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第57話 シナリオ8 追憶の旅・水 歌姫の憂鬱④

港に着岸した大型連絡船から馬車で下船。アリエ島の玄関口。リューグの町に到着だ。

俺はいつも通り、浮遊眼で周囲を警戒しつつ御者台で馬車を操る。


ナギサとミヨが俺の隣に座って体を寄せている。ここまで距離が近いのも珍しい。先ほど、帝王イカとの闘いで濡れた服で抱き着いてくるのを阻止したことに対する意趣返しか?恥ずかしいので無表情を貫く。


すると、ミヨは何とか俺の反応を引き出そうと、さらに俺に体を密着させてくる。そこにナギサが悪乗りし、両側から俺に引っ付くという、はたから見たら意味が分からないであろう意地の張り合いが続いていた。



港から目的地である本日の宿までの距離は普通に歩いて30分程度。

いつもは馬車に乗って移動する面々も、思い思いに歩きながらアリエ島の雰囲気を満喫している。港から宿が集まるエリアまでの間は観光エリアにもなっているのだ。


ホクトはシェリーさん、ポックルさんと一緒に道の両脇に並ぶ露店のお土産屋さんを物色しながら歩いている。船のなかでポックルさんをホクトに紹介したら、さっそく一緒に行動している。交友範囲が広がるのはいいことだ。

民芸品を扱う露店を見回してポックルさんが手に持ったお面を二人に勧めたのに対し、二人は苦笑しながら首を横に振っているのが見えた。あんなお面、誰も欲しくはないだろう。ポックルさんの熱いお面押し。感性がわからない。


視線を馬車の近くに移すと、アラタがアイギスさんのほかにタクミ、アザミ、シオンの3人と固まって話しながら歩いているのが見える。

最近、アラタがタクミと一緒にいる場面を見ることが多い。それも以前よりも穏やかに会話している。取り巻き二人を完全に懐柔されたタクミはおいそれと喧嘩を売るようなことができないのだ。今も話の内容に耳をすますと、アザミとシオンはアラタ側に立っていることがわかる。将を射んと欲すれば先ず馬を射よ、ということだな。



改めて町の様子を観察する。

港に停泊する船の数は故郷の町・カムスビよりも多い。漁船の数だけであればカムスビと同程度であるが、帝都との定期船や釣り船などの漁業とは用途が違う船の数が全然違う。


都会度の差が港の風景にも影響しているのだろうか。漁師もどことなく上品な感じに見える。


漁船一隻一隻の船はカムスビの方が大きいが、これは外洋用の船と内海用の船の違いだろう。遠くに荷揚げしている船が見える。とれる魚の種類は異なるようだが、漁業も盛んなようだ。


この街の特徴は、半分海上に、半分が海中にあること。

文字通り、海の中にも町が広がっている。


そこで暮らすのは人魚族と呼ばれるアリエ島に古くから住む亜人の一種。

海中の町での生活は水中呼吸ができる人魚族でないと難しい。


一方陸上の街は、というと、陸上で人魚族をみることはまずない。

人魚族は肺呼吸も可能なため陸上に上がること自体はできるものの、下半身が魚状になっている人魚族にとって地上の暮らしは楽ではないのだ。


ではどうしてそんな海上の街と陸上の街が接しているのか。それは人魚族の容姿に原因がある。他の亜人種族と同様に、友好的で意思疎通ができる人魚族との間に愛をはぐくむ人間は少なくない。


種族の壁に負けずに一緒になろうとする恋人・夫婦。そんな人々が集まってできたのがこの街の起こりだと言われている。

ちなみに、人魚族と人間の夫婦の間に生まれた子は人間の足を持ち水中呼吸ができるので、両方の街を生活の場にできる。


さて、この街の特徴はなんといっても劇団ローレライ。

ローレライについてのポスターが至る所に掲示されている。出張講演を一切行わない劇団なので、来たからには見に行かねば。


そんなことを考えていると、怪しい少年が接近してくるのがわかった。

こちらに危害を加えるような雰囲気ではなかったので警戒しつつも放置していると、アラタに近づき何やら会話してから離れていった。


さりげなく周囲に展開していた騎士団の一人(ヒジリさんの部下・私服)が少年のあとをつけていった。



宿での夕食後、打合せ通りに俺、アラタ、ヒジリさん、イブリスの4人は玄関に集合。

そこで、少年を尾行した騎士団メンバーから事前調査結果を聞く。少年が戻った店はカタギの飲食店で、犯罪の匂いはなさそうだとのこと。


アラタの案内でくだんの店に向かう。手にはチラシ。地図とクーポン付きでお得なアイテムだ。昼間に少年から渡されたものらしい。



お店の場所は繁華街のメインストリートから一本入った場所。

大きな看板と店構え。扉の前には黒服のお兄さんたちがガードマン宜しく待機していた。これがカタギの店ですか……


店員さんに話しかけて中へ。イブリスを見ても店の人は何も言わなかった。年齢制限はない。


扉を潜ると地下への階段。雑居ビルにありがちな狭い階段ではない。

公共施設にあるような、並んで4,5人が昇降できるような広い階段だ。


一階分を降りると小さなホールのような場所があり、さらに扉。

扉の脇にはやはり黒服のお兄さんたち。


チラシを見せると扉を開けてくれた。


扉の奥はそこそこの大きさのホールになっていた。

ホールの前3分の1は一段高いステージになっていて、残りの3分の2に丸テーブルが高密度で並べられていた。ショーホールってやつだ。テーブル間の距離が狭い上、思ったよりも客は多く、大声を出さないと会話できない程度にはざわついていた。


