第53話 シナリオ7 王都の地下 ミカミ アラタ視点
コールワールド シナリオ7 王都の地下
風と火の封印の儀式を終えたことにより、アイギスは徐々に過去の記憶を思い出してきた。
次の水の封印は海から侵入する洞窟にあることを思い出した。
おぼろげな記憶の光景を説明したところ、シェリーによって、それが王都の北にある島にあることが告げられる。
次の目的地が決まった。
だが、そこで主人公一行は困難に突き当たった。
移動手段がない。
王都まで行き、北の島行きの定期便に乗ろうとしたところ止められてしまった。
第二王女が手を回し、嫌がらせをしているのだ。
定期便に乗れないということで、何とか船を手に入れる手段を考えることにした主人公一行。出身の町は港町ではあるが、まだまだ主人公たちに対する風当たりは強く、船を出してくれそうな人はいない。
そんな中、一人の少女と出会う。
屋台で商売を行っていた少女は王国中を回って商売をしているという。
北の島にも向かうということで、その少女が所有する船に載せてもらえることになった。
意気揚々と少女が案内したのは海に浮かんでいるのが信じられないレベルのボロ船。
このままでは島にたどり着けるかどうかも怪しい。
主人公たちは手分けしてその船を改修することにした。
改修にも費用が必要。頭を悩ませる中で王女から情報がもたらされた。王都で発生している誘拐事件を解決すれば報奨金を得ることができる。事件を追う中で、謎の集団に襲われる。依頼は第2王女による罠だったのだ。
絶体絶命の危機に陥った一行であったが、少女の助力により危機を脱した。
偶然ではあるが、脱出途中で修理部品を手に入れることができた。また、助けた子供は富豪の息子。船の改修資金を融通してもらえることになった。
何とか船を完成させた一行は王都を出航し、北の島へ向かうのだった。
上記が、俺 ミカミ アラタが認識するゲーム・コールワールドのシナリオ7のあらすじ……だったと思う。この辺りは中だるみするシナリオ。元の世界の俺の記憶も怪しい。
はっきりと言えるのは、後のシナリオで仲間になる商人・ポックルのチラ見せ回だということ。そして、第二王女が闇組織と繋がりがあることが明らかになる、黒幕の存在を匂わせるシナリオだということだ。
ゲーム同様にこの世界においてもサクナ様は黒幕関係者なのか?ということだが、正直言ってよく分からない。
数年来の付き合いとはいえ、向こうは頭のキレる王族。王国の闇と繋がっている可能性は十分だし、表で使える権力もある。
馬鹿正直に本人に確認してクロだったら目も当てられない。いくら俺がSクラス召喚獣持ちだとしても容赦なく潰されてしまうだろう。
まずは町の自警団のコネで王都の地下組織を調査してもらいつつ、長年かけた仕込みを活用する。別ルートからの確認。具体的には、サクナ様のメイド・シズカ経由での確認だ。
思考の底が見えないサクナ様に対し、シズカはゲーム上では脳筋のイメージが強い。多少頭が回るとはいえ、難しくなったら力で解決するという方向のキャラ付けがされていた。
かつ、シズカはサクナ様の最側近のひとり。サクナ様とはプライベートでも親しいので、シズガの持つ情報の確度は高いとみていいだろう。
では、シズカをどう篭絡するか。俺には勝算があった。そう、トオルである。
ゲーム内のシズカは先天性の弱視のため、周囲の期待とは裏腹に剣の腕が頭打ちになっていた。その状況はこの世界も同じだった。であれば視力を強化するトオルの召喚獣の能力はのどから手が出るほど欲しいはず。トオルをエサにシズカを釣る。
はずだったのだが、予定が狂った……。
ここは王都のホテル。夕食後、明日に備えて休もうとしていたところ、部屋を訪問してきたシズカに先導されて貴賓用の特別室に入室した。
室内にはサクナ様。
「夜分申し訳ありません」
「いえ。大丈夫です」
サクナ様は俺が部屋に入ると、シズカ以外の側近達を下がらせた。
絨毯が敷き詰められた部屋には俺、サクナ様、シズカの3名のみ。
そこで語られたことは、まさに俺が知りたかったことだった。
曰く、イサナ王女が王都の地下組織と繋がりがあるらしい。侍女のカルマが窓口となり悪事に手を染めようとしている。
「身内の恥を晒して申し訳ありませんが、アラタさんに止めていただきたいのです。地下組織のアジトは調べがついています。シズカを先行させて人質を救出させますので、騎士団と共に乗り込んでいただければ、と」
「構いませんが、随分と急ですね」
「本来は騎士団だけで済ませる計画だったのです。ただ、明日は天候不順により大型連絡船は出航見合わせになります。どうせならばアラタさんの箔付けに利用してはいかがかと。この件、私は表立って動くことを避けたいのです。表向きアラタさんが解決したことにすれば今後の活動もより容易になると思いますよ」
「なるほど。悪くないですね」
今回の件、目立つことによるデメリットよりも、騎士団との共闘実績を積むことを優先することにした。
計画を詰める段階で出てきた名前にまた驚いた。
ポックルとリュミス。ポックルの方はゲームのシナリオ7で知り合う人物。そちらはいいのだが、もう一人の方が予想外だった。いや、これまでの傾向を見ればそうでもないのか。
リュミスは後のシナリオで敵となる人物。ポックルの因縁の相手である。
その二人が共に協力するだと?
