表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
翼を失うと彼女は死ぬ  作者: 薔薇百合深呼吸
1/39

第1章 1

  


 ◇

 人は、伝承(でんしょう)の中で語り継がれた摩訶不思議(まかふしぎ)な存在を()の当たりにした時、それを信じる事が出来るのだろうか?

  

 たとえば、天使とか。


 人の形をしているが、荘厳(そうごん)なまでに美しく、まるで微睡(まどろ)みのような神秘的存在。

 その姿を目の当たりにした時、真実と受け入れられるのか、はたまた夢を見ていると現実逃避に走るのか・・・・・・それは実際に起こらないと分からないのもまた事実。



 ◇

 今、授業に耳を傾けつつも、川原(かわはら)颯太(そうた)は退屈と言わんばかりに校舎へ目を向ける。

 グラウンドでは他のクラスが、たたきつけるような炎天下の下、ランニングを敢行中。

 自分は冷房にあたりながら、人ごとのように大変だなぁと思いながら睥睨(へいげい)する。

 川原が授業に集中出来ないのは、歴史を理解する能力が欠如しているからだ。

 いや、厳密には天使が関わる歴史上に伝承と言うべきなのか、どうなのか。

 現代日本より遙か昔。 

 関ヶ原の闘いや本能寺の変と言った有名な歴史上の出来事に、天使の姿が確認されているという伝承がある。

 だが、それはあくまでそう語り継がれているだけの話で、確信があるわけではない。

 その眉唾物(まゆつばもの)の授業を聞いて、天使がいた事に胸躍らせるものもいれば、川原のように、んなわけないと簡単に切り捨てるものもいる。

 授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、歴史担当の高木(たかき)が教科書を静かに閉じた。

「これで一学期の授業は全て終了だな。夏休みだからってあんまり羽目を外すなよ。後、川原は後で職員室に来るようにな」

 そう言い残して、高木は教室を後にする。

 やっと解放されて明日から休みだと、(はしゃ)ぐ生徒が多々いる中、川原は特にそういった感情を表に出すこともなく、まるで作業ロボットように帰り支度を粛々と始める。

「呼ばれちゃったね、颯太」

 そう声をかけて来たのは真田雪松(さなだゆきまつ)という川原のクラスメートだ。

 中性的な顔立ちに丸眼鏡が特徴で線も細いが、背が高く、気さくな性格で人気が高い。

「まあ・・・・・・いつもの事だしな」

 そっけなく突き放すように語る川原。

 根暗(ねくら)で、起伏が薄い表情がべたりと貼りついている為、愛想(あいそ)人相(にんそう)ははっきりいって良くない。 

 なので、クラスメートに噂されるのも日常茶飯事である。

「颯太は、本当に天使が信じられないんだね」

「まあ、眉唾程度にしか思ってないからな」

「そこ、思ってないじゃなくて、思えないんでしょう?」

「・・・・・・・・・・・・」

 川原はその指摘に言葉を返す事が出来ないでいる。

 確かに、川原は歴史を理解する能力が人より欠如している分、天使という存在が信用出来ない。

 それを言ったら、普通に歴史上の人物にも同じような事が言える。

 だが、川原が欠如している理解力は、何故か〝天使に関する事象〟のみに限定される。

 なので、昔からテストでは残念な事に、歴史の科目だけ赤点を取っている。

 他の教科にも天使の出来事が絡んでいるだろうけど、歴史の科目だけなのは、天使の登場を示唆する伝承が、おおよそ歴史に盛り込まれているからかもしれない。

「なあ、雪松。お前は・・・・・・」

「ん? 天使を信じるかって?」

「・・・・・・・・・・・・」

 自分が言おうとした事を先回りされて、あっさりと口を噤んでしまう。

 真田は、一度腕を組みながらうーんと呻って、顎に手を置きながら、考える仕草を見せる。

「僕は信じるかな。でないとこうして教科書で紹介する事もないし。仮にこれが颯太の言う眉唾だったとしても、実際に存在していたら面白そうじゃないかな?」

「そうか? まぁ、どうせいないと思うけどな・・・・・・」

「そうだよね。颯太はそうだよね。でも、もし、本当に天使を信じられる日がくればいいね」

「・・・・・・そんな日は一生訪れないと思うけどな」

「ははは・・・・・・そういえば、颯太は夏休み中どうするの?」

「別に・・・・・・どうせ補習だろうから。それ以外の予定も別にないし」

「ははは・・・・・・相変わらずだね、颯太。去年と一緒だよ、それじゃあ」

「おまえが言える事じゃないだろ。今回も部活が恋人だろ?」

「ははは・・・・・・そう言われると弱いなぁ。今年も合宿とか普通に入ってるかな」

 真田は、その長身痩躯の姿からはあまり想像出来ないが、陸上部に所属しており、やり投げを主戦場としている。ちなみに川原は帰宅部である。

「そうか。まぁ、頑張れよ」

「また颯太は人ごとみたいに・・・・・・まぁ、他人事か。うん、頑張ってくるよ」

「・・・・・・おう。じゃあ、俺、職員室行って説教受けてくるわ」

「うん。そっちも大変だろうけど、頑張ってね」

 学生鞄を肩にかけると、そそくさと川原はその場所から離れて行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