席に着くと飲み物を注文。

ショーが始まるのを待つ間、イブリスが持参したカードの封を切る。

見事な手つきで手品を始め、近くのテーブルに座っていた他の客の注目を集め始めた。立ち上がり、隣のテーブルに移動して手品を継続する。


飲み物がやってくるまでの間、俺は周囲を観察し、ヒジリさんにこの店の怪しい点を伝える。

透視能力を使っても、この店の不審なところはなかった。黒服の人たちが護身具を持っていることや、店の奥に金塊が保管されていたりするのはセーフ。


しばらくするとテーブルをかき分けて少年が飲み物を運んできた。先ほど宿に向かう途中で話しかけてきた少年だ。


飲み物を受け取ったアラタと一言二言会話をしたのち、アラタはこちらに合図をした。

直後、アラタとその少年の姿が希薄になる。クリアリザードの能力だ。


アラタの召喚獣・亜神塊が混合キメラの核を取り込んだことにより、新たに複数の召喚獣の能力を行使できるようになった。まだ練度が低く姿を消すことはできないが、気配を小さくすることはできるので、こんなにも人が多いところでも秘密の会話ができる。


念のためアラタの話が終わるまでイブリスが周囲の注目を集めている。今のところ怪しい人物はいない。ヒジリさんが小声で話しかけてきた。


アラタは、話をしているのか?」

「ええ」

「私にはそうは見えないのだが」

「……認識阻害能力でしょうね。自分には姿も声もきちんと聞こえています」

「そうか。便利な能力だ」


二人でソフトドリングをちびちびやっていると、少年が離れていった。


「話は終わったか?」

「こっちが伝えたいことは伝えた。あとは向こうの出方次第。……ショーが始まるみたいだな。慌てずに待とう」


ステージ脇からキャストが出てきた。

バニーのお姉さんとピチピチタイツのお兄さんだ。


イブリスは手品をやめ、集まっていた周りの人たちが三々五々散っていく。

客が席についたところでホールの照明が一段落とされ、ショーが始まった。



ショーは俺みたいな素人にもわかるくらい低クオリティだった。

バニーのお姉さんが10人近くで踊っているが、多くは素人芸の域を超えていない。最初に出てきたお姉さんだけが別格でレベルが高いな~という程度。ただ、全員が目から下をマスクのようなもので覆っており、目だけしか見えないその容貌・スタイルは非常にレベルが高い。


タイツのお兄さんも同じ。皆見事な肉体美を誇るものの、ダンスのレベルは高くなかった。


10分後、踊っていた人たちがステージ脇に引っ込むと、ステージの下から大きな水槽がせり上がってきた。


中には一人の女性。長時間水中で漂って苦しい様子も見せないということは、人魚族。足が二本あるところをみると人魚族と人のハーフだろう。足首の部分にヒレのようなものが小さく生えているのが特徴だ。水槽の中を漂う女性は後者の特徴と一致していた。


フリルが大量に使われている水着と口の部分だけが見える仮面のようなものを身に着けているその女性は水中から顔を出すと一拍おいてから歌いだした。


「へぇ……」

「ほぅ……」


周囲から感嘆の声が聞こえる。この歌は先ほどまでの踊りとは対照的にクオリティが高い。


「彼女が、協力者だ」


アラタは俺たちにだけ聞こえるように告げた。

歌唱が始まってほどなく、先ほどまでステージの上で踊っていたダンサーがホールの中に現れた。各テーブルを回り、客がおひねりを渡している。


「ありがとうございました~」


俺たちのテーブルにも胸元を大きく開けたバニーのお姉さんがやってきた。

胸の谷間や太もものストッキングには何枚もお札が挟まっていた。

俺も思わず財布からお札を取り出して渡す。受け取ったお姉さんは目の前で自分のストッキングの間にそのお金を挟んでみせた。これはよいものだ。


隣のテーブルでは、中年女性がお兄さんたちのブーメランパンツに何枚もお札をねじ込んでいた。お兄さんたちはお触りOKらしい。


全テーブルを回ったダンサーたちがはけると、歌の曲調が変わった。

次のショーは1時間後というアナウンスが入り、客が思い思いに飲食を始め、タイミングよく先ほどの少年が戻ってきた。


「ごめんなさい。今日はちょっと難しいです。明日、お店が開く前なら大丈夫です」

「そうか。なら今日は出直すよ。……清算お願い」

「承知しました」


少年とアラタとの会話はすぐに終わり、俺たちは会計を済ませて店を出た。

店を出るまでの間、水槽の中の女の子はずっと歌を歌っていた。


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