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第48話 シナリオ7 王都の地下②

俺たちは今、王都の船着き場、乗船受付所にいる。


火の封印での儀式から一月が経過した。

次の目的地、水の封印は王都の北に浮かぶ島にある。


王都の北、6時間ほど船で移動する距離に巨大な島・アリエ島がある。

アリエ島の周囲には大小多くの諸島が点在しているが、アリエ島が一番大きく栄えている。王都との間で最も多くの定期連絡船が運航されているのだ。


いつものメンバーで連絡船乗り場にやってきたのだが……


「申し訳ありません。嵐接近のため、本日の出航は取りやめとなりました」

「嵐?」


俺たちから少し離れた場所で、アラタと連絡船受付のお姉さんの会話が聞こえてくる。

今の天候は曇り。確かに、雨が降るといわれるとそんな気もするな、程度の天気ではある。


「観測所からの連絡で、この後急速に天候の悪化が見込まれています。数年前から海上運航に関する天候順守規準が厳しくなったので……すいません」

「そうですか。明日の出航は大丈夫でしょうか?」

「天候次第です。収まれば出航しますが、確約はできません」

「わかりました。では明日の便の予約をお願いします」



戻ってきたアラタは待っていた俺たちに告げた。


「大型連絡船は今日は出ない。また明日出直そう」


アリエ島に向かう連絡船は複数ある。

ただ、俺たちは自前の馬車や馬がある。これらを載せて移動できる大型連絡船はこの桟橋から出るもののみだ。


アラタの言葉にかみついたのはタクミ。


「出直すといっても、今日の宿は準備していないぞ?予定が狂う。どうするつもりだ」

「皆さんの宿はこちらで手配いたします」


タクミの質問に答えたのは、俺たちの近くで待機していた少女。

ロングの黒髪ぱっつん。腰には刀を差し、今は軍服姿のサクナ様お付きのメイド。シズカだ。

王都での俺たちの活動をサポートしてくれるということで同行していた。


「昨晩ご宿泊いただいた宿であれば本日分も確保可能です。ご安心ください」

「むう……」


タクミは声を詰まらせた。


「ここで腐っていても仕方ない。宿に戻ろう。……今日一日は自由時間だ。各自王都を満喫してほしい。観光するもよし、お土産を買うもよし」


皆は頷き、移動を開始


馬車に乗り込むメンバーはアラタ、アイギス、アザミ、シオン、シェリーの5人。

御者台には俺、ナギサ、ミヨ。

タクミとヒジリさん、イブリスは個々の馬に乗って移動。

ホクトさんは飛びながら、馬に乗ったシズカと何やら話をしている。シズカから変なことを吹き込まれなければいいのだが……


俺はミヨの指示に従って馬車を移動させる。


30分ほどでホテルに到着した。

つい先ほどチェックアウトしたばかりの場所に逆戻りだ。


シズカがホテルのフロントに話を通し、部屋を確保してくれた。

王族のコネはかなりのものだ。各々にシングルの部屋が用意された。


各自に順番に部屋の鍵を渡してきたのだが、俺が呼ばれたのは最後だった。

他の皆にバレないよう、鍵と一緒に小さな紙を渡された。

嫌な予感しかしない。


「夕食前にここ、フロントに集合してくれ。食事もシズカさんに確保してもらった。では、解散」


アラタの言葉とともに皆が散っていく。


「ねぇ、トオル。観光行こうよ」

「悪い。ちょっと調子が悪くて、夕食まで部屋でゆっくりしたい」

「え?大丈夫?私付き添うよ?」

「大丈夫。ちょっと眠ればよくなると思う。ナギサはミヨと一緒に観光行っといで」

「……わかった。ちゃんと水分取って大人しくしてるんだよ?」


ナギサ達と別れ、一人エレベーターに乗る。


部屋のあるフロアに降り立ち、渡された鍵を使ってあてがわれた部屋の扉を開くと、部屋の明かりが既についていた。


部屋の奥に目をやると、部屋の中には複数の人物がいた。

こちらの都合など知ったことではない、という感じで、部屋の中にいた人物の一人がこちらを真正面から見て一言。


「入らないのですか?」

「……」


重い足を動かして部屋に入り、扉を閉める。

一般的なホテルよりも広い部屋。トイレと風呂が分離しているのは珍しい、気がする。

まぁ、俺が泊ったことがある安いホテルは全部ユニットバスだった、というだけです。


