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第69話 シナリオ9 追憶の旅・地 英雄⑤

翌朝、宿の食堂で仲間たちと合流。

今日の正午から明日の夕方までが露店商売期間だ。宿が集まる区画周辺は出店禁止エリアのため周囲に商人の姿はない。


まず俺達は二手に分かれる。

アラタチームと俺チーム。


といっても、俺チームのメンバーは俺、ナギサ、ミヨ、ホクト、そしてリュミスさんの5人。残りは全員アラタチームだ。

この分け方、明らかにアラタの私情に基づいている。まぁいいけどさ。


誰が聞き耳を立てているかわからないので、だれも作戦について口にしない。

当たり障りのない会話を行った後、二チームに分かれて行動開始。



「では、皆さんはこちらへ」


リュミスさんに誘導されて宿の外に出ると、小さい男の子と女の子が俺達を待っていた。ウチの妹と同じくらいの年。今年、召喚祭に参加したらしい。


「弟と妹です」

「「よろしくお願いします!」」


リュミスさんの双子の弟妹は元気な挨拶をしてきた。子供たちとナギサ、ミヨ、ホクトは後ろの客室。リュミスさんが俺の隣に座り、俺は隣からの指示通りに馬車を操る。


横目で見ると、アラタたちも馬車に乗り込むところだった。

俺の操る馬車の倍くらいありそうな大きさ。俺の視線に気づいたリュミスさんが小声で教えてくれた。


「ポックルの実家が所有する馬車ですわ」

「ポックルさん半端ないですね……」

「この宿のオーナーもポックルのご両親ですのよ」

「だから昨日着いたときに従業員一同お出迎えって感じだったのですね……どうしてポックルさんは旅商人をやることを許されているんです?我々とは生きる世界が違うような……」

「ポックルは知っての通り、一か所に腰を据えて落ち着くような性格の持ち主ではありませんから」

「ああ……なんとなくわかります」


向こうの馬車はまだ出発しそうにないのでリュミスさんの誘導に従って出発。この街の至る所で屋台や露店の準備が始まっていた。


大通りの一角で馬車を止める。


「ここが、私の店の場所ですわ。この程度の場所しか確保していませんでしたの。申しわけありません」

「十分だと思いますよ」


オシャレな通り。庶民が普段の買い物をする場ではなく、少し余裕のある人がこじゃれたプレゼントを買いにくるような雰囲気の場所。店舗スペースとしては広め、周囲の露店との距離も十分にある。


「今回は弟妹このこたちに経験を積ませるため、店番をお願いするつもりで治安のよい場所を選びましたの。売上が伸びる場所の人通りはこの程度ではありませんのよ。通りが人で埋め尽くされるほどですわ。ですが、その分トラブルも多い。今年は第一商を狙っていなかったためにこの程度の場所しか確保できていません」

「アラタが急に話を振ったせいで、すいません」

「そんなに気にしなくていいですわ。私としても、トオルさんたちのアイデアを借りるわけですし。悪くない取引です」


馬車が停止したのに気づいたナギサと子供たちが客室から降りてきた。

場所取り用の荷物と看板の材料を馬車から降ろし、3人に店の準備をお願いする。


俺とミヨ、ホクト、リュミスさんは再び馬車に乗り移動。商品を仕入れに向かう。


馬車はリュミスさんの誘導に従い高級住宅街へ。

その中でもひときわ大きなお屋敷にたどり着いた。武装した門番は、リュミスさんの顔を見ると馬車を通してくれた。


敷地内には先ほど見たアラタ達の馬車の姿もある。


「お、来たか」

「待たせたな」


仲間たちが集まっている中、初めて見る顔がある。ハニワ人の年配ご夫婦。この屋敷の持ち主だ。


「うちのオトンとオカンや。で、こっちがトオルちゃんとホクトちゃん。ミヨちゃんは昨日会うたし、リュミスはいまさら紹介する必要ないやろ?」

「あらまぁ、初めまして。ポックルちゃんのお友達なら歓迎よ。リュミスちゃんもおひさしぶりねぇ」


ご両親はポックルさんの両親だけあってすごく親しみやすい雰囲気を発している。

ポックルさんの紹介を受けて、こちらも挨拶する。


「初めまして。トオルと申します」

「ご無沙汰しております。おばさま」


リュミスさんはポックルさんのご両親とも良好な関係らしい。


「これで全員揃ったな。では、転移門ポータルへ向かおう」


ぞろぞろと屋敷の敷地内にある立派な蔵の中へ移動。

タクミが取り出した宝玉が光ると、時空の歪みが現れた。皆に聞こえないよう、隣のアラタに小声で確認する。


「こんなところに門が隠されていたのか」

「違う。門は作ることができるんだ。各封印の傍にある転移門は1000年前に作られたもの。今目の前にあるのはつい先ほど作成した転移門。新しく転移門を開ける場所には条件がある、その条件に合致した場所でかつ管理がしやすい場所がここだった、ということだ」

「……」


であれば、故郷カムスビの町にも転移門を作れるのでは?わざわざ町の外にあるアイギスさんが眠っていた社の転移門を使い続ける理由がない。率直に聞いてみる。


「もちろんできる。ただし、転移門を開ける場所はタクミの家の敷地内だ。そんなところに作ることはできない。今のタクミはともかく、タクミの両親が干渉してくるだろうし、面倒なことが起きるのは目に見えてる」


タクミの両親は昔のタクミの悪い部分を煮詰めたような性格の持ち主。なるべく関わりたくないというのは全員の共通認識だ。


改めてアラタが皆の注目を集めたうえで声を掛ける。


「上手くいかなくても昼までに一度は戻ってくるように。戻ってこない場合はトラブルと判断する。では、各自作戦開始。」


次々と皆が転移門をくぐっていく。

まずはイブリス。実家のあるユノタマの温泉宿に戻り、両親が作る伝説のマグマ焼きそばを持って来る手筈になっている。


次が俺たち。アイギスさんに嵐の渓谷に飛ばしてもらう。

飛んだ先は本だらけの部屋。シェリーさんの家の中だ。ここの転移門もアラタとアイギスさん、シェリーさんが作ったものらしい。里帰りにはここを使うそうだ。


シェリーさん本人は今回同行していないが、ここの転移門であればホクトも起動できるとのこと。いつの間にかホクトさんにも転移門の管理権限が付与されていた。家の鍵はシェリーさんから預かっているので問題ない。


「で?俺たちが確保するのは?」

「クリムベリーです。この街でしか栽培されていない高級果物。痛むのが早いので、この街以外で食べることはほぼ不可能。王国西方に出回ることはないその果実を確保します」

「入手の伝手はある?」

「正直言うとありません。お父さんにとお母さんに一度相談します」


ホクトは鍵を開けて家を出ていく。

俺とミヨ、リュミスさんが後に続く。2度目の訪問となる嵐の渓谷は濃い森の匂いがした。


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