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第74話 シナリオ9 追憶の旅・地 英雄⑩

状況変化を見逃さないよう注視すること10分、アラタたちに動きがあった。

4人が移動を開始した様子を浮遊感の透視能力によって察知した。


アラタたちの近くには巨漢と長身の人影。先日屋台にやってきたドス大公とその部下と思われる。アラタたちはその二人以外にも多くの人物、おそらくは精鋭兵と思われる洗練された動きの一団とともに移動していた。


集団は大広間のような場所に移動して停止した。

すかさずアラタから通信あり。待機継続命令だ。


ドス大公とアラタが近づき、何かしらのやりとりをしたのち離れていく。

変わりに出てきたのはタクミ。タクミとドス大公は直接何かを話しているようだった。


「ね?今どんな感じ?」

「普通。大公とタクミが何か話してる。いきなり武力衝突みたいなことにはならなさそう」


タクミを心配していたアザミとシオンは、ナギサの問いに答えた俺の言葉を聞いて安心したようだった。


「このまま何もなければいいんだが……って、ん……?」

「どうしたの?」

「二人が剣を抜いた。どういうことだ?」


俺の視線の先では、タクミとドス大公の周りから周囲の人物が距離をとり、中心部の二人が各々の剣を鞘から抜くのか見えた。

そのまま正眼に構えるタクミと、不思議な構えのドス大公。


何かまずいことが起きたのか?俺たちも強硬突破しなければいけないのかと思いきや、アラタからの通信内容は待機維持。


たしかに、タクミとドス大公以外に大きな動きはない。

命に係わるようなことではなく、二人が手合わせをする、とかかな?


「バレた?ヤバい?強硬突破?私は覚悟できてるよ?」

「ヤバくない。待機だ」


なぜが目をキラキラさせて質問してきたミヨに答える。こんなところでストレス発散しようとしないでほしい。


浮遊眼が、タクミが自身の召喚獣を呼ぶ様子を捉えた。首無騎士王が召喚されタクミの隣に並ぶ。


相対するドス大公の隣にも召喚獣が現れた。

小さな小槌を持つ小太りの人型召喚獣。ドス大公の召喚獣はSクラス召喚獣として有名だ。たしか、名前は


大黒天だいこくてんだ」


思わずつぶやいた俺の声に皆が反応したのが分かった。


「Sクラス召喚獣が出たの!?」

「さすがのアラタさんでも大公が相手だと分が悪いのでは?経験の差がありますし……」

「あの人は負けません!」


上記は順番に、ナギサ、ホクト、シェリーさんの言葉だ。

普段は声が小さいシェリーさんの声が思いのほか大きく驚いた。シェリーさんはアラタの勝利を疑っていないようだ。何気にアザミとシオンの二人もシェリーさんの声にしっかりと頷いている。


皆に誤解を与えてしまった。急いで訂正する。


「ちょっと。冷静に、冷静に。それに……いま大公と相対しているのはアラタじゃない。タクミだ。タクミと大公が試合なのか、力比べなのかはわからないがやるみたいだぞ」

「「!!!」」


一瞬前まで余裕のある表情をしていたアザミとシオンの二人の顔色が急速に青ざめていく。


「え?タクミ?それはちょっと……どうなの?私にはタクミが勝つビジョンが浮かばない」


ナギサの言葉のこの場にいる全員の認識だったと思う。


「アラタの指示は待機。心配だが様子を見るしかない。状況が変わったら教える。今は牽制し合ってる」


俺もタクミはすぐに負けると思っていた。が、俺の視線の先では予想外の光景が展開されることになった。


召喚主同士、タクミとドス大公が剣を合わせるのと同時に、多少強引に距離を詰めた首無騎士王が大黒天と壮絶な接近戦を始めた。結果、2体の召喚獣は相打ちとなり同時に消滅した。


