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第63話 シナリオ8 追憶の旅・水 歌姫の憂鬱⑩

リッツが召喚したのは拳大の玉。道具型召喚獣だった。

能力についての説明を受けた後、リュミスさんから作戦が伝えられた。


「飛び込みましたら、舞台上の水をリッツさんとナギサさんで排除してくださいまし。陸上で戦う限り、敵に遅れをとることはありませんわ」


全員が頷いたのを見てリッツが眼下に飛び込んだ。


ドボン、という大きな音と水しぶきで注目が集まる。

水中の敵が集まってくる前に、リッツが召喚獣の能力を開放した。


Cクラス召喚獣・潮玉うしおだま。液体を操作できる召喚獣。

水を生み出したり、水で刃を作ったり、水球を礫として飛ばすようなことはできない。できるのは、自分の周囲に最初から存在する液体を自分の体に引き寄せたり、逆に自分の体から遠ざけたりすること。


戦闘ではなく、炊事洗濯等の水仕事が得意な召喚獣の能力によって、舞台上を覆っていた水が押しのけられる。その様子はまるで潮の満ち引きにより砂浜が現れるようだった。


水がなくなった舞台上に敵がのぼってくる。

その敵に向かって、上空から無数の矢が降り注いだ。ホクトの召喚獣・深森の狩人による範囲射撃術だ。


「今のうちに!」


ホクトにしがみついたナギサとミヨが舞台上に立つ。こういう時に飛べる仲間がいるのは便利だと実感する。

あの3人に任せておけばまずは大丈夫。前衛・後衛・補助と役割分担された隙のないトリオだ。実際、舞台に上がってくる敵はことごとく戦闘不能になっている。



一方の建屋外では、出入口を封鎖していた集団が、中に入ろうとする集団に取り押さえられているのが視える。近衛騎士の皆さん以外にも、建屋内に侵入しようとする人が多くいたようだ。


外から人がなだれ込んでくるのを知ったのか、劇場内の不審な人影がこの部屋に近づいてくる。俺とヒジリさん、リュミスさんとポックルさんは外からの応援が来るまでこの場所を死守。主にヒジリさんの召喚獣の力で安全を確保する。



劇場内ではタコとサメが死闘を繰り広げていた。

全身のヒレが刃になっているサメがタコの足を何度も切り落とすが、切り落とされたそばからタコの足が生えてきている。サメは善戦したものの、徐々にタコに追い詰められ、とうとうその腕に捕らえられた。何本もの蛸足によって締め上げられたサメは、血を吐き消失した。


「ぐ……!」


巨大なエイの上でヨルドが胸を押さえてふらつくのを、隣にたつ側近と思われる女性が支えた。あのエイはあの女の召喚獣だろう。


「諦めろ。すぐに警備が駆けつける。……お前に勝ち目はないぞ?」

「まだだ……!」


団長の降伏勧告を否定し、再び刃鮫が現れる。


「ヨルド様。引くべきです。ここは潔く負けを認めるべきです」

「お前も……俺を見限るのか?」


ヨルドが自分を支える女から離れる。


「もういい。後のことなど知ったことか」

「ヨルド様!?いけません!」


ヨルドは懐から小さなビンを取り出した。女が止めるのを無視し、中身を一気にあおる。


「ぐおぉぉぉぉ!!」


胸を押さえてしゃがみ込むヨルドに近づこうとした女は、ヨルドの体から放出された黒いオーラに吹き飛ばされた。


刃鮫も同様に黒いオーラに覆われる。一回り大きくなり、体の至る所から新たな刃が生えてきた、黒いオーラを纏う捻じれた刃が見た目の禍々しさを増幅している。


高速で移動を始めた鮫が再びタコとぶつかる。

一度の接触で8本の足のうちの4本を切断し、2度目の接触で残りの4本を、3度目の接触では再生途中のタコ足と無傷だった胴体部分がバラバラに切り裂かれた。


今度はタコの上にいた団長が水中に投げ出された。


「ミオス団長!」


リッツが叫ぶ。もし鮫が水中に落下した団長に突撃すれば団長はひとたまりもない。


が、鮫は団長を襲うのではなく、周囲の召喚獣を無差別に襲い始めた。その多くはヨルドの味方の召喚獣だ。強化薬の副作用だろうか?どう見ても正気じゃない。水中の敵は刃鮫に追い立てられるような形で水上に出ざるを得ず、そこで待ち構えるアラタたちにやられていた。


