第64話 シナリオ8 追憶の旅・水 歌姫の憂鬱 ミカミ アラタ視点
コールワールド シナリオ8 追憶の旅・水 歌姫の憂鬱
ようやく完成した船を使い、北の島へと向かう一行。
道中スコールが発生したり、海流に邪魔されたり、海棲モンスターに襲われたりしながらも無事に港町・リューグに上陸することができた。
町で情報収集をする一行に、一人の少年・リッツが接触してきた。罠に嵌めて主人公たちから金を盗もうとしたリッツは、すぐに捕らえられ、自警団に引き渡すことになった。
自警団にリッツを引き取りに来たのは美女・リーナ。事情を聞いたところ、劇団の団長・ミオスがリッツを人質に、リーナの歌姫としての能力と召喚獣・セイレーンを好き勝手に利用しているらしい。歌は上手くとも演技力のないリーナの代わりに、容姿は悪いが演技力は優れる女性・ジェシカに仮面をつけて歌姫をやらせていた。
リーナ姉弟の事情を聞いた町長の息子ヨルドはリーナが影武者として虐げられていることに激怒。劇団へ直談判に向かうもののそれは罠だった。劇場ではヨルドを亡き者にしようと戦闘員が配置されていた。
絶対絶命のヨルドであったが、主人公たちの協力を得てミオスを撃退。
リーナという正当な歌姫を担ぎ上げたヨルドがミオスを追放し町の平穏は戻ったかのように見えた。
火の粉を振り払った一行はヨルドの父から水の封印の場所を知らされ、封印の儀式を実施する。
封印後、第二王女の息のかかった戦闘員を従え再び襲い掛かるミオスを撃退。
リーナは正統な歌姫に就任し、リッツが仲間に加わった。
残るは最後の封印、地の封印だ。
上記が、俺 ミカミ アラタが認識するゲーム・コールワールドのシナリオ7のあらすじだ。封印で必要となるキャラと次のシナリオ以降加入するキャラが異なる、唯一のシナリオである。
例にもれず、俺の知るシナリオと街の実情は大きく異なっていた。
リッツがリーナの実の弟というのはゲームと同じ。ただ、ゲームとは異なりリッツはジェシカを姉と慕っている。ジェシカとミオスもリッツを可愛がっており、仲は良好。
ミオスの団長としての判断により、歌姫の影武者を立てて、召喚獣(歌声)だけはリーナ。それはジェシカを贔屓しているというわけではなく、ジェシカの演技力の素晴らしさと引きこもり体質で歌が歌えればそれでいいというリーナの性格を考慮した結果である。当人たちだけの秘密だった。
だが困ったことに、ヨルドは第一王女派を通じて上記劇団の真実を知ってしまった。ヨルドは町長である父の信頼の厚いミオスが気に入らない。ミオスを失脚させ街の実権を握るために、正当な歌姫・リーナを担いで偽の歌姫・ジェシカを糾弾しようと目論んでいる。
リッツは姉がヨルドの善意で歌担当としてやらせてもらっていること、リーナが今の状況に満足していることを理解し、ヨルドに感謝している。街の皆に嘘をついていることに対して複雑な心境。
これが、第二王女から俺にもたらされた事前情報だった。
例にもれずゲーム中の状況とは大きく異なっているが、俺が驚いたのはそこではない。第二王女の情報収集能力の高さに驚嘆した。