部屋の中にいたのは3名。そのうち二人は見覚えのない人物。残りの一人はよく知る人物。というか先ほどまでフロント前にいた人物だ。


「シズカ……」


俺が呟いた言葉に対し、その少女、護衛メイドのシズカは無表情。

俺は、ひと月前、火の封印の儀式のためにユノタマへ移動する途中、王都に一泊したときの出来事を思い出した。




~回想~



「すげー立派だ……」

「ねー……」


お上りさん丸出しでホテルを見上げる俺とナギサ。

20階建ての建物、初めてみた


「もう。二人とも荷物運ぶの手伝って」


馬車の上に積んでいる各自のカバンを自身の召喚獣・絡繰腕を使って下ろしながら、ミヨが俺達に声を掛けてきた。


「すまん。つい」

「ゴメンね」


ミヨは親父さんたちの仕事の関係で何度が王都に来たことがあるそうだが、俺達は初めて。

都会に圧倒されるのも許して欲しい。


自分のカバンを受け取ると、ホテルの中からアラタが戻ってきた。

アラタの後ろにホテルマンが数人ついてきた。


そのうちの一人はこちらにやって来ると、馬車を移動させ始めた。残りのホテルマンは荷物を運ぶ台車を持っている。

台車に鞄を載せると部屋まで運んでくれるらしい。王都のホテルは違うね~。


アラタを先頭にホテルのロビーにはいる。高い天井にキラキラの照明。絨毯のフカフカ感がすごい。これは、今日の夕食も期待できるぞ。


受付でチェックインがおわるのを、ロビーのフカフカの椅子に座って待つ。


手続きを終え、ミヨは皆に部屋の鍵を配った。

基本は二人部屋。


組み合わせは アラタと俺。ナギサとミヨ。アザミとシオン。ホクトさんとシェリーさん。タクミだけ一人部屋。ヒジリさんは明日合流予定。


「では、いったん解散。1時間後に王宮から迎えが来るのでロビーに集合」


アラタの号令で各自部屋に向かう。俺達の部屋は18階。みんな同じフロアだ。


「じゃあ、また後で」


エレベータ前で分かれて部屋に入る。アラタと同部屋ということで、どちらがどちらのベッドを使うかじゃんけんでササっと決めると、アラタは部屋を出ていった。


俺は窓から外を眺めた。

地上18階はかなりの見晴らし。浮遊眼を使えばこの高さからの視界は確保できるものの、肉眼の方でこの高さから都会の建物を見下ろすのは新鮮だ。


遠くに王宮が見える。


出来心で浮遊眼の視力を使って王宮の様子を見てみたら、見覚えのある横顔を見つけた。直後、その顔はこちらを向いて視線が合った。心臓が止まるかと思った。まさか、あちらからこっちが見えてるわけはない。常人の視力では無理。浮遊眼並の視力がないと不可能だ。


例え見えたとしても、タイミングがぱっちり合うわけがない。気のせいだ。

おれは自分に言い訳しつつ、カーテンを閉めた。




1時間後、ホテルに迎えに来たヒジリさんと共に場所を移動。


ヒジリさんは珍しくフルフェイスの鎧ではなくパリっとした服を着ていた。

決してハンサムとかイケメンとかいう表現は使えない見た目だが、清潔感があるので嫌悪感なんかはない。ま、俺も人のことをどうこう言える外見ではないからね。


ヒジリさんが乗ってきた大型馬車に乗り込む俺たち。

前後を騎士団に人に挟まれて王宮の方へと移動する。さすが王都、道の広さ、お店の大きさ、夜になっても人の往来が多いところなど、地方の街とは全然違う。


ナギサと二人してミヨから王都の説明を聞きながら移動していると、馬車が停止した。

場所は王宮の門のすぐそば。


非公式の食事会ということで王宮内の施設は使えず、王宮外の有名レストランに連れていかれた。ミヨの説明によると、かなり有名なお店らしい。

実際、門構えからして高級感が凄い。



奥の大きな部屋に通された。

部屋の中心にテーブルが一つ。壁際にはウェイトレスさんが数人控えている。


立食ではなく、ちゃんとしたコース料理。席は全部で十席。

各々ちゃんと名札がかかっていた。ヒジリさんも同席するようだ。


俺たち全員が席に着くと、特別感のある席、お誕生日席とでもいう席が一つ空いている。

あれがサクナ様の席だろう。


サクナ様の席の近くにはアラタとタクミが座っている。サクナ様の相手はこの二人がやるはず。Sクラス持ちとAクラス持ちだし。俺みたいな一般ピープル(Fクラス)に話が振られることなんてきっとない。気楽に飯を食って帰ればいい。

えっと……ナイフとフォークって外側から使うんだっけ?



