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第73話 シナリオ9 追憶の旅・地 英雄⑨

湖の湖畔には仲間たち全員がゆったり乗れる大きさのクルーザーが準備されていた。立派な船室のついた、個人所有としてはやりすぎ感のある豪華な船。船上で俺達を出迎えたのはポックルさんのお母さん。さすが、金持ちは違う。自由に使ってよいという許可をもらったので、遠慮なく使わせてもらう。


シェリーさんの誘導により船を移動させ、秘密の通路があるという場所へ。湖に浮かぶ小島の傍にある岩礁地帯だ。

この岩場のどこかに入口があるのかと思ったら、入口は岩場の傍の水面下にあるらしい。


早速、リッツの召喚獣・潮玉によって水を排除、入り組んだ大きな岩の水面下に複雑な模様が描かれているのが見えるようになった。


模様は鍵の役割を果たしており、解錠には守護巫女であるアイギスさんが必要らしいが、今回はバックアップとして登録されたシェリーさんとイブリスの二人が代理権限を使って解錠する。

二人が模様に手を伸ばすと模様は光を発し、光が収まったときそこにはぽっかりと暗い穴が開いていた。


「この中にはいるのか?空気は大丈夫なのか?」

「だ、大丈夫です。……緊急避難路としての機能は生きています。あの、有毒ガスや窒息などの心配は不要です」

「うん、俺にもわかる」


心配そうなヒジリさんの疑問に、シェリーさんが答え、イブリスが同意した。二人には内部の状況が把握できている。


二人を先頭に、残りの仲間たちも恐る恐る穴の中へ。ポックルさんのお母さんは船に残ってもらった。


外からは何も見えなかったが、穴の中は意外と明るく、壁、床、天井、全面が不思議な光沢をもつ金属のような材料で構成されていた。広さは学校の教室くらい。入ってきた壁の反対側には奥に向かう扉。ぴったりと閉じている。


シェリーとイブリスの二人が向かいの扉に手を当てると、シュッという空気の抜けるような音と共に左右に扉が開いた。開いた先はまたもや真っ暗。持ってきた明かりで先を照らすと、鍾乳洞のような場所になっていた。


「……この先に行くの?」


言外に、行きたくない、というニュアンスの込められたミヨの言葉。


「だ、大丈夫。道は分かります……わ、私が先導します」


シェリーさんの言う通り、岩場の間に通路のようなものが奥に向かって伸びている。

ミヨが乗り気じゃないのは、道が分からない不安感からじゃなくて、お化けが出てきそうな恐怖感から。ミヨはオカルト方面にはビビリなんだよなぁ。


「では、私たちここで待機する」

「気を付けて!」


事前の打ち合わせ通り、ヒジリさんとイブリスがこの部屋を確保して残りのメンバーが先へと向かう。


浮遊眼の観測能力をフルに使いながら洞窟を進む。この洞窟の生き物は魚や昆虫ばかり。小動物はいないようだ。通路に見えなくもない洞窟を辿ることしばし、大きな岩壁にぶち当たった。視線を上に向けると壁の上に道が続いている。何とか降りることはできるけど、上ることは難しそうな壁。


「ここ上るの?」

「ええ。緊急脱出用ですから、逆走することは考慮してない、みたいです。すいません……」


ここで、飛べる仲間が役に立つ。

シェリーとホクトのおかげで皆無事に岩壁の上に移動、進むことができた。


さらに進むと道がなくなった。目の前には泉のような水が溜まっている淵がある。

透明度は高く、明かりを向けると水中に道が続いているようだ。


「この先に進みます」

「……完全に水没してる……」

「なので、その、彼の出番です……」


シェリーが指名したのはリッツ。

召喚獣・潮玉のおかげで溜まった水を容易に排除できた。幸い、水が溜まっていたのは一区画のみ、30メートル程度で再び陸上に戻った。


そんなこんなで、仲間たちの力を合わせて避難路を逆走。

見覚えのある雰囲気のする小さな部屋に出た。この洞窟に入る前の待機部屋に似ている。


「お、お疲れ様でした。ここが目的地です」

「てことは……?」

「はい、この扉の先はダイコク殿です。……準備はいいですか?」


シェリーの問いかけに対して皆が頷く。

ゆっくりと扉が開かれると、そこは倉庫のような場所になっていた。何年も人が入っていないのか、あちこちに置かれた木箱の上にはホコリがたまっている。


浮遊眼を出して、周囲を確認。


まず、ここは地下らしい。人の気配は上の階以上にしか存在しない。

透視能力を用いてアラタ達を探す。すぐに分かった。


「二つ上の階に大きな空間がある。そこにタクミたちがいる。式典は終了したようだ。人影がバラバラに動いている」


俺の声にうなずく仲間たち。


「トラブルにはなっていないようだし、この場で待機しておいたほうがいい」

「合流を目指すんじゃなかった?」


事前の計画とは違うことを言った俺の言葉に、ナギサが質問をぶつけてきた。


「予定変更だ。……この部屋、囲まれてる」

「へ?」

「部屋の外、地上に出るあたりに武装した集団がいる。人数も多い。気づかれずに出ていくのはまず無理だな。下手に動くと厄介なことになるぞ」

「本当に?こんな倉庫の周りに」

「本当だ。この通路のことを知っているとしか思えない配置だぞ。シェリーさん、あの扉以外に出口はありますか?」


シェリーの方を向く。


「す、すいません。ここ、ダイコク殿の内部構造については私も分からないです。あ、あと、この通路が使われた形跡は、ないです。その……文献か何かで通路についての情報が残っていた?のかも……しれません」


自信なさそうに答えるシェリーさん。


「外の人達がこの部屋まで降りてくる様子はないけど、すぐに逃げられるようにしておいたほうがいい」

「アラタとの合流はどうするの?」

「待機。アラタから次の指示が出るのを待つ」

「指示?」

「そう」


ナギサの疑問には答えつつ、アラタと思われる人影を注視する。


10分ほど待機したところで、アラタが右手で自分の太ももとトントンとノックする様子が見えた。


「待機命令。…問題なし……だとさ」


アラタとの非常通信用のしぐさだ。あらかじめサインを準備していたので、向こうからの一方通行ではあるが、俺の浮遊眼でアラタの意図を読み取れる。


「とりあえず、アラタから動くように連絡がくるまではこの場で待機だな」

「合流の要請が来たらどうするの?外に人がいるんでしょ?」

「強硬突破するしかないな。覚悟しておいてくれ。相手はおそらく、精鋭だ。完全武装しているし、下手に手加減とか考えていると普通に大怪我する集団だ」

「うへぇ……」


ナギサが嫌そうな表情をした。


こちらは、ナギサ、ミヨ、ホクト、シェリー、アザミ、シオン、リッツ、リュミスさん、そして俺の9人。

相手は20人以上。俺たちも鍛えているからそんじょそこらの警備員であればなんてことはないが、上にいるのは正規兵の精鋭部隊。できればこのまま何も起こらないでほしい。


部屋の中から、俺はアラタたちの様子を観察し続けた。


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