その後、すぐに再召喚された大黒天に対し、首無騎士王はかなり遅れて再召喚された。

ドス大公とタクミがなにやら身振り手振りで話をしている。


再びぶつかる2体の召喚獣。だが、今度は明らかに首無騎士王が劣勢。小槌による一撃を鎧の胸に当たる部分に受けた首無騎士王は消滅した。大黒天がタクミへの攻撃に加わる。


防戦一方で苦しそうなタクミが殴り飛ばされた。

剣で小槌からの攻撃を防ぐのが間に合ったとはいえ、バランスを崩し床に倒れこむ。


タクミに近づこうとするアイギスさんの肩をアラタがつかみ、止めていた。

その後、なにかしらのやり取りのあと、タクミがユラリと立ち上がった。


「え……?」


思わず声が出た。


俺の視線の先でタクミが召喚獣を顕現させた。


浮遊眼の視界の先にいるのは眩しく煌めく鎧の騎士。首無騎士王とは明らかに違う。首から上がある。さらに言うと、先日劇場で見た騎士王でもない。あの時のような大きな盾は装備していない。


煌めく騎士は先ほどまでの動きが嘘のように大黒天の攻撃をさばき、圧倒した。切り裂かれた大黒天が消滅する。ドス大公がふらつく。


その様子を見ていた二人の周囲の人間が歓声を上げた。地下のこの場までそのどよめきが届いた。


「何?何かあったの?」

「……タクミの召喚獣がドス大公の召喚獣を倒した」

「マジで!?勝ったの?やるじゃん……っ!?何?この感じ……?」


ナギサがタクミを褒める最中に言葉を止めた。

異常な雰囲気を感じ取ったのだ。仲間たちも同じような反応。


俺にはその原因が見えていた。


ドス大公が再び召喚獣を顕現させた。召喚獣の放つ強大なオーラが、遠く離れたこの場まで影響している。


現れたのは、小太り体形の大黒天ではなかった。

上半身半裸、引き締まった肉体を持つ大柄な人型召喚獣。腕が4本、各腕が槍、剣、戦輪、笛をもっている。


「……大黒天が第二形態で顕現したようだ」


先ほどまでの大黒天とは全然違う。一人で2つの召喚獣を所有することはできない。ということは、先ほどまでの大黒天は本気ではなかった。今の姿が本当の大黒天ということだ。


なにやらやり取りをしたタクミとドス大公。


二人から距離を取っていた周囲の人影が、さらに離れていく。

規格外の2体の召喚獣。その戦いに巻き込まれないように、ということだろう。


真・大黒天は大きく距離を取り、槍以外の武装をしまうと槍を投擲する姿勢になった。

一方の煌めく騎士は剣を大きく頭上に構える。上段の構え。


各々の獲物にエネルギーが溜まっていく様子が見える。槍と剣が光りだした。十秒ほどのち、示し合わせたかのように二つの得物の光がそれぞれの刃に収束する。


一拍の静寂。その直後、光をまとう槍が投擲され、同時に剣が振り下ろされる。

お互いの全力の一撃は一瞬拮抗し、次の瞬間槍が剣をへし折った。


多少勢いが弱まった槍の一撃により騎士は消滅。槍は勢いそのまま、騎士の後ろにいた、召喚獣のダメージフィードバックによりふらついたタクミを粉砕するかに見えた。

が、間一髪、巨大な盾がタクミの眼前に現れた


盾と槍がぶつかる大音量がここまで聞こえる。


盾は槍の一撃を防ぎきるとそのまま消えた。

一方の槍は勢いを殺され、床に落ちる前に真・大黒天の腕まで飛んで戻っていった。


いつの間にか、床に倒れたタクミのそばにアラタとアイギスさんがいる。

盾はアイギスさんの召喚獣だと思うが、以前見た形と微妙に違っていたような……。アラタがコピーしたのかな?


アラタは床に倒れたタクミを抱きかかえ、そのアラタとドス大公が何やらやり取りをしたのち、真・大黒天は消えた。


タクミたちの周囲に人が集まってくる。

どうやら検討を讃えている様子。さりげなく、アラタからの通信があった。


「待機継続。だとさ」


移動を開始したアラタたちを見てほっとした俺は、何が起きているのか知りたかっている仲間たちに今見たことの説明を始めた。



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