俺たちが席についてから少しして、サクナ王女がやってきた。

全員が起立したので、俺もつられて立ち上がる。


サクナ様の後ろに見知った顔を見つけたが、そちらに視線は向けない。


着席後、料理が運ばれて晩餐会がスタート。

サクナ様とアラタ達との間で当たり障りのない会話が続いている。


オマケの俺達はほぼ無言で箸を進める。料理は美味しい。非常に美味しい。だが、その美味しさを打ち消すような、刺すような視線を感じる。

視線の発信源はサクナ様の後ろに控えているメイドの少女・シズカ。アラタと互角に渡り合う化物からだ。


2年前に交流を持ち、最初は浮かれたものの、本性を知ってからは敬遠している相手だ。


俺は自分に言い聞かせる。

一年前とは違う。舞踏祭では向こうから接触はなかった。今日も知らないふりで通す……!


幸い、俺に話を振られるようなことはなかった。




晩餐会終了後、ホテルに戻る前にトイレへ。


用を足して手を洗う。

下に落とした目線を上げたとき、目の前の鏡には俺の顔以外にもう一人、人物が映っていた。


「え」


反応する前に口を塞がれ、抵抗する間もなく個室に放り込まれた。

何この力。びくともしねぇ。ていうかここで仕掛けてくる?男子トイレだぞ?


俺は片手で口を塞がれているだけ。体はなにも拘束されていないが、金縛りにあったように動けない。心臓だけが早鐘を打っている。

先ほどまでサクナ王女の後ろですました顔をしていたシズカが、本性をあらわし襲いかかってきた。


シズカは顔を近づけると、耳元で囁いてきた。背中に汗がつたうのがわかる。


「会いたかったです。トオルさん」

「……」

「その視線、久しぶりですね」

「……」


整った顔、冷たい目の奥に狂気を感じる。


「さあ、出してください。貴方のものを。早く」

「……」


シズカが何を要求しているのか、全部言わずともわかる。圧力に屈し、俺は召喚獣を呼ぶ。

握りこぶし大で現れた浮遊眼が目をひらくと、シズカはそちらに視線を向ける。


「眼に障害を負ったと聞きましたがこちらは大丈夫だったのですね……よかった……」


俺の口を塞いでいる手とは逆の手で浮遊眼を捕まえると、シズカはペロリと唇を湿らせた後、口を開けて舌を出した。赤い舌の上、唾液が照明に反射して光っている。

浮遊眼を口に近づけてひと舐め。


「ぐ……」


背筋を悪寒が走る。


シズカが浮遊眼に舌を這わせ、その間俺は動くことができずにそれを受け入れていた。

時間にして30秒もなかったと思う。


シズカは浮遊眼を舐めるのをやめた。白い喉が動き、唾液を嚥下しているのがわかる。互いの顔がくっつきそうなほど接近すると俺の左目を見ながら小声で囁く。


「また修練を積んだみたいですね」

「……」

「こんな場所でなければお返しもできるのですが……それはまたの機会に……」


掴んでいた浮遊眼を解放すると、俺の左目瞼に軽く口づけた。


「では、また……」


無表情で俺の口から手を放し個室の扉を開けて出ていく。

身体の動くようになった俺が恐る恐る個室から出たとき、化物の姿は何処にもなかった。




「どうかしたの?」

「いや、何でもない」


トイレを出て皆と合流すると、ナギサが声を掛けてきた。

シズカはというと、サクナ様の側で何食わぬ顔で立っていた。怖い。


俺は逃げるように馬車に乗り込みホテルへ戻った。


~回想終わり~


ネタバレ:シズカもやべーやつ。

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