あっという間に、劇場内の水中を漂うのは刃鮫とヨルドの足元のエイのみとなった。自分の足場を攻撃しない程度の理性は残っているらしい。



水中に敵がいなくなったと判断したのか、ヨルドが顔の向きを変えた。

その視線の先には、自分の召喚獣を倒されたことによるダメージによりしゃがみ込む団長と、それに寄り添う歌姫。


「…………!!!!!」


ヨルドの黒いオーラが増すと、刃鮫は二人に向けで一直線に泳ぎ出した。


水上にいる二人に目標を定めて水中から飛び出し、その勢いのままに突撃する刃鮫。まともに当たれば致命傷は免れない一撃を防いだのは、巨大な盾。

アイギスさんの召喚獣・守護巫女の盾。淡く発光する荘厳な盾が、黒いオーラをまとう刃鮫の突撃を正面から受け止めた。


「ぐぅぅ……」


アイギスさんも苦しそうな声を上げるが、盾は攻撃を防ぎ切った。


攻撃を正面から止められた結果、陸上に取り残される形になった刃鮫に対し、アラタの召喚獣と思われる赤般若?が曲刀で切りかかる。急所と思われる目やヒレに攻撃すると、刃鮫は苦しそうに暴れるが、黒いオーラがすぐに傷を癒している。


刃鮫は水上を徐々に移動している。水中に逃げ込もうとしているのを赤般若ほか仲間たちが全員で妨害している状態だ。


「タクミ、アイギス。協力召喚だ。俺達が援護する。頼む」


アラタの言葉に従いタクミとアイギスさんがお互いに歩み寄る。

二人の召喚獣はいつの間にか消え、タクミとアイギスさんが互いの手を握る。握手ではない。指と指を絡める、いわゆる恋人繋ぎ。


「「来い!(来て!)」」


二人の呼びかけに応じて召喚されたのは、タクミの召喚獣・首無騎士王。いや、違う。見慣れた簡素なフルプレートの金属鎧ではなく、微妙に装飾が施された鎧。何より、顔の部分にも鉄仮面が存在している。右手には剣。左手には盾。盾はアイギスさんの召喚獣にそっくりだ。

全身に淡い光のオーラを纏う騎士王は、赤般若が譲った場所から剣を刃鮫に振り下ろす。刃鮫の全身から伸びる刃や厚い黒いオーラをものともせず、光る剣は刃鮫を両断した。黒いオーラを塗りつぶした光の刃は勢いそのままに進み、劇場入口の扉を吹き飛ばした。


「あぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


絶叫の後にヨルドがエイの上で倒れた。


「ヨルド様!!」


エイの召喚主の女が慌てた様子でエイを移動させてヨルドを水上に引き上げ、介抱を始めた。


「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


黒いオーラに包まれたままもがくヨルド。

そこに、歌声が響いた。


「♪~~♪~~」


歌声の源は召喚獣・セイレーン。男に安らぎを与えるといわれている歌声によって、黒いオーラが収まっていく。ほどなくして、ヨルドを包むオーラは消え、本人ヨルドは気を失ったようだった。


その後、敵は戦意を喪失したようで、破壊された扉から劇場内に突入してきた近衛騎士の皆さんと今回の決起行動に参加しなかった自警団員らにおとなしく捕縛された。近衛騎士が残党を処理しているうちに、ヨルドは医者と共に外へと運び出されていった。


自警団も一枚岩ではく、ヨルドに冷遇されていた真面目なメンバーは今回の決起行動の話をそもそも知らなかったらしい。


こうして、上映中の劇場にテロリストが突入してくるという事件は幕を下ろした。

何が何やらわからないうちに始まり、終わった事件だが、完全武装したテロリストに襲われながら死者・大怪我人を出さずに終わったのは僥倖だった。


なお、劇場内外の入念な探索にもかかわらず、白髪の女はついぞ見つからなかった。


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