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第72話 シナリオ9 追憶の旅・地 英雄⑧

露店商売期間の翌日、俺達の宿泊しているホテルにやってきたリュミスさんは、自身の店舗が第二商に選ばれたことを教えてくれた。


西方商会の使者を通じ、入賞したという連絡を受けたらしい。


「第二商?本当ですか?」


アラタがリュミスさんに聞き返す。リュミスさんは頷き、アラタの眼を見ながら答えた。


「はい、我々の店舗は今年の第二商に認定されました」

「第一商ではなく?」

「ええ。第一商は別の店です」

「……第一商の店がどこの店なのか、聞きましたか?」

「聞きました。商店街で漫談たたき売りを行っている店です」


リュミスさんが告げた店は、ある特徴により有名な店だった。

店主がお客さんと掛け合いを行いながら商品を売るのだが、声が大きくノリがいい。売物は何の変哲もない普通の食品だが、割引率が非常に高く、通常金額200のものを5つ合わせて300で売る、という感じでとにかく安く大量に元気に売るぜ!という店。


店主は有名人であり、その知名度から毎年入賞が期待されるものの、これまでずっと落選。今年ようやく入賞し、第一商になった。


俺も休憩時間に見に行ったが、確かに、俺達の店と同じくらい、いやそれ以上に人が集まっていた。だた、第一商として選ばれるか?というと疑問が残る。


「リュミスさんはそれで納得したのですが?」

「それは……」

「できるわけないやろ!?」


言葉を濁し視線を逸らすリュミスさんの隣、ポックルさんが憤慨した様子で口を開いた。


「あのおっさんのしゃべくり技術は尊敬するけどな、あれが第一商にふさわしいか?いうたら違う。実演安売り販売いう手法は既に広う認知されとる。目新しいものやない。第一商の趣旨に合わへん」

「わたしも、そう思います」

「やったら、」

「ですが」


何か続けようとしたポックルさんをリュミスさんが強い口調で制する。


「大公と西方商会によって正式に決定済のことです。今我々が抗議したところでどうかなるものではありません。……ごめんなさい。私が西方商会幹部の関係者ということで身内贔屓と言われないようにという判断もあったのでしょう」

「リュミス……」


その場の雰囲気が暗くなりかける。


「決まったものは仕方ないです。重要なのはこれからどうするか。第二商でもダイコク殿には入れますよね?」

「ええ。人数は店舗責任者と関係者3名の4名までだそうです。昼には迎えの馬車が来ます」

「ということは、この中から誰が行くのか、早々に選抜する必要がありますね」

「そうなります」


リュミスさんの話を受けて、全員の視線が何やら考え込むアラタに集まる。


「参加するメンバーは、リュミスさん、ポックルさん、アイギス、タクミ……俺が入る枠がない、か」

「ちょっと待って、本当にウチがそこに入ってええの?」


ポックルさんの疑問はもっともなものだ。

ただ、当人以外のここにいるメンバーはその理由を察していた。


「封印の儀式を行うアイギスと、宝珠の持ち主であるタクミは外せない。ポックルさんは儀式でアイギスのバックアップをしてもらう必要があるし、リュミスさんは店舗の責任者。全員に役割がある」

「ウチが儀式のバックアップか……」

「地の封印における補助。それをポックルさんにお願いしたいのです。シェリーやイブリスにはそれぞれ風と火の封印で補助してもらいました。同じことをお願いしたい」

「まぁええけどさ。リーダーがいないのは不安やわぁ」


困惑するポックルさん。加えて、他にも困惑する人物がいた。タクミだ。


「俺よりもアラタ、お前が行った方がいい。お前の方が儀式に詳しい」

「ダメだ」

「どうして?」

「さっきも言った通り、お前でないと宝珠の力を開放することができない。それに……タクミ、今回はドス大公と直接話ができる滅多にない機会だ。貴族としての力のふるい方に参考になるものがあるだろう。……実家をどうにかしたいんだろ?」

「!!!」


目を見開き驚きを表現するタクミ。

タクミはタクミでなにやら事情があり、アラタはそれを知っているようだった。


「大丈夫。封印の儀式の流れはこれまで3つと同じだ。アイギスに任せておけばいい。基本的に危険なことはないはず……アイギスたちを頼むぞ」

「ああ、任せろ!」


話がまとまりかけたところで別の提案をする人物が出た。

集合時間と場所を告げてから、じっと黙って何かを考えていたリュミスさんだ。


「アラタさん、私の代わりに店舗責任者として参加いただけませんか」

「……それは、“運命の選択”が導いた答えですか?」

「違います。私の選択です」


アラタの問いに答えるリュミスさんの手もとには何もない。彼女の召喚獣であるカードを切るようなしぐさもなかった。


「今回、私は場所取りをしただけ。商品の準備、販売戦略といった重要な事項を決めたのは皆さんです。であれば、店舗責任者として、代表であるアラタさん、貴方が出るべきかと」

「店舗責任者はリュミスさんで登録されていますし、私は西方商会に所属していませんが」

「であれば、私は急病で代理で来た、とでも言ってください。そうですね、たちの悪い伝染病かもしれないのでどうしても出席できないとかいいかもしれません。……先ほどアラタさんが言った通り、表彰式のあとには大公らとの懇親会があります。その場で、今回の販売戦略等の話はきっと出るでしょう。正しい受け答えができるのはアラタさん、貴方だけです」

「…………」


再び考えこんだアラタはしばらくして口を開いた。


「分かりました。店舗責任者の代理として参加します」

「お願いします」

「その代わり、お願いしたいことがあります。リュミスさんだけじゃない、皆にやってもらいことがある」


アラタはテーブルの上に大きな地図を広げた。


「ここが今いるホテル、ここがダイコク殿で、ダイコク殿の奥ノ院に封印がある。奥ノ院に入る方法として、ダイコク殿の正門から正規で入場する方法以外に、別の道が、封印の場所に向かう隠された通路がある。そうだな?アイギス」

「はい」


アイギスさんが地図上の一点を示す。

ダトロイの町に隣接する湖の中、小さな島の印がついている場所。


「ここから封印の地へ繋がる道があるはずです。正規の通路が使えなくなったときのための予備通路。一昨日調査したところ、浸水箇所がありましたが使えることが分かりました。本来はダイコク殿から外へでるための一方通行の通路ですが、リッツさんの召喚獣と、皆さんの力があれば逆走してダイコク殿へたどり着けると思います」

「詳しい場所はシェリーが把握している。この道を通って俺達を追いかけてきてくれ」


アイギスさんとアラタの話に、俺は質問を投げた。


「全員で追いかけるのか?」

「アイギスの言ったとおり、全員の協力がないと逆走は難しい。……正直、今回は封印の儀式で何が起こってもおかしくない。ドス大公と一線交える可能性すらある。いざというときのため、皆の助力が得られる状況にしておきたい」


アラタに分からないのであれば、もう一人に聞いてみる。


「リュミスさんの召喚獣で何かわかりませんか?」

「申し訳ありませんが、何か起こるのかわかりません。今日、これからの出来事について上手く占えないのです。こんなことは滅多にないのですが……」


「というわけだ。午後は油断できない展開になるかもしれない。気を引き締めていこう」


アラタの総括の後、仲間たちは各々準備を始めた。

俺もナギサやミヨと一緒に万が一の荒事に備える。鞄から取り出した新しい護身棒をしっかりとホルダーにセットした。

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