第十話 火の精霊獣と麦の刈入れ
仲間が増えます。
わしは魔人国ビショット領の領主の長男キーンだ。わしは魔人国が内乱に明け暮れて、人間の下風についているのが我慢ならん。
たまたま、王家の秘宝である精霊鎧を手に入れた俺は、獣人国との境界にある山脈を超えて、精霊の里に赴き風と土の精霊を従えることに成功した。
しかし精霊鎧の魔力を使い切ったので、ビショットに戻り、父が亡くなったことで、裏切った反抗勢力を精霊で粛清して領内における権力をすべて握った。
一月後、精霊魔法の破壊力を知り、精霊鎧の魔力も戻ったので、取り残した水と火の精霊を手に入れに再び山脈を超えることにした。
土の精霊を留守番にして風の精霊の力で空を飛び、山脈を超えて水の精霊を従えた。
次の火の精霊の巣に行く途中にそいつは現れた。
普通の人間の様な格好で鳥の様に両手を広げて単独で空を飛んでいる。
「あのー済みません。ジュンヤと申しますが、あなたは誰で何の為に精霊を集めているのか、教えて貰えませんか」(ジュンヤ)
ふざけた物言いだ。そちらをちらっと見たが放っておいた。
「聞こえませんか?どうか目的だけでも」(ジュンヤ)
まただ。水の精霊に蹴散らせと念話で命令する。
水の精霊がダウンフォールを放つ。
ジュンヤという奴は簡単に躱してまた横に並ぶ。
「いきなりひどいじゃないですか」(ジュンヤ)
抗議して来た。おかしな奴だ。
水の精霊は躱されて怒ったのだろう。ジュンヤに叫んだ
「下がれ、下郎」(水の精霊)
俺は念話で風の精霊にタイミングを見て奇襲するように指示した。
「下郎と言われましてもそちらの素性が分からないわけですから」(ジュンヤ)
うん?精霊の声が聞こえるのか。面白い。
わしの好奇心を刺激した奴に返事をしてやるか。
「ほう、精霊の声が聞こえるのか。何者だ?」(キーン)
「先ほども話しました通り、ジュンヤと申します。まだ肩書のようなものは御座いません」(ジュンヤ)
「ふむ、わしは魔人国の第六天魔王、そのうち魔人国を統一する」(キーン)
ちょっと教え過ぎたか?まあ問題なかろう。
不意に風の精霊がダウンバーストを放った。
ジュンヤは避け切れずに巻き込まれるが、地上に着く前に気流から離脱する。
だがその直後に起きた巨大な水柱に巻き込まれて見えなくなった。
あれほどの奴だ死ぬことはあるまい。
わしは精霊の巣の上に着くと呼んだ。
「火の精霊よ!我前に現れ、忠誠を捧げよ」(キーン)
赤い服の精霊が間を置かず現れ、空中で片膝を着く姿勢を取った。
「我主よ。どうか名前を教えてください」(火の精霊)
「うむ、わしの名はキーン・ビショット。覚えるが良かろう」(キーン)
「我主キーン・ビショット様に生涯の忠誠を誓います」(火の精霊)
「良し、帰るぞ」(キーン)
火の精霊の巣を後にして戦乱に荒れる故国に戻る。少し血が躍る。
俺は波の上で海に叩き付けられたダメージの回復に努めている。
咄嗟に空気のクッションで致命傷は免れたが、かなりの衝撃を食らっちまった。
一時間後、アステルが上空に来るまで休んでいた。
トリートは打撲には効きが悪いようだ。
取敢えず火山島に上陸する。
「大丈夫ですか、ジュンヤさん?」(アステル)
「体中痛いよ。スーパーキュアを試してみる」(ジュンヤ)
「あんた戦わないって言ってじゃないの?」(ノーラ)
「向こうから一方的に攻撃して来たんだよ。スーパーキュア!!」(ジュンヤ)
すっと痛みが引いた。流石だな。
「私を心配させるから罰が当たったんだわ」(ノーラ)
レイコが見えない。
「あれ、レイコは」(ジュンヤ)
「ほら、レイコちゃん。前に出なよ」(アステル)
アステルの後ろから白い服を着た少女が現れた。