歌姫の秘密を入手できる諜報官や、各人物の心情を分析することができる解析官がいるということになる。ゲーム内でそのような人物がネームドキャラとして登場した記憶はない。いや、アイテムのフレーバーテキストには第二王女派閥に有能な参謀がいることが推測できる記述もあった。こう繋がってくるのか……
ぜひともお近づきになりたい人物ではあるが、今はもっと優先して考えないといけない人物たちがいる。
まずはヨルド。ゲーム中では数少ない表の権力を持った仲間であったが、この世界では反権力側の厄介者。道理に反することを許さない正義感溢れる男だった彼は、ねじくれた性格のドラ息子という立ち位置になっている。後々のために、彼の性格は矯正しなければならない。
そしてリーナ。ゲーム中では演技と歌のどちらもハイレベルだった彼女は、この世界では歌特化型となり、演技は素人。ゲームシナリオ通りに彼女を歌姫にすることは難しい。
ということで、今できる最善案を携えて劇団の団長、ミオスと腹を割って話し合おうとしたのだが、1日目は断られてしまった。アポなし突撃からの会談申し込みはさすがにダメか。翌日は時間が取れるということだったので出直すことにした。
翌日、劇を鑑賞中に発生したのが、劇場強襲イベント。
ゲーム内では劇場がバトルフィールドになっていた。ただし、ゲーム内シチュエーションは、無人の劇場に突入した主人公たちが待ち構えていた劇団員たちの罠にかかる、というもの。ヨルドが満員御礼の劇中というタイミングで突入してくるのは予想外だった。
頭をフル回転させてこの場を乗り切るための方法を考える。
まず考慮すべきは、このシナリオ特有のフィールドギミック。ターン毎にフィールドの水位が上昇し、すべてのマスが水に沈むと強制敗北というものだ。劇場が水で満たされることによる溺死判定という扱いだった。これを避けるため、味方を二チームに分けて片方をフィールドギミック解除に向かわせる。制御室を占拠すれば、劇場内の水位を自由に操作できる。
次に考えるのは突入してきた敵を迎え撃つ方法。ヨルドの行動に素早く対処するため、ゲーム中でヨルドと絡みのあるメンバーと俺はこちらのチームに入る。我々が丸腰であるという不利条件は、召喚獣を上手く使って何とかするしかない。
先日手に入れたスライム核により、俺は新たな召喚獣を複数得ていた。その中から、今回顕現させたのは、Aクラス召喚獣・絶鬼。
俺がシナリオ1の中ボスとして主人公の前に立ちふさがるときに使用する召喚獣だ。
赤と黒の市松模様の着流しを着た、般若の面をつけた細身の鬼。ゲーム中では赤一色の着流しだったのだが、なぜか市松模様になっている。正規で入手した召喚獣ではないからだろう。
大太刀を2本と脇差を2本持っているため、脇差はタクミと俺が使用する。
両手の大太刀を振り回しながら暴れる絶鬼。これまで模倣したどの召喚獣よりも、魔力消費が少ない。俺の本来の召喚獣であるからか、体に馴染むのだ。
ゲーム上の絶鬼は、Aクラス召喚獣であるにもかかわらず、低レベルのために撃破が容易な召喚獣。だが、研鑽を積みレベルが上がった状態での強さはAクラスの名に恥じない立派なものだ。高揚感を覚えつつ戦闘を継続する中、劇場に注水を開始するアナウンスが聞こえてきた。
制御室の確保に向かったチームはどうした?