とりあえず、先行チームにはシズカの能力強化のため、トオルが組み込まれることになった。
ポックルの召喚獣の能力を活用して偵察だけを行うのかと思ったら、シズガが人質救出まで行うらしい。過剰戦力な気もするが、まぁいいだろう。それに、リュミスが仲間になるのであれば、彼女の相手はトオルに押し付けるつもりだった。顔合わせとしてもちょうどいい。
3人で明日の綿密なスケジュールを立て、この日は終了。
翌日、トオルたちが先行し、リュミスとポックルが誘拐されていた人達を連れて出てきたところで騎士団と共に突入する。
多少の抵抗はあったものの、正規の騎士団の前に地下組織構成員達は次々と無力化されていった。
今回連れてきたタクミが随分とやる気だ。召喚獣・首無騎士王の練度も上がっているのが分かる。この調子なら、限界突破イベントを発生させる日も近いな。俺も負けるわけにはいかない。
施設の奥でトオルと合流。
犯罪者扱いされたトオルはかなりのご立腹で、ホテルに戻る間、ぶつぶつ文句を言われた。
そこをフォローしつつ突入時の話を聞く中で、俺はまたまた驚いた。
先ほどトオルが持っていたのが、混合スライムの核だと?超レアアイテムじゃないか。
混合スライムはゲーム中で首領個体と呼ばれる、特別なはぐれ召喚獣の1体だ。
王国各地のダンジョンの奥深くに生息する首領個体は、攻略難易度がひときわ高く設定されている。
王都に生息する首領個体である混合スライムは王都地下深部エリアに存在し、ドロップアイテムは‘混合スライムの核’。このアイテムを使用すると、亜神塊は混合スライムが取り込んだ召喚獣をコピーできるようになる。お手軽強化アイテムだ。
混合スライムは誘拐イベントで出てくる敵ではない。というか、今の段階で倒せる相手ではない。地下組織が使役できるような召喚獣ではないはずだが……シズカとトオルが組めば、攻略できてしまったのか……。まぁ、シズカは元々終盤の中ボス。首領個体と同格の存在なので、トオルの能力でドーピングした結果の勝利であれば不思議ではない。
アイテムを融通してもらえるよう、サクナ様に連絡しなければ。
宿に戻ると、特別室に来るようにという連絡を受けた。
部屋に入ると、サクナ様が座ってる。連日やって来るとは、王族は実はヒマなのか?
今日活躍したはずのシズカの姿は部屋の中になかった。
「所用で席を外しております」
とのことだった。意味ありげな笑みの前でピンときた。
トオル、まさかハニートラップにかかったか?俺でもフォローできないことはあるぞ?
サクナ様の前にはスライム核。これはもしや……
「今回の報酬です。混合スライムの核。アラタさんには必要な物でしょう?」
「感謝します」
俺が欲しいものを把握している。
にこりと笑うサクナ様に対し、俺は全てを見透かされているような、漠然とした不安を感じた。