「お、レイコ、人型も可愛いじゃないか」(ジュンヤ)
「慰めてくれなくても良いよ」(レイコ)
「レイコちゃん進化してないからちょっと拗ねてるんですよ」(アステル)
「二人も一か月で進化したし、すぐだよ」(ジュンヤ)
「それより火の精霊獣を探すんでしょ」(ノーラ)
「そうだった。君達頼めるか?」(ジュンヤ)
精霊獣には他の精霊や精霊獣の居場所を感じることが出来る。
「「分かりました」」(アステル・レイコ)
「分かったわ」(ノーラ)
3人は精霊の巣の中に入っていく。俺に見えるのは入り口らしい空間の裂け目だけだが。
精霊の巣は人間の世界とは違う空間になっており、精霊と精霊獣以外は入れない世界だ。
精霊の加護が無くなったので、この精霊の巣も後一時間ぐらいで崩壊するらしい。
俺が見た精霊獣は精霊の巣の崩壊後なので、何もないところに居たのだ。
精霊とはその属性の魔力が淀み、恐らく人間の意識に感化されて生まれたものらしい。
なので人間に似た姿を取る。声が聞こえないのは彼らは呼吸の必要が無く、振動させるのは空気ではなく魔力なので、同じ波長の魔力を持つ精霊か契約者でないと聞こえないらしい。
精霊獣が人型になるのは、最初各属性にあった形状の動物の姿にしたが、雑用をさせるのに人型の方が便利だったからだ。
彼らの属性が火、水、風、土なのも人間の影響で、錬金術の四元素から来ている。
彼らがその形態をとったのは比較的に新しいということが言える。
元々はたくさんの精霊が多くの属性を持って存在していたのが吸収、合成、消滅などのプロセスをへて今の形態に落ち着いたのだ。
アイさんに精霊獣から吸い上げた精霊のウンチクを聞いていたら精霊の巣から3人と一羽が出て来た。
ちなみに精霊獣は、普段は人型で過ごすことが多いのだが、精霊からの魔力の供給が失われると元々の動物の形の方が効率が良いので、動物の姿になって延命を図る。
火の精霊獣は赤い大きな鳥だ。
「君が火の精霊獣だね」(ジュンヤ)
「そうだけど」(火の精霊獣)
「他の精霊獣から話は聞いたんだよね」(ジュンヤ)
「聞いたけど、オイラどうしよう」(火の精霊獣)
今度は男の子か。
「死にたくなけれが選択の余地は無いよ」(ジュンヤ)
「それは解ってるけど、精霊様に悪いかと思って」(火の精霊獣)
「だから、精霊様はあんたが死ぬことが解ってて、魔力の供給切ってるんだから諦めなさい」(ノーラ)
「分かったよ、オイラあんたと契約する」(火の精霊獣)
エーと、火→火山→ボルケーノ→ボルクか。
「じゃあ、名前はボルクで良いか」(ジュンヤ)
「ボルク・・・オイラの名前・・うん、いいよ」(ボルク)
「じゃあ、魔法を教えてくれるか」(ジュンヤ)
「うん、最初は火の攻撃魔法 火炎礫火の礫を飛ばす」(ボルク)
海に向かって叫ぶ。
「スピットファイア!!」(ジュンヤ)
火がゴルフボール大になって連続で発射される。
当たると延焼するので致命傷は与えにくいが戦意をそぐには適してる。
「次は身体強化魔法 火事場のくそ力30秒間身体能力が3倍になる」(ボルク)
「ファイアマッスル!!」(ジュンヤ)
おお、これはすごい。これはいろいろな場面で使えそうだ。
「次は防御魔法 火炎壁 火の壁で初級魔法なら止められる」(ボルク)
「ファイアウォール!!」(ジュンヤ)
目の前に火の壁が出来るが初級魔法じゃねえ、中級・上級になるまで我慢かな。
「次は精霊攻撃魔法 火の雨スピットファイアで範囲攻撃できる」(ボルク)
「ファイアレイン!!」(ジュンヤ)
目の前の直径20m位に火の雨が降り注ぐ。こりゃ凄いわ。
「次も精霊攻撃魔法 火炎砲バスケットボール大の火の玉を打ち出す」(ボルク)
「ファイアカノン!!」(ジュンヤ)