強引に敵を殲滅する手段もいくつかあるが、発動条件的に厳しいことに加え、なるべく秘密にしておきたいのでこんな一目が多い場所では使いたくない。
「まずい状況だ」
「まぁ待て。このままなら、いずれ敵の大将を撃破できる」
しびれを切らせて話しかけてきたタクミに待機するよう告げる。
水中で始まったヨルドとミオスの戦いを見ながら俺は次の手を考えていた。ミオスが優勢に戦っている。周囲で見守る敵の士気は低く、逆に味方である劇団員らの士気は高い。ヨルドを戦闘不能にさえできれば、敵も諦めるはず。
そうこうするうちに、劇場内の水が減り始めた。別働隊がやってくれたらしい。
さらに援軍としてミヨとナギサが登場。あとは消化試合だと思っていたら、ヨルドが思いもよらない一手を打った。
懐から取り出したなにかを飲み干したヨルドから立ち上る黒いオーラ。あの表現、見覚えがある。ステータス異常の一つ。暴走状態だ。
攻撃力・防御力の大幅上昇と引き換えにHPが徐々に減少する状態。希少な薬で、ゲーム中では数本しか手に入らないものだ。このシナリオにおける本来の中ボス・ヨルドが使用するはずの薬。
強化された力でヨルドはミオスに勝利した。
ヨルドはこのまま放置しておけば勝手に戦闘不能になってくれそうだが、薬の効果が切れまでまだ時間があるらしく、鮫はこちらに向かってきた。仕方なしに迎撃するが、暴走薬で防御力が跳ね上がっている。全員の集中攻撃にも致命傷を与えるには至っていない。
現状味方には暴走薬によって上昇した防御を抜くだけの火力がない。
ここで、一枚カードを切ることにした。
「タクミ、アイギス。協力召喚だ。俺達が援護する。頼む」
二人は俺の言葉に素直に従い、ゆっくりと歩み寄る。
「「来い!(来て!)」」
二人の召喚獣が消え、再び召喚される。
タクミの召喚獣・首無騎士王ではない。アイギスの召喚獣・守護巫女の盾でもない。顕現したのは、A+クラス召喚獣・騎士王。Aの後の+は特殊クラスを示す。今回は協力召喚によるニコイチ召喚だ。
防御を無視してダメージを与える貫通技・浄化の一撃により刃鮫を撃破した。
ついでに劇場の出入口を破壊したため、そこから味方が突入してくる。浄化の一撃はゲーム内では一ステージでの使用回数に制限がある、いわゆる奥義である。二人への宿題だったのだが、成功してよかった。
気を失ったヨルドは運び出され、俺は残ったミオスの元へと向かった。
座り込むミオスを看病している女性は、歌姫のジェシカ。戦闘行為の最中に仮面を失い、今は素顔をさらしている。
もう一人の歌担当、リーナは端っこで目立たないようにしていた。アレが歌姫だとは、普通なら気づかないだろう。
「助かりました。ありがとうございます」
「いえ、お互い無事で何よりです」
ミオスと話すのはこれが初めてだが、ワイルド系イケオジだった。
その後、場所を移してミオスや街の重役と会合。
ヨルドは数時間で目を覚まし、憑き物が落ちたように大人しくなった。殊勝な様子で罰を受けることを受け入れたとのこと。自警団はヨルド一味を排除し、今後はまっとうに運用されるだろう。
劇団ローレライは劇場が復旧するまで数か月ほど休演となった。メインとなるハコが破壊されてしまったが、大々的なニュースとなったことにより、復旧には十二分な費用が寄付で集まったらしい。これまでよりも立派な施設が出来上がる予定だ。
劇団にとっての大ニュースはもう一つある。歌姫の交代である。先代歌姫は引退し、新しい歌姫として2名が発表された。
芝居の歌姫と歌の歌姫。新生ローレライの顔としてジェシカとリーナがそれぞれ就任した。某教育テレビの歌のお姉さんとダンスのお姉さんみたいな役割分担だ。新歌姫のうち、芝居の歌姫の方はこれまでの歌姫のように仮面をつけていないことも話題となった。
俺達はリーナに協力を依頼し、翌日には水の封印での儀式を終えた。儀式そのものに問題はなし。水の封印は海岸洞窟の中。儀式の間へと向かう通路の仕掛けを解除するためには、水中移動が必須。人魚族の仲間もしくは水中を移動する手段が必要なのだが、リッツの潮玉のおかげで難なく突破できた。
問題点としては、リーナが歌姫に就任したことによりこの街・リューグから離れられなくなってしまった。これはゲームでも同様なので、予定調和ではある。リーナの代理としてリッツが俺達についてくることになるのだ。
同学年のイブリスとは早速仲良くなったようだ。
気になるのは、アイギスの姉妹であるケラウノスとアダマスがこの劇場に現れたこと。
あの姉妹が何を狙っているのか、探る必要がある。
いずれにせよ、これで3つの封印で儀式を終えることができた。残るは一つ。地の封印だ。




