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パチンコ屋の前での出会い

 今日も負けた……。


 都内のパチンコ屋の前。

夜9時過ぎ……俺、32歳パチンカスサラリーマン、北条司ほくじょうつかさは冬の寒空の夜空を見上げていた。

 大した特技もなし、彼女なし、金なし、だが、リボの借金だけはあるナイスガイだ……うん、冗談を言っている場合はではない。


「ああ、……このタイミングで10万の負けは痛すぎる……」


 今日は12月24日のクリスマスイヴ、うちの会社は25日が給料日だが、土曜日だと前日入金になる……。そう……給料日意気揚々とパチンコ屋に行き……生活費を溶かした馬鹿が俺です……。


「はぁ……まあ、豪勢に飯でも食って忘れるか……」


 パチンカスは買ったときは何故かケチるが、負けた時は豪勢に飯を食う生き物だ……まあ、クリスマスだしな……いやでも、今日さすがにまずいか、でも明日取り返せば問題なくね?


 そんなクズなことを考えながら、賑わっている街を眺める……いつもは気にならないが今日はやたらカップルが目に付く……物理的に寒いのもあるが、精神的にも寒い……。


「俺も可愛い彼女がいたらなぁ。パチンコなんかに時間を割かないで、彼女を大切にするのになぁ」


 俺は小さくつぶやく。

 まさに負け犬の遠吠えだ……言っててみじめになる……人に聞かれていたら、さぞ情けなく見えるだろう……。


『あの……そのお話は本当ですか?』


「えっ……?」


 その時、若い女性の可愛らしい声が聞こえ、ふと声の方に向くと、そこには――。


『私、今の話とても興味があります』


 真剣な顔をして、黒のロングコートを羽織っている、女の子が立っていた。歳は20代前半ぐらいだろうか……?

 身長は150半ばで肩幅や手足が細いのでかなり小柄に見え、整った顔立ちも含めて、超が付くほどの美人で可愛い。

 さらには綺麗で背中まで伸びた黒髪が目を引き、全体的な雰囲気はいいところのお嬢様なような感じだ


 何より、特徴的なのはそのぱっちりとした大きな目に宿る、意志の強さだ。


(えっと……誰だ? というか俺に話しかけたんじゃないのか?)


 俺はこの子に心当たりがなく、あたりを見渡した。

今いるパチンコ屋の前は大通りに面していることあり、人通りは多いが、こちらを気にする人はいないし、女性は俺のことをしっかり見つめている。


「え、えっと……何か御用ですか?」


 俺はいきなり美人に話しかけられたことにテンパりながら口を開く。すると、女性は柔らかな笑みを浮かべる。


「あっ、パチンコをやめてほしいということではないです? 趣味は大事ですので、続けていただいて大丈夫です。援助もします。ただ同じぐらい私との時間をとっていただけると……ち、ちょっと図々しいですかね? まずは家に来ませんか? ごはん用意しているんです。せっかくの『再会』なのでごちそうさせてください!」


 少し余裕のない表情でぐいぐい来る女性。


「…………」


 この女何を言っているんだ……? い、いきなり家って……。

 あ、あー。これは新手の詐欺師か? 最近の詐欺師はこんな二次元でしか、起こりえないことを仕掛けてるのか……なんか面白過ぎて詐欺に引っかかってもいいと思えてくる……金ないけど。


「だめですかね……? 『司さん?』」


 女性は俺の名前を口にする。ん? あ、あれ……もしかして知り合い? いやでも見おぼえないんだけど……。


「ふふっ、覚えていませんか? 私、上村美空かみむらみくです。ほら幼い時によく一緒に遊んでくれた……」


「あ、ああ……」


 ん? ああ……うっすらとした記憶だが、そういえば隣の家に小さい女の子の姉妹が住んでいたような……。

 そうだ、そうだ。うちの年の離れた23歳の妹にそんな同級生の友達がいたな。


「ふふっ、ずいぶん前のことですから覚えていなくて問題ありません……あ、そうだ、お兄さんも私の身元が分からないと不安でしょうから、「乃愛のあ」ちゃんに電話してもいいですか?」


 乃愛とは俺の妹だ。

 まあ、あいつの許可があれば、別に飯をごちそうされるぐらいはいいのか……腹減ったし……でも、家に行くのはどうなんだろうか……。


「え、ああ……」


「ふふっ、ちょっと待ってくださいねー」


 俺があいまいに答えると女性は嬉しそうにスマホを操作し始める。よくわからんが……パチンコ屋の前でする話じゃないな…… 。


   ◇◇◇


 それから30分後――。

 俺は――。


「さあ、一人暮らしなので、遠慮せずに入ってください。お料理たくさん用意してるんです」


「あ、ああ……」


 女性……上村さんが一人暮らししているという、タワーマンションの一室に来ていた……

 なんか俺みたいなアラサー借金クズ男が来ていい場所ではない。

 部屋の広さは家の10倍はありそうだし、やたら女の子が好きそうなぬいぐるみや、ピンクのカーテンなど、可愛らしい雰囲気だし、いい匂いもするし……。


 いや、いきなり女性の家に上がり込むのもどうかと思ったが……だって妹が……。


『あー、お兄ちゃんとごはんを食べたい……んん? いいじゃない? お兄ちゃんどうせ得なもの食べてないし。まあ、多少問題? ありそうだけど……ご飯食べるくらいなら、いいんじゃない? あっ、ごめん、まだ仕事中だから、切るね』


 と、適当に答えられた。

うむ、そう言われる、パチンコのせいでお金がないので、ただ飯&こんな美人のお誘いとなると、断る理由がない。

 むしろ、ろくに女性と交際をしたことない俺にとっては、嬉しすぎるイベントだ


(これを機に付き合うことになったりして……)


 とか、妄想を膨らませていると……。


「まずはごはん食べましょう。ふふっ、私気合入れて作ったんですよ。むしろ、司さんと再会なんで、頑張りすぎちゃいました」


 と、舌を出しながら、いたずらっぽく笑い、黒のロングコートを脱ぐ。

 すると――。


「…………」


 俺の思考が停止する。

 手足が長く、腰が細いので気が付かなかったが、小柄ながらとても着やせするタイプらしく、胸がかなり大きい……って、そんなことを考えてる場合じゃねぇ!


「えっ、えっ……そ、その服って……」


「えへへ、可愛いと思いませんか? この『制服』結構気に入ってるんです」


「………………」


 女子高生!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 えっ……32歳の俺が女子高生が一人暮らしする家に来ちゃったの!? えっ、妹の友達ってことは23ぐらいの……あっ、その子、妹がいたな!

 この状況まずくない!?


「あっ、お兄さんに早く渡さないと……」


 俺の思考が追いつかないでいると、上村さんは鞄から封筒を取り出して、無邪気な笑顔で俺に差し出してきた。


「はい、明日のパチンコ代です♪ 少なかったら言ってくださいね?」


「………………」


 これ、夢か? 俺……人生の激熱フリーズひいちゃった? 3万分の1ぐらいの……ビッグボーナス?

 こうして、俺は女子高生に養われようとしていた。

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