岩に向かって打ち出すと当たって爆発岩が崩れる。おお、いいね。
そう言えば飯食ってないな。おにぎりとお茶でさっさと済ます。
「さあ、帰るぞ」(ジュンヤ)
ノーラが俺の背中にへばり付く。
「ボルクは自分で飛べるか、千km位だけど」(ジュンヤ)
「あんた達速そうだから無理だと思う」(ボルク)
「じゃあ、レイコと一緒に僕の背中だ」(アステル)
俺の背中でノーラが思い出したみたいなことを言った。
「そう言えば聞くの忘れてたけど、精霊様をさらった奴って誰だったの?」(ノーラ)
「魔人国の第六天魔王って言ってたな。まあ偽名だろうけど」(ジュンヤ)
「第六天魔王ってこの世を滅ぼすと言われてる魔王ですよ」(アステル)
「魔人国を統一するって言ってたからこっちには関係ないんじゃないか」(ジュンヤ)
「そうでしょうか」(アステル)
「どうせ、相手が精霊様じゃ、俺達では対抗できないでしょ」(ジュンヤ)
「そうよね。相手が精霊様じゃあね」(レイコ)
俺達は日の入り前に村に着くことが出来た。
「お帰りなさい。又、精霊獣が増えたのですか?」(ハル)
「ああ、水の精霊獣のレイコと火の精霊獣のボルクだ。仲良くしてやってくれ」(ジュンヤ)
出迎えてくれたハルにレイコとボルクを紹介した。
「分かりました。奴隷のハルです。よろしくお願いします」(ハル)
「隷属契約はしているが、お前を奴隷として扱ったことは無いぞ」(ジュンヤ)
「でも関係が説明しにくくて」(ハル)
「住み込みのメイドだ」(ジュンヤ)
「アステルあんたの布団貰ってくわよ」(ノーラ)
「ええー、そんなあ」(アステル)
「じゃあレイコに布団なしで寝ろって言うの?」(ノーラ)
「分かりましたよ」(アステル)
「布団ってなあに」(ボルク)
「柔らかくて、暖かくて、すごく寝やすいんだ」(アステル)
「今度、町に行ったら買って来るから寝藁で我慢してくれ。おい、ハル。寝藁を貰って来てくれ」(ジュンヤ)
「オイラどこでも寝れるから大丈夫だよ」(ボルク)
「そう言えば村長が明日は麦の刈入れをしたいんですって」(ハル)
「分かった。やって貰ってくれ」(ジュンヤ)
「じゃあ、藁取りに行くついでに伝えてきます」(ハル)
次の日、村は麦の刈入れ一色だ。見事に黄褐色に色づいている。
麦を刈るには根を踏んで抜けないようにしながら鎌で根元から刈る。
直径10cm位のわら束を作り、ブランコの支柱の形に竹を組んだ物にわら束を二つに分けて干す。
乾燥期間は約2週間、麦粒に爪を立て跡が残らないぐらい硬くなったら完了だ。
その後、脱穀、藁から麦の粒を外す作業だ。ここでは足踏み式の脱穀機を作ったのでそれを使う。
脱穀機は木のドラムにU字型の針金を開いた方を下に取り付ける。足踏み式のミシンの様にペダルを踏むとドラムが高速で回転する。麦の穂先が針金に当たるように誘導する台を付ける。
針金が麦の粒を叩き、粒がわらから外れる。後は粒が、藁を差し込む反対側に落ちるようにカバーと出口を付ければ出来上がりだ。
次が籾摺り、臼に脱穀した籾を入れ、籾殻をこすり取る。これを水車が行う。
このもみ殻と麦の粒の混ざったものを唐箕に掛ける。
唐箕は後ろに大きな風車が付いており、これを回すと風が後ろから前に流れる。これに上から薄くもみ殻と麦の粒が混ざったものを入れると軽いもみ殻は飛ばされて前から、重い麦の粒は下の出口から出てくる。
こうやって麦の粒を選別する。
次が製粉だ。臼の後ろに伸ばした回転軸に棒を付けて木の槌の窪みを棒が引っ掛けて持ち上げ、外れて落とす、を繰り返し、下に置いた籾摺りした麦の粒をつぶす。
ある程度つぶした所でふるいに掛け、粒を覆っていた皮を取る。
更につぶして小麦粉の出来上がりだ
弟子が出来ます。