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翼を失うと彼女は死ぬ  作者: 薔薇百合深呼吸
3/39

第1章 3


 ◇

 その日の夜。天候が急激に変化してバケツをひっくり返したような大雨が降っている。

 風も凄まじく、台風が近づいている様子だ。

 流石に、明日は補習が休みという連絡が事前に入っていた。

 今、川原は自室で歴史の教科書を広げながら勉強している。いつもならヘッドホンをつけて音楽を聴いているが、今はその一点に集中する為、外している。

 だが、一通りめくってみても諦めるように机の上に投げ出してしまう。

 ーーどうして、こうも頭に入ってこないんだ?

 考えた所で理由が分かる筈も無く、それから逃れるように、ベットへ仰向けに倒れ込んだ。

 今、このマンションの一室には川原一人しかいない。

 3LDKを誇る規模に角部屋とかなりの好物件だが、両親は仕事の都合であまり家にいない上、姉は大学の為、部屋を借りて生活している。

 なので、正直言って家賃の無駄であるが、川原自身は結構快適に過ごせているので、思っていても口に出さない。

 雷の音も響いてくる。雨が降り始めた頃に帰って来れて良かったと思いながら、窓の外を見る。 

 ーー天使。

 もし本当に実在するのなら、今頃この大雨の中を飛び回っているのだろうか? 

 ふいに、ぴろりんと携帯電話が鳴る。相手は唯一の友達である真田。

 メールの内容は、今日どうだった? くらいの簡単な内容。

 いつも通りだったと代わり映え皆無な素っ気ない返信をした。

 川原は時に考えてしまう。どうして自分のような人間と友達でいてくれるのだろうか? と。

 (さな)()(ゆき)(まつ)は顔も良ければ性格も良く、運動も出来て非の打ち所がない。川原とは正反対にいると定義づけしてもいいような存在。

 本人に直接聞くのも有りだが、適当な理由を並べられるに違いない。と川原は考える事を辞めた。

 ドゴォォォォォォォォォォーー。

 急にデカい雷が憤慨するかの如く鳴り響く。流石の川原も一瞬びくついてしまうが、すぐに冷静さを取り戻す。

 だがーー。 

 「あ? まじかよ・・・・・・」

 今の一撃が影響してか、糸が切れたかのように停電が発生した。

 窓から見える周囲の町並を見て、ここいら一体がそうであると窺える。

 初めての停電な事もあり、川原は少しばかしの戸惑いを見せる。

 まずは、手元にある携帯電話のライト機能を利用して、一旦は光源の確保に成功。

 どうせ停電はすぐに復旧するだろうと、窓を叩きつける雨越しに町並を見る。こうしていればどの程度復旧しているかの目処が立つ。

 逸る気持ちを落ちつけるよう深呼吸をして、復旧作業が早く終わる事を切に願う。

 だが、そんな川原の気持ちとは裏腹に、ガシャーンと窓が割れる音が鼓膜をつんざいた。

 なんだなんだと別の心配事が胸にひっつき、川原は慌てるようにして自室を抜けてリビングへと向かった。その間に電力は無事に復旧してくれていた。

 だが、そこにある出来事を目の当たりにして、全てが夢の中ではないのではないのか? と思考が現実逃避を始める。

 リビングの大窓を破ったのが台風の影響と思いきやーー。


 横たわっていたのは、純白の翼と頭に輪っかを宿した一人の少女だったーー。


 思考が追いつかない。何が何だか、現実を受け入れられない。

 百歩譲って、少女が窓を突き破ってリビングに横たわっているなら、まだ現実味という点では望みを繋いだかもしれない。

 だが、今ここにいるのは普通の少女ではない。〝翼〟を生やした少女なのだ。

 まるで人形のような別次元の可愛さで、長くて綺麗な金髪がそれに拍車をかけている。

 今の状況から鑑みて、流石に翼が作り物や冗談なんて思える筈もなくーー。

 川原は一つの可能性を脳内にはっきりと浮上させた。

「まさか・・・・・・本当に・・・・・・」

 本当に思っていなかったからこそ、インパクトがデカすぎて脳内が過熱するあまり、そのまま焼き切れてしまいそうだった。

 その場にへたりこんでしまいたかった。だが、横たわって苦しんでいる姿だけは、普通の少女と何も変わらない。

 どうにかしなければと思う気持ちが強いが、現実離れな現状のあまり、体が言うことを聞いてくれない。

 こうしているうちにも、少女に雨風が容赦なく叩きつけ、今の状況を更に悪化させる。

 思考停止しているそんな時、玄関のドアがガバッと開く音が聞こえてきた。

「そうちゃん! 大丈夫か!?」

 隣の部屋に住んでいるおじさんが入ってきた。隣同士で仲が良く、いざという時の為に合鍵を渡している仲だ。

「お、おじさん・・・・・・」

 流石のおじさんも、リビングで起きている状況を目の当たりにして、開いた口が塞がらない様子だ。

 無理もない。少女の背中に、本物にしか見えない純白の翼が生えているのだから。

「こ、これは一体・・・・・・」

「俺にも・・・・・・よくわからなくて」

 人とは、現実離れしすぎる現象に遭遇し、脳内がそのキャパを越えると停止する。

 それがまさに、この状況そのものだ。

 だが、ある程度時間を貰えれば、それなりに思考は、復活の兆しを見せるようだ。

「と、とりあえず今は空いている部屋に運ぼう!」

 たとえ翼が生えていようとも、それを除けば普通の少女に変わりないという考えは川原と同じようだ。

 川原は同意をして少女を持ち上げようとしたがーー。


「おいっ! その汚い手で妹に触るんじゃねぇ!!」


 ふいに大嵐の中から声が聞こえた。

 川原とおじさんが怒声のした方を向くとーー。


 純白の翼を羽ばたかせながら、腕を組んでいる一人の女性がいた。


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