギルドに向かう。


 ギルドに着いたら受付でオーバルさんを呼んでもらう。

 前に使った商談室で待つように言われ、待っているとすぐにオーバルさんはやって来た。

 オーク106頭分の魔石を見せて鑑定して貰った。

「すべて高品質の物でした。一個12000ゴルで1272000ゴルとなります。

 現金でのお支払いですか、当ギルドでお預かりすることも出来ます。多少利息も付きます」(オーバル)


「現金で頼む。そうだ塩の売り上げはここに預けると良い」(ジュンヤ)

「では通帳を御作りします。ジュンヤさま名義でよろしいですか」(オーバル)

「いや、タマジロウでお願いします」(オーバル)

 オーバルさんは一旦窓口の方へ行き、また戻って来た。


「これが魔石の代金です」(オーバル)

 袋に入ったコインを持ってきた。こちらの通貨は皆コインらしい。

 内容は10万ゴル金貨が12枚、1万ゴル銀貨が7枚、一千ゴル小銀貨が2枚となる。


「これがギルドカードになります。こちらに名前とこの四角に人差し指の腹を押し当ててください」(オーバル)

「これで良いのか」(ジュンヤ)

 名前を書いて、指を当てると銀色の複雑な模様が浮かび上がった。

「これはジュンヤさんの魔力紋です。同じ色、紋の人は存在しませんので個人認証となります」(オーバル)


「これが通帳ですね。タマジロウさんも同じようにして下さい」(オーバル)

 カードに冊子が付いたようなものが通帳らしい。

 ちなみにタマジロウの紋は、緑に近い色で俺よりは簡単だった。

「これで次からは窓口に直接来ていただければ対応致します」(オーバル)


 ギルドを出て昼飯を食おうかとぶらぶらしていると俺達の前を一人の兎人の少女がとうせんぼした。

ちょっときつめの整った顔、薄いグレーの長い髪、金属の鎧を着けてロングソードを腰にぶら下げている。

「あなた達は大量の魔石を交換した。あなた達が討伐したのか?」(謎の女)

「違う、あれはご主人様一人で討伐したんだ」(ハル)

 こら、ハル、そんなことばらしちゃダメ。絡まれるから。

「私の名はマイア。見たとおりの剣士だ。最近、技量の成長が伸び悩んでいる。一手指南して貰えないだろうか?」(マイア)

 マイアは心の中で思っていた。なかなかの男前。それに強そうだ。隙が無い。強引でも付いて行こう。


 ほら、やっぱり絡まれた。そこそこ出来そうだけどどうなんだろう。

「無礼者、ご主人様に指導して貰うなんて10年早い」(ハル)

 仕方ないなあ。一般の剣士の腕を見ておこうか。俺も興味あるし。

「そこを何とか頼む」(マイア)

「良し、ではこの子、ハルと言う名だが、この子に勝てたら指南しよう」(ジュンヤ)

「お任せください。コテンパンにします」(ハル)

「言っておくが、私はこれでも結構有名な剣士だ。侮らないことだな」(マイア)


 街中で決闘騒ぎを起こすわけにはいかないので、街の外に出て広い場所を探した。

「ここで良いだろう。お互いの剣を鞘から抜けないように縛って」(ジュンヤ)

「有効打を入れた方の勝ちとする」(ジュンヤ)

 お互い離れて向かい合わせに立つ。

「始め」


 まずハルが無頓着に間合いを狭める。

 マイアはタイミングを合わせて右から左に薙ぐ。

 ハルは左の剣で受け止め、更に踏み込み、右の剣を顔の叩きこむ。

 マイアはバックステップしながら剣を空振り、無理やり間合いを取る。


 ハルはタマサブロウ達と戦う時、懐に入って一撃で決めていた。マイアはタマサブロウ達より強いと言うことになる。


 マイアは大技から小さく連続に繰り出す技にシフトした。

 マイアは剣で止められるとすぐに引き、再度別の個所を攻める。それを繰り返す。


 ハルは間合いに入れず防戦一方になる。今までハルは相手の剣を止めて懐に入り必殺の一撃を見舞ってきた。しかしこうなると相手の剣を防ぐのが精一杯に見える。


 マイアがハルの顔を狙った一撃をハルは左の剣で受ける。マイアは剣を引き、胸を突く。

 しかしハルは右足を目いっぱい開いてしゃがみ、そのまま体を相手の足元にずらす。

 そしてマイアの足を右の剣で払う。マイアは剣を引きながら後方にジャンプかろうじてハルの攻撃を躱す。


 しかしマイアのジャンプについてハルもジャンプ、体をコマのように回して連続で上下に斬撃を振るう。マイアは剣を立てて最小限の動きでハルの剣を受ける。

 先に地面に着いたマイアはバックステップをして間合いが空くと剣を左から右に薙ぐ。

 ハルは体を開いて回転を止めると両手の剣をクロスしてマイアの剣を止めると着地、そのまま一気に間合いを詰める。ハルは右手の剣を防御から外して右に薙ぐ。


 マイアは右手を剣から離して左に回る。辛うじてハルの右手の攻撃を躱すと一周回った左手の剣に右手を合わせ、もう一度右から左への斬撃を振るう。ハルはしゃがんで避けるとマイアの足を薙ぐ。マイアは足をあげて避ける。


