第6話 召喚の事情②
「まってくれ、それは‘天空眼’ではないのか?」
アラタは俺の肩の上に浮かぶ小さな召喚獣を指差した。
「判定する人には‘浮遊眼’と言われた。‘天空眼’という単語は初めて聞いたぞ」
「……簡易形態を解除してもらえるか?」
「ああ」
俺の意思に呼応し、肩の上の召喚獣が大きくなる。
とはいえ室内では元の大きさまで大きくはできない。
直系1メートル程度で留める。
「確かに違う……天空眼ではない……どうして?なにかフラグを間違った?なぜだ?」
アラタは小さな声でつぶやいている。
「トオル、触媒にはあの石を使ったよな?」
「ああ」
「……隕鉄で召喚されるのは天空眼だ。浮遊眼が出てくるはずがない」
「けど、俺の召喚獣は浮遊眼だぜ。Fクラスだ」
「………………」
アラタの顔に汗が浮かんでいる。
しばらく誰も何も話さなかったが、次に口を開いたのはやはりアラタだった。
「すまん。そこは予知夢が外れた。Fクラスなんて召喚させてしまった」
「……気にするな。触媒を使うと決めたのは俺だ」
「すまん……。こんな流れで言うのはすまないが、トオルにも助けてほしい」
「いいぞ。俺でできることなら」
「ありがとう。……二人はどうだ?」
俺がアラタの申し出を受け入れると、ナギサとミヨは頷いた。
「私も協力するよ」
「私も!」
「みんな……ありがとう」
イケメンボイスで返してくるアラタ。S召喚獣持ちは伊達ではない。ミヨなんてぼーっとしてるじゃねえか。
「私たちは何をすればいいの?」
「この一週間で、召喚獣の練度を上げてほしい」
「練度?」
「召喚獣を上手に使えるようになるんだ。3人にはそれぞれ通常形態で訓練してほしいことがある。まずナギサだが……」
その後、アラタはナギサとミヨがどういう訓練をするかを説明した。
「トオルの訓練方法は、今から考える。もう日が沈みそうだ。ナギサとミヨはもう家に帰ってくれ。俺とトオルはもう少し話したい。トオル、いいか?」
「いいぞ。アラタと一緒なら、母さんも許してくれるだろうし」
「えー?二人だけで秘密の会話?ずるくない?」
「ナギサちゃん。トオルくんの召喚獣だよ」
「むー……後でちゃんと教えなさいよ」
ナギサはミヨに引っ張られながら出て行く、と思ったところで振り向いた。
「忘れるところだった。アラタ、あんたの召喚獣見せてよ。私たち、まだ見てない」
「確かにそうだった。……じゃあ、呼ぶぞ」
アラタの目の前に、半透明の物体が現れた。
スライムのような、人魂のような。
「亜神塊。何にでもなれる可能性の塊だ」
「???」
「別の召喚獣に変化できる、それが俺の召喚獣の特性だ」
「……それってズルくない?」
「確かにズルいな。だがそういう特性なんだから仕方ない」
時と場合に応じて別の召喚獣を使えるってことだろ?なんでもアリじゃねえか。
「といっても練度を上げないと高レア召喚獣には変化できない。俺も修行が必要だ」
簡易形態は小さな人魂のようだ。
「はぁ。まあいいわ。Sクラス召喚獣も見れたし、今日は帰る」
「ああ、またな」
「バイバイ」
ナギサとミヨは帰って行った。残ったのはアラタと俺。
「トオル、その召喚獣を見せてくれるか?」
「それはいいが、通常形態に戻した方がいいか?」
「ん?これが通常形態ではないのか?」
「これも簡易形態だ。外に出よう」
一度浮遊眼を小さくしてから外に出る。
空は夕焼けで赤く染まっていた。
「とりあえず、通常形態だ」
召喚獣の大きさを戻す。
「デカいな。浮遊眼ってこんなにデカいのか……?」
「判定人には浮遊眼だと言われた。こんなにデカいのは聞いたことがないらしい……天空眼っていうのとは違うのか?」
「天空眼はこんな生物的な見た目じゃない。機械的な見た目で、大きさもここまで大きくはない。残念だが、違うな」
実はコイツがBランク召喚獣だった、という逆転展開はなかった。残念すぎる。
「‘天空眼’を得た場合は、トオルには遠距離探知の練習をしてもらうつもりだった。地形に関係なく遠くの状況を確認できる。それが‘天空眼’の能力だから。……‘浮遊眼’はどういう能力があるんだ?」
「‘浮遊眼’は視力がめちゃくちゃ良くなるぜ。そうだな……あの船に乗っている人の表情までわかる」
「アレの上の?」
「ああ。俺が見ていなくても、召喚獣が見たものを俺が認識できる」
水平線の彼方に浮かぶ黒い点を示す。
アラタはしばらく考えているようだった。
「嬉しい誤算だ。トオル、その‘浮遊眼’は‘天空眼’の能力とある程度互換性がある。やってもらうことを決めたぞ。まずは召喚獣を自分から離れたところまで移動させる、遠隔操作できるようになるんだ」
「多少の移動ならできるぞ」
召喚獣を動かして見せる。
「トオル、自分からどのくらいまで離れて行動させることができるか確認してくれ」
「ん……」
試してみる。
自分から離れるほどに消費魔力が激しくなるのを感じる。
通常形態だと、5メートル離れるのが限界か。
簡易形態にすると倍の10メートルくらいまで移動できた。
「よし、目標は30メートルだ」
「3倍?マジで言ってる?」
「マジだ。30メートル上空まで飛ばすことができれば、周囲の障害物を無視して遠距離を確認できるだろ?その視界を生かすために必須だと思う」
「確かに、そんなことができたら便利だと思うけど……」
アラタはさらに続ける。
「それができたら、次に暗視能力の獲得。加えて天候無効の能力獲得だ」
「暗視と天候無効……」
「夜や霧のときでもその抜群の視力を使えるようになること、それができれば、一週間後の事件解決は余裕だ。いや、遠隔操作だけでも十分かも」
「簡単に言ってくれるな……」
「大丈夫。俺がこれから言うことを実践してくれ」
具体的な練度を上げる方法を聞いた後で、アラタは言った。
「最後に、俺の召喚獣で真似できるか、確認させてくれ」
「いいぞ」
アラタの肩の上にある亜神塊が1メートルほどに大きくなった。
だが、それ以上の変化はない。
「???」
「まだ変化出来ないみたいだ」
「Fクラス召喚獣にも変化出来ないSクラス召喚獣って、大丈夫か?」
「召喚初日だし。大器晩成型だし」
言い訳をするアラタは、これまでのような大人びた雰囲気はなく、俺のよく知っている同い年の友人だった。
日はもう沈みかけており、もうすぐこの辺りも暗くなる。
アラタと俺は並んで町への道を歩き始めた。
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