 息もつかせぬ攻防を続ける二人だがその終わりは近い、その通り二人は呼吸を止めて戦っている。息苦しさに負けて呼吸をした方が負ける。俺はそう思っていた。

 しかし、終わりは唐突に来た。

 ハルが右手で右から袈裟懸けの剣を送る。マイアはそれを左手甲で受ける。恐らくマイアの左手は骨折している。マイアは右手でハルの右肩への一撃を放つ。ハルの右肩が砕かれる。ハルの左の剣はがら空きの右胴へ、マイアのあばら骨が砕ける。


 二人は倒れて置き上がれない。

 なんてことだ。相打ちとは。しかも重傷だ。

 俺は念話でアステルにレイコを連れて、すぐ来てくれるように連絡した。

 30分後、スーパーキュアで回復した二人を前に俺はどうするか考えていた。


「あれは真剣なら私の勝ちです。私の右の剣は手甲ごと腕を切って、首も切っていたでしょう」(ハル)

「いや、手甲で止まって、私の剣でお前は死んでいる」(マイア)

「「なに!!それならもう一度勝負だ」」(ハル・マイア)

 俺は二人の頭にゲンコツを落とす。

「お前ら、いい加減にしろ。なんで試合で二人とも死に掛けなきゃいけないんだ」(ジュンヤ)


「それでは私への指南はどうなるのだ」(マイア)

「ああ、俺達の村へ来るなら何回かは教えてやる」(ジュンヤ)

「ぜひ、お願いする」(マイア)

 マイアは、やったー、これで一緒に居る口実が出来たわ。でも私が一目惚れをしちゃうなんて恋は不思議。

「私もお願いします」(ハル)

「分かった、分かった。さあ、昼を食って買い物をしよう」(ジュンヤ)

 こいつらをこのまま置いとくと死ぬまでやりかねんからな。


 昼ご飯を食いながらマイアの生い立ちを聞く。

 マイアは16年前、この国の王都の騎士の家に男男女男女の5人兄妹の末っ子として生まれる。

 三男と仲が良く一緒に剣の修行をするが、技量は三男を超えていたそうだ。

 三男は成人前に他家に養子に出され、姉も成人と同時に結婚した。

 マイアには自分の将来がひどく暗いものに思えて来た。


 結婚して子供を育てるだけの人生なんて、自分と言う個人を否定されたように感じる。

 それならばと家を出た。両親もマイアの性格では結婚生活を営めないと心配していたようだ。

 それなりの剣といくばくかのお金を持たせてくれた。

 しかし、今後家名を名乗ることは禁止された。勘当と言うことだ。


 それから2年間、主に魔獣を狩って生活していた。結構その筋では有名になった。

 しかし、今の生活はただ生きるための生活で、将来も未来も無いことは見えて来た。

 魔獣が良く出ると聞くジニアの街に来て、100個を超える魔石を交換した猛者が居ると聞いた。

 その人ならば自分に何らかの未来を見せてくれるのではないか?頼んでみることにした。

 と言う事だった。まあ、予想した通り女の生きにくい世界だ。

 ちなみに次男はどうしたと聞いたら、長男のスペアだから一生飼い殺しになるらしい。

 もっと悲惨だった。


 増えた家族の買い物を済ませて帰ることなった。

 アステルとタマジロウ・レイコは先に返した。念のため、マイアとは契約魔法で村の秘密は洩らさないようにした。秘密を言ったり書いたりができなくなるらしい。


 俺は街の外に出るとマイアを背負い、ハルを抱っこして飛び上がった。

「もっと高くから景色を見たいです」(ハル)

「怖くなっても知らんぞ」(ジュンヤ)


 いつもは高度50m位だが、今日は300m位を飛ぶ。

「森ばっかりで詰まりません」(ハル)

 正面には魔人国との境界の山脈、ジニアの街の向こうは結構平原があるがそれらに挟まれた土地は深い森になっている。今は歩いて一日で来れるジニアも道を造るまでは5日掛かっていた。それ位の森なのだ。


「あの北側に見える木の無い所は何なのだ」(マイア)

「ホントだ、木が生えてない」(ハル)

「見に行ってみるか」(ジュンヤ)

 新しく作った道から北に10km程離れた場所に直径数百メートルの広場がある。

 なぜ木が生えていないのだろうか?

きな臭い匂